草転生
なんだこいつ。
草です、「草」になりました。そう、道端に生えているあの草です。
元は日本の成人男性でしたが、神の気まぐれによりこの異世界に転移されました。
いまどきラノベでよくある異世界モノですが、本当にあることのようです。実際にしましたからね。
ですが、今は「草」です。
簡単に言えばTUEEEとかNAISEIできずに死んだ転移者A。
そして気づけばこんな状況。
草だから目線がすごく低い。何で草なのに見えるんだろうとかなしだよ。
様式美として「ステータス!」とかちょっと言ってみたかった。
だって転生してすぐ狼っぽいのに襲われてENDやぞ。森の中で。
仕方ないから思ってみた。(ステータス!)
名前:
スキル:メモLv2
メモ:
出てきたよ? ・・・出てきた? 出たっていうのこれ?
目の前に出た半透明のスクリーンにこれ書いてあったけど何もわかんねぇわ。
でもスキルがあるなら魔法とかあるのか。メモって何だよ。
結局、自分が草になったことぐらいしかわからなかった。
・・・ん? 視界の右上でなんかピコピコしてる。
そこに意識を向けて見たら小さいスクリーンが出てきた。
「メモが更新されました」
メモって、さっきのステータスかね。
(ステータス!)
名前:
スキル:メモLv2
メモ:草になったらしい
・・・・・・・・・。 どうしよう。 どう、反応しよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
自分は何も反応できなかった。
そして、リアクションも何も思いつかなかったので不貞寝した。
あれから、30年未満の月日が流れた。
ヒュッ! ブスッ
目の前でツノの生えたウサギが矢に打ち抜かれた。
そして俺に倒れてくる。 ちょっと重い。
すぐにガサガサと掻き分けて人がやってくる。
「おっ、なかなかいいサイズのやつだ。」
彼は仕留めた獲物をみてうれしそうにそういった後、すぐ解体を始めた。
俺の上で。
まあ草やし、しょうがないね。 変に人の意識が残っているからあれだけど。
・・・あれから俺はいろいろ試しながら(暇なので)できることを探していた。
そしてなんとか移動する方法を見つけたのだ! 地下茎という方法で。
厳密には違うかもしれないが、移動できたのは大きい。
そこには苦労話もあるが、あんまり興味はないだろう。草のことだし。
というわけで今俺は森の中から外側のほうに来ている。
もう少しで脱出できる。そう思うと草の俺でも気が逸る。
ヒカリガ・・・ミエル。 おっと。
はい、ということで村が見えるところまで来ました。
異世界ラノベに書いてあるような木製の柵で囲まれた村です。
結構かかったなぁと、少し感慨にふけります。
ここに来るまでいろいろあった。 踏まれたり、食われたり、枯れたり、食われたり。
ウサギィィィ
まあいい、俺は寛大だ。 しばらくはここに腰wo ムシャムシャ
ウサギィィィ
ふう、いったか。 食べられたくらいで俺は滅びんぞ!
さて、ここまで来たが別にやりたいことがあったわけでもない。
「人型になりたーい」とか、「元の世界に戻ってやるぞ!」とか。
ああいうのはチート持ちの主人公に任せておいて、俺はそうだな。
花でも咲かしてみよう。
え? だって草だし、花くらい咲くだろう。
今まで移動するくらいしかしてなかったからよくて芝生だもんな。
途中の荒野、振り返ったら俺と同じ草けっこう、いやかなりあったけど。
緑と茶色なんだよなー。 混ざって咲いている花全部俺じゃないし。
ちょっと寂しいと思ってたんだ。
だから、俺、咲いてみるよ。
それから数十年後、世界のところどころで見られるようになった「草」がある。
その草は、砂漠のように水が少ない場所でも、毒の沼地でも、雪に閉ざされた土地でも
必ず一度は見かけるようになった。
そしてその草は花が咲く。どこからどう見ても同じ草なのだが、花だけが違うのだ。
上に伸びて手毬のような花を咲かせることもあれば、下のほうで小さい花を咲かせるようなこともある。
花が違うのなら違う草じゃないかとも思われるが、同じなのである。
中の人の気分が違うだけなのだ。そう、俺の気分。
ここの攻略は時間がかかったぜ。いやー、毒沼さんは強敵でした。
苦いのやら酸っぱいのやら生ぐちゃいのやら。 ぬるっとぬるっと。
さて、ここは・・・オレンジのひまわりっぽいのだ。 ぬ、ぬぬぬ、ぬぬぬぬぬ。
ッポン。
ふぅ、咲いたぜ。俺もなかなか慣れたもんだ。咲かせるのに早くて二ヶ月もかからなくなって来た。
長いか? いいや草だし。 今回もいい仕事したぜ。
あれから俺はいろんな場所を旅行、もとい攻略していった。
岩山では口の中が乾く感じと朝露でしける感じがなぜか食パンを思い出して食パン型の花にしてしまった。
ふざけてしまった、後悔はしてない。 してはいないが驚くことにその花が食べれたのだ。
俺は食ってないよ。 通りがかった冒険者の一人がが急に涙を流してむしって口に入れたんだ。
もちろん仲間は吐き出させようとした。 けどその冒険者、さらに涙を流して
「食パンの味がする」って言ってね。俺もびっくりだよ。
百歩譲って食べれるのはいい、味もかよ。
その後お持ち帰りされてしまった。 男は狼なのね。
あの後俺は畑に植えられて増えたさ、畑いっぱいにね。畑いっぱいの食パンさ。
彼、転移者だったんだね、食パン知ってたし。
畑いっぱいに増えた後、俺はまた旅に出た。 最後に少しサービスして。
ジャム味の蜜袋を付けるようにしたのさ。 少しは喜んでくれるといいな。
あばよ。
ほかにもドラゴンを見に森の奥に行ったり、ダンジョンに潜ってみたり、海に潜って深海魚を見たりいろいろ行ったさ。
草はどこにでも生えてるからね。あなたの後ろにも。
ところで、そこに生えている草はなんと言う名前ですか?
何もなくても、別に悪くない。