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009-カニパーティーと日本より素晴らしいもの



この村は『土鍋技術』を手に入れた。僕のおかげで。僕はこの村ではもはや最大級の客人扱いになってきている。


村の子供たちは僕になついている。そして、同居人のサラちゃんだけでなく、村の若い娘もグイグイ近づいてくることが増えた。たぶん、人生で一番モテている。良い気分だ。


それで、思いついた。こうした気分良く過ごせているのも、この村のみんなが、僕を客人として受けいれてくれたからなんだ。もし、異端な僕を受け入れなかったり、奴隷のように扱っていたとしたら、僕は自分の持つ技術を還元しようなんて全く思わなかっただろう。


「優しさや愛は、お互いを温かくし、お互いに良いものを与えるものなんだよ。」


僕は笑顔でサラちゃんに日本語で話しかけた。突然の日本語にサラちゃんの頭には「?」マークが浮かんでいた。そして、片言の現地語でサラちゃんに言った。


「今夜はカニパーティーをしよう!カニをいっぱい捕まえてくるから、カニをいっぱい食べよう!村長の家族を招待しておいて!」


・・・


僕はさっそく浜辺に行って岩場をのぞき込んだ。今日もカニが一杯いる。僕は麻袋を開いた。そして、ぱっとカニを捕まえて、麻袋に放り込む。カニを捕まえては袋へ。カニは取り切れないほどたくさんいるから大量間違いなしだ。そして、カニで一杯の袋を持って帰宅する。


川辺でカニを洗ったら、土鍋の中に大量のカニと白菜、長ネギ、しいたけと、よく名前の分からない地元の野菜をたっぷり入れて、グツグツ煮込む。海鮮の良い匂いが漂い僕はうっとりする。


そして、匂いに誘われたように、ちょうど良い頃合いに村長がやってきた。「お招きありがとう」と村長が挨拶する。村長の家族、高校生くらいの子供たちも、大喜びで来てくれた。言葉はまだまだだけど、僕らは笑顔と笑顔で会話した。


そして、みんなでカニを食べまくる。カニ!カニ!カニ!


カニは、どうしてこんなに美味しいんだ!


誰もが上機嫌で、カニを食べまくった。カニを食べている間は、誰もが寡黙になる。カニは土鍋の偉大さは、全てのものに知らしめることになる。


ところで、今夜村長が持ってきてくれた飲み物が最高だった。


その赤い液体は、果実をすりつぶしたジュース・・・ではなく、間違いなくワインだ。ワインの甘い匂いが鼻腔を刺激する。しかし、土鍋もなかったこの村にワインがあるのが不思議だな。


「ワイン、どうだ。飲んだことあるか?」


村長が僕にゆっくり聞いてくれた。この村長、僕を誰だと思っているんだろう。某有名企業でCTOをしていた鈴木だぞ!・・・って、知らないに決まってるか。


「ワインを飲んだことあるかって?あるに決まってるでしょう!」


僕は村長が注いでくれた赤い液体をぐいっと飲んだ。


「わぅ、これは、なかなか、美味しい。うーん、本当に美味しい。この村にもこんな素敵なワインがあるとは!」


僕は久々のワインに唸った。本当に美味い。これまで飲んだ高級ワインよりも、ずっと美味しい。なんてことだ。この村には、日本より美味しいものなんてないと思い込んでいたけど、これ、本当に美味しい。


サラちゃんとお母さんは、あまり飲まないようだ。これまでこの家でアルコールが出てきたことはなかった。


「村長!僕は、めちゃくちゃこのワイン気に入ったよ!!」


「そうか、良かったな。まだたくさんあるから、どんどん飲めよ。」


村長も村長の子供たちもグイグイとワインを飲み、みんな酔っ払って陽気になって笑った。


「楽しい。この村に来ることができて僕は本当に良かった。」


僕は、村長の肩をバシバシ叩いて一緒に笑った。


・・・


翌日。


「朝ご飯出来たよ。タダシ、起きて!早く来て!」


サラちゃんの声が遠くで聞こえる。うーん、起きれない。なんだか、頭が痛い。うーん、昨日飲み過ぎたか。頭痛で身体が言うことをきかない。


必死で身体を起こし、ガンガンする頭のまま、朝ご飯を食べた。


その様子を見て、サラちゃんはお母さんとクスクス。「どう考えても、飲み過ぎだよね。」と言って笑われた。


それでも、僕は素晴らしいワインを見つけた。もし、無事に日本に帰れるなら、この村の特別なワインをぜひお土産にしたいと思った。


それで、その日は村長のところに行って、ワイン造りをしている匠を紹介して貰った。僕は我が家の土鍋をお土産に持ってその人に家に行った。


工房らしき家に入ると、ワイン工房らしく樽がいっぱい並んでいる。


「こんにちは。」と声を掛けると、熊のような大きな男が出てきた。


「おぉ、おまえ、有名な外人だな。俺はワイン造りの匠、ドドーンというんだ。」


そう言って、酒臭い顔で陽気にハグをしてきた。昼間から酔っ払っている。


「タダシです。よろしく。」


僕は挨拶すると、土鍋をプレゼントする。そして、ジェスチャー混じりで使い方を紹介した。すると、嬉しそうに土鍋を持ち上げ、上下に回したり、こんこん叩いたりしていた。これは、喜んでくれたようだ。プレゼント作戦成功だ。


そして、僕はワイン造りの工程を見せて貰った。


ワインの原料となるブドウを木の器に入れて、バンバン叩く。そして、皮も果汁も一緒に樽の中に入れる。そこに、白っぽい粉を混ぜ10日ほど放置する。それによって、アルコール発酵する。その後で、細かい編み目のかごを使って、樽の中の果汁や種や皮をこしたら赤ワインの完成だ。


工房にはたくさんの木製の樽があり、胸ほどまである大きな樽の中に良い匂いのワインが一杯入っていた。しかし、この規模の村で、この大きな工房、明らかにキャパオーバーなのではと思った。


話を聞くと、村人はみんなワイン好きだから足りないくらいだよ、という感じだった。そんなこんなで、ドドーンさんとは意気投合し、お土産にたくさんワインを貰って家路についた。


やったね。これでアルコールには困らなさそうだ。




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