02-02.努力ではどうしようもない
前世では結局、私は一度も「転生した記憶」を思い出すことはなかった。必要なかったせいだ。
そのおかげか、今まで一度もなかった自分が形成されていた。
幸運の力が弱かった事もあるだろう。
また、自我が形成されていく中で思うこともあったのだろう。
私は初めて、自身の能力で反撃する手段を手に入れていた。
力を制御する手段である。
この「力」は、私が関わってしまうと、とりあえず幸運が舞い込んでしまっていた。
好感度が大きければその分の幸運が舞い込むのだ。
微々たる幸運の力に気づかれ、他人に利用される事さえあった。
けれどその頃には私も、「自分の為」に「怒る」事も覚えていた。
理不尽なことを言われ、腹が立つ時は怒っていいのだと知っていた。
容易にマウントを取れるように見えるのか、簡単に『言う事を聞く』ように見えるらしい。
利用しやすそうなのか、自分よりも下に押さえつけても良い人間に見えるみたいなのだ。
突然、酷い言葉を投げつけられることは多々あった。
勝手な言い分で勝手なことばかりをして、いいように利用してくる奴らである。
『ふざけるな、近寄るな。お前らなんて大嫌いだ』
それは今まで、何もかもを諦めてきた私が初めて、自分の為に感じた怒りだった。
そこから身に付けたのだ。幸運を制御する方法を。
幸運の力が弱かったからこそ出来た事でもあっただろう。
また、目の前に転がる幸運に食らいついた結果、幸せになるとは限らないと知ったことも大きかった。
舞い込んだ幸運が逆方向に働くことがあると知ったのだ。
例えば大金を手に入れる機会があるとする。手を伸ばせば大金は手に入るかもしれない。
だが人はそれで幸せになるとは限らない。
その後に起こる、身内の裏切り。搾取被害。
絶え間なく続くトラブルの発生により平穏から切り離されることになる。
幸運はコントロールできない。
その人が幸運だと思える出来事が突如、舞い込むのだ。
だがそれがその人を「幸せにする」とは限らない。
私が相手に負の感情を抱いた状態でいると、幸運の力はより大きく作用した。
そう。
他よりもなぜか作用が大きかった。
不思議に思っていたけれど、次第に理解した。
本人が望むままに幸運の機会は与えられるが、それに飛びつくと何かしらの反動が起こるようなのだ。
先ほども例にあげたが、例えば大金持ちになりたい、という願いは叶うが、トラブルに巻き込まれやすくなる、等である。
こう説明すると私にとって「幸運」が良いものになったように聞こえるだろう。
だが実際、良い目にあう事はほとんどなかった。
結局のところは「幸運」を与えられはするので、それを欲しがり近寄ってくる人間はいたからだ。
手に入れた後に何が起こるかは考えないのである。
ただ、悪すぎる事も起こらなくはなった。
幸運が手には入るが、代償がある。というのは悪党ほど本能的にわかるらしい。
そのおかげで大きな争いごとにも巻き込まれず、比較的静かに過ごす事ができたと思う。
能力が小さいと、気づく人間は少ない。だが気づかれないわけではない。
けれども気づく人数が少ないというのはとても良かった。
監禁されたりするような事もなく、おおむね自身の願いどおり、無事平穏に生きられた気がする。
今までに比べればとてつもなく穏やかな人生を送る事ができたと思う。
たぶんそれは、いままでの人生に対するご褒美だったのではないかと思う。
だからあの生で終わりたかった。
家族ごっこも多少は出来たし、今までの中では最高に平穏だったと思っていた。
なのに。
また元の世界に戻ってしまった。
何度目だろうか。
しかも今回は最悪だった。力が強すぎる。
もうバレてしまったのだから。
今世、私は独りだ。熱など出している場合ではない。
そして今までの転生を思い出したのだ。
なんて酷い人生を送ってきたのだろうか、と。
前世で過ごした穏やかな日々が、私の感情を元に戻してくれていた。
痛みを感じ、怒りを覚え、抵抗し、歯向かう事を今の私は知っている。
以前のように簡単に連れ攫われ、悪い大人にいいように利用され、酷い目にあい、何もできずに人生を諦めるような子どもではない。
そもそも人身売買だとか、子どもを連れ去り監禁するとか、犯罪だろうと今では理解している。
前回は穏やかな生を送る事ができたが、その前は酷かった。完全に監禁され、自らの意思で外に出た事など一度もなかった。
そういえば人間不信だけは前世でも払拭されなかった。こればかりはどうしようもなかった。
今までの生では何度も監禁場所が変わった。取り合いをされていたのだ。その度に人が死んだ。
なぜか毎回私は力のない「女」で生まれてしまう。一度、男で生まれてみたいと思う。
その方が多分、多少は自由になれる気がする。
だが今回も無理だった。
幸運の扱い方を覚えた私は考えを改めた。
この「力」は自己防衛の一つだ。
しかしそれが私の人生をいつも最悪にしてきたし、はた迷惑な能力だと思ってきた。
けれど。
要は使い方だ。
私が今まで間違えてきたのだ。
私の「力」だ。他人にしか影響を及ぼさないとしても、自分の良いように使って何が悪い。
今世もこの力を狙う奴はいるだろう。それらを撃退しなければならない。
そうしなければ私は普通の人生を歩めないのだから。
転生してしまった自分にとって、また最悪な人生が始まろうとしていた。