14-02.中途半端に幸運が効いても、むしろ不幸になる
それが明確になったのはさらに翌週の話だった。
もう手遅れだったらしい。
青騎士団に関しては、である。
青騎士団全体に既に幸運が効いていたらしく、一命を「取り留めてしまった」負傷者が多く出たのである。
死んだほうがマシだったんじゃないかという状態で生き残ったという事は、生きたいと願ったのだろう。
それはそうだよな、とは思うのだけれど。
そのせいで酷い状況になってしまっているようだ。
だから関わると厄介な事になるのだ。
今回の事で、クスタさんは騎士団引退を決めたらしい。
そろそろ適齢期というのも重なっての事だ。
結婚したいのだそうだ。
(それだけは本当に理解できない感情だけれど)
人間不信の自分が、誰か良いと思える相手が出てくるのかはわからない。
少なくとも今までの転生人生の中では一切なかった。
しかし他人様の思う幸せが、私とは違うのも知っている。
彼女が本気で結婚したいと思い、相手を見つけようと思うのならばきっと、良い作用をしてくれるだろう。
ただ、問題があるのも知っている。
幸運は願望を手助けするが、ちゃんと思った通りの相手が現れるとは限らない。
出会う事はできるだろうが、選択するのは結局、本人だ。
「良い人を見つけてくださいね」
「あぁ、ありがとう」
クスタさんは良い人だ。
こんな小さい子ども相手に真剣に応対してくれる。
良い奥さんになり、良い母親になるだろう。
彼女には幸せになってもらいたい。
けれどその場合、私がいるとダメな事も知っている。
(結婚してしまうと、相手にも影響が出てしまうからなぁ)
どんな相手を選ぶかは知らないし、わからない。
けれど自分が近くに居れば、相手を狂わせる可能性がある。それはよろしくない。
幸運を気に留めもしない彼女だが、選ぶ相手もそうとは限らないのである。
彼女は騎士団を退団するらしいので今後、会う事はなくなるだろうから、接点はなくなるだろう。
その間に幸運の影響が消えればいい。
素敵な人と出会うぐらいまでは幸運が続くと良いとは思うけれど。
(いい人を見つけてほしい)
理想が現れてしまうと大抵、人はおかしくなる。あとは結婚すると望みが変更されるので、それでまた狂う。
結婚するのであればクスタさんにはきっと、二度と会わない方がいいだろう。
*-------------------*
青騎士団の倉庫から消えた回復薬の行方だが、やはり副団長達だったらしい。
副団長が数名の部下と一緒になって悪い事をしちゃ、駄目だろう。
倉庫内から持ち出して高値で他に売り飛ばしていたそうだ。
二度目に一緒に温室に訪れたあいつらだろう。
顔は見ていないけれど。
私が納品数を二倍にするなら効果が二分の一ならできます、と言ったせいで、今まで売り飛ばしてきた分の水増しを思いついたらしい。
ふざけんな。
そのせいで回復薬の効きが悪くて苦しむ人が増えたわけだ。
彼らはギャンブルにはまり、お金に困っていたそうだ。
ありがちだ。
だからといって団の備蓄倉庫に手を出してはいけないだろうよ。
人は見かけによらないね、本当に。
効果が良い為、高く売れるだろうと踏んで、高額で売り飛ばしてきたそうだ。
だがそれが裏目に出た。
お金が欲しかったが故の行動は結局、自分達に跳ね返ったわけである。
誰にも知られることなく回復薬をまんまと手に入れ、さらに上手く高額で売れた事は、幸運が作用した結果だろう。
しかしその後、彼らは巨大型の魔物で負傷した。
副団長に関しては、聞いた話では、片腕と片足を失ったそうだ。
騎士団復帰は確実に無理だろう。
私の作った身体回復薬は初級である。
欠損まで回復するようなものではない。
それでも怪我を負ったその場で使用できればまた違ったかもしれないが…時間経過と共に、効果は薄くなる。
切られた腕が残っていたとしても繋がる事はなくなるのだ。
副団長達のしでかしたことは、怪我を負った部下たちが回復できるかもしれない機会を失わせ、かつ、回復自体を遅れさせた。
さらに備蓄品盗難で罪に問われたので、強制退団だそうだ。
当然ですよね。
脅された時に怖かったので同情する気は一切ない。
幼女を脅すなど万死に値するだろう。
大人の風上にも置けぬ奴だ。
あれしきの事で?と思われるかもしれないが、小心者なのだ。怖いものは怖い。
いなくなってくれて心から安堵している。
今後、どうするかな、と考えてしまう。
騎士団とは関わりあわないべきだろう。
青騎士団には深入りしすぎた気がする。
町での買い物も覚えたし、もういいかもしれない。
変な奴等にも目をつけられたようだし、ここらで潮時だろう。
しばらくは静かに暮らしたほうがいい。
巨大型の魔物により騎士団員達が酷い怪我をさせられた為、魔物討伐の話が浮上していたが、結局、あれ以降、巨大型の魔物は出現していないらしく、怪我人が増える事はなかったようだ。
巨大型らしいけど、いつもはどこにいるのだろう?
怪我人は徐々に回復をして、不足していた身体回復薬も納品数が上回りだしてなんとか持ち直したらしい。
倉庫もそこそこ備蓄が出来た事を聞いたので、手を引きたいと願い出た。
「本気か?」
団長には困った顔をされたし、めちゃくちゃ引き止められた。
なんなら退団予定のクスタさんまで連れ出して止めてきたが、私は頑固な性格である。
決めた事を覆すつもりはないし、結局のところ、契約があったところで私が納品しに来なかったから一緒である。
住所不定ですからね。
それでも良いって最初の契約時に名前だけのサインだったし。
念押しで「両親がちょっと体調を崩して作れないんです」と告げておいた。
オレンジ騎士団との確執も健在で、元養父は相変わらず青騎士団に現れるらしいので、余計に嫌だった。
あいつしつこい。
見かけてはいないけれど、どうやら元養母までが時々、こちらの町に来ているらしいのだ。
どういうことだ?
嫌な予感しかしない。
団長には理解してもらって、納品を止めた。
また気が向いたら持ってきて欲しい、と散々言われたけれど、しばらくは絶対にないだろう。




