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14-01.中途半端に幸運が効いても、むしろ不幸になる



翌週の納品時。

また大騒ぎだった。


先週の魔物の出現で騎士団は大ダメージを食らったらしい。

負傷者が多数出たそうである。

幸い、死者はいないそうだけれど。


それは仕方がない話だ。

魔物と戦ったのならばどうしたってそうなるに決まっている。


そもそもなんで魔物と戦うのだろう。

逃げたほうが楽なのに。


このあたりの魔物が町に入ってきた事はないのだから、ひっそり暮らせばいいのではないだろうか。


どうやら誰かが騒ぎ出して魔物を退治しろって話になったらしい。

刺激した方が危険なのに、よくわからない。


だがそれだけではなかった。


何が騒ぎになっているかと言うと、回復薬の効きが悪いらしいのである。

そんなはずないですけど。


本数もおかしくなっているそうだ。

青騎士団の薬品備蓄倉庫の話である。


負傷者が出すぎたので身体回復薬と魔力回復薬を多数出す事になったらしいのだが、不足しているというのだ。


そもそもあるはずの数が大幅にあわないらしい。

紛失もしているというのである。


(あー…)


なんか嫌な予感しかしない。


あれだろ。

副団長、絶対関わっているだろ。


納品に顔を出したら、受け取りに知らない顔の騎士団員が出てきて、なぜか現在、そいつから罵られている。


彼も相当な怪我をしているようで、片腕が肘から先がないし、顔も半分、包帯でぐるぐるだ。


安静にして寝ていた方がいいのではないかと思うのだが…いや、罵る元気があるのならば元気なのか。


「お前、回復薬を水増ししただろう!この詐欺薬師め!」


なんかわかったな、と思う。

こいつも関わっているな、と。

肩に黒いもやがめっちゃ出ている。

わかりやすい。


ちなみに幸運の光はそのもやに隠されて輝きは見えなくなっていた。


幼女相手に勝手なことを罵る相手を、冷めた感情でじーっと見つめている。


誰が詐欺師だと、この野郎。

誠実に納品してきた私に向かってふざけんな。

テメェがなにか、してんだろうが。


「では今、確認されたらいかがですか?水増しした回復薬かどうか」


さすがに怒りで低い声が出た。


幼女らしからぬ態度だったのだろう。

戸惑っているようだった。


あれか。泣き喚かせたかったのだろうか。

それを畳み掛けるようにして悪者にしたかったのだろうか。

残念ながらそれに乗る気は一切ない。


どうぞ、言うのだが相手が動かない。

なんだろうか。

さっさと納品確認して欲しいんだけど…と思っていると団長が顔を出したのに驚いた。


「団長さん」

「怒鳴る声が聞こえたんだが」


罵ってきた騎士団員が慌てて受領書にサインをしている。


「ほら、持っていけ!」


そのまま雑な態度で回復薬を運び出そうとし、団長に止められた。


「内容は確認したのか?」


たぶん会話が聞こえていたのだろう。

聞かれたので口にする。


「してないです」

「貸せ」


団員から回復薬を取り上げ、中身を確認される。


「いつも通りだな」

「はい。ちなみに本数、数えて無いんですけどいいんですかね」


いつもの受付の人はちゃんと数も確認してくれるんだけど。


役に立たないその騎士団員は団長に追い払われた。

舌打ちをしていきやがったあいつ。

なんだその態度。


「…話は聞こえた」


団長がため息をついている。

彼に対し完全に告げ口をする。


「少し前に副団長さんに、納品数を二倍にしろって言われたんですけど」

「納品数を増やすように言ったのは副団長なのか」

「はい。二倍にしろって言われたので、効果が二分の一になっていいならできますって言いました」


目の前で大人が頭を抱えた。

何が起こっているのか、理解したらしい。


私はちゃんと納品している。

こんなことをごまかしたりしない。

つまり誰かが勝手に回復薬を水増ししたせいで、効果が薄まったのだ。

そしてその犯人はおそらく、といったところだろう。


めちゃくちゃ深いため息をついた後、団長が弱り果てた顔をして口にした。


「すまないのだが、今後、数を増やしてもらう事は…」

「無理です」


今までかなりの数を納品したはずなのだが、それはどこにいったのか。

そもそも六歳児の私が運んでいるのを知っているだろう。運べる数も限度がある。


「いや、運搬は手伝いに行かせるから」

「隠れて住んでいるので、無理です」


って言いましたよね、と返すとため息をつかれてしまった。


「それは聞いたが。…そもそもどうして隠れ住んでいるんだ」


結局、団長にまで尋ねられてしまった。


そういうの、有耶無耶にしてくれていたからこの騎士団と契約して上手く行っていたのだけれど。

隠れて住みたい私的にはもう無理かな、と思う。


「こういう事が起こるからです」


きっぱりと告げると眉を潜められた。


「どういう意味だ?」

「うちを利用して悪い事をする人が出るんです。それで、尻拭いをさせられます」


今の状況そのものだろう。彼から言葉は出なかった。

ムカついたのでつい、続けてしまった。


「毎週の納品後、月一でも本数の確認、されていましたか。なんで急に必要になってから気づくんですか」


どうせ備蓄倉庫にごちゃっと置き去りにしていただけだろう。


管理も何もしていなかったのに、紛失していたからといってこっちに尻拭いだけさせるのはどうなんだ。


お金が入るなら作ります!というタイプならいいだろうが、私はそうではない。

無理したら倒れるのだ。無理したくない。


魔物と戦って怪我した人達は気の毒だが、回復薬がない時は今までだって我慢してきたのだろう。


悪いが、騎士団内の不祥事を肩代わりする気はない。


「少し前に副団長から本数を倍に増やせと言われた時、嫌な感じがしました。何も起こっていないのに、しかも倍に増やすなんておかしいです」

「…そうだな」


団長は物分りがいい人だった。

額を押さえて顔を顰めている。


言われたのはもう随分前である。

少なくともその時、既に副団長は知っていたはずである。回復薬の数が減っている事を。


というかぶっちゃけあいつが持ち出したんじゃねーの、である。


めちゃ脅されたし嫌味を言われてムカついた。


そもそもそんな話を言われたのだけれど、どうなっているのだと団長には言ったはずである。

その時に動いてくれていれば少しは違っていたのではないだろうか。


「回復薬系だけでなく、他の薬もなくなっていた。誰かがくすねて持ち出している」


深いため息をついている。


私の前でため息をつかれても、どうしようもない。

それは騎士団の問題だ。

なんならいっそもう契約を止めてもいいと思っている。


騎士団には主に回復薬を購入してもらって助かったけれど、これ以上面倒な事に巻き込まれるのならば撤退したい。

それでなくとも元養父にバレて面倒である。


「わかった。いつもどおりで大丈夫だ」


約束してもらい、引き上げる前にとりあえずクスタさんの事だけ気になったので尋ねてみた。


「クスタさんは?」

「あぁ、あいつは五体満足で、怪我人の手当てに回っている」


ならいいや、と思う。

あれかな、幸運が効いて彼女は怪我をしなかったのかもしれない。

そう思うと少しホッとする。


冷酷?

上等である。

今までの人生を考えるとあまり関わりあわない方が良いし、他人に情を割いている場合ではない。


というか私が情をかけると幸運のせいで面倒な事になるのである。



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