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18-02.人間の強欲さは反吐が出るほど知っている



引き算がおかしい。

長兄が亡くなったのは知っているが、二匹足りない。

そう思っているのが顔に出たらしい。ムムは静かに答えてくれる。


《死んだよ》

「どうして」

《主様を助けに行こうとして》


あまりの事に立ち直れなくなりそうだった。なにがどうしてこんな事になっているのか。

勝手に押し付けられた為に契約を知らないとはいえ。

だとしてもだ。


「なんで。私、ぜんぜん知らない」


あの子が実は生きていた事も知らなかったし、その後に死んでしまった事も知らなかった。


彼の兄弟が生きていて、他の子達まで自分のせいで死んでしまっていた事も、何も知らなかった。


《主様のせいじゃない。皆、勝手にやったことだ》

「でも!」


知らないどころか忘れていた。

今の今でも、記憶から出てこない。

勝手な契約には気づけなかったとしても、何匹居たのかさえ思い出せなかった。

酷い奴すぎるだろう。


そんな奴の為に死んだなんて、そんなの。


《皆、満足して死んでいった。主様を閉じ込めている人間たちに爪跡を残す事ができたからからだ》


ムムに教えられたのは、巨大型魔物が発生して人々を苦しめたという、歴史に残るほどの大事件になった話だった。


何度か転生している間に、そんな事が起こっていたのは聞いて知ってはいた。

けれどまさかそれが、自分と関わりがあるなんてちっとも思ってもみなかった。


何もかも諦めて無気力に、逃げる事もせずに生きてきたのに。


どうしてこんなことに。


《ご主人さま、おかえりなさい》


慰めるようにメメが手を舐めてくる。


《マスター、マスター、なでて!》


甘えるようにモモが頭をこすり付けてくる。


優しくしてもらえる資格などない。

この子達が命を賭けるような自分ではない。


それでも今、感情が戻り、負けてなんてやるものかと思えるようになって、彼らに再び会えた事が嬉しいと感じてしまう。


死んだ子達は戻ってこない。

知っている。

あの子だけじゃない。

今までだって何匹も何人も、私の前で殺され続けてきたのだから。


死は嫌いだ。跡形もなく何もなくなってしまうから。

なのに心にだけは残り続けて、傷口から血を流し続けるから。


それでもこうして手に触れられる温もりを残してくれている、この子達が愛しくて可愛い。


抱きしめて目を閉じた。涙が止まらない。


思い出した苦しい記憶は、自分の中で消化しなければならないとわかっているけれど、すぐにはできそうにもない事だった。





*-------------------*




温室の封印を再度かけ、三匹を連れて地下室に閉じこもった。

止まらない涙を必死に舐められて慰められ、泣きながら、泣き疲れて眠った翌朝。

ぼーっとする頭で三匹を見ながら、疑問が湧いた。


「どっちが本当の姿なの?」


昨日見た巨大型の魔物の正体はムムだった。


そもそも、彼らと出会ってから数百年も経過している。いつまでも子犬のままのはずがないし、むしろ成長し過ぎ…だけれど、そういう事なのだろう。


心臓に悪い話はもう、全部聞いてしまおうと思った。


《巨大型の方が本来の姿だ。でも主様に思い出してもらうには、この姿の方がいいと思った》


だからずっと小さいままだったのかと今更ながらに知った。


確かに、大きくならないなー、とはちょっと思ったけれど、成長しない魔物なのかと勝手に思い込んでいたのだ。


出会った時を思い出し、「ん?」と引っかかる。

確かあの、出会う直前に初めて、巨大型の魔物を見たのだ。

つまりあれは。


「もしかして最初に畑を荒らしたのは、」

《あれは、すまない。ようやく主様を見つけて慌てて入ったら、畑を踏んづけている事に気が付いたんだが…遅かった》


ムムが耳を伏せ、尾をしまいこんでいる。

仕方がなかったのだから別にいいのだけれど。


一度してしまった過ちの反省もあり、小さいままであるらしい。


「じゃあ、最近見かけていた巨大型の魔物って」

《ほぼ俺だ。このあたりには俺達ぐらいしか巨大型はいない》


たち。達って言った。

ということは三匹とも大きくなれるのか!


温室の骨格のせいで一応、少しは小さくなって入り込んだらしいのだが、それでも充分大きすぎる足跡だった。


そういやお外で大きくなっていた時は、温室の高さよりもずっと大きかったデスネ。


でもあれ?地響きがした時、三匹とも居た事があったような気がするのだけど…。


《…あぁ、あれか。一匹、そこそこなのがいたが今はもう、おとなしくしている》


知らしめてやったからな、と言うのだ。

…うん、なにかあったのはわかった。

地響きのやつだけはあれだもんね、あの時はちゃんと、三匹ともあの場にいたもんな。


ということは、なんか他の魔物も居るけど、今はおとなしくしているという話か。


しかしこの周辺、魔物避けの木があったはずなのだけれど。

一本だけ枯れていたところからやはり入ったのだろうか。


《あれは一定以下の魔物にしか効かないから、俺たちが触ると枯れてしまう》


慌てて入ろうとして誤って触ってしまったらしい。

今は小さい姿で出入りしているので触る事はないそうだ。


そうか、強い魔物には効果がないのか…知らなかった。

けど怖すぎないかソレ!


《…メメとモモまで元の姿になると目立つし、人間にバレると面倒だからずっと、俺しか元の姿に戻ることをしていない》


確かに三匹も巨大型の魔物が出たとわかった日には、国の総力をあげての討伐が開始されてしまうだろう。


この三匹も、ずっと人目を逃れて生きてきたのか。

仲間意識を感じてしまう。

今更だけれど、適当につけた名前が悔やまれる。

ごめん。


付け直そうかと進言したら、気に入っていると言われてしまい、ますます申し訳ない気分になった。


「そうだ。ここにいないあとの二匹は?」


姿を見ていない子達はどうしているのだろう。


《元気だと思う。五匹になってからは二手に分かれて主様を探していたからな。そのうち合流するだろう》


一匹、気分屋がいるらしい。

好き勝手に動くので、監視役としてもう一匹が付き添っているそうなのだが、なんせ勝手に動き回るので忙しなく、どこにいるのかもわからないそうだ。


必死に私を探しているわけでないのならばそれでいい。

その方が気は楽である。

生きてくれているのならそれでいい。それだけで。


しかし問題は山積みだった。

ということは、今まで見かけてきた巨大型の魔物はムムだったのだ。


なんだか思い当たる節がいくつもある。

昨日のだって明らかにやりすぎだろう。


「昨日のアレは」

《主様を害する奴は排除に決まっている》

《ハイジョ!》

《はいじょー!》


三匹ともにギラリと狩猟犬みたいな目つきになった。

怖い。


過激な発言をありがとうございます。

あー、そういう…となると、過去をほじくり返してみて、怖くなる。


「…もしかして、今までの全部」

《主様を害する奴は全部殲滅するに決まっている》

《ボクメツ!》

《くじょ!》


害虫のような扱いになっていた。


あのクソ野郎共がどうなっても良いけれど、オレンジ騎士団の人達は、と口にしたら、《依頼を受けた時点でアウト》と言われた。


そういう判定ですか、そうですか…。


自分も大概、腹黒く性格もいい感じに歪んできたと思っていたけれど、こうも真っ直ぐに殺意を持つ魔物が居ると、我が身を振り返ってしまうと知った。


殲滅と言いつつも命まで取らなかったのは、私が気にするだろうという配慮らしいのだが。

生きてた方が辛い事もあるよね、と口にしたら。


《それでも主様は殺したら気に病むだろう》

《反省させるには殺したらダメです》

《生きてじごくを見るがいい!》


…最後のモモが一番過激な発言であるような。


もしかしてこの子が一番性格は魔物に近いのかな、とかちょっと思った。




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