24-01.売られた喧嘩は今世から買いますが、ここまで派手にするつもりはなかったという言い訳をしたい
さてどうしたものか。
マジでお帰り願いたい。
メメさんの情報によると、「幸運の少女」が欲しい理由は、現在、床に伏している領主の病を治したいからだそうだ。
お涙頂戴話ですか?
そんなものに私は乗りませんよ。
前に聞いていた話から、想像していた通りだからです。
双子の兄弟のうち、「領主の病を治す事ができた方」に「次期領主の座」を譲るという話らしいですよ。
それで兄弟は必死というわけだ。
兄領主的には「幸運の少女」探しもあるが、「上質な回復薬の入手」という経路もあるのか。
面倒な。
二兎追うものはってことわざを知らないらしいな。
…って両方私のことじゃないか。
二兎じゃない。
一兎になっている。やべぇ。
どちらが先に父親を治すかと張り合っている二人なので、お互いにお互いの動きは見張っている。
兄領主の方はここに来て、まだ怪我で動けないはずの元養母と迷惑クソジジイからも情報を得たらしい。
養父母め、権力に媚を売る事に余念が無いな。
あいつらマジで余計な事しかしねぇ。
弟領主に回復薬の話が今頃になって話が伝わったという事は、前回の視察時、話は出なかったという事だよな。
あの時にはもう青の騎士団に回復薬を納品していたのだから、効果が良いのであれば話に出ていてもおかしくはないだろう。
青騎士団の団長、そういう話を一切出さなかったのか。
…ありうるな。
あいつ脳筋だもんな。
私としては助かったけど。
青騎士団の団長は、出世欲とかがあまりなさそうな脳筋である。
この領地では、領主が病で倒れているの話は有名な話であるはずだから、ちょっと権力欲の強い奴ならば、効果ある回復薬の話はすぐに出しそうだ。
腐れ貴族崩れあたりがその最たるものだろう。
騎士団長だというのに彼のその権力欲のなさのおかげで、私は少しばかり平穏でいられている気がしている。
おつむが少し足りていないとも思うけれど。
それは同時に、彼の肩にある幸運の輝きが鈍くなっていないのが証拠でもある。
意外にまっすぐな人である。
苦労人か。
つくづくあの副団長が団長じゃなくて良かった。
散々悪口言ってるけど、団長が団長でヨカッタデスよ、本当に。
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さて本日はお日柄もよろしく、温室内で静かに過ごしております。
喧騒がないって素敵だ。
町になんか絶対に行かないぞ。
おー。
なぜならば、お貴族さまが相変わらず滞在しておられてですね。
しかも魔の森に踏み込む算段をつけていらっしゃるそうなのです。
やめろ。マジでやめろ。
私の作成した回復薬がどこまで回っているのかは怖いが、直にすんなり来る事はないと思う。
そんなに数はないはずだ。
…たぶん。
封印は魔力次第らしいので、そんなに簡単には破られないと思っているんだけどどど。
…怖い。
三匹が傍に居てくれるので、物理的に私が怪我をする予定も今のところないけれど、むしろ三匹が相手に何かしでかしそうで怖い。
何かされるのも嫌だけど!
主にモモちゃんが最近、ストレスなのか、無心に土をガリガリ掘っておられるのですよね…どうしたマジで。
落ち着け。
そんなわけで現在、魔の森に騎士団がこぞって押しかけてきている状態です。
青とオレンジの入り乱れ。
互いに牽制しあいながら喧嘩をしているようです。
何しに来てんだこいつら。喧嘩なら家でやれ。
魔の森内をめちゃくちゃに荒らしながら歩いているものですからですね、ムムさんが大変ご立腹で…魔の森にいる配下の魔物達をけしかけてしまいました。
やっておしまい状態です。
地響きがしていたので、例の巨大型な魔物さんもご出動したみたいで、時々ものすごい音が聞こえています。
え、マジでどんな状態なの?
血みどろの合戦が…見ていないのでアレですが、間違いなくそんな状態に違いありません。
三匹は、怯える私と一緒にいてくれています。
すみませんね、小心者で。
けれど、ムムさんも子犬の姿のままで、傍でのんびりと寛いでいらっしゃいます。
封印って自分でやる分には最高ですね。
自己防衛結界みたいなイメージです。
しばらくするとムムさんが顔を上げ、ふふん、と鼻を鳴らした。
《弱いくせに喧嘩を売るからだ》
どうやら終わったようです。
私は実質何もしていないのですが、終わったらしいです。
これでまた魔の森には、危険な魔物がいっぱいいる認定をされることでしょう。
いいのかな。
いいことにしよう。
ここの魔物達は「黒いもや」を食べている率が低いそうなので、来たらまた激しく抵抗してくれるそうです。
頑張って。
さて。兄弟領主は諦め切れないらしく、まだうろうろと隣町に滞在しているらしい。
上質な回復薬を是が非でも手に入れろと怒鳴り散らしているそうな。
おとなげなさすぎる。
どうしてこうも馬鹿が育つのだろう。
貴族ってのは甘やかしすぎなんじゃないだろうか。
とりあえず周辺探索魔法で兄領主もマーキングをしておいた。
このアホアホ兄弟を見ていると親の顔が見たくなってくるというものである。
「現領主って病に倒れていて何もできないんだよね?」
ちょっとというかかなり腹が立ってきた。
あの馬鹿兄弟を育てた親ってどんなだ。
でてこいや、オラァである。
《見に行くか?》
ムムさんがとんでもない事を言い出した。
「いやいやいや、ムムさん。それはちょっと無謀では…」
ここ、かなり端っこですよ。
何日掛かると思っているの。
《主様の隠蔽魔法をかけてもらえるのなら、俺に乗ってもらえば、すぐだが》
なんと!
ムムさんの背に乗せていただけると!?
え、なにその夢のような誘惑。
「いやでもムムさん、大きすぎじゃ…」
元は巨大型魔物である。
ビルサイズですよ。
目立ちすぎるに決まっている。
《サイズなら調節できる》
「え、マジですか…あ、でもほら、背中って走ると揺れて振り落とされるとか」
しがみついている体力に、自信があるわけがない。
《怖いようなら鞍みたいなものをつけてもいい》
え、そんなのをつけるの、可なんですか。
狼だよね?
「すごく酔うとか」
《揺れないように走り方に気をつける》
すんごい押してくる。
まさか、乗って欲しいとか?
じっと見つめていると顔を反らされた。
《…大きい姿で気にせず疾走したい》
本心を暴露してくれたムムさんが可愛いです。
そうか、狼だもんな。
思いっきり走りたいよなぁ。
今まで可哀想なことをしていた。
メメとモモはいいのかな、と思っていたら、彼女達はそもそも元の姿に戻った事がほとんどないので、あまり気にしていないらしい。
それはそれでどうなんだろうか。
本人達が気にしていないのならばいいのか。
どうやらお出かけがしたいようなので、馬鹿兄弟がこっちにいる間に、一緒に行ってみることにした。




