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12話 朗報と撃沈

「…………」


 そのジュクーシャの宣言を聞いた播凰は、暫しそんなジュクーシャの顔を見ていた。

 だがやがて、直前までが嘘のように満面の笑みを見せ。


「うむ!! ジュクーシャ殿がいてくれて本当によかったぞ!!」


 全幅の信頼ともとれるその発言。

 その真っ直ぐで、嘘偽りとは程遠い気持ちをぶつけられれば大抵の人は大なり小なり照れるというもの。

 ジュクーシャもその例に漏れず、流石に気恥ずかしくなってか赤面し。

 コホン、と咳払いをすると。


「では、天能力のことは一旦置いておき。まずは天能の使い方ですが、必要なのはイメージ、そして呪文です」

「呪文……おお、あの天能を発動する前のカッコいい言葉だな!」


 播凰の脳裏に浮かぶのは、先日の実技試験にて受験生達が天能を発動させる前に唱えていたもの。


「ええ。天能術とは即ち、己の内にある性質を解き放ち、形とすること。イメージだけでも不可能ではないですが、呪文として口にすることは、よりはっきりとしたイメージを描けるという効果もあります。……さて、それでは播凰くんの性質の適正をお聞きしても?」

「適正か。私の性質は――なんなのだろうな?」

「……なるほど、そこからですか」


 ジュクーシャからの質問に、播凰は考えた後、はてと首を傾げる。

 よくよく考えれば、播凰は自身の性質を把握していない。

 なんのことはない、使いたい思いばかりがあまりに先行しすぎて、問を投げられるまでとんと忘れていたわけである。まあ、性質自体は知っていても、適正という概念を理解したのはつい先程であるため、仕方ないといえば仕方ないと言えるのだが。


 兎も角、考えるだけ無駄というやつだ。

 自問する播凰に対し、むむっと眉根を寄せて、ジュクーシャが考えるように口元に手をあてた。


「家系的な遺伝があったり、或いは感覚が鋭いといった方ですと、ご自身で理解できるというのは聞きます。しかしそうでない場合、つまり一般的には、専用の道具を用いて調べることがほとんどでしょうね」

「道具、というと、天能力を計測した際のあの水晶玉のようなものか。それはどこで手に入れられるのだ?」

「調べるだけであれば、手に入れる必要はありませんよ。そう何度も利用するものではないですし、それにそこらのお店で売っていることもないでしょう」


 播凰の疑問に対し、きっぱりとジュクーシャが断言する。

 なるほど、正論である。だが、そうなると当然生まれる疑問があるわけで。


「それでは――」


 それを播凰が口に出そうとした、その時であった。


 ――グゥー。


 間の抜けた音が響く。

 その発信源は、彼のお腹だ。


「おぉっ、そういえば楽しみにしすぎて朝ご飯を食べ忘れていたな!」


 恥ずかしがることなく、むしろからからと笑う播凰。

 何が起きたかは言葉の通り。要するに、お腹が減ったわけである。


 ジュクーシャは、そんな播凰の様子にクスクスと笑うと、部屋の時計を見た。

 少し早めではあるが、お昼にしてもよい時間だ。

 どの道、播凰の適正性質が不明である以上、この場ではこれ以上進められない。

 故に、今日はここで一旦解散とするか、と彼女は持ちかけようとしたが。


「丁度よい、ジュクーシャ殿。お昼は共に外食でもどうだ?」


 予想していなかった播凰の誘いに、一瞬目をパチクリとさせる。


「えっと……は、はい。その、播凰くんがよければ、こちらは構いませんが」

「うむ! 教えてもらう身であるゆえ、お礼といってはなんだが、馳走させていただこう!」


 当然播凰は働いてはいないが、生活のための資金というものが最強荘より支給されている。

 そしてそれは、自分以外のご飯代を支払ってもさほど問題がない程度の金額であった。

 もっとも、支給金であるため彼のお礼といえるかという話だが、それはさておき。


 恐縮するジュクーシャの背中を押し、零階に下りる。

 すると門のところで、丁度これから買い出しに行こうとしていた毅に会い、三人で街へ行くことに。


 さて、それではどこに行こうかという、当然ともいえる流れになる。

 ここで発覚したのは、言い出しっぺのくせして播凰が料理店どころか最強荘周辺以外の地理を碌に知らないという事実。

 そのため、ジュクーシャと毅で話をした結果、ファミリーレストランへと落ち着いた。

 ちなみに、最初は金欠を理由に外食を断った毅であったが。日常生活然り、試験の際然り世話になっているのを理由に、播凰が毅の分の料金も支払うということで無理矢理押し切った。


 そこで播凰が、ドリンクバーのシステムに目を輝かせたり、店員の呼び出しボタンを面白がったりと一緒にいた二人にとっては若干恥ずかしい思いをしたのだが。

 毅的には、万音に並んでヤバい人扱いであったジュクーシャも、彼が絡まなければ常識人であると誤解が解け。

 となれば険悪になる要素もないわけで、終始和やかに食事を終えた一行は帰路につく。

 殊、初めてのファミレスを体験し、満腹の播凰は上機嫌であった。


 ――このすぐ後に、それが絶望に歪むとも知らずに。


 それは、最強荘の門を潜り、敷地に足を踏み入れた直後のことである。


「――やーやー。お帰りなさいませー、皆さんー。特に、三狭間さんー」


 後ろから、声。

 それは聞きなれた管理人のものであったが、普段とはどこか異なり、嫌な予感を感じさせた。

 加えて、気配もなく背後をとられたことに、播凰は驚きながら振り返る。


「う、うむ……ただいまだ、管理人殿」


 ニコニコとした笑みの彼女は、どうしてか一歩一歩ゆっくりと。

 しかしその眼光は確かに播凰を見据えて、近づいてくる。


「実は、とある人から連絡がありましてー。正式に通知が届くのは後日ですが、三狭間さんと晩石さんは見事、東方天能第一学園の高等部への入学を許可されましたー」


 告げると同時に、パチパチー、と拍手と同時に声も出して祝福する管理人。


「……へ?」

「……お、おぉ」


 ポカン、と口を開けるのは毅。本来の彼であれば、涙を流して喜ぶべきことのはずだが、しかし告げられ方が告げられ方。恐らく脳が処理できていない、というのが正しいだろう。

 翻って、播凰は理解はしていた。だが、それ以上に今は管理人である。


 いかにその歩みがゆっくりであるとはいえ、片方が止まっていればいずれは距離はゼロになるもので。

 立ち止まった三人――正確には、その中の播凰のすぐ目の前で、管理人は立ち止まり。

 彼女はこれまたゆっくりと、身長差のある播凰を見上げた。


「ですが、三狭間さんは、実技試験は勿論、筆記試験もぶっちぎりの最下位とのことでしたのでー……」


 そこまで言うと、彼女は一旦言葉を区切り。

 その両手を、何も持っていない手を、播凰の眼前に突き出し。


「……お馬鹿さんには、お勉強をしてもらいますー」


 刹那、播凰の目の飛び込んできたのは、参考書、問題集と書かれた色とりどりの冊子。

 いかなる手品か、或いはそれこそ天能なのか。確実に空だったはずの管理人の両手に、溢れんばかり。


「い、いや、管理人殿? 私は、それよりも今は天能を――」

「問答無用ですー」


 再び、両手のそれを消し去り。

 四の五の言う播凰の服の裾をむんずと掴み、建物の方へ歩いていく。


「あ、三狭間さんほどではないですが、晩石さんもですよー」

「……へ!?」


 その途中、同じように毅の服を掴み、言葉通り問答無用にずるずると。

 その幼い外見ゆえ、どちらか一人だけでも異様であるのに、二人の少年がかなり年下の一人の少女に引きずられていくという図。


「入学までの間、みっちり勉強してもらいますからねー」


 一人残されたジュクーシャは、それを苦笑して見送っていた。

ここから時間が少し飛んで、次回は学園の入学からです(予定)

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― 新着の感想 ―
[一言]  世界観とかキャラクターが結構好きな作品です。学園入学してもっと面白くなりそうなので楽しみです。  これからも頑張って下さい、応援しています。
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