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百三十二話 暗闘と激戦の始まり

暗殺者を追って建物の奥へと進んできたアレスは歩を止めた。


「これは血のついた短剣?」

アレスが地面に落ちた血のついた短剣に意識を取られた瞬間、殺意が襲った。


背後から蹴りを貰ったアレスは商品棚に突っ込んだ、すぐさま跳ね起きて暗い周囲を見渡すも誰もいなかった。


「暗闇は俺に不利か」

アレスは呟きながら龍焔(ほむら)を振って警戒するも外の霧のせいで店内は真っ暗で何も見えなかった。


(どうやら罠にハマったか、相手はこの建物の中を熟知してるようだし、俺をいたぶって殺す気か?)

アレスが思考する暇もなく再び殺意が襲ってきた。


今度は数本の短剣が飛んできた。


アレスは蒼雷で短剣を撃ち落としたが、謎の液体が入った瓶が飛んできた瞬間、アレスは反射的にその場から離れた。


凄まじい爆発が起こり、アレスは爆風で吹き飛ばされて商品棚に激突した。


そこに毒を塗った短剣を持った影が襲いかかってきた。


「"魔刀技 稲妻(いなずま)”」

アレスの不規則な雷の斬撃を跳躍で避けた影はそのままアレスに斬りかかったが、その腹にアレスの蹴りがめり込んだ。


蹴り飛ばされた影は暗闇に消えていった。


アレスは体勢を立て直し、龍星(オロチ)を抜いた。


「お前は何者だ?、普通の冒険者なら既に死んでいるか、深手を負っている」

暗闇から声が聞こえアレスは周囲を見渡したが辺りに反響して居場所は分からなかった。


「俺はただの不運な冒険者さ、生憎普通の冒険者ではないみたいだけどな」

「絶対に殺してやる、お前は私のプライドを傷つけた」

強い殺意が篭った言葉にアレスは警戒するがいつまでたっても仕掛けてこなかった。


アレスは焦らして油断させるのが目的だと分かっていたが、リースとセクメトの安否がほんの一瞬だけ気になり、警戒を緩めてしまった。


その隙を見逃すほど愚かな暗殺者(メイ)ではなかった。


「アレス」

「!?」

さらに暗殺者(メイ)の変装魔法は姿だけではなく人の声音も真似ることができる。


メイが真似したのはメリアであった、アレスの一瞬の不意を突き最も動揺させる相手に変装したメイはアレスの懐に飛び込んだ。


完璧な作戦を立てたメイの唯一の誤算はアレスという剣士の()()を侮っていたことだ。


「魔刀技 黒瓏龍閃」

「ぐぎぃ!?」

アレスの放った下からの二刀の斬撃がメイの両袈裟を斬り裂いた。


攻撃する瞬間に斬られたメイは血を吹き出しながら吹き飛び、商品棚に激突して動かなくなった。


「うぅ」

血を振り払った龍焔と龍星を鞘に納めたアレスは、やっと目が暗闇に慣れると呻き声を上げるメイの変装魔法が解けていることに気付いた。


「それがお前の本当の顔か」

「はっ、醜い顔でしょ」

メイの言う通り、顔の半分は火傷で爛れ、火傷していない顔の部分も火傷のせいで酷く歪に見えた。


「ハハ、お前の恋人たちは美人ばっかりでさぞ生きるのは楽なんでしょうね」


力なく笑いながら言うメイにアレスは憐憫の目を向けた。


「お前は良くも悪くも()()()()に囚われてる、自分を偽り続けた結果が今のお前だ」

「…何も知らない奴が偉そうな口を叩くな」

「なら俺も同じ言葉を返す、彼女たちの生きてきた道が楽なものだったとは決して言わせない、何も知らない奴が下手な口を叩くな」

今度は怒りを込めて言ったアレスに死に体のメイは体を震わせた。


「お前の敗因は心の底から本当の自分を受け入れられなかったこと、そして狙う相手を間違えたことだ。死にゆく身で己の進退を考えろ。この暗闇で死ぬか、生きるか」


アレスはそれだけを言い残すとメリアたちの元に戻る為に、暗闇へと消えた。


その背に屈辱の女の叫びが聞こえた気がした。


「リア!、二人の容態は?」

「アレス、お帰り。二人はかなり不味い状況よ、今は何とか持たせてるけどスカハと輝夜が戻らなきゃ…」

駆け戻ってきたアレスをメリアは喜びと共に迎えたが、リースとセクメトの容態を聞かれて険しい表情になり言葉を切ってしまった。


「毒か、解毒するにはどうすれば?」

「二人に打ち込まれた毒を生成した毒魔法の使い手をスカハと輝夜に捕まえてくるよう頼んだわ」

「二人の生死はスカハと輝夜次第か。なぁ、リア、サリーが今にも死にそうな顔をしてるけど大丈夫なのか?」

「大丈夫、サリーはちょっと血が苦手なだけよ」

メリアの嘘か本当か分からない言葉にアレスは曖昧に頷くしかなかった。


「ヒヒ、私は戦って死ぬと思ってたけど、毒を食らって死ぬことになるとはね~」

「おい、俺が認めた剣士がそんな弱音を吐くなんて許さない。安心しろ、お前は死なない。俺の恋人たちを信じろ」

アレスはセクメトの弱々しい手を握り、勇気づけた。


「セクメトよりリースの方が重傷よ、お腹の傷はかなり深いしもし治療出来てももう戦うことは出来ないかも…」

「リア、それ以上言うな。そんなことはリース本人が一番分かってる。俺たちができるのはスカハと輝夜を信じることだ」

「うん、分かってるけど…」

メリアは不安げに建物の外を見た、スカハと輝夜の戦いが始まろうとしていた。



飛び出したスカハは二本の槍を地面に突き刺して、"氷魔気”を解放した。


「"氷よ・広がれ・万象の氷天・魔を凍てつかせる・氷の王たる・我が名はレヴィアタン」

スカハの青紫色の髪が吹き上がり、全てを圧倒する覇気(オーラ)が吹き荒れた。


氷魔領域(ニブルヘイム)”!!」

周囲一帯を制圧する氷の波が一瞬で広がり、辺りに満ちていた霧を全て氷の粒に変えて周囲の建物ごと凍らせた。


「ひっ!?」

一瞬で霧が晴れて周囲が氷の世界と化してリースとセクメトに毒矢を撃ち込んだ毒使いは尻もちをついた。


"天歩”で空高く上昇し、周囲を俯瞰していた輝夜がその人影を見逃す筈がなかった。


地上の獲物へと襲いかかる猛禽類の如き勢いで飛び込んだ輝夜は毒使いを屋根に押し付けた。


「いぎ!?」

「捕まえたでござるよ」

毒使いを後ろ手で押さえた輝夜は毒使いを伴って地上に降りた。


「スカハ、見事な作戦でござるな。啄木鳥(きつつき)を喩えにするとは面白いでござる」

「獲物を巣からいぶり出す賢い鳥、大和にしか居ないのが残念」

「それは大和に怪魔が少ないからでござろう」

輝夜の推論になるほどと納得したスカハは商会の建物に戻った。


「メリア、毒使い、連れてきた」

「ありがとう。スカハ」

輝夜から毒使いを渡されたメリアは魔法で拘束して、フードを取り去った。


「グレイス!?」

「えっ、その声はメリア?」

毒使いの正体は灰色の髪と碧色の瞳を持つ少女だったが、メリアはその少女を見て驚きの声を上げた。


「"グレイス・ヴェレーノ”、どうして貴女がこんなところに…」

「なんだ知り合いか?」

「ま、まぁ、知り合いと言えなくもないかな…」

メリアの曖昧な言葉に顔を見合わせる一同だったが、弛緩した空気をリースとセクメトの呻き声が引き戻した。


「メリアの知り合いなら話が早い、彼女たちを解毒してくれ」

アレスは横たわるリースとセクメトを指差して頼んだ。


「断る!、私にメリットは何も無い!」

「あるさ、命が助かる、お前が生きてるのは彼女たちを助ける為だ、死にたくなければ彼女たちを解毒しろ! 」

「私は同じことを二度は言わない!」

「何だと!?」

睨み合うアレスとグレイスをメリアが仲裁した。


「待ってアレス、ここは私に任せて」

アレスはメリアの言葉に頷いて、引き下がった。


「グレイス、聞きたいことは色々あるけど今は全部後回しにして彼女たちを解毒してちょうだい、そうしないと本当にアレスは貴女を斬るわ」

「メリア、それで脅してるつもり?、だったら無駄。私はランゲルス隊長に忠誠を捧げてる、死ぬことなんて怖くない、でも死ぬ時はメリア、貴女も道連れにして死ぬわ、隊長があんな目にあったのは貴女のせいよ!、派遣した部隊を貴女に全滅させられ王子の怒りを買った私たち隠密魔法隊は魔法王国を追放されたのよ!」

怒りに震えるグレイスだが輝夜の拘束は抜け出せず、メリアを射殺さんばかりに睨んだ。


メリアはグレイスが告げたことに全く動揺せず、冷めた瞳で見下ろした。


「もし貴女が言ってることが事実で私を恨むのなら好きにしていいわ、でも貴女を含め私を見下す魔法王国の人間とは金輪際関わらないと決めたの、隠密魔法部隊のことは同情するけどそれは自業自得よ」

メリアの背中の四対の翼が大きくなり、光輪が頭上に現れた。


目を見開いて驚くグレイスを他所にメリアは告げた。


「驚いた?、私にも事情があるのよ。貴女は知らないだろうけど私の使える光魔法には人の精神を操る力があるの、貴女が協力してくれないなら貴女の人格を破壊してでも操り人形にして彼女たちを解毒させるわ、大丈夫よ、私も試したことはないけど痛みはないわ、一瞬で終わるわよ?」

メリアは美しいが恐ろしさを感じる笑顔で銀色に光る手でグレイスの顔に手を置いた。


「ま、待ってよ!、私たち友達でしょ?」

()()()ね?」

メリアに一切慈悲の念がないと感じたグレイスはアレスやスカハを見たが、二人共メリアを止める素振りは一切見せなかった。


「やめて!、解毒、解毒するから!」

恐怖に屈したグレイスは解毒することに了承した。


「そう。ならこっちの手間も省けるわ」

「メリア、本当にそんな恐ろしい魔法あるとか言わないよな?」

「ふふふ、ハッタリよ。天使の魔法にそんな恐ろしい魔法があるわけないわ、闇魔法とは違うんだから、さっきはただ右手を光らせただけよ」

右手を軽く振って笑みを浮かべるメリアにアレスはジト目で脇をつついた。


「ともあれ解毒完了、二人を救えた」

「うむ、しかし肝心のシエル殿はどこに?、この建物には拙者たち以外気配を感じないでござる」

解毒が終わったグレイスを再び拘束した輝夜が首を傾げて、疑問の声を上げた瞬間、()()()()()


「ガルルルアアァァァァァァァァ!!!!」

「ブオオオォォォォォォォォォォ!!!!」

耳を劈き、大気を震わし大地を揺らす二種類の咆哮にアレスたちは思わず膝をついた。


「今の咆声は!?」

「片方は聞いたことある、(ドラゴン)のだ」

「もう片方は…」

白鯨(はくげい)~」

四人が状況確認する中、間延びした声が聞き覚えのない咆哮の正体を言い当てた。


「前に聞いたことある~、この特徴的な咆哮は白鯨(はくげい)しかいない~」

(ドラゴン)白鯨(はくげい)、二匹の咆哮が同時に聞こえてきたということは…」

急いで建物の外に出たがスカハの凍らせた筈の周囲は真っ白な霧に満ちていた。


右往左往するアレスたちだったが再び咆哮が聞こえてきた。


「今度は白鯨(はくげい)だけだ、方向は東の海上だ、ここから遠くない!」

走り出そうとしたアレスの影から魔法が飛び出した。


さらにメリアたちの影からも魔法や人が飛び出て、襲いかかってきた。


「隠密魔法部隊!!」

刀を抜いたアレスが歯噛みの声を上げて、各々応戦するがアレスたちは完全に足止めされてしまった。


「"炎よ・集まり・原初の灯火たる・華を咲かせ・炸裂せよ・煉獄(インフェルノ)”」

詠唱が響いた瞬間、反応する間もなくアレスたちごと爆炎が包み込んだ。


思わず目を瞑ったアレスだったが熱さを感じないことを不思議に思い、目を開けると全身から炎を噴き出すセクメトが立っていた。


まるで生き物のように動く炎がアレスたちが立つ場所以外を燃やしていた。


「なんて精緻な魔法、セクメトがやったの?」

「そうだよ~、使いたくなかったけど~、手段を選んでる状況じゃないしねぇ~、ここは私が引き受けるから白鯨の所に行って~」

セクメトは建物の中で横たわるリースを見ながら言った。


「いいえ、セクメト。こいつらは私の知り合いよ、私が引き受けるわ、貴女の炎はどうやら白鯨の霧を燃やせるようだしアレスたちと行って」

「リースを置いては行けないよ~」

「お姉さんは私に任せて、絶対に守るわ。白鯨と(ドラゴン)を止めないとマーリンが滅ぶわ、お願いアレスたちと行って」


炎の勢いが収まるにつれて敵の魔法が炎の壁を貫き始めた、議論している時間はなかった。


「そんな真摯な瞳をする人間は初めて見た~、いいよ~、リースを託す~」

メリアの真摯な瞳を信用したセクメトが折れた。


炎の壁の一部が開き、アレスたちはそこから脱出した。


「メリア!、片付けたら絶対にこっちに来てくれ!、勘だけど白鯨を倒すには君の力が必要だ!」

「ッッ、分かったわ!」


メリアはアレスの言葉ににべもなく頷きを返して、銀光剣を抜くのだった。








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