うさぎ頭
久しぶりにリハビリです。
「うるせぇなぁ、うるせぇよ。」
頭の中でガンガンひびく。頭蓋骨が割れそうだ。取り付けられた異物の耳は何でもかんでも拾いやがる。頼んでもないのにご苦労なことだ。くそったれ。
痛いと叫ぶ甲高い子供の声、気持ち悪い吐息、がりがりくちゃくちゃ何かを食べる咀嚼音、分厚い壁の向こうから助けを求める叫び声は止まることを知らない。
「うがぁぁぁあ!」
叫んだところで音は消えない。壁に頭を叩きつける、殴る、殴る。壁が凹んで、ただそれだけ。なんだそれ、ムカつくなぁ。おい。
『今すぐやめろ。No.2。』
スピーカーから耳障りな音。頭がいたい。壁に額を付けずるりと落ちる。
「うるっせぇなぁ。ほんと、頭が割れそうだ。」
忌々しい耳がだらりと垂れる。
指で長く垂れた耳をなでる。見た目よりも固めの毛の感触。引っ掴んでぶちりとちぎる。白い毛。力任せに引っ張たせいで根元に血がにじんでいる。うざいなぁ。うぜぇ。
「俺をふわふわに可愛くしてくれちゃってよぅ、可愛いうさぎちゃんかよ俺ぁ。」
取り付けられたウサギの頭はいくら壁に叩きつけても取れやしない。
厚い壁の向こうに研究員たちの話し合う声がする。歯をかみしめればギリリと嫌な音がする。
『実験だ。』
無機質な声がスピーカーから流れて金属性の遮断壁がゆっくりと開く。陰から飛び出した何かを殴りつける。肉が潰れた嫌な音が鳴って、生き物だった何かは床に倒れる。人間と獅子をぐちゃぐちゃに混ぜたようなそれは、ピクピクと手足を痙攣させて事切れた。
「なんだよなんだよ。獅子様ですかぁ。がおーって泣いてみろよお。…なけねえってのかあ。くそったれがあっ!」
駄々をこねるように踏みつければ獅子のような何かは肉塊になっていく。背中を向けている俺を刺そうとしてきた虫もどきの緑色の腹をつぶし、おびえて噛みつこうとした犬もどきの舌を引き抜く。飛べなくて逃げ回る鳥もどきの翼を引きちぎり、ぺっと唾を吐いた。
「きめえ、きめえ、きめえなぁ。ははっ、バケモンじゃねえかっ。」
血と、肉と、消毒の匂いにむせかえりながら、白い世界に目が回る。人間だった肉塊の中に一人笑う。もう自分も化け物なのだ。
モフモフ。読んでいただきありがとうございました。