16-01.顔と態度で敵認定は簡単だ
弟領主が訪れるというその日。
いつものように隠蔽魔法をかけた状態で町に居た。
解除はしていない。
魔力回復薬も持って来ている。
一応念のため。
出来確認以外に一度も飲んだことないんだけどね…。
筋力増強剤と身体回復薬はそこそこ常備薬だが、魔力回復薬だけは、同じように準備しているけれど必要になったことがなかった。
意外に省エネなのかもしれない。
町は少しお祭り騒ぎだった。
弟領主が来るのを歓迎ムードである。
意外だった。好かれているのか弟領主。
だがしかし、皆に好かれているからと言って、私にとって良い奴とは限らない。
自分の目で見て確かめるまでは信じない。
しばらく待っているとお着きになられたらしい。
高台の方が見やすいだろうと移動したのは正解だった。
人がごった返している。
米粒みたいな遠さだが、対象者がわかればマーキングはできるのだ。
(弟領主…あれか)
ついでに周囲で警護している奴等にもつけてみよう。
どこに行くのか楽しみである。
あれだな。あまりよろしくない魔法だなコレ。
ストーカーとかが持ったら厄介な能力だろう。
大丈夫なのか。
撃退に使うので私には関係ないけれど。
無事マーキングを終え、目的は達成したのでお暇をしよう。
買い物済ませて三匹の元に帰るべしである。
ところがどうやら簡単には帰してもらえないらしい。
町では別の騒ぎが起きていた。
警備に当たっている青騎士団が対応しているのだが、その青騎士団に食って掛かっているのである。
もちろん隠れたままで観察である。
「だから!薬師を出せっつってんだろーが!」
大暴れしている男の身なりは悪くなさげに見える。
「これを作った奴は誰だ!身上を教えろ!」
「今はもう作っていません!無理です!」
青騎士団も真面目に答えなくてもいいだろうのに。
知りません、ぐらい言えないのか。
内容からして私のことですか、そうですか。
さようなら。
お前にもマーキングをしてやる。
近寄るんじゃねぇ。
「お前らの副団長が売ってきたやつだぞ!」
「元副団長です!もうその人はいませんから!」
本当に大騒ぎになっている。迷惑な人だ。
元副団長もふざけた奴に売りつけたものだ。あの野郎。
「そもそも、勝手に横流ししたものです。騎士団の備蓄品だと知って買われたのであれば貴方も同罪です!」
「知るか、そんなもの!いいから出せ!」
「ですからもう、作っていないんです!」
「うるさい、お前じゃ相手にならん!誰か知らんのか!」
手を引いて正解だったな。迷惑クソジジイ、うるさい。
あれか?効き目苦情かな。
二倍に薄めて売られたクチだろうか。
ならば苦情はウチではございませんよ。
元副団長達にお願いします。
「備蓄に同じものがあるならば売れ!全部買い取ってやる!」
…本当に面倒そうである。
とりあえず絶対に姿は見せない方向が決定しました。
あの手の顔と態度は嫌いです。威圧してくる奴だ。
関わりあいたくない。
だというのに、青騎士団の野郎共が余計な事を言うのである。
「そもそも、作り手の方は納品に来ていないのですよ。まだ小さなお子さんが納品に来てくれていてですね。我々もその子しか知らないのです」
「なんだと。ではその子どもはどこにいる!」
「いや、それはわからなくてですね…」
「お前たちは身上不明の人間のものを買い取っているのか!」
「な、名前はわかっているのです。それに毎週ちゃんと納品に現れていましたし、品質は抜群でして…」
青騎士団員、押されまくっている。
戦況が不利すぎる。
団長どこだ!
責任者、なんとかしろ!
「そんなことはわかっている!ならば名前だけでも寄越せ!」
「あ、は、はい。えーと…」
個人情報流出させんじゃねぇ!
青騎士団員、ゴラァ!
名バレしても何もバレませんけれども。
偽名だしな。
そもそも名前、そういやないしな。
あとそこに書いてあるの、架空の親の名前だし、毎回サインも架空の親の名前を書いていた。
ある意味偽証なんだけど、契約は成立して問題なかったので良しとしている青騎士団はガバガバである。
そのおかげで助かっていたのだけれど。
「あぁと…『ジュウ』さんですね」
「そいつはこの町に住んでいるのか?」
「いえ、そこまでは…」
「住民登録に名前があるのか!ないのか!」
「し、調べなければわからないです」
「調べて来い!」
なぜかコキ使われ始めた。
あの騎士団員、新人か。
「あの、ここの町の方とは限らないのですが…」
真面目に余計な事を言い、「なら隣町も調べて来い!」と怒鳴られている。
可哀想だが同情はしない。
お前のせいで面倒な事になりそうだ。
アレは敵確定である。
絶対に会わない。
引き篭もろう。
逃げるように町を後にした。




