六十七話 デートと贈り物
前半輝夜視点があります。
"王都治療院”での外壁修理依頼をこなして子供たちに基礎的な体力作りなどを教えた俺と輝夜は王都治療院を後にした。
「けど包帯なんてくれても困るんだが…」
俺は最初に案内してくれた女性にお礼だと言って筒に巻いた包帯を幾つかくれたのだ。
「確かにアレスたちは強いでござるがいざ怪我したという時に手当てする包帯があった方が便利でござるよ?」
輝夜が俺と手を繋いでいる左手とは逆の右手の人差し指を立てて言った。
「む、確かにその通りだな、今こそ怪我はしなくなったが修練し始めたころは怪我してばっかりだったしな」
俺だって最初から強かった訳では無い、自分で言うのもあれだが地獄のような鍛錬を乗り越えて今の強さを得たのだ。
「包帯のことはともかくとしてアレスは今何処に向かっているのでござるか?」
「いや別に何処かに向かってる訳じゃないんだ、前に王都に来た時はあんまり街を楽しめなかったからさ、この機会に少し回ってみようと思ったんだ」
「ということは"でぇぃと”でござるな!」
輝夜は僅かに頬を紅潮させて言った。
「"デート”な、とりあえず大通りに行って何か面白そうな店があったら入ることにするか」
俺のデートプランに輝夜は嬉しそうに深く頷くのだった。
輝夜は今幸せの極みにいると断言出来ると考えている。
チラリと視線を左に向けると大和では滅多に見ずメリアたち曰くラース大陸でも珍しい紅い髪に蒼穹のような蒼い眼を持つ青年、アレスが目に入る。
(ぐっ!、この至近距離だとやはり気恥しいでござるが、アレスと一緒に過ごせるのは幸せでござる)
アレスはメリアを一番大切にしていると公言はしていたが一度も輝夜やスカハを除け者にしたことは無い為基本的にはアレスを含めた四人で行動することが多い、だが今日は自分と二人きりで過ごしたいと言ってくれた。
メリアやスカハに申し訳なさを感じつつもやはり最愛の男と二人きりというのはとても嬉しく思わず頬が緩むのを抑えられなかった。
「輝夜、彼処の店に入って見たいんだけどいいか?」
「ーー構わないでござるよ」
アレスがそう言って入店した建物は女性が身に付ける小物や"あくせさりぃ”が売っている店だった。
おそらくだが庶民向けで店内も落ち着いた雰囲気が満ちており中には多くの女性客が居た。居るのは懐に余裕のある庶民といった塩梅だろう。
「ねぇ!、あれ!、"竜殺し”じゃない!?」
「何言ってるのよ、どうせ偽物よ、本物の竜殺しはもっと筋骨隆々で大男って噂じゃない」
「でもあの人、紅い髪よ、竜殺しは紅い髪が目印でしょ?」
「えー、まさかー…」
店内に居た二人の女性客がアレスを見てそんな会話をしていた。
「銀色の髪飾り、んー、いや、メリアには多分…」
アレスは何やらブツブツと呟きながら小物を選んでおり気づいた様子はない。
輝夜は真剣に選んでいるアレスに声を掛けずに周囲を見渡すといくつもの視線がこちらに向いているのを感じた。
「紅い髪に二本の剣、本物ではないか?」
「うーん、でも一緒に居る女の子が気になるわね、竜殺しは三人で確か銀色の髪と青色の髪の女の子だって噂だし…」
他にもヒソヒソ声が聞こえて来た、アレスは前に言っていたが以前に王都の近くに出た巨大な怪魔アースドラゴンを討伐してちょっとした有名人なのだ。
しかしアレス自身が目立つのを避けた為正確にアレスの容姿や風貌、はたまた名前すらも国民にはあまり知られていないようだ。
"竜殺しの冒険者に似ている人が居る”、周囲の人達の心の声を代弁するとこうなるだろう。
「なぁ、輝夜」
「ひょわ!?、な、何でござるか?」
いきなり声を掛けられて変な声が出てしまったがアレスは僅かに口元を緩めるだけで続けた。
「白色と黒色だとどっちが好きなんだ?」
何故そんな質問をするとかと疑問に思わないでもなかったがアレスの真剣な表情を見てすぐに答えた。
「拙者は白の方が好きでござる、清潔感があるでござるし好みの色でござるな」
「そうか、ありがとう輝夜」
微笑んで言うアレスに自分もつられて笑ってしまった。
「完全に二人の距離感が恋人のそれね」
「確かに"竜殺し”は女好きって噂があったわね、やっぱり本物じゃない?」
その時には既にアレスだけを見る輝夜には周囲の囁き声は聞こえなくなっていた。
「アレスは先程の店で何をしているのでござるか?」
店から出たあと先程の店でアレスが何をしていたのか気になりアレスに直接聞いた。
「ああ、悪い、男が恋人に装飾品を贈って変わらなぬ愛を示すみたいな、文化を知ってるか?」
「大和にもそのような文化はあったでござるが…」
するとアレスは腕輪という不可思議な道具から純白の鳥の形をした髪飾りを出した。
「折角王都に来たんだし何か贈り物をメリアたちにしたくてな、これは輝夜に貰って欲しい」
「ーーー」
恋人からの初めての贈り物に自然と壊れ物を扱うように受け取ってしまった。
「着けてもいいでござるか?」
「ああ、着けて欲しい」
アレスの言葉に従うように今まで結んでいたリボンを外してアレスから貰った髪飾りを着けた。
「ど、どうでござろうか?」
気恥しさで少し声が震えてしまったがアレスはまるでこの世に二つとない宝石を見たような顔で言った。
「似合ってるよ、輝夜」
今日アレスにそう言われたことが一番嬉しかった出来事であると輝夜は後に語るのだった。
「んふふふ〜、んふふふ〜」
アレスに初めて贈り物を貰った拙者は有頂天の気分のまま、アレスに連れられて王都の"かふぇ”という場所でお昼ご飯を食べていた。
「輝夜、喜んでくれるのは嬉しいんだけど、周囲の目が痛いんだが…」
アレスが若干頬を赤くして言った、どうやら周囲の生暖かい視線に恥ずかしくなったようだ。
「気にしてはいけないでござるよアレス、今だけは拙者に集中するでござる」
拙者は"ふぉっとけーき”なる菓子をフォークで刺して持ち上げて食べた。
「幸せそうに食べる輝夜を見るのは非常に眼福だよ」
結局アレスは諦めて輝夜の言う通り、輝夜だけを見て過ごすことにしたのだった。
アレスとのデートは特に問題も無くいや、拙者がアレスと自分の紅茶のカップを取り違えて飲み間接キスをしてしまい思わず羞恥に震えてアレスに笑われるという出来事はあったがそれ以外は特に問題も無く気が付くと日が傾き宿に戻る時間帯になっていた。
夕焼けの光が王都を照らす中俺と輝夜はデートの感想を言いあいながら宿に戻ってきた。
「「はぁぁぁ!!」」
「「ーーー」」
そして所々が凍りつきおそらく魔法が放たれた跡であろう地面や壁とその中心でぶつかり合うメリアとスカハを見て瞠目した。
「王都云々の前にここの訓練場が破壊されそうだな」
俺は小さく呟き《蒼の雷眼》に魔力を送り雷を二人に向かっているので迸らせた。
「うわぁぁ!?、危な!、何するのよアレス!」
「ちょ!、思わず当たるところだった」
二人は抗議は視線を向けてきたが俺は構わず言った。
「模擬戦は良いけど二人に贈り物があるんだ」
俺はメリアに銀色の羽根の形をした髪飾りを、スカハには青い宝石が目立つ首飾りを贈った。
「装飾が細かいわね、名のある細工師の作品かしら?、ともあれありがとうアレス嬉しいわ♪」
「戦闘の邪魔にならないしアレスの贈り物は嬉しいありがとう」
メリアは髪飾りを観察するようにスカハは首に掛けた首飾りを引っ張ってそれぞれとても嬉しいそんな笑顔を俺に向けてくれた。
俺の恋人たちがまた一段と美しくなった瞬間だった。




