〜対面〜
先程までは真っ白な空間だったのに、気がつけば、目の前には見慣れた光景が広がっていた。
机の配置などは違うが、間違いなく私の実家だ。
社会人になってから3年ほど一度も帰省していなかったが、こうやって目の前に広がっているということは、にわかには信じがたいがタイムリープは成功なのだろう。
どうやら私はソファに座っていたようで、とくに用事もないのだが立ち上がる。
目線が低い。
「さっきぶりでーす! いつに戻りたいか聞くのを忘れていたので、適当に15年前に設定させていただきましたよー!」
元気なすずの声が聞こえる。あたりを見回しても姿は見えない。まるで脳に直接語りかけてくるようで気持ちが悪い。
「次からは自分で戻りたい時期を念じてくださいね。タイムリープ!!とか決め台詞言わなくても、念じただけで好きな時間に行くことができますので〜。あ、ちなみに私の声は周りには一切聞こえてませんのでご心配なく」
たしかに決め台詞を言わなければいけない設定があるならば、勘弁してほしい。もう私も25歳なのだ…。
聞こえるとか聞こえないとか以前に、この少女はずっと私に付き纏ってくるのであろうか…。
非現実的な能力を授けて貰っているのだから、と自分の気持ちを切り替え、試しに目の前の新聞紙に火をつけたいと念じてみる。
すると、新聞紙は燃え上がり、一瞬で消し炭になった。
こちらの おまけ能力のようなものも、どうやら決め台詞などはいらないし念じるだけで能力を使えるようだ。
タイムリープならまだしも、こちらを使うことなんてあるのだろうか?
消し炭になった新聞紙を灰皿に片付ける。
能力については、これからいろいろ試してみないとわからないな…
いっそこんなファンタジー的な事が起きるなら、やっぱり異世界に転生したかった。
この世界では両親が毒親だということは、変わらない…。
思い出してまた吐き気がする。
私の今の年齢は10歳。
10歳くらいの記憶はしっかり残っている。
カレンダーを見ると今は10月5日のようだ。
時間は…20時25分。
現状を把握していると、2階から足音が聞こえて来た。
私は父親、妹の3人暮らしである。
母親は3歳くらいの時から離婚で家を出ている。
それから母親と関わりはないわけではなく、とんでもないことを仕出かすのだが、現在のこの時間には母親はいないであろう。
しかも足音の大きさ的に父親である。
おそらく私のいるリビングに向かっている。
詳しくは覚えていないが、毎日のように嫌がらせをされていたので対面したら間違いなく不快なことを言ってくるだろう。
当時の私は10歳で、難しい事はわからないし、言い返すなんて出来なかった。
だが、今の私は体は10歳とは言え、中身は25歳である。
ある程度善悪の判断はできるし、当時親がやって来た事は間違っている。
今日こそガツンと言ってやる。
間違いを正してやる。
それに何度でもやり直せるのだから。
「お前そんなとこにつったって何やってんだ。」
リビングに入ってきた男性がそう言う。
若いけれど、間違いなく父親だ。
今ではかなり見窄らしい姿をしている父親だが、このころはまだ清潔感がある。
久しぶりの再会。本来なら嬉しいのであろうが、私は全く嬉しくない。
「?」
父親は、私が全く返事をしない為不思議そうな顔で背中を掻いていた。