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毒親育ち、人生解毒します。  作者: ぽいこンぬ
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〜タイムリープで人生やり直し〜


「今日さ、妹の誕生日なんだよね。だから今日はログインできいかな。ごめんねー、もう少しでレベル上がりそうだったよね? 明日なら、ログインできるから。」


耳に当てたスマートフォンから聞こえる親友の声。

仕事帰りの夕暮れの空を見ながら、


「大丈夫だよ。楽しんでね。」


と、声をかけて通話終了ボタンを押した。

社会人になって3年。25歳になった私、山内舞はとても憂鬱な気持ちで生きていた。

先程通話をしていたのは子供の時からの親友で、なんやかんや毎日一緒にネットゲームをしている。

そんな親友は、本日は中学生になる妹の誕生日で、ゲームにログインできないという。

おそらく家族で誕生日パーティーをするのであろう。

親友がゲームにログインしないのは寂しい気持ちがあるが、憂鬱な理由はそうではない。



「私は、誕生日パーティーなんて一度もなかったな。」



私は、毒親育ちだ。

誕生日パーティーを開いて貰ったこと、誕生日を祝ってもらったことなどないのだ。

先程のように、家族としての幸せを見せられると自分の幼児期の出来事を思い出して、非常にブルーな気持ちになる。

もちろん親友はなにも悪くない。妬みの感情を抱いてしまっている私の問題なのだ。

このブルーな気持ちにスイッチが入ってしまうと、どうしても両親の言葉を思い出す。


「俺の人生は、お前のせいでめちゃくちゃだ。」


「私とあなたは親子ではないわ。だって愛していないもの」


声が頭の中でループする。

25歳になった今でも、傷つき続けている。

人の幸せが自然に喜べない。自分が生きていてもいいのか自信がない。気がつけば自然に涙を流している。



私は生まれてきて、よかったの?



漠然とした疑問をずっと抱きながら生きてきた人生。

両親とは、これ以上一緒にいても害にしかならない為、縁を切っている。今では電話もメールもできなくなっている。

だから、これ以上傷つくことは無いはずなのだが、日々の「普通」で傷ついてしまう私。

そんなことを考えながら、私は帰路の電車に乗る為に、駅のホームまで歩いていく。

都会ではない為、そこまで人は多くない。

学生達が楽しそうに話している駅のホーム。


「まもなく電車が到着します。危ないですから、黄色い線まで…」


毎日聴いている駅のアナウンス。いつもなら、待ち時間無しで電車に乗れるこの状況は嬉しい。

でも今日は、なんだか嬉しい気持ちにはなれなかった。

親友の電話が原因なわけではなかったが、毎回毎回こんな気持ちになる自分が嫌だった。


「なんか、もういいか。」


気がつけば、ホームにくる電車に飛び込んでいた。

学生達が、叫んでいる。


「あぁ、死ぬ直前てスローモーションになるのってホントなんだ。」


なんて、私はしょうもないことを感心していた。


これで、私はこんな人生から解放される。

もう嫌な気持ちになることなんて、ないんだ。

嫌なことばっかりだったな。

私がいなくなったら、お父さんお母さんも嬉しいでしょ…


ーードクン。

突然今まで感じたことのない黒い感情が押し寄せる。



お父さんとお母さんが嬉しい…?


あんだけ私に親失格なことをしておいて…


なんで私が辛い思いをしながら、生きていなければならないのだろうか。


死ぬべきなのは、お父さん、お母さんなのではないのか?


なぜ私が死ななければいけない?




許さない。



絶対に許さない。





ここで私は電車に轢かれた…はずだった。

目の前には真っ白な空間が広がっていた。


「…天国?」


私は座り込みながら周りをキョロキョロしてみた。

なにもない。

天国は、お花がたくさん咲いていて、噴水があったりするのではないのか?

幼稚な妄想だが、何故かそう信じていた。

なにもないということは、地獄なのだろうか…。


「あの〜、見えてます?」


後ろから突然少女の声が聞こえ、私は恐る恐る振り返る。

中学生くらいだろうか。腰まである栗色の髪の毛、黒いワンピース。思わず天使かと思ったが、羽はない。

だが、浮いている。


「誰…?」


自分でも他に聞くことがあっただろうに、まず口から出たのはこの言葉だった。

誰か分かったところでどうしようもないだろう。


「え〜、普通そこは 天使?とか聞くんじゃないですか? とりあえず、私の名前は すず といいます!」


目の前の すずと名乗る少女はクスクス笑いながら元気よく返事をする。

名前を聞いてもピンとこない。


「私、電車に轢かれて死んだんですよね?ここはどこですか? あなたはなんですか?」


「はい、山内舞さんは本当なら死にました!」


目の前でピースをしながら満面の笑みで話す「すず」。


「ですけど、それだと困っちゃうんですよ〜。なので、私が時間を止めさせて頂きました! ここは時間が止まっている「どこでもない場所」です。」


時間が止まる…?そんなファンタジーありえるのか…?

しかし目の前の少女は浮いているし、目の前は真っ白な空間だし、非現実的な状況であるのは確かだ。


「私は、あなたに死んでほしくありません!

私、あなたのことなんでも知っています。 ずいぶん自分のご家族のことで苦労したんですね。」


今さっき会ったばかりだというのに私の何を知っているというのだ。死んでほしくないと言われても、何が目的なのかわからない。生命保険でもかけて欲しいのだろうか?


「あなたは悪くないのに、ご家族の方はあなたにずっと酷いことをしてきたんじゃないですか?」


目の前の少女は涙目になりながらそう言った。

たしかにそうだ。暴言は勿論、機嫌でコロコロ変わる発言。約束も守らない。大事にしていたモノを捨てられた事もある。数えたらキリがないくらいだ。

思い出しただけで吐き気がする。


「そうだけど…だから、私は自分で死ぬことを決めたんだし、時間を止めるとかよくわからないけど、死なせて欲しいんだけど…」


「人生やりなおしたくありませんか?」


心臓が高鳴るのを感じた。

人生をやり直す。今流行りの記憶はそのままで異世界に転生でもさせてくれるのだろうか?

しかし、こんな自信がなく、人の幸せを素直に喜べない性格のまま転生しても、また辛くなってしまうのではないか…


「えっと…」


「すいませんが、異世界に転生させてあげる能力とかはないんですよ。私は時間を操る魔法くらいしか持ち合わせてなくて。」


申し訳なさそうに少女が言う。

何も発言していないのに考えていた事が全て筒抜けの為、気味が悪かったが今更何も驚く事はなかった。


「時間を操るって?」


「簡単に言うと、いつでも好きな時間にタイムリープが出来ます! 今みたいに時間を止める事もできます。 この力をあなたにお渡しします。

あなたは今の記憶を持ったまま子供時代にタイムリープして、人生をやり直すのです」


さっきまで悲しそうだった少女は、今度は嬉しそうにくるくる回っている。

タイムリープ。 アニメで見たことがある。

たしかにその能力があったら人生をやり直すことは可能かもしれない。

ただ、疑問がある。


「あなたは何故わたしにそんなことをしてくれるの」


数分間しか話していないが、ただの人間じゃない事はわかる。どうして私にそんな事をしてくれるのだ?


「それは ーーーだからです。」


少女がそう発言した途端、頭にノイズのようなものがかかり、少女がなにを言ったのか全くわからなかった。


「え?なんて…」


「とにかく!やり直しましょう? というか、やり直すって選択とってくれないと死んじゃうんですよ〜、困る! あなた、死ぬ前に思いましたよね、死ぬべきなのはお父さんお母さんなんだって…あなた次第では、復讐だって可能なんですよ…?」


今まで天使のような雰囲気だった少女だったが、悪魔のような笑みでそう言った。

復讐。

今まで散々苦しめてきて、大人になってからも解けない呪いに苦しめられ続けている私が、両親に、復讐。

考えたことがないわけではない。

まるで意味をなさなかったが、反抗したこともあった。

だけれど私が一番今まで望んでいたものは…


「私は、復讐よりも、両親に謝ってほしい。自分たちが私に悪いことをしたって自覚してほしい。できれば、嫌なことをしない普通の親でいてほしい…」


下を向きながらそう発言する私に、少女はきょとんとした顔で言う。


「え?そんなの無理だと思いますけど…。でもあなたがそれでいいならいいですよ。いくつかルールがありますので説明しますね。」


少女によるとタイムリープした世界にはいくつかルールがあるらしく、


①基本的には自分が体験した事を追体験する形になる事。そこで過去の自分と全く違う行動を起こせば未来が変わるかもしれない事。

②いつでも任意の時間にタイムリープする事ができる。

③すずの能力をいつでも使う事ができる。


と、いう事らしい。


「すず…あなたの能力をいつでもって?」


「私ちょっとしたマジカルな力も使えるんですよー。この力をいつでも使えますよ。 でも、向こうの世界でこんな力使ったら、即警察!即人体実験!ってことになるかもしれないんで、あくまでも見られないようにしてくださいね〜。」


少女は手から炎を出したり水を出しながら自慢げに言う。

もう人間じゃない事は認めざるを得ない。

さっきまで死にたい気持ちでいっぱいだったが、そんな力を私が使えると考えると少しだけワクワクしてしまう。


「では、いざタイムリープです! 人生やり直しスタートですっ」


そう少女が発言すると、突然目の前が真っ白になった。


私は毒親育ち。ずっと生きづらかった。

私に謝罪してくれた時にきっと、この毒が解毒されるのだと思う。

そうしたらきっと、普通に生きていけると思うから…

私はそう信じ、人生の解毒を目指して、タイムリープをした。



「…復讐心に目覚めないといいですね。」


少女が最後になにを言ったのかは、わからなかった。

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