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五十一話 御前試合 予選

「ふうーー」

俺は天月邸の一室で"龍闘気”の操作鍛錬を行なっていた。


大和の学び舎での騒動から一月経ちとうとう今日から四日間の大和祭が始まる俺は御前試合に備えてこの一ヶ月は己の武を高める鍛錬を続けていた。


「はぁー、一ヶ月前よりは大分操作出来るようになってきたかな」

やがて全ての龍闘気を体内に戻し息を吐いた、実際前程の疲労感は無く少し体が重くなる感じがする程度まで体に慣れさせることが出来た。


「よし、今日は御前試合本選出場の為の予選だ、気合い入れて行くぞ」

俺は喝を入れて二本の刀を腰に差して部屋を出るのだった。



◆◆◆◆


御前試合は大和の武芸者たちが一同に会する武道大会であり勝ち抜き戦だ、出場する人が多いので人数を減らす為に予選が行なわれる俺の場合は四連勝すれば本選に出場することが出来る。


「アレス、興奮してる?」

「まあな、何せこの空気だからな」

話し掛けてきたスカハに俺はそう返した。


現在俺が居るのは大和城の一番外側にある巨大な土台が建てられている場所だ、そこで予選が始まるのは待っているのだが周りに居るの俺と同じような武芸者ばかり、辺りは張り詰めるような空気で満ちている。


「必要無いかもだけど一応言うからね、絶対勝ってねアレス」

メリアが隣で蕩けるような笑みを浮かべて言った。

「私も応援してる、頑張ってアレス」

スカハは握りしめた右手を胸の辺りに置いて言った。


「二人共ありがとう、その期待に応えるよ」

流石に公衆の面前で唇にキスするわけにいかないかったので二人の頬に軽くキスをして巨大な土台がある場所に向かうのだった。


◆◆◆◆


俺の初戦の相手は黒髪黒目で刀を持った剣士だ、どうやら何処かの武家出身のようだ。


「初め!」

「疾っ!」「なぁ!、早い!?」

俺は開始の合図と共に地面を蹴り龍焔(ほむら)を抜刀して相手に対して逆袈裟斬りに打ち込んだ。


「~~!?」

相手は辛うじてガードしたがアレスが繰り出した斬撃の重さに手が痺れた。


「いい反応だ!、だが遅い!」

俺は龍焔を構え左右に振るように連続で斬撃を繰り出した、常人では視認不可の剣速を誇るアレスの剣に相手は防戦一方となった。


振るごとに龍焔から黒炎が立ち上る勢いが増していきそれを嫌った相手が一度体勢を立て直そうとした瞬間完全に相手の意識の外に出ていた右腰の剣を片手で抜き相手の剣を打ち上げた。


「!!??」「ーーー」

驚く相手を他所にアレスは二本の刀の先を相手の首元に突きつけた。


「こ、降参する」

決着まで約一分それが相手とアレスの実力差を示していた。


◆◆◆◆


「あー、あの人見事にアレスの策略に見事に嵌ったわね」

「無理もない、あの猛攻を受け続けたら受けるのに必死になって二本目の刀の存在を忘れる」

観客席からアレスの試合を見て感想を言ったメリアにスカハはそう返した。


「確かに普通は二本の刀を持ってるなんて有り得ないしつい忘れるのは分かるのわ、輝夜は忘れるわけは無いと思うけど」

メリアは自分たちとは反対側の席でアレスを見ている輝夜を見て言った。

ちなみに何故輝夜が観客席にいるかと言うと輝夜は大和の国の中でも一二を争う程強いので既に本選出場が決まっているからだ。そしておそらく今はアレスの戦い方、足運び、その他戦いに関する全てを観察しているのだろう、アレス・バハムートと言う男に勝つ為に。

「ねぇ、スカハ、輝夜はアレスに惚れてると思う?」

「どうだろうか、少なくとも好意は持っていると思う、そしてこの戦いでアレスが落としそうな気がする」

スカハは土台から降りるアレスを目で追いながら言った。


「スカハもそう思うのね、輝夜は生粋の武人だし一緒に旅出来たら楽しいわよ、きっと」

「同感、ともあれこの御前試合の行く末が楽しみ」

嬉しそうに言うスカハにメリアもまた頬を緩めるのだった。


◆◆◆◆


俺が再び対峙するのは槍を構える茶髪の男だ。

「初め!」

「っ!」「はぁぁぁぁ!!」

俺が開始の合図と共に走りだした瞬間、男は大声を上げて槍を振り回した。


「お前の近接戦の強さは先程の戦いで理解している!、なら近付かせないだけだ!」

「なるほど、"待ちの構え”か」

俺は男のやり方も一つの手だと思った。

槍術にはスカハが好む"攻めの構え”と今目の前の男が使うカウンター型の"待ちの構え”が存在する、"攻めの構え”は文字通りで自ら攻撃を仕掛けるが"待ちの構え”は相手が自らの間合いに入った瞬間攻撃する技である、確かに俺との戦い方としては正しい。


「ーーー」

アレスは一度止まり龍焔(ほむら)を漆黒の鞘に納刀し腰を低く落としたまま地面を蹴りほぼ前傾姿勢で駆け出した。


男はニヤリと笑いアレスが間合いに入り込んだ瞬間アレスの脳天目掛けて刺突を放った、その精度は高く速度もありアレスの脳天を貫くに見えた。


「"闘魔抜刀 雷閃”!」

「何! !?、ごはぁ!?」

男の槍がアレスに届く前に雷が迸りアレスが龍焔を抜刀して男を袈裟に斬った。


「スカハの刺突と比べたら止まって見えるぞ」

アレスの言葉を背に受けて男の意識は闇に落ちた。


「これで二勝か、よし、俺の試合は今日はもう無いな」

俺は龍焔を鞘に納刀してこの後の予定を考えた。

(一先ずメリアたちと合流して早めて昼ご飯を食べて午後の予定はその後決めるか)


俺は土台から離れておそらくメリアたちは観客席に居るだろうと思い観客席に向かった。


人が沢山居たのでメリアたちを見つけるのは難しいかなと思っていたが、そこは絶世の美少女のメリアと魔族の角が生えているスカハ、簡単に見つけることが出来た。

(絡まれてる?)

メリアたちは身なりの良い男とその従者と思われる者たちに絡まれていた。


「先程から申しておりますように私と彼女には恋人が居ます、したがって貴方の要求はハッキリ言って不愉快ですし祭りの雰囲気を壊します、そうそうにお引取りを」

何やらメリアが珍しく貴族時代に使っていたと言っていた敬語口調で話していた。

「そう邪険にしないでくれよ、僕はその恋人殿よりも豪華な服や食事を毎日のように食べさせることが出来るよ、何が不満なのかな?」

「だから…」

(メリアのこめかみが怒りで震えている!?暴発する前に止めないと!)

「おーい、メリア、スカハ、迎えに来たぞ!」

俺は出来るだけ声を出して周囲に目立つように話し掛けた。


「「アレス!!」」

二人、特にメリアは俺のことを見るや人波を流れるようにくぐり抜けて俺に抱き着いてきた。


「お、おう、どうしたんだ?」

俺はいきなり抱きつかれたことに驚きながら言った。

「何とかって言う武士に妾にならないかって不躾なことを言われたから丁寧にやんわりと断ろうとしてるのに話が通じないから困ってたのよ~!!」

「メリアが一番酷く絡まれてた」

「なるほどな」

俺はスカハの言葉に納得して抱き着いてきたメリアの頭を撫でた。


「き、君はどちら様かな?」

身なりのいい男が若干震えた口調で俺に話し掛けてきた。


「スカハ、逃げるぞ!」「えぇ!?」

俺は面倒事だと内心思いメリアの背中と後ろ膝に手を添える形で持ち上げてスカハに言った。

「分かった」

「あ、おい!、何処へ行く!?」

男の悲鳴じみた言葉を背に俺は人混みを上手く利用して時々建物の屋根を登りながら移動して先程居た場所とは真反対の場所に移動した。


「メリアの美貌を舐めてたな、外套でも着けさせるべきだったか?」

「はわわわ、アレスがお姫様抱っこしてくれたよ!!」

俺は腕の中で何故か興奮しているメリアを他所に呟いた。


「ん、でもアレスはいい所に来た」

スカハが目の前の建物の看板を指さした。

「俺は大和の文字は読めないんだが…」

「静音さんに少し習った"海鮮料理処”と読むらしい、つまり刺身が食べられる!!」

スカハが紫紺の瞳をキラキラさせて言った。


「分かったよ、今日の昼ご飯はここで食べるか、いいよなメリア?」

「成り行きとはアレスにお姫様抱っこしてもらえるなんてあの絡んできた奴には感謝ね」

「おい、メリア聞いてたのか?」

「え?、ああ、聞いてたわよ、私は何処でもいいわよ」


幸いなことに俺たちが昼ご飯を食べた後は特にトラブルは起こらず、他の予選の試合を観戦して大和祭一日目を満喫するのだった。






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