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06-02.金策は生きていく上で大切です。知ってます



もう一つの町には入ったことがない。なので初めての町で完全なおのぼりさん状態で見回った。


隣の町とそう変わりないけれど、もちろん店も人も違う。

知らない人ばかりだと思うと、緊張はするけれど気が楽である。


最初は衣料品の店を探した。子ども用品と大人用品だ。

しかし、やはり子ども一人で歩いているので不審そうな顔をされてしまう。

まだちょっと小さすぎるものな、私。


「あの、今度初めておこずかいをもらえそうで、だから、見てもいいですか」


とりあえず、言い訳のようにそう口にした。


店の人は不審そうではあったがそれでも、少しばかり態度を和らげてはくれた。

見る事を許可してくれた感じである。


ついでに鍋とキッチン用品ぐらいは見ておこうと似たような手を使う。

やはり幼女が品物を興味深そうに見ているのは不審なのだろう。

「なんだあの子?」「どこの子だ」的に遠巻きに監視されている感じになってしまったが、気にしてもしかたがない。


さらに回復薬を売っている薬屋も見つけた。


回復薬と言っても、身体回復薬と魔力回復薬がある。

身体を回復すれば魔力も少しは回復されるが、微々たるものだ。

たしかにそこはわけられるもので、作り方の資料にも別項目になっていた。


私が「回復薬」として作成しているのはいつも、身体回復薬の方だ。

体が動かないと困るのでそちらを優先しているし、魔力は、そもそも大きな魔法を使えるわけではないので、そんなに切羽詰まるようなことにはならない。


身体機能を回復するものの方が需要は多いのか、安めになっている。

ただ、この薬屋には等級の区分がなく、一律「身体回復薬」という扱いになっているようだ。


(効き目とかは関係ないのかな。作り方によって効き目が違う気がするんだけど)


ようやく効き目の安定したものが作れるようになってきているが、作り方によっては効きの悪いものもあれば、良いものもある。まちまちだ。

だがそこは関係なく同じ値段らしい。


おかげでなんとなくの相場がわかったし、前に居た町とでは若干価値が違うようなので確認して良かったと思う。


歩き回って疲れたので、広場みたいな場所にあるベンチに座った。昼間なので歩いている人が多い。


(さて、どこでどうやって売ろう)


小さめの瓶…といっても一回飲みきりサイズでは決してない…に入れては来たが、さきほどの回復薬を売っているお店に売りに行ってみるしかないだろうか。

それ以外に他の方法が思いつかない。


(働いたのは前世が初めてだったしなぁ)


前々世以前は、監禁されて奪い合いをされていたのでそもそも働いた事がない。というか、まともに暮らした経験さえなかった。

閉じ込められ、何もさせてはもらえなかったからだ。

なのでこういった金策関連は前世での経験でしか知らないのである。


しかし前世は異世界だった。

あの時の知識が生かせるとは限らないが…商売はどこもそう変わらないだろうか。


(うーん…)


とりあえず回復薬を売っている店に行って聞いてみよう。そこで断られたら今日はもう帰ろう。


回復薬はちょこちょこ飲んでいるが、知らない町の散策でさすがに少し気疲れてしまった。



*



薬屋はこの町には一軒だけだった。

再度お店に入ると、「なんだこのガキ」と不審そうな顔をされてしまう。

本日二度目の来店だ。


このぐらいの子どもには用事のない店なのはわかる。

わかるがそんなあからさまにしなくてもいいだろう。


おっかなびっくりだが、自分でなんとかするしかない。

仕方なく口を開く。


「あの!」


店員は不審そうな顔をした中年男だった。

なんか嫌だな、と思ってしまう。


「親…に頼まれて、回復薬を売りたいんですけど、買ってもらえますか」


口調は子どもっぽくした。

その方が警戒されない気がしたからだ。

だがそれが裏目に出た。


「あぁ…ちょっと待ってな」


相手の口調も少しだけ柔らかくなる。だがそれだけだ。

値踏みした視線を向けられ、何か嫌な感じがする。


この店は止めておけば良かったと思いながらも、町に1軒しかない薬屋である。

一応、と待っていると、奥から人が出てきた。


やはりこちらを値踏みし蔑むような顔をした中年男だった。また嫌な感じがする。


「どれを売りたいのか出せ」


言い方にムッとしてしまったけれど、とりあえず持って来た回復薬を出す。

奪うように取られたのにもムッとした。


瓶をじっくり眺められている。

見るだけでわかるものなのだろうか。

飲まないと効果はわからないと思うのだけど。


黙りこくられて、痺れを切らせたのは自分の方だった。


「いくらで買ってもらえますか」

「あー…そうだな」


告げられたのは今そこで売っている回復薬の百分の一の値段で驚いてしまう。しかも一本分の、だ。

持って来た瓶には五本分は入っている。


完全に足元を見られている。というか子どもだと思って計算ができないと思われている?


この野郎、ガキだと思って嘗めくさってやがるな。


「じゃあいいです。売るのを止めます」


そう言い、取り返そうとした途端に手を上げられて届かなくなされてしまう。

子どもと大人の身長差がこんな場所で障害に!


「いや、買い取ってやる」

「嫌です!売りません!」


返せ!と手を伸ばすが立ち上がられてますます手が届かない。


クソッ、子どもだと思いやがって…!


こういう大人がいるから人間は信用ならないのだ。


「仕方がないから引き取ってやろうと言っているんだ。金を支払うから待ってろ」


口調もやっていることも最低である。これはもう取り返すのを諦めた方がいいかもしれない。


騒ぎを起こしてでも取り返すには自分の力ではまだ弱すぎる。

怪我をするかもしないし、二度と来ない方がいい。そう思って諦めようとしたのだが。


「子ども相手になんて商売してんだ、アンタ」


横から割って入ってきた声に顔を上げた。

低めの声で、少し怒りが篭っている。


「悪どい商売だな。そんな値でいつも回復薬を仕入れていてこの値段で売っているのか。えげつねぇな」


言葉は乱暴だが、女の人だった。驚いてしまう。


取られた回復薬を中年男から簡単に取り上げ、私を背にし、間に入ってくれる。


「邪魔をするな!それはうちが買い取った商品だ!返せ!」

「まだ金は払ってねぇだろーが。受け取りのサインだってしてねぇだろ」


こんな子どもに悪どいことしやがって、と。なんか正義の味方みたいなことを言っている。

口は悪いけどちょっとカッコイイ。


「で。今の話、町中に広めて欲しいか?回復薬の仕入れ値を言いふらしてやるが」


男は嫌そうな顔をし、「こんな事をして、お前のところには回復薬を売らんぞ!」と口にした。


「いいさ。薬屋はあんたのとこだけじゃないからな!」


こちらも売り言葉に買い言葉のように吐き捨てている。


一応ここ、この町で唯一の薬屋だったのだけれど大丈夫なのだろうかとこちらが心配になってくる。


しかし、男前な女の人である。


「さ、行こうか。こんな店、二度と来ちゃダメだぞ」


店を出る間際、悪態をついてくる店主…多分店主なんだろう…に対し、悪態をつき返した女の人は私の手を掴んで歩き出す。


彼女は、店からかなり離れてからようやく手を放してくれると、視線を合わせるように目の前にしゃがみこんできた。

その時になってようやく服装に気がついた。


騎士団のソレだった。

子どもの目線ではちょっと分かりづらいんだよこの制服。


やべぇ、と一瞬思ったものの、色が違った。それに元養父は隣の町の騎士団である。

女性騎士はあそこにはいなかった。


「回復薬だよね、これ。売りたいのか?」


問われてこくりと頷く。

彼女は先ほど店主から取り返した薬の瓶を目の前に出して眺めている。


「ちょっとだけ舐めてみていいかい?」


あ。口調が変わった。子ども相手に使い分ける人なのか、と思う。


そうそう、味見しますよね、普通。飲まないと効果がわからない。


承諾すると蓋を開け、入り口を指で塞いで一度逆さにして戻し、指についたものを舐めている。


この人、浄化魔法を使わなかったな。使えないのかな。

衛生的にどうなんだろう…と一瞬考えたが、自分が飲むわけでもないし、まぁいいか、と考える。


「あー…なるほど?」


微妙な反応だ。良いのか悪いのかわからない。


「ご両親が作ったのかい?」


こくり、と頷いておく。

子どもが作ったものではただそれだけで価値が下がってしまうからだ。


満足そうに笑った彼女は「割らないようにね」と瓶を返してくれる。それから手を繋がれた。


「騎士団で買おう。おいで」



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