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02-01.努力ではどうしようもない



幸運というものは努力ではどうしようもないものの一つだ。

だから欲しがる人間は多い。

とくに世の権力者たちから。


競争相手が同列にいた場合、最後にモノを言うのが幸運だということも多い。


そうでなくとも『運』が作用する力は大きい。

そのせいでずっと酷い人生を送ってきた。


転生を何度も繰り返してきた。前々世からそれ以前…何度繰り返したかはもう記憶にないけれど、ずっと酷い目にあってきたのだ。


閉じ込められる事に慣れ、諦めきった自分は何も期待せず、何も欲せず、ただ静かに時を送る事以外をしなかった。


抵抗すれば痛い事をされる。

少しでも気を許せば誰かが脅され、殺される。

だから何もしない。知り合いも作らない。

それが普通の事になっていた。


何度も繰り返した生の中で、大抵は監禁された。

飼い殺された。

そのせいで引きこもる事に慣れるしかなかった。


飾られて見世物にされたこともある。

無理やり華美な衣装を着せつけられ、じっとしていろと罵られ、暴力を振るわれた。

そのせいで普通の女性が好きであろう、着飾る事が大嫌いになった。


奪い合いで殺し合いが横行した。

騙しあいなどは当然で、良い人から殺されていった。

人間不信になった。


もちろん、最初から監禁されたりするわけではなかった。

能力が露見しなければ私は普通の人間でしかないのだ。


地味でなんの変哲もない人間だ。

顔も頭も酷く悪いわけではないと思うが、たぶん、中の下ぐらいで…普通ならば埋もれて過ごす事ができる程度だろう。


それでも良いところを一つだけあげるとしたら、目立つ容姿でない、という事だった。

これで目立つ容姿などであったら何の罰ゲームだという話である。

だとしても。


地味に目立たず、静かに埋もれて過ごしているだけでも、残念ながら力は露見してしまう。


この力は自分の感情に左右されて勝手に周囲に幸運を与えてしまうので制御ができない。

少しでも相手に好感を抱けば余計に幸運を舞い込ませてしまうし、どういう意味にしろ感情を抱く事のできる相手には幸運を与えてしまうのだ。

つまり私の両親は無条件に幸運を手に入れる事ができてしまうのである。

両親のことを最初から嫌いで生まれてくる子どもなどこの世にはいないだろう。


そんな「力」であるせいで、誤解が生じたのだ。

私を「所有する」と「幸運」が舞い込むと。


そのせいで捕まり、ずっと監禁されて続けてきた。

自由なんて一つもなかった。


客人のように扱われればまだ良いが、手に入れるだけ入れて放置する人間も多かった。

とにかく手元に置くだけで良いという考えの人間である。


食事も与えられず、ただ閉じ込めるだけで…そのせいで何度死に掛けただろうか。


逃げ出そうとした事もあったけれど無駄に終わる事ばかりだった。


この世界は魔法のせいで厄介な事が多い。

私に同情してくれて逃がそうとしてくれた人もいたけれど、皆殺されていった。


その度に心は疲弊し、削られていった。


自分を守るためには何も感じなくなるしかなかった。

簡単に転がる死を目の前に何もできず、助けを呼ぶ事もしなくなった。全てを諦め、ただ死を待つだけだった。

その繰り返しを続けていたのである。


そんな自分の心をほんの少しだけ戻してくれたのが、前世の生だ。


前世である一つ前の生で私は「初めて」両親の元で育てられた。

五歳の時、高熱を出した。

両親の傍で初めて過ごしたからか、元々魔法がない世界だからか。

幸運の力が非常に弱くなったのを感じたのである。


初めての体験だった。

さらには異世界にいる間、それまでの記憶はほとんど戻らなかった。たぶんそれも良かったのだろう。


持って生まれた力を無意識に押さえつける事に成功し、少しばかりの幸運を与えることのできる力を持つだけの、ごく普通の少女になることができたのである。


けれどもやはり、最初の内は苦労した。記憶は戻らなかったが、心は壊れたままで転生してしまったからだ。


子どもらしい表情が少なかった。

感情を表に出す事が苦手だった。

喋る事もだ。

何かを欲しがる事もしなく、好きな食べ物もなく、美味しいと表現することもなかった。

痛い事を痛いと言えなかった。


子どもらしくないと何度言われただろう。

どれほど両親をがっかりさせただろう。

病気だろうかと不安にさせもした。

それら全てが完全に前世(今まで)の弊害だったと、記憶が戻った今では思う。


それでも両親はなんとか私を育ててくれた。


痛いのならば痛いと言いなさいと根気よく教え、欲しがらない子どもに絵本を与えた。

普通の子どもよりもゆっくりと、私は感情を覚えていった。


赤子のように、最初に自ら泣く事を覚えた。

泣きすぎて、今度は泣いてばかりだと心配された。

ようやく痛いことは痛いと口にし、嫌な事は嫌だと言って良いのだと知った。

嫌な事は怒ってよいのだと教えられた。


他の子どもたちに比べると欲求は非常に少なかったと思う。

子どもらしくないと言われてきたのに、しばらくするとおとなしくて賢い子だと言われるになったのは不思議だった。


妙な子だと目立ちはしたが、周囲に馴染む事を覚えた。

ひとつひとつ、無くしてしまった感情を、時間をかけ過ぎるほどにゆっくりと覚えていった。


前世の世界で初めて、幸運の力は小さければ小さいほど平穏に過ごす事ができると知ったのだ。


それでも弱くなったとは言え「力」は健在で、残念ながら私の周囲は徐々に狂っていった。


最初は自己主張の激しい近所のおばさんだった。

それから友人。教師。お稽古事の先生達。


以前のように無理やり手に入れようとされる事はほとんどなかったけれど、妙に近づいてくる者は多くいた。


私の幸運は前世では小さな小さなものだった。

突然、クジ運がよくなる。懸賞によく当たるようになった。無くした物が無事に見つかった。

ちょっとだけ良いことが起こるのだ。


即その人の人生を揺るがすような大きな幸運では決してない。けれどそれらはゆっくりと確実に影響を及ぼしてしまう。

幸運は「近くにいなければ」影響しない。

離れれば影響はなくなる。

幸運を手に入れたと浮かれ、あったはずの幸運はふとした瞬間に消えるのである。


クジ運が悪くなった。

懸賞が当たらなくなった。

その程度の事だ。


私の能力が影響していると気づくものはほとんどいなかった。


それでもそんな些細な幸運を、人は欲しがるらしい。


こんな小さな事でも狂うのだから、作用が大きくなればそれは必然だろう。

かなり大人になった頃にようやく「幸運」で「おかしくならなかった」人だけが残った。

友人知人、親戚家族もだ。

普通の人々からすればきっとかなり少ない数であったと思うけれど、私にはちょうど良かった。


その頃には能力の制限もできるようになっていた。

初めての事である。


おかげで、自分の望む幸運だけが欲しい人間達は、無意識に離れて行った。

もちろん離れて行った後にまた戻ってこようとする人間も多かった。

幸運がなくなったことに気づく人間もいて、下心丸出しで近寄ろうとして来た。

だがそんな人間と友人に戻る事など私にはできなかった。したくないに決まっている。


残った人数は少なかったけれど、幸運に左右されない人も存在するのだと教えられた。

私自身を尊重し、大切にしてくれていた。

それが嬉しかった。


成長途中でようやく私は気づけたのである。

能力のコントロールの仕方を。




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