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企画もの

平成最後のプロポーズ☆大作戦

作者: 鶯埜 餡

「僕と結婚してください」

「断るわ。何度も言うけれど、このタイミングじゃ結婚できないわ」


 今月に入ってから何度ともつかないやり取りに、男はため息をついた。女の答えは分かり切っているはずなのに、男は女に結婚しようかと持ち掛けてしまう。

「そうか」

 男はそれだけ言って、目の前に置いた小箱と一葉の紙を持ち、自室に撤退した。

 だが、その男を見送る女が、あともう少し待っててね、とほほ笑みながらつぶやく声は男には届いていなかった。





 三年前。丁度、天皇陛下がお言葉を出されたあたりだろうか、どちらかともなく二人は付き合い始めた。


 男の外見はかなり良い。しかも、外見だけではなく性格もかなり良く、なんでこんな男が自分と釣り合うのだろうと付き合い始めた当初、女は毎日考えていた。

 男は男で、外見良し・気の利く女性が自分の彼女なのが分不相応と考えている節があった。


 偶々、二人はあるレトロな雑貨屋さんで出会い、何回も会ううちに、その延長線上で付き合い始めたようなものだ。二人とも付き合っているという実感がなかったのだろう。

 しかし、それを崩したのはある事件だった。

 女が昔付き合っていた男から金をゆすられたのだ。

 男が待ち合わせ場所での彼女の不審な動きに気づき、事情を聞いたところ、そう告白されたものだから、なんとか彼女のお金が不当に奪われる前に解決した。その昔付き合っていたという男は後日、逮捕されたという。その時、初めて二人とも、互いにどう思っているのかすべて曝け出し、二人は互いに好きであったことを理解した。

 そうして、晴れて表面上だけではない関係ができた。


 それからは二人とも何も言わなかったものの、結婚を前提とした付き合いが始まり、互いの実家にも遊びに行った。

 両方の両親ともに公認の仲なのだが、肝心の女は男のプロポーズをずっと拒否していた。ずっとと言っても、今月――新元号が発表された四月の二日からであり、男はできることならば今月中に婚姻届けを提出したいと思っているのだが、女の方が頷いてくれない。

 今日もめげずに彼女にプロポーズしたが、あえなく玉砕した。


(何がダメなんだ)

 男は自室で長考した。

 彼は中学高校大学ともに進学校の首席卒業、そして、大企業に入社した中でも一番のエリートコースを歩んできたが、この問題ばかりはどうにも解決できそうになかった。

(タイミングかぁ)

 今までも結婚するタイミングは何度かあった。だが、彼もしくは彼女の都合により流れてきた。その全ては天災や人災というどうにもならない事情だった。だが、今回は違う。

 別に天皇皇后両陛下が崩御・薨去されて自粛ムードになっているわけでもない。むしろ、祭りのようになっているくらいだ。だが、そのなにかが気に食わないようだ。

「なあ、教えてくれよ、成子」

 男は目の前に置いた二つの物を大切そうに触りながらそう呟いた。



 四月三十日。

 とうとう天皇陛下が退位された。

 本来ならば平日だが、行事の日として今日は祝日だ。カレンダー通り休日の彼は、一日中、自室にこもって、どうすれば彼女を頷かせることができるタイミングになるのだろうかと悩んでいた。日中、考えすぎたせいか、反対に夜眠れなくなり、暗い部屋の中で録画しておいたドラマを一人でぼんやりと見ていた。


 相変わらず昨日も駄目だった。


 結局、平成最後の日の前日まで彼女――平 成子(たいら せいこ)を頷かせることができなかった。あれから何度も、毎日のように彼女にプロポーズしたが、全く彼女が頷く気配がない。すでに彼の心は折れかけていた。

(一体、どうすればいいんだ)

 答えの出ない問いをただひたすら考えていた。


 そんな思考を切断するように、突然部屋の明かりがついた。

 スイッチのあるところを見ると、そこには普段着を着ている成子がいた。

「どうしたんだ、こんな時間に?」

 別に今、彼女はこの家に帰ってきたわけではない。むしろ、今まで彼女は寝ていたはずだ。部屋に入る直前の彼女は、可愛らしいパジャマを着ていたはず。男は何事かと尋ねると、

「ねえ、昨日は言ってくれなかったんだね?」

 と、成子は拗ねたように言った。男は一瞬、何のことかと戸惑ったが、すぐに彼女は『それ』を言ってほしいのだろうと思い、すぐさま見ていたテレビを消し、用意のために部屋に戻った。



 五分後、男は女の目の前に座った。いつもの席、いつもと変わらない光景だった。

「僕と結婚して下さい」

 男は端からあきらめた様子でそう言った。女――成子はそんな男の様子にクスリと笑った。


「あなたもしぶといのね。こんな私に何度もプロポーズするなんて」

 成子は笑いながらそう言う。付き合いたての彼女じゃない、自然体の彼女がそこにはいた。

「ああ、そうだろうね。だが、そういう君もしぶといじゃないか」

 僕のプロポーズを断り続けても、プロポーズを求めるなんて。

 男の言葉に成子は、にやりと今度は笑った。


 男は次の言葉を待った。

(ダメならダメで早く言ってくれ)

 諦めながらも、なぜか成功してくれと願うその瞳に女は頷いたのが見えた。

「え――――」

 それは幻ではないのかと疑ってしまった。



「はい。不束な私でよければ」


 か細い声だったが、しっかりと彼の耳に届いた。そう言う彼女の目からは涙が溢れ出て、頬を伝っていた。

「ああ、こちらこそよろしく」

 男は立ち上がり、成子を抱きしめた。


「これからもよろしくね、令和(よしかず)さん」




 令和元年5月1日0時5分。

 三ツ島 令和(みつしま よしかず)は30回目でプロポーズを成功させ、その日の午前中に無事、入籍をすることができた。

ありま氷炎さん主催企画『平成最後の短編書こう』企画の作品です。



……何番煎じなんだ、おぬし?と言われそうですが。



とりあえず書こうと思ったきっかけは単純です。

ニュースで『よしかず』さんネタをしていたからね。

こんなカップルいないと思うけれどw

ちなみに、某サイトで『平成中に結婚するか、令和になってから結婚するか』というアンケートの結果があったのですが、8割は令和になってから結婚したい、という人が多いようですね。

※本作品では、令和さんは平成中に、成子さんは令和になってから入籍したかった模様。


…………私?そんな予定はアリマセンヨ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の最後で、彼女が旧年号での入籍をOKしたところと、その謎に得心させられる点。年号を取り入れた、新鮮な恋愛物語でした。 [一言] こんにちは、餡さん。企画でご一緒した桜宮と言います。 物…
[一言] 企画にご参加ありがとうございます。 令和に向かって、希望のある話でしたね。 確かに、◯◯煎じと書かれればそうかもしれません。(あ!) 頑固までにこだわる彼女。 「気づけよ!彼氏!」とツッコ…
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