〜反抗〜
目の前に立つ父親。
父親は、暴力は振るわなかった。
自分の子供に暴力を振るっていたら、それこそ最悪である。
「あの〜。あんだけ嫌っていたお父さんが目の前にいるんですよー。しかも今あなたは私の能力を使えるんですから、なにも怖くないじゃないですかー」
脳に直接響く「すず」の声。
能力を使えば怖くない。たしかにそうかもしれない。
父親には能力は無いし、新聞紙だって一瞬で消し炭になるようなマジカルな力だって使えるのだ。
「でも、私は、復讐がしたいわけじゃないから。」
すずのブーイングが聞こえる。
「毒」を「解毒」したいだけだ。
まるで睨み合いのように無言な時間が続く。
その沈黙を破ったのは父親だった。
「おまえ、またやってたのか。」
そんなこと言われても私は今この世界に来たのだ。
いくら自分の子供の時とはいえ、今なにをしていたのかなど把握していない。
「…なんのこと」
「ふざけんじゃねえ!!おまえいいかげんにしろよ!!」
いきなり父親は壁を叩きながら怒鳴る。
父親は巨漢だ。そんな男性が壁を拳で叩いたのだ。家が揺れる。
私は昔から、父親に怒鳴られると動悸がする。
それは能力を授った今でも同じなようで、動悸が私を襲う。
「な、なにが…」
「それだよ、それ!!」
父親が私の足元を指差して言う。
足元に転がっているのは、編みかけのマフラーである。
そうか、今、鮮明に思い出した。
私には昔手芸の趣味があり、図書館で借りた本や、本屋さんで立ち読みした手芸本を読み漁り独学でそれなりの作品を作れるようになっていた。
特に誰かから、何かから影響を受けたわけではないのだが…
「また、あいつの真似事をしているのか!!」
父親が言う あいつ とは、母親のことである。
つまり離婚した父親からみたら、元嫁にあたる。
私が手芸を行う行為は 母親の真似事らしい。
そりゃあ、母親と一緒に住んでいたら、母親の真似事で手芸をしてたかもしれない。
しかし、私が物心ついたころには母親はいなかったし、母親が手芸をやっていたかなんて私は知るよしも無い。
おそらく、元嫁に関係する事を私がやっているのが、気に入らないのであろう。
これが、父親の「毒」である。
他にもたくさん「毒」があるが、この「毒」によって私は手芸の趣味を続けることができなくなった。
一生懸命つくったものを捨てられた事もあった。
あの頃の私は抵抗することはできず、泣いているだけであった。
薬物などに手を出していたら止めるのは親の義務であると思うが、とくに害もない子供の趣味を無理やりやめさせるなんて絶対間違えている。
そのことをわかってほしい。
自分が親として間違えていると認めてほしい。
「あのさ、おかしくない?」
私は当時言う事ができなかった反抗の言葉を吐いた。