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七十五話 瀕死の弓師と帝国の危機

ザハーク帝国はラース大陸に存在する五カ国の中で最も広い国土を持った国であり、貴族が強い力を持っていることが特徴である。


「俺もこれくらいの事前知識を持っていたけどここまで亜人差別が酷いとはな」

「そうよ!、スカハが街に入るために入街税が金貨一枚っておかしいわ」

メリアが怒りながら野営の準備を始めていた。


国境の砦を越えて帝国内に入った俺たちであったがその近くの街に入ろうとした時に問題が起こった。

その街でもスカハと俺たちの入街税が桁違いだったのだ。


当然メリアと輝夜は怒って街に入るのを止めて近くの街道の隅で野営をすることにしたのだ。


「そうでござるよ!、多少姿違えど同じで人であろうに!」

「メリア、輝夜、帝国はこういう国だから気にしていたら気が滅入る」

スカハが怒りが収まらない二人にそう忠告した。


「不快な国だわ!、、アレスどうしたの?」

メリアはアレスが空を見上げて何か考えているを見て声を掛けた。

「ん?、いや、何でもないよ」

俺はメリアにそう返したが実際はアリスのことを考えていた。


(アリスはハーフエルフって言ってたし帝国ではどんな扱いを受けていたのかな)

ほんの数日一緒に行動しただけだったが卓越した弓術を持っていたアリスのことが少し気になっていたアレスはかぶりを振って思考を中断した。


「メリア、俺は火を起こす為の薪を取ってくるよ」

「ん、私も行く」

俺はスカハと一緒に森に入って薪を取りに向かった。



しばらく森を歩き手頃な乾いた薪を手に入れたところで手分けしたスカハと合流しようと考えていると目の前の森に薄青色の光が満ちて弾けた。


「ちっ!、転移魔道具だと!?、小癪な!」

俺の目の前に武器を構えた十人ほどの男と騎士のような格好をした人、そしてドレスを着た女性、そして驚きの人物が目に入った。


「アリス!?」

「あ、何でバハムート?」

俺の声に反応して振り向いたアリスは文字通りボロボロであり全身から血を流してある程度時間が経った傷があるのか服がどす黒く染まっている部分もあり僅かに欠けた仮面から見える虹色の瞳から生きていることが分かった。


「目撃者か、消せ、あひょ?」

何言か言いかけた男の首を俺は瞬雷で一瞬で距離を詰めて龍焔を抜刀し撥ねた。


「お前らか、アリスをこんなにしたのは!」

正直、いきなり目の前に何でアリスが現れたのかとかお前らは誰なのかとか色々聞きたいことがあったが今の俺の中にあったのはそれだけだった。


「な!、こいつブルドを一撃で!、おわ!?」

俺は両眼に魔力を送って《蒼の雷眼》を発動させ両眼から蒼雷が迸り男たちを吹き飛ばした。


「おい!、アリス一体何があったんだ!?」

「あ、ありがとうバハムート、お願いこの二人を守って欲しい」

背後に居た二人を見てアリスはそう言って意識を失い倒れた。


「アリス!、くそ!、何があったんだよ!」

俺は倒れそうになったアリスを抱き抱えて左手に付いた血を見て地団駄を踏んだ。


「おい、そこの二人、アリスを頼めるか」

俺はアリスが守っていたと思われる騎士とドレスを着ている少女に問い掛けた。


「あ、貴方は一体…」

「承知した、アリス殿は私が預かろう」

困惑していた少女を他所に騎士の人が頷いてくれた。

よく見ると騎士の人の甲冑もボロボロで今の今まで戦ってきたのが分かった。


「頼むぞ」

俺は騎士にそれだけ言って向き直り龍星も抜き二刀を構えて先程吹き飛ばした男たちが戻ってくるのを視界に捉えた。


男たちは散開して俺に三人向かって来て残り六人は俺の背後の三人を狙っていた。

(狙いはあくまで後ろの三人かー)


俺は刹那の間に思考して龍星を逆手に持ち替えて龍星自身の魔力と闘気を纏わせてながら龍焔に闘気と風の魔力を纏わせた。


「"双闘魔技 大龍不天”」

先に振った龍焔から"魔刀技 嵐閃”が放たれ目前の三人を斬り裂き、更に左手で薙いだ龍星から八本の"龍閃”が放たれて後ろの三人を攻撃しようとしていた六人を斬り裂いた。


「"大氷河(だいひょうか)”」

俺の斬撃に斬られても生き残った数人は投擲された槍が突き刺さった瞬間に現れた氷が凍てつかせた。


「大丈夫アレス?」

槍を投げたのはスカハだ、おそらく戦闘の気配を察知して来たのだろう。


「助かったよスカハ、それよりもアリスを治療するぞ」

「アリス!?、何でここに?、それに貴方たちは誰?、状況が読めない」

スカハは血だらけで倒れるアリスとドレス少女と騎士を見て困惑した。


「とりあえずアリスを治療する、スカハはその二人を連れて来てくれ、アリスに頼まれたんだ」

「うん、分かった、私は銀鉄(ミスリル)級冒険者のスカハ、アリスの友達、私に付いて来て」

二人を説得するスカハを他所に俺はアリスを抱き抱えてテントに急ぎ戻った。



血だらけのアリスを連れ帰ってくると当然ながらメリアと輝夜は混乱した。

「アリス!?、血だらけで瀕死の状態じゃない!?」

「メリア、輝夜手伝ってくれ!」

俺の言葉にメリアと輝夜は脳内の疑問を一旦隅に置いて協力してくれた。


「メリア、万能薬(エリクサー)をありったけ出してくれ、輝夜は清潔な布を持って来てくれ!」

「分かったわ!」「承知でござる!」

二人が素早く行動する間に俺はアリスをテントの中に入れて寝かせた。


「持ってきたわよ、万能薬(エリクサー)

俺は治療するためにアリスのボロボロの服を剥ぎ取ってあまりの傷の多さに顔を顰めた。

そこには魔法を受けたのか火傷や裂傷、更にはそこまで深くは無かったが刺傷もあった。


俺はメリアから万能薬を受け取り栓を抜きアリスの特に酷い傷に掛けた、ジューと音を立ててゆっくり回復をするのを横目に更に万能薬を掛けた。


「アレス清潔な布を持ってきたでござるよ」

俺は輝夜から布を受け取り治りかけの傷に血が入らないように拭った。


「アレス、魔力が微弱だわ、多分内臓が傷ついてる可能性があるわ」

「内臓か、分かった」

万能薬はどんな傷でも治せるがその液体を傷に掛けないといけないという特徴を持つ。


俺はアリスの欠けた仮面を外して万能薬を口に含んでアリスと唇を重ねて万能薬を流し込んだ。

アリスは意識を失っているため大半の万能薬が口端から零れるが俺は気にせず更に数本の万能薬の栓を開けて口に含みアリスに流し込んだ。


「安定したわアレス、微弱なのは変わらないけどひとまずは大丈夫よ」

メリアのその言葉に俺は安心して息を吐いた。


「良かったー、輝夜アリスに付いた血を全部拭い終わったら何か布で巻いて上げてくれ」

「任せるでござるよ」

「頼む、俺は一体何があったのか、外の二人に聞いてくる」

俺は輝夜にアリスを任せてテントの外に出た。


外に出ると火を起こした焚き火の周りに座るドレス少女とそれを気遣う騎士と槍を鞘に戻すスカハが見えた。


「アレス、アリスの容態は!?」

俺にスカハは詰め寄りアリスの容態を聞いてきた。


「何とかなったよ、万能薬のお陰だ」

俺の言葉にスカハは安堵の表情を浮かべた。


「何と、あそこまでの傷を負っていた《白仮面》殿が助かるとは…」

「おい、説明してもらうぞ、一体何でアリスがあんな大怪我を負っていきなりこの森に現れたんだ?」

何故か驚いている騎士に俺は聞いた。


「事情を話す前にあなた方は冒険者で相違ないか?」

「その通りだ、銀鉄(ミスリル)級冒険者パーティー《雷光》のアレス、ここのスカハもそうでテントの中に後二人いるが紹介は後だ、それで何でいきなり現れた?」


「それはこの"転移石”の力です冒険者様」

焚き火に当たっていたドレス少女が両手に握ったくすんだ石を見せて言った。


「転移ってあれか、距離を超越して移動する伝説の魔道具のことか?、そんなくすんだ石がか?」

「この転移石は先程の転移で魔力を使い果たしてこんな色になっている」

騎士が横から補足した。


「いきなり現れた理由は分かった、アリスは何故あそこまでの怪我を負っていたんだ?」

「それはこのお方の身分が関係している」

騎士が見たのはドレス少女だった。


「アリス様があそこまでの傷を負ったのを私を守る為です」

「貴方は一体何者なんだ」

「私の名はザハーク帝国第一皇女 アレクシア・ボーラ・フォン・ヘリクレス・ザハーク、アリス様があそこまでの傷を負ったのは帝城を襲撃した二百を超える敵から私とトリスを守ってくれたからです」

「皇女!?、アリスが帝国皇家から依頼を受けているのは知っていたけど襲撃されたって?」

目の前の少女の身分が皇女でありアリスが彼女を二百を超える敵から守ったというのならあの傷は納得出来なくもない。


「敵は誰?」

スカハが静かに問うた。


「敵は我らを裏切った帝国宰相ジギスと《降魔の盃》の幹部《万魔》のカーズ・オルテイシア、同じく幹部の《洗脳鬼》ギーラ・セフェランとそれに操られた帝国騎士たちです」

スカハはカーズ・オルテイシアという名を聞いて拳を握り締めた。


「皇族は一夜にして奴らに囚われるか殺された、ザハーク帝国は終わりだ」

騎士トリスが悔しさに身を震わせながら言った。


「まだ終わってない、ここに皇族が一人だけ居るんだ、敵はここにも来るぞ」

俺の言葉に騎士トリスと皇女様は思わず顔を上げるのだった。



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