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07-01.また騎士団に連れて行かれたのですが



なるほど、騎士団で直に買ってもらえるのはいいかもしれない。


拠点に連れて行かれ、お姉さんは顔パスで入り…騎士団の制服を着ているから当然なのかもしれないけれど…手前の部屋に案内をされた。

扉をノックしている。


「クスタ、戻りました」

「入れ」


唐突にお姉さんの名前が発覚した。クスタさんらしい。

そういや名前、聞かなかったな。


しかし聞けないのは理由がある。

私に名前がないせいだ。


一応あったけど捨てたよね。しかも二度ほど。


一回目は両親がつけた名前で、二回目は元養父である騎士さん家で呼ばれていた名前だ。


名前を忘れたと言ったらつけてもらえたのだけれど、嫌な思い出になってしまったのでそれも「なかった」ことにしている。


なので聞かれても困る。が、決めておかないとダメだよな。どうするか。


扉を開けると奥に人が三人居た。大人の男の人ばかりである。

騎士団の制服を着ているのでここの人だろう。


ちなみに制服になんか勲章みたいなのがついているアレが、団長とか副団長とかである。

あと一人は事務官だろう。


「どうした、迷子か?」


私の顔を見るなり団長の一言である。

当然だろうけれどちょっとムッとする。


子どもを見たら全員迷子かこのやろー。


だがそんな私をクスタさんがフォローしてくれる。


「違いますよ。お客さんです。契約しようと思って」


契約?言葉に彼女の顔を見上げてしまう。


え、なんかあれか。もしかしてこれって詐欺に引っかかった系か?


契約という単語はヤバくて嫌いである。

なぜなら監禁されていた時も勝手にそんな話が出ていたせいだ。


これは失敗したかも、と内心冷や汗を掻き始めている私を余所に頭上で会話が続いている。


「お前、回復薬を仕入れに行ったんじゃなかったのか」


手ぶらであることに対する指摘らしい。

なるほど、お姉さんはだからあの場に居たのか。

買う感じではまったくなかったけれど。


「あのクソ親父の店行ったら、この子が酷い目にあっていたんで保護してきました」


ん?とまたお姉さん…クスタさんを見上げてしまうと彼女はしゃがんで目線を合わせてくれる。


「それ、買い取るからくれるかな」


ソレとは私の回復薬の事らしい。

また取られるかな…と一瞬警戒してしまったが、そもそもあのクソ店主に奪われそうだったのを助けてもらったのだ。

お姉さんにあげるつもりでもいいだろう。


そっと渡すと「ありがとう」と言ってもらえる。

優しい人だ。


「これ。どうですかね」


彼女はその瓶を男三人に渡してしまう。


蓋を開け、匂いを嗅ぎ、彼女がしたように指に付けて舐めている。


やっぱりそうやって確認するのか…私、いちいち飲んでたな。なるほど。

でも衛生的にお前らの指がついた回復薬は飲みたくないな。浄化魔法を使う習慣とかないんだろうか。


舐めて確認した後にこちらを向き、詰め寄られた。


「なんだこれ、美味い」

「身体回復薬が美味いとか初めてです」

「どうやって作ってるんだ?!」


やっぱり回復薬って不味いのが普通なのか。

薬は前世でも美味しくなかったしね。

ただ、飲みやすいってだけで美味しいわけではないと思うんだけど。


その前に、ただでさえちっこい幼女がでかい大人の男三人に囲まれてめっちゃ怖い。


思わずひしっとお姉さんの足にくっつくと苦笑された。


「この子の両親の作らしいですよ」


私が言っていた事を説明してくれる。


「ご両親はどちらに?」


四人分の目がこっちを向くの、めっちゃ怖いです。


「…二人とも忙しくて、その、だから…かわりにおつかいで…」


しどろもどろな私を、クスタさんが抱き上げてくれる。


おぉ、背が高い。騎士団の人だからか力があるのだろう。軽々と持ち上げてくれた。


胸があたる。押さえつけているみたいだけどこれはかなりボリューミーだろう。

同性だからわかるよ!


「最近ここらに来たばかりなんですかね?こんな小さい子にあんな薬屋に売らせに行って。足元見られるのがわからなかったんですかね」


めっちゃ架空の両親がディスられている。

いや、本当は居ないんですけどね。


「美味しいし、かなり良質じゃないですか?」


あそこの高い薬屋のよりよっぽどいいと思いますよ、と言ってくれている。


え、マジで?もしかして本当に買ってくれそう?


期待した目で見てしまうと微笑んでくれる。事務官さんの声が耳に届いた。


「量が問題だな。あと値段だが…」

「いくらで買ってくれますか」


思わず口を挟んだのに、団長さんに笑われた。


「しっかりしてるな」

「こんな子からそれを、クズゴミの値段で買おうとしてたんですよあのクソ野郎。ぼったくり店ですって」


よほどあのおっさんが嫌いらしい。

気持ちはすごくわかるけど。


「ちゃんと相場で買ってあげてくださいよ。味の件も含めて、かなり良いものじゃないですか?」


どうやらお姉さんは回復薬を推してくれるらしい。


良い人だ。めっちゃ良い人だった。

助けてくれたから良い人だったけどさらに良い人だった。


「ご両親に、どれぐらい作れるか聞いてきてくれるか?」


おぉ、なんかいい感じかもしれない。

抱きかかえられたままで身を乗り出してしまう。


「どれぐらいいりますか」

「そうだな…あるだけとりあえず買うか」


あるだけ。アバウトすぎる。どうしろと。


「たぶん、うちには大きな瓶しかないので、それでもいいですか」


問えば「こっちで分けるからいいよ」と言われてホッとする。

小瓶いっぱいは持ってくるのに重くて辛いので助かります。


そうだ、と閃く。

ここで買ってもらえるのなら他の薬も作ってみていいだろうか。


試してもらえるならそれでもいいし。

何が作れるのかやっておきたいものである。


「回復薬以外にも必要な薬とかありますか」


問うた言葉に苦笑されてしまった。


「なかなか商売上手だな」

「賢くて可愛いじゃないですか」


お姉さんには好評らしい。ありがたい話である。


「魔力回復薬もあるといいな」


やはりそうらしい。自分には必要ないけれど、作ってみるだけ作ってみよう。


「じゃあまあ、とりあえずはこの瓶の分の代金を」


事務官さんが何かを書き込み、それから副団長と団長に回した。


たぶんあれ、サインしてんのかな…と思っていると、その書類を手にした彼は小さな金庫っぽいものからお金を出し、渡してくれた。


手に乗ったコインは、あの店で売っていた一本分の六割×五本分である。

前世での教育のおかげで計算はそこそこ得意だ。


え、多すぎね?と見てしまったのだが、たぶん薬草の元手がタダなのでそう感じるだけだと気がついた。


普通は苦労して薬草を手に入れる。六割は普通の値段だろう。


受け取りのサインをさせられる。

お金受け取ったよっていう意味か。普通に買ってくれるだけでもありがたい。


適当な名前でサインをする私を、感心したように見つめて来る大人たちは言うのである。


「ぜひ今後、取引をしたい。ご両親によろしく伝えてくれたまえ」



*



これ本気かな、と狐につままれた気分のまま騎士団を後にした。


ちなみにクスタさんは「送っていくように」と言われて私と一緒に歩いている。


しかし私は魔の森に帰るわけで…そんな場所に帰るなんて言ったら引き留められるのは間違いないので、彼女をどこかで撒かないと行けないんだけど、どうすればいいんだろうか。


すぐに帰ろうかと思ったけれど、上手く買ってもらえた挙句に取引まで成立した為、買い物をしたいという気分だった。

疲れてはいたけれど、お金が手に入ったのだからお買い物気分になっている。


「あの、買い物をして帰らないといけないので」

「付き合おう」


男前の彼女は幼女の一人歩きを推奨しない騎士だった。うん、普通そうなりますよね。


けれど彼女が居てくれたおかげで。お店の人からは不審な目で見られることもなく、しかもなにやら色々と安く買えてしまった。


クスタさんは値切り上手だったのだ。…見習いたい。


そうだ、と彼女は大きめの持ち運び用袋を渡してくれた。

なんだろう?と思っていたら今度回復薬を持って来る時用だった。


この中に入るだけ持ってこいという意味らしい。

おぉ、プレッシャー。

同時に、これを貸すから買ったものを入れて持って帰れという意味でもあるらしい。


「あ、ありがとうございます」


どうやら今日、彼女が回復薬を購入するために持ち出した、騎士団のものらしいく、マークが入っている。

持ったままで出てきてしまったようなのだが、役に立って良かったと微笑まれる。


計画性なく買い物してすみません。色々買えて助かりました。


「是非、回復薬を持ってきて欲しい。頼むよ」


あのクソ野郎から買いたくないから、というのが本音らしい。

確かにあいつのところで買うのは嫌だな。


騎士団員から嫌われている店らしく、誰があの店に買出しに行くかでいつも揉めるそうだ。

そして女であるせいで押し付けられがちな彼女としては、他の入手ルートができるだけで嬉しいらしい。


買ってもらえるのならば私も大変助かりますが。


「だから是非、お願いしたい」


ぜひにぜひにと必死に言われてしまった。肩を掴んで揺さぶってくるのだけれど、力が強い。


おー、揺らされるぅー。


わかりました、両親に伝えますと何度も何度も口にしながら、出入口に向かう。


「もしかしてここの住人ではないのか?」


あれ、ヤバいやつかな。とりあえず誤魔化そうと口にする。


「隣の町なんですけど、ちょっと…色々あって、だから、その」


ダメですか、と困ったように尋ねておく。

理由はご想像にお任せします、である。


彼女は少し考えた様子だったが「ではまた迎えに来よう」と言われた。

天秤にかけたとしてもあの薬屋はどうしても嫌なのだろうな、と思う。


「次はいつ来られる?」

「どれぐらいできるかわかりませんけど、とりあえず五日後には一度、来たいと思います」


騎士には制限があるらしく許可なく隣の町には入れないらしい。それは良い事を聞いた。


逆に用事があれば入れるらしい…気をつけよう。


「魔の森の近くを通るだろう。気をつけるんだぞ」


その魔の森に帰るんですけどね、とは言えないわけだが。


お礼を言って彼女と別れた。



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