06-01.金策は生きていく上で大切です。知ってます
魔力を織り交ぜるとか書いてあるので不安が伴ったが、最初こそ道具の準備や薬草を入手するのに手間取ったものの、時間はあるのでのんびり作ってみた。
初めての初級回復薬である。
手元にある本が図解入りであるのは大変助かった。
元々知っている薬草もあるが、知らないものもある。
図解のおかげで本を片手に温室内を探し回れば、見つけるのに時間はかかるものの、大抵のものが手に入るのだ。
(ここ、薬草園だったのかな)
その可能性は充分高いだろう。
野性味溢れる育ち方をしているので多少、絵と違う育ち方をしているものがあるので判別が難しいこともあるが、大抵が野草である。
試作をし、自分で飲む。
毒薬ではないので問題ないだろうし、簡単なものなので、失敗しても回復しないだけである。
もしかしたら多少はお腹を壊すかもしれないが、味見をしても今のところその気配はない。
回復と言っても怪我をしていなければ、身体が軽くなる程度の話だ。
怪我は痛いのでわざと傷つけたりはしたくない。
(痛いのは嫌いなんだよなぁ)
普通はそうだと思う。
だから戦いは見るのも苦手である。というか、前々世で監禁され、自身の奪い合いをされたせいで人死にが大勢あった為、むしろトラウマだ。
戦いの物語に書かれるような、命の煌きだとかそんなものではない。
あれは泥水の啜りあいだ。
死んだらそこでおしまいなのだから。
(できれば戦う人には関わりあいたくない)
死ぬ時はひっそりと誰も知らない場所で死にたいと思う。
*
回復薬は何度か作ってみて質が安定してきた。
成功しているのだと思う。なぜなら驚くほど身体が軽くなったからだ。
なるほど、あまり強くない身体も時には役に立つものである。
作ってみたものの、味がおそろしく不味かったので、自分なりになんとか飲めそうなものに改良した。
何度も飲む事になるのは間違いなく自身である。
できれば美味しい方がいいが、良薬口に苦しと言うし、薬が美味しいと依存しそうで良くないだろう。
それでも苦すぎず、顔を顰めずに飲める程度の味にした。
(これなら売れないかな)
回復薬として機能するかがいまいちわからない。
駄目だとしても、健康飲料とかでも売れないだろうか。飲めば体が軽く感じるのだ。
作成もそこそこ簡単なので、作る手間暇もそう悪くはない。
ここから出るのは少し怖いが、一度、売れるかどうか、試しに持って行くのもいいかもしれない。
子どもが作成しているものなど売れないかもしれないが、両親のお使いと称すれば誰か、買ってくれないだろうか。
子ども相手では買い叩かれるかもしれない。
しかし、原価もかかっていないし、安すぎなければ自分が必要なお金の分程度に売れればいいだろう。
先に入用なものを見て回り、どれぐらいお金が必要かを確認してから考えよう。
結局のところ、いつだって先立つものは金である。いずれどこかに逃げるにしても、いつかは必要になるだろう。
作っておくに越した事はない。
(よし、どこかのタイミングで聞きに行こう)
薬を作り置き、ここから出掛けられるぐらいになったら行ってみよう。
回復薬を飲みながら行けば、疲れすぎず、それなりの速度で行けるだろう。
町に出るのは憂うつだが、仕方がない。
元養父母には会わないことを祈ろう。
先のことを考え、息をつく。
どうしたって生きていくしかないのだから必要なのだ。
人と絶対に関わらず生きるという事ができないのならば、必要最小限に抑えて暮らしていけばいい。
そんな事をこの時は考えていた。
*
ダメ元でと、思い立ったが吉日。森を出て町に行ってみた。
昼間である。だが昼でも魔の森は暗い。
持ち物は売却用の…落ちていた瓶を洗浄した…その場にあった二番目に小さな瓶に詰めた回復薬と、私が飲む用に一番小さな瓶に詰めた回復薬。
それから周囲に生えている魔物避けの枝である。
何度も回復薬を飲んで過ごしてきたが、結構良さげに出来ていると思う。
飲むと身体が軽くなるので、いつもより動き回ることができるようになるからだ。
魔物に遭遇したとしても、死にさえしなければ、これでなんとか生き延びられないだろうかとか考えている。
さすがに無理だろうか。
まぁ、魔物に出会った時に考えよう。
魔物除けの枝のおかげが、不思議なほど遭遇しないのだ。むしろ、森に入ってから一度も見かけていない。
ここ、魔の森だよね?そのはずだ。
だからここに逃げ込んだのだし。
普通の人達はどれぐらいの確率で遭遇するのだろうか。
歩く時はできるだけ、光の球がたくさんある方向へ方向へと移動うるようにはしているのだけど、もしかしたらこれのおかげという事もあるのだろうか?
最初にこの森に入ったときからずっとそうやって移動しているし、なんなら廃墟な温室にもわんさかいる。
周囲に魔物避けの樹木もあるが、もしかしたらこの光の球も魔物避けになっているのだろうか。
だとしたら、この光の球が見えるという、よくわからない能力はありがたいものなのかもしれない。
真実はわからないけれど、魔物に遭遇しないという事はありがたい話である。
回復薬を飲みながら歩き続け、ようやく町まで出てきた。だが町に入るのは魔の森に踏み入るよりも躊躇してしまう。
できれば元養父母には会いたくない。
奴らに知らせが行くのも困る。
万が一にでも連れ戻されたくは無い。
となると、住んでいた町に入るのはやめておくべきだろう。
そう考え、以前に居た町とは逆の入り口を見る。
実はこの町、へんてこな作りをしている。真ん中で分断されており、二つの町になっているのだ。
同じ領地なのだが、わざわざ分断されている。
そういえば前世、壁で分断されていた国があったな、などと思い出す。随分前に壁は壊されて一つになっていたけれど…ここは、領地内の町という小さな規模だが、似たような形で分断されているのである。
普通、領主は一人だ。
この領地も領主はもちろん一人らしいのだが、病気で何年も倒れているらしい。そのせいで息子達が代わりをしているようなのだ。
問題はその息子が双子であり、そして二人ともの能力がさほどではない、という事だった。
能力が不足しているのならば不足しているなりに二人で力をあわせてやればいいものを、この兄弟がまた非常に仲が悪いらしい。
力を合わせるどころの騒ぎではないという。
まだ町にいた頃、おばちゃん達の話で「ご兄弟の仲が悪いから」と上がるほど、皆が知るほど有名な話だった。
そしてそのせいで領地自体が二つに分かれてしまっている状態らしい。
仲が悪すぎて境界線まで引いたというのだ。
父親が倒れている間に、息子たちは好き勝手しすぎではないだろうか?どうせその境界線は税金で引いたのだろう。なんてはた迷惑な話なのか。
国がなんとかしないのかと思ったのだが、国としてはとりあえず領主がきちんと税を納めていれば口を出さない方針らしい。
そんな町なので、入り口が違うし壁で区切られているので、入ってしまえば隣町の住人に会うことはないのは安心でもあった。




