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「本当にあった怖い話」シリーズ

呪い

作者: 詩月 七夜

 これは怪異に類する話ではないかも知れない。

 が、ここで語らせていただく。


 私の親戚にA子さんという看護師がいる。

 今回は、そのA子さんが医療現場で経験した話をしたいと思う。


 A子さんが所属する病棟に入院していた、ある一人のおじいさんが息を引き取った。

 おじいさんは、好々爺然とした優しい人で、看護師や他の患者さん達にも気配りができ、悪い噂は聞くことが無かったという。

 そんなおじいさんだったが、A子さんは不思議に思うことがあった。

 おじいさんには、息子がいたが、疎遠になっているようで、老人の見舞いには全く姿を姿を見せることはなかったという。

 おじいさん自身は「色々忙しいんだろう」と苦笑いをしていたが、A子さんは、他の患者さんが家族に見舞われている様子を、そのおじいさんが寂しそうに見ていたのを度々目にしていたという。


 そんなある日、おじいさんの容体が急に悪化した。

 みるみる衰えていくおじいさん。

 その様子に、担当医も「時間があるうちに、ご家族にお知らせした方がいい」と判断。

 入院時に得ていた個人情報を元に、息子さんに連絡をした。

 すると、息子を名乗る人物と連絡が取れ「すぐに病院に向かう」という。

 それを病床のおじいさんに伝えると、おじいさんは驚いたような表情を浮かべた後、


「そうか…ついにお迎えが来るな」


 と、呟いたという。

 その時、A子さんは「そんな冗談は言わないで」というような事を伝えたようだが、おじいさんは曖昧に笑うだけだった。


 そうこうしているうち、夜遅くに息子さんが病院に到着。

 急いで来たのか、とても興奮した様子で、おじいさんの病室の場所を尋ねてきた。

 A子さんが特別な病室にいることを告げると、息子さんはすぐに会わせてくれるように頼んできた。

 医師の許可を取り、面会させると…


 何と、おじいさんの姿が病室から忽然と消えていたという。


 深夜にも関わらず病院は上へ下への大騒ぎになり、警察まで出動することになった最中、病院内の監視カメラの記録映像から、一人で病院を抜け出すおじいさんの姿が確認された。

 その後、おじいさんは翌日に遺体で発見された。

 場所は、病院から数キロ離れた墓地。

 亡くなった奥さんの墓前で、刃物で喉を裂いていたという。


 衝撃的な結末になったこの事件、普通なら病院の管理体制が疑われ、遺族から厳しい追及があってもおかしくはない。

 が、大きな記事にもならず、病院もその責を問われることはなかった。

 理由を問う私に、A子さんは語った。

 

 ここから先、信じる・信じないは各個人にお任せする。


 A子さんが息子さんから聞いた話では、おじいさんは昔、同一人物とは思えない程、我がままで高圧的な人物だったという。

 そうして、奥さんや息子さんもいじめまくっていたらしい。

 殴る蹴るは日常茶飯事で、刃物で脅す、熱湯で火傷させるなどもあったという。

 そして、耐えかねた二人は逃げるように家出。

 以降、奥さんは息子さんを育てるために、寝る間も惜しんで働き、遂には身体を壊して、他界してしまった。

 それを聞きつけると、おじいさんは息子さんに奥さんの保険金目当てでお金をたかるようになった。

 悪びれる様子もないおじいさんに、腹に据えかねた息子さんは、おじいさんと縁を切り、こう告げた。


「お袋がしていたように、お前を呪ってやる。死ぬまで呪いをかけて、俺が必ずお袋の無念を晴らす」


 どうやら、亡くなった奥さんは、おじいさんを余程恨んでいたらしく、死の間際まで隠れておじいさんに呪いの儀式めいたものををしていたらしい。

 奥さんの死後、息子さんがそれを知り、それをおじいさんに告げたのだという。

 最初は鼻で笑っていたおじいさんだったが、その後、説明がつかないような不幸が立て続けに起こり、遂には難病で長期入院まで強いられることになった。

 そこで、ようやく心を入れ替えたのか、おじいさんは好々爺になったということだった。


 息子さんは最後にこう言ったという。


「お袋がかけていた呪いは、長い時間をかけて行うもので…(詳しい描写は、類似事件が発生しないように割愛)…で、正直、私も最初は半信半疑だったんですが、その効果は恐ろしいほどに如実に表れていました。だもんで、信じていなかったあの親父も、呪いの効果に怯え始め、最近は俺に許しを乞うようになっていました。でも、どうしても許せなかった俺は、ある時、こう言ってやったんです」


 そう言うと息子さんは、怒りと後悔がないまぜになった表情で打ち明けた。


「『今度、顔を合わせた時に生きていたら、呪い殺す前に俺自身が殺してやる』って」


 もしかしたら、じわじわ迫る呪いの効果を信じ始めていたおじいさんは、錯乱していたのかも知れない。

 それ故、息子さんの言葉を真に受け、A子さんから「息子さんが来る」と聞いた時、息子さんが自分を殺しに来ると勘違いしたのか。

 そして、殺されることを恐れるあまり、遂には自ら死を選んだ…


 全ては推測で、真実は闇の中だ。


 そして、何故、おじいさんが奥さんの墓前で亡くなったのかも不明のままだ。

 最期に許しを乞いに向かったのか。

 それとも、奥さんの魂が呼び寄せたのか。


 この世に「呪い」というものがあるとして。

 この話の中では、果たして、どこまでが「呪い」だったのだろうか?

 それとも「呪い」などは無く、全ては「偶然」だったのか?

 私は、この話を読まれた方にお伺いしたい。



 


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― 新着の感想 ―
[良い点] さ‥‥寒っ! ほんとに呪いってあると思います。 成就したんですね。 きっと
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