1限目
ドン!と机の上にいつも飲んでいるロイヤルミルクティーの底を叩きつけて、そしていつものように身振り手振りをつけながら騒がしく話始める。
「だから!言ってやったんですよ俺。そんなにピリピリしてるとただでさえ最近弱々しくなってきてる毛根に余計響きますよーって」
「そしたら?」
「めーっちゃ怖い顔して、めーっちゃ低い声で『少し待っていなさい』って言って職員室の奥の方入ってって」
「それでこれが出てきたと?」
私は机の上に重なっている数学のプリントを指差した。
「あり得ないっすよね!そんなんだから43にもなって結婚できねえんだぞ!って言って・・・やろうかと思ったんですけど、これ以上課題増やされたら普通に死にそうなんで止めました」
「最初から言わなければ良かったのに。バカじゃん」
「いやそうなんですけど!ていうかマジで手伝ってくださいよ!土日のたった二日ごときでこれ全部できるわけないっしょ!マジでタケちゃん鬼過ぎ!!」
「そのタケちゃんを鬼にしてる原因はあんたでしょ。竹下先生普段は優しいし、怒ったとこなんて私見たことないけど」
「いやいやいや、それは仮の姿なんすよ!あの人マジで優しそうなおっさんの皮を被った悪魔ですから!」
このお馬鹿な後輩は「優しいとかナイナイ」と言いながら顔の前で手のひらを大袈裟にブンブンと左右に振っている。
「まあ、手伝ってあげてもいいけど」
「いいけど?」
「昼飯二回奢りね」
「やだなー、先輩。俺達の仲じゃないですか!やっぱり友情はプライスレスっていうか、無償の愛に価値がある!みたいな?」
「あっそ、じゃ、頑張って」
「ちょっと!少しくらいこの可哀想なボクに優しさを恵んでくれてもいいんじゃないすか!今月キビシーから昼飯二回はマジで勘弁っす!せめて一回で!ロイヤルミルクティーつけますから!」
「なら、いいよ。じゃあ昼飯一回奢りだからね」
「おぉ!話が分かる先輩だ!てかえらくあっさり引きましたね。もしかして元から昼飯一回分を狙ってたとか?あ、なんかこれ心理学大好きなミナちゃんが言ってたかも!確か・・・ドアオープンクローズ・・・?」
「それじゃドア開いて閉まっただけでしょ。バカ」
ほら、やるよ。と声をかけて課題のプリントを一枚受け取ってから少しだけ窓の外に目をやる。
燃えるような夕焼けに向かってカラスが二羽、仲睦まじそうに飛んで行くのが見えていた。