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百六十六話 共犯者と宣言


突然のスカハとルーヴォルの登場には驚かなかったアレスだったが、アナスタシアの登場には心底驚いた。


「どうしてアナがスカハたちと一緒に…?」

「話は後だよ、アレス。今はあれを何とかしないと」


アナスタシアに言われなくとも分かっていた、今も絶大な魔力を猛らせる黒金の魔法師クフォンはアレスが抱えるシンを狙っていた。


「シン、大丈夫なの?、まるで死んでるみたいなんだけど!?、さっさと起きて僕達を援護して欲しいな!」

「シンはダメだ、外じゃなくて()()()()()()()()

「!?」


アレスの言の葉にアナスタシアは愕然とした、それは今まで何度も冒険してきた仲間が瀕死であることを意味したからだ。


『シンを渡せぇ!!!』


クフォンの猛りの声と共に首無し騎士と幽霊(ゴースト)が動くが、先程より動きが重かった。


(アナの魔法の影響か?、それより今は逃げることが先決だ)


素早く思考をまとめたアレスは行動を起こそうとして、目の前で異変が起きた。


『……何!?、いや、クソがぁ!、必ず殺してやる!』


突然頭を振ったクフォンはアレスたちのことを睨みつけ、飛んできた骨組みの怪鳥の手によって飛び去った。


首無し騎士も魔鎌を持つ幽霊も主と共に撤退した。


「逃げた?、目的を遂げた?、いや……リア!」


アレスはこの場に揃った戦力を見回した、一人の魔法師が相手取るには些か無謀な相手だ。


撤退する理由には十分に見えるが違和感も感じる。


他にも様々な考えが浮かんだが、それら全ての思考を後回しにしてアレスはメリアを呼んだ。


「リア…」

「えっ?」

「秘事だ、リアの力がいる」


一瞬メリアを抱き寄せて、耳元でアレスに何かを告げられたメリアは困惑したが、アレスの言葉を聞いてすぐにいつもの表情を取り戻した。


「皆、シンは死んだわ。魂を切られてるから助けるのは不可能よ」

「なっ!?、本当にシンが死んだ!?」


アナスタシアはすぐさまアレスが抱えるシンに駆け寄り、その目に生の光がないことに目を見開いた。


「そんな!!、シンが死ぬなんて…」


愕然と膝をついたアナスタシアの背をメリアは優しく撫でた。


アレスの周りにアリス、輝夜、スカハ、ルーヴォルが集まり、皆アレスのことを見ていた。


「アレス…」

「いや、何も言わないでくれ、アリス。今は慰めの言葉より現状を変える打開策が欲しい」


慰めようとしたアリスをアレスは真摯な瞳で制してからそう願った。


「状況を整理するのじゃ、まず妾とスカハはアナスタシアに匿われておった。ここに来たのはアレスの魔力を感じたからなのじゃ」

「ん、ルーヴォルの言う通り」


同意したスカハを見てから、ショックから立ち直れないアナスタシアを横目で流し見た。


「二人が無事なのはそれが理由か、こっちの状況は八方塞がりに近い。シンのお陰で脱獄したが真犯人のクフォンを捕まえるつもりが返り討ちにあいシンをやられた」

「クフォン、先程の魔法師のことじゃな。次善策を話し合うにもここではダメじゃ、移動するべきなのじゃ」

「そうだな、それじゃあ…「隠れ家には僕の家を使ってよ」っ、いいのか、アナ」


立ち上がったアナスタシアはこちらの話を聞いていたのか、そう提案してくれたがアレスは二重の意味で聞き返した。


アレスたち《雷光》に味方することはフラガラッハを敵に回すに等しい、そして何よりアナスタシアがこちらを味方する利点はあまりに少ない。


「いいよ、何をするにしても拠点は必要だし僕はもう君たちに協力してる、一度共犯者になったからにはとことん協力させてもらうよ」

「ありがとう、アナ。せめて感謝ぐらいはさせてくれ」

「ふふ、その気持ちだけでも十分嬉しいよ、アレス」


拠点が決まれば次は移動、それを言外に共有しアナスタシアを先頭にアレスたちはその場を後にした。


無論物言わぬ死体となったシンの亡骸も連れて。


◆◆◆◆


空は曇天模様で昼を過ぎた時刻にも関わらず、フラガラッハは異様な雰囲気に包まれていた。


その理由はすなわち朝から殺人犯が逃げ回り、武装した冒険者が走り回っているせいだ。


近年のフラガラッハでも類を見ない異常事態であり、住民は不安を抱えていた。


そんな時、冒険者ギルド本部より再び魔線放送がながれたのは。


『殺人犯に協力する者が判明した、その名はアナスタシア。"虚空"を発見した者は直ちに通報するように、繰り返す、殺人犯に…』


「あらら、私の存在がバレちゃったか。でも安心してこの家を知る冒険者は誰もいないから」

「仲間にも言ってないのでござるか?」

「うん、ほとんど冒険者としての拠点はクリシュナの館だったからね」

「こんなこと言うのは失礼かもしれないけどもしかしてアナスタシアは友達が居ない?」


アリスの一言にカーテンを閉めた窓際にいるアナスタシアは全身を硬直させた。


「…アナでいいよ、それと僕だって友達の一人や二人…」

「ごめんなさい、踏み込んじゃいけない話題だった見たいね」

「謝られると余計に辛いんだけど!?」


抗議するアナスタシアの様子がおかしくて、アレスは笑みを零した。


「こら!、アレス、なんで笑ってるのさ!」

「いや、メリアと互角の魔法師は随分と親しみやすいと思っただけだよ」


心底疑わしいといった目で見てくるアナスタシアから逃れるようにアレスは立ち上がった。


「よし敵はこれではっきりした、冒険者ギルドだ」

「状況的に確定ね、問題はクフォンとの関係か」


クフォンが起こした殺人事件が全ての始まりでアレスたちが追われている原因だ、その原因を作ったクフォンと冒険者ギルドが無関係というのはありえない。


「闇ギルド《黒羊旅団》も敵よ、こっちも二者との繋がりは不明だけどね」


アリスの言葉にアレスは頷く、闇ギルドの規模は不明でこちらも大きな脅威だ。


そしてアレスは闇ギルドの刺客に襲われ、四剣衆を初めとした闇ギルドに襲われた為、関係しているのは確定である。


「敵の目的は私たちを排除することだと仮定して、戦力差から搦手を使ってきたのも分かるわ。でも分からないのは未だに私や輝夜、アリスが指名手配されていないことよ」

「確かにノーラやセクメトは捕らえられてるのにその事実は奇妙だな」

「情報の伝達速度も異常、アナが協力したこともすぐにバレた」


スカハの言葉に面々は確かにと納得した、何らかの高速の情報伝達手段があると見るべきだ。


「打開策は一つだ、真犯人であるクフォンを捕らえ証拠と共に冒険者ギルドに突き出す」

「ダメよ、アレス。冒険者ギルドが敵ならあてには出来ないわ」


メリアの指摘にアレスは顔を顰めた。


「なら皆で逃げるというのはどうじゃ?、ノーラもセクメトも連れ冒険者という立場も捨てこの街から逃げるというのは」


ルーヴォルの提案は全てを投げ捨てるものではあったが、別に悪手という訳でもない。


アレスたちの力があればフラガラッハからもグリード大陸からも逃げることは可能である、ルーヴォルは手の一つであると本気で考えていた。


それを分かっているからこそアレスは笑みを浮かべた。


「何よりも俺たちを大事に思ってくれて嬉しいよ、ルー。でもダメだ。ここで俺が逃げると言ったら皆は自分が持っているものを全部捨ててでも俺に付いてきてくれるだろうし、そこまで俺を想ってくれることは一人の男として素直に嬉しい」


そう言ってアレスはメリア、アリス、スカハ、輝夜、ルーヴォルを順に見回した。


「俺の為に皆が持っているものを捨てさせない、そして俺はどんな難敵が相手でも決して逃げない!、皆ともっと一緒に冒険したいんだ」


断言された言葉の後に続いた言の葉にはアレスの優しさが込められていた。


メリア、アリス、スカハ、輝夜、ルーヴォルは皆一様に頬を赤らめ、瞳を蕩けさせ女の顔になってしまった。


「(あれだけ強いメリアたちが一瞬で女の顔に!?、アレスはどれほどの傑物なんだ!?)」


アナスタシアはメリアたちの変化に目を剥き、驚愕の視線でアレスを見ていた。


「さぁ、冒険者ギルドを倒す方法を考えよう」


アレスの宣言にメリアたちは一部のズレもなく、同時に頷くのだった。


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