百七十三話 天虎と連携の一撃
お久しぶりですm(_ _)m
時刻は少し戻り、アレスとシンがやってくる前メリアを初めとした《雷光》の乙女たちは大陸最強の冒険者クリシュナと激戦を繰り広げていた。
「「はあぁああ!!」」
セクメトとスカハがほとんど同時に前後から突きを放つ、もちろん狙いはクリシュナの脳天だ。
手加減をしていい相手ではないことは既に知っていた、そんな殺人の一撃をクリシュナは信じられない絶技で受けた。
「甘い!」
その場で独楽のように回転すると、二人の得物に触れて横に逸らした。
「"壱ノ太刀 天断"!」
回り終わった隙をついた輝夜の全力が振るわれ、クリシュナは真剣白刃取りで受け止めた。
「!?」
無論衝撃で石畳が大きく陥没するが、輝夜は蹴りが来ると悟って白夜を手放して後ろに飛んだ。
「良い勘をしているね」
賛辞を述べたクリシュナは白夜を輝夜に返し、続いてクリシュナの真上から漆黒の吐息が降ってきた。
上空にいるエレオノーラが放ったものだが既にそこにはクリシュナはいない。
「思い切りはいいけど狙いを絞りすぎだね!」
「げほぉ!?」
跳躍してきたクリシュナの拳がお腹にめり込み、乙女があげてはいけない声で吹き飛ぶ前にクリシュナがその手を掴んで地面に叩き落とした。
「ノーラ!」
戦場を俯瞰していたメリアはすぐさま墜落したエレオノーラに近寄った。
「気絶してる、竜人を一撃で気絶させるとかどれだけの一撃よ」
戦慄と共に呟き、回復魔法を使いながらメリアは《雷光》の中でも近接戦に秀でた三人と互角に渡り合うクリシュナを見詰めた。
(侮りはなかったわ、それでも大陸最強を甘く見ていたわね)
メリアはクリシュナが相手でも五人でかかれば止められると踏んでいたがその見込みは甘かったと言わざるおえなかった。
ウロボロス戦でもクリシュナの戦いは見たが、あれは実力のほんの一端でしかなかったのだ。
しかしクリシュナとて無傷でなく輝夜たちがつけた生傷をそこらじゅうに負っているが、まるで弱っているように見えない。
「本気を出していないのはこちらも同じだけど、この戦いは先に本気を出した方の負け」
メリアの懸念を輝夜、スカハ、セクメト、そしてクリシュナは共有していた。
「どうした!?、それが君たちの本気というわけでないでしょう!!?、本気を見せなさい!」
「そちらこそ!、本気を出したら如何でござるか!」
激しく斬り合い、打ち合う中で舌戦を飛ばし合うクリシュナと輝夜、そこにセクメトとスカハの突きが襲う。
投擲された槍を蹴り飛ばし、セクメトの細剣を掴んだクリシュナはそのセクメトを越えて現れたスカハに瞠目した。
咄嗟に首を捻ったがスカハの槍はクリシュナの頬肉を抉った。
「ぐっ!、やるね!」
抉れて凍りつく傷を無視してクリシュナは左拳を構え、阻止しようとした輝夜に向かって掴んだ細剣を持ち上げて、セクメトごと投げつけた。
投げられると悟ったセクメトは咄嗟に細剣を離したが、輝夜は投げられた細剣を打ち落とすために瞬間的な硬直を強いられた。
「"天震拳"!」
ここを勝負所と決めたクリシュナの相手を仕留める全力の一撃がスカハの眼前に迫った。
人体を砕き破壊する防御不可の一撃に対して覚悟を決めたスカハが迎え撃とうして、クリシュナがいきなり横にぶっ飛んだ。
「何故戦っているのかは知らんが、リーダーの蛮行は仲間の儂が責任をもって止める」
クリシュナを吹き飛ばしたのは盾を構えた神鉄級冒険者ジャックスだった。
「!!、神鉄級の土人」
「ジャックスだ、覚えておけ、小娘」
「む、小娘じゃない。スカハ」
「スカハか、覚えておこう。小娘共!!、儂が盾となる!、お前たちがクリシュナを止めろ!」
ジャックスの大声にメリアから回復魔法を受けていた輝夜とセクメトが立ち上がり、気絶していたエレオノーラが起き上がった。
「《不落の盾》!、感謝するわ!、皆!、ここが勝負所よ!」
《天銀》を解放したメリアの呼び掛けを聞いた輝夜、セクメト、スカハはそれぞれの奥の手をきった。
「ノーラ!、貴方は竜になって!」
「うん!」
メリアのお願いに頷いたエレオノーラが竜の姿に変わり、空へ飛び上がった。
そして本気を出したメリアたちの全てを呑み込むような圧倒的な覇気が立ち上った。
「構えろ!!、久方ぶりに見るクリシュナの本気だ!!、刹那でも目を離せば死ぬぞ!」
ジャックスの警告を裏付けるように、黄色の覇気を纏う人の姿をした黄色の虎が現れた。
「獣化?、いえ、でもあの姿はまるで人と獣の融合…」
「《真獣化》、大戦時に絶滅した天獣の奥の手だ」
「天獣!?」
メリアの脳裏にルーヴォルの姿が浮かんだが、刹那クリシュナが消え、同時にメリアたちも動いた。
クリシュナが狙ったのは回復役のメリア、霞む速度で接近し振るわれたクリシュナの拳をジャックスが受け止めた。
「ぐうぅ!!」
あまりの一撃の重さに盾が凹み軋むが、ジャックスは歯を食いしばって耐えた。
止まったクリシュナを狙って覇気を放つ輝夜とスカハ、セクメトが攻撃を仕掛けた。
そこでクリシュナが見せたのは神業の連続だった。
凄まじい身体能力と引き足で振り向いたクリシュナは輝夜とスカハの間を幽鬼のような足取りで抜けると、セクメトの炎で焼けるのにも構わず鳩尾へ拳を放った。
「!!!」
驚愕しながらもセクメトは引き戻した細剣の灼熱の突きで迎撃すると、凄まじい衝撃が細剣を握る手に伝わってきた。
「ヒヒ!!」
ここのままでは細剣が折れると判断したセクメトは細剣を手放して、クリシュナの腕を掴んで、一本背負いで投げた。
すかさず細剣をセクメトが回収するのと、空中で体勢を立て直してクリシュナが着地したのが同時だった。
「"壱ノ太刀 天断"!!」
着地した瞬間を狙って、振られた輝夜の上段斬りをクリシュナは最短の動きで躱そうとしたが輝夜の踏み込みの速さに避けられないと判断して、胸を両腕で防御した。
闘気で強化し覇気を纏っているとはいえ輝夜の全力の斬撃は防ぎきれず、両腕の表皮が斬られ血飛沫が飛んだ。
「"一ノ槍 螺穿"!!」
両腕を負傷したクリシュナにスカハの追撃が心臓目掛けて迫り、クリシュナは槍を蹴り上げた。
しかしその瞬間青紫色の槍が真上から降ってきて左脚の腿を切り裂いた。
「!!?」
「ノーラ!、今よ!」
混乱するクリシュナはすぐにスカハが時間差で落ちるように斜方投射した槍だと気付き、メリアの声を聞いた瞬間大質量の何かに横から押されて、空へ昇った。
「グルルルルゥゥ!!!」
「はあぁぁ!!、なっ!?」
打ち上げた張本人である竜化したエレオノーラの顔面を殴ろうとして、クリシュナは高く打ち上げられた。
地面に叩きつけるのが狙いかと考えて、唯一まだ攻撃してきていない女のことを思い出した。
「これで終わりよ!、"白銀収束大剣"!!」
クリシュナがその思考に辿り着いた頃にはメリアが光り輝く巨大な大剣を構え、目の前に迫っていた。
本来ならば詰みの状況だが本気を出したクリシュナはその程度では諦めない。
「舐めるなぁ!!!、私は《天拳》のリーダーだ!!」
クリシュナは負傷した箇所から噴き出す鮮血にも構わず、空中を踏んで唯一無傷の右脚を武器に蹴りを放った。
メリアの光り輝く大剣にクリシュナの捨て身の蹴りが衝突し、凄まじい衝撃波が球体のように広がり上空の雲を吹き飛ばした。
五体満足の時ならいざ知らず負傷したクリシュナと無傷のメリアの差は歴然で如実にメリアの方が押していた。
「貴方は強いわ!!、クリシュナ!、でも好きな男を信じることが出来なかった!!、貴方が好きにはなった男は簡単に死ぬ人なの!?」
「!!!?」
クリシュナの脳裏に道場で約束した時のシンの顔が浮かんできた。
『みすみす命を捨てる真似はしないと約束してやる』
あの時語った時のシンの顔には自信と意地しかなかった、それを自分は心の底から信じてあげられなかった。
(あぁ、こんな小娘に負けるなんて神鉄失格だ。でもたまには負けてもいいか…)
光り輝く大剣にクリシュナは呑み込まれ、流星のようにフラガラッハを横断したメリアはフラガラッハの外の地面にクリシュナを叩きつけた。
凄まじい衝撃波が広がり現れた巨大なクレーターの底で白銀に輝く勝者はスッキリした顔で気絶した敗者の横で静かに佇むのだった。
星風の誓いという作品を連載しております、お暇があれば是非読んで欲しいです。
仲間たちと共に夢を叶える為に奮闘する冒険譚です。
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