十二話 光の真実
「ーーー」
俺は倒れ伏すノイドを一瞥して月夜を鞘に仕舞った。
(最後の魔法には驚いたな、短い詠唱で十を超える火球を出すとは)
アレスはノイドの魔法の力に驚いていた。
(だがメリアの光魔法にはやはり敵わないな)
アレスはノイドとの戦いを冷静に分析した。
(そういう意味でもやはりメリアの光魔法は規格外だな、まぁ五歳から練習してたって言ったからな、当たり前か)
アレスは他人の魔法をメリアと比べてしまう癖が付いていた。
「流石が私のアレスよ」
観客席から降りてきのか、メリアが話しかけて来た。
「これくらい当然だ」
俺は思考を中断してメリアに答えた。
「アレスがあんな奴に負ける訳ないもの!」
メリアは当たり前のように言った。
「お前スゲーなあのノイドを倒すなんて」
メリアと同じように観客席から降りてきた冒険者が話しかけて来た。
「やはりアイツは強かったのか?」
「ここら辺じゃトップクラスの冒険者パーティーの一つだぜ」
(やはりな、別にノイドは弱くはなかった、単純に対人戦の経験不足だっただけだ)
「アイツは決闘をよく起こしていたのか?」
「ああ、こんな決闘をよく起こしてたが倒した奴はお前が初めてだぜ」
(初めてか、ということは自分より下か同格の相手としか戦ってなかったんだろうな)
アレスはノイドの経験不足に納得した。
俺とメリアは他の冒険者が来る前にギルドを出た。
外に出ると既に日が暮れていた。
「ああ、スッキリしたわ」
受付に進められた宿に向かう途中にメリアが言った。
「珍しく本気で怒ってたな」
というか俺はメリアが怒ってるのを何気に初めて見た。
「そ、それは仕方ないじゃない」
メリアは恥ずかしそうに言った。
「こ、恋人がバカにされたら怒るのは当たり前よ」
「そうか、ありがとうな」
俺はなんだか嬉しくなりメリアの頭を撫でて感謝した。
「そ、それはともかく、アレスが火球を斬ったあの技は風の魔力を直接放ったのよね?」
恥ずかしくなったメリアは話題を切り替えた。
「あれか?、あれは風の魔刀技だよ」
「魔刀技?」
「バハムート流の技の一つで風の魔力を刀に纏わせて斬撃を想像して放つ、魔法と剣技を合わせた技だよ」
「やっぱりバハムート流を作った人は天才ね」
メリアは褒めるように言った。
「魔力を直接操作して魔法の威力が上がることや魔法は想像力に寄って威力が全然変わるってことが広まったのはここ数百年前だってお父様が言ってたもの」
「そうだったのか」
アレスは少なからず驚いた、家では聞いたことないことだったからだ。
「まぁこれを広めたのは当時の賢者様だけどね」
「賢者様?」
「グラト魔法王国の魔法使いの最高位よ」
そういう称号もあるのだと納得していると、宿屋が見えてきた。
「お、あれがギルドで聞いた"銀の聖杯亭”だな」
その宿は三階建てで"銀の聖杯亭”の看板が付いていた。
俺達は宿屋の受付を済ませると、早速部屋に入った。
「部屋は結構広いのね」
「そうみたいだな」
もちろん二人部屋だ…何故かってメリアが一緒に寝たいって言うからだよ、俺と一緒だとよく眠れるんだと。
「うーん、アレス私の寝衣着を出してくれない?」
ちなみにだが俺がアイテムボックスを持っているためメリアの荷物も持っている。
アレスは頼み通りにメリアに寝衣着を渡した。
「決闘騒ぎのせいで今日の予定が少し狂ったな」
メリアが着替える音が聞こえないようにする為に話しかけたかった。
「本当は今日魔道服屋に行く予定だったもんね」
「ギルドの騒動は勘弁だよ」
俺は辟易しながら言った。
「まぁ仕方ないよ冒険者なんだから」
寝衣着に着替えたメリアが言った。
「それを言われると身も蓋もないけどな」
俺はちょっと項垂れた。
「ねぇアレス今日はさ私に魔力を流してみてよ」
寝る前の魔力操作訓練をしようとしたらメリアがそう言ってきた。
「メリアに?」
「そうよ、他人に自分の魔力を流すと相手の魔力と自分の魔力の両方が知覚出来るから魔力がより理解出来て効果的なのよ」
そんな訓練方法があったのかとアレスは何度目か分からない感心を得た。
「やってみよう」
俺とメリアはベッドの上で向かい合った。
「私の全身に巡らせる感じでね」
俺はメリアと手を合わせて魔力を操作してメリアに流した。
(この光の塊がメリアの魔力か、心が安らぐ気がするな)
アレスはメリアの魔力を知覚した。
(この嵐と雷がアレスの魔力ね、それに何だかすごく落ち着くなぁ)
メリアはアレスの魔力に安らぎを感じていた。
《久方振りに懐かしい魔力を感じましたね》
((!?))
唐突にそんな声が頭の中に響いた。
俺達は気が付くと真っ白な世界にいた。
(ここはなんだ!?)
《いきなり呼んでごめんさいね》
またあの声が聞こえてきた。
混乱していると目の前に光が集まり胴体が長い龍の姿になった。
(貴方は何者なの?)
一緒に引き込まれていたメリアが冷静に問うた。
《あっ、そうですねまずは名乗らないと》
その声は一拍置いて話し出した。
《私の名はカグラ、人界では神龍と呼ばれているものですね》
(!?)
(神龍様!?)
俺達はさらに混乱した。
(どういうことよ、アレス?)
(いや俺に聞かれても…)
メリアが聞いてきたが俺だって知りたいがこの声が神龍様なのは分かる。
《ちなみにここは貴方達の精神世界なので会話することが出来るんですよ》
(何故神龍様が俺達と会話しようと?)
(さっき懐かしい魔力って言ってたけど)
《そうそう、いつもみたいに新たな継承者の様子を見ていたらメリアから千年前に人界に降りた輝銀天使ラミエルの魔力を感じましたので少し気になっただけですよ》
(輝銀天使?)
(ラミエル様!?)
俺は知らなかったがメリアは知ってるようだ。
(メリア、知ってるのか?)
(ええ、創世神キリア様に仕える六人の天使の一人で千年前の大戦時に降臨したって聞いた事があるわ、そんな方の魔力が私に?)
《なるほど分かりました、その魔剣ですね》
(魔剣?、銀光剣のことですか?)
メリアが神龍様に食い気味に聞いた。
《ええ、そうですよ貴方に宿っているその魔剣からラミエルの魔力を感じます》
(どういうことだ?)
(銀光剣は私の家につたわる家宝なんだけどで、魔力が発現した日にいきなり目の前に召喚されて私の剣になったのよ)
《その剣はラミエルが使っていたものですね》
(それがめぐりめぐってメリアのものに?)
《少し違いますよ新たな継承者》
(???)
神龍様の訂正にアレスは疑問符を浮かべた。
《ラミエルは神界に帰って来なかったですから、おそらく貴方はラミエルの転生体でしょう》
(私がラミエル様の!?)
メリアがとても驚いていた。
《貴方はラミエルの光を受け継いでいますだからその剣が貴方を選んだのでしょう》
(ーーー)
衝撃のあまり言葉を失うメリアをアレスは心配になった。
《ラミエルの光の力は強力ですが扱うのはとても難しいので気をつけて下さいね》
神龍様は慈しむような声音で言った。
(神龍様、私はもっと強くなれるのでしょうか?)
再起したメリアがやや伺うように訊ねた。
《当然、そもそも貴方はラミエルの光を半分も使いこなせていませんよ》
((!?))
アレスとメリアは揃って驚いた。
《そろそろ時間切れですね、最後に新たな継承者、久しぶりに美しいラミエルの光を見たお礼を差し上げますよ》
瞬間光が弾け、一気に声が遠のいた。




