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006-僕は人気者?!

翌日、今日も僕は海を見て過ごそうとしていた。この生活は実に気楽だ。働く必要がない。僕は客人だ。とにかく、サラちゃんの家で養われている。


会社のために働き、そこそこ成果を出して、給料をもらっていた僕は、非常に罰が悪く感じていた。何か、サラちゃんのために何かして家族に返したいと思っていた。


そう思っていたとき、僕は、この村の土が赤土で粘土質であることに気づいた。もしかして、陶芸ができるのではないか、そんなことを思いついた。


『思い立ったら、すぐ実行』。それが我が社のモットーだ。技術最高顧問、つまり、CTOの僕が最高経営責任者のCEOと話し合って決めたキャッチフレーズだ。


『やらなくて後悔するより、やって後悔しよう』。僕らは話し合ってそう決めた。それが功を奏して、短期間の間に我が社が開発したサービスは、うなぎ登りに有名になった。


おっと、昔話は別の機会にしようか。今は、サラちゃんと家族に何かを返したい気持ちでいっぱいだ。


僕は、粘土質の赤土を集めて、コネコネ、粘土細工をはじめた。と言っても、粘土に関しては素人だ。ちょっと不格好な感じではあるのだが。それでも、感謝の気持ちから、サラちゃんのために人形を作ろうと思った。


その日の午前中、僕は村の外れで粘土を麻袋いっぱいに入れて持って帰ってきた。そして、イエの中でずっとコネコネしていた。


コネコネ、コネコネ。とりあえず、ライオンとキリンの二匹を作り上げた。


そして、夕方帰ってきたサラちゃんにプレゼントした。


「これ、ちょっと不格好だけど、いつものお礼だよ。ありがとう。」


心をこめて彼女に伝えた。すると、彼女はニコニコと笑い、愛おしそうにその人形を眺めて「ありがとう」と言った気がした。サラちゃんのお母さんも、ライオンとキリンを見て、目を丸くして、とても喜んでくれている感じだった。


・・・


翌朝、村長がやってきた。どうも、朝からサラちゃんが呼んできたようだ。そして、彼女は赤土のライオンとキリンを村長に見せていた。村長は、「おぉ」とか「うーむ」とか、唸りながら人形を見ていた。


いやはや、そんなたいした物ではないのだけど。


しかし、村長はいたく気に入って、ライオンを持って帰ろうとしていた。駄目だよ、それはサラちゃんとお母さんにあげたものだから!


僕が「村長にはあげないよ」と、ライオンを取り返そうとすると、村長はちょっと怒った感じになった。村長は僕からライオンをぶんどり、嬉しそうに持って帰って行った。


うーん、何なのあの人。まぁ、ライオンは改めて作って、サラちゃんにプレゼントすれば良いか。


しかし、村長のこの反応?!もしかすると・・・。


僕は、次の日もシマウマやカバなど、アフリカの動物の人形をたくさん作って、サラちゃんの家に並べた。


すると、村長から話を聞いた村人がぞろぞろと、サラちゃんの家に見学に来た。どうやら、この村には、赤土で人形を作る文化はなかったようだ。


そう、僕は、赤土粘土の第一人者になったのだ!


そして、村人たちは、僕に、村で流通する札を出して、これと人形を買えて欲しいと言うようになった。もちろん、言葉は通じないのだが、あたかも「コレウッテクレ、イクラデモダス」と言っているようだった。


僕は、たくさんの動物を作り、それらを売った。村人たちは喜んでそれらを買っていった。


サラちゃんの家は売店のようになった。僕の粘土細工が間に合わないほどだった。


・・・


僕は粘土細工で儲けたお金の半分をサラちゃんに渡そうとした。すると、


「そんな大金受け取れない。」


と言われた気がした。というのも、サラちゃんは、何度も首を振って受け取らなかったからだ。それで僕は札の半分を袋にしまって札の半分をサラちゃんの手に無理矢理ねじ込んだ。


「これは、この家に置いてくれているお礼だよ。ありがとう。」


とは言え、僕と彼女は何度も札を押しつけ合った。そして、とうとう最後には彼女が折れて札を受け取ったのだった。


「こんなにたくさん・・・要らないのに・・・」


彼女はそんな表情を僕に見せた。


・・・


それから、僕の日課は変化した。午前中は、赤土で様々な動物を作り、午後は外へ行って海を眺めた。本当は、ずっと粘土を触っていたくなってしまったのだけど、僕は日本にも戻りたい。この海を見張って救助隊を見つける活動こそが緊急を要する行動だろう。


しかし、僕のその時の気持ちは「やばい、天職を見つけてしまった」というものだった。


とは言え、冷静に自分の作品を見ると・・・子供の落書きレベルだ。なぜ、村人がそれほどお金を払ってくれるのか、ぜんぜん分からない。だが、現実に村人は粘土を喜んでくれていた。


・・・


しばらくすると、子供たちも家に遊びに来るようになった。最初の頃、子供たちは、親から「粘土を学んできなさい」と言われてやって来ているような、そんな感じだった。


僕は惜しみなく子供たちに、粘土の作り方を教えた。それは、粘土の集め方やコネ方、そして、アフリカの動物がどんな形なのかを紹介するだけなので、難しいことではないのだけど。


子供たちは、すぐに粘土作りに夢中になった。そして、僕が作る動物を眺め、真似して作るのだった。確かに、この島に、キリンは居そうにない。そう思うと、首の長いこの動物のことは知らないだろう。


きっと「面白い!こんな動物いるのかな?どこに住んでいる動物だろう?」と思っているんだろうなぁ。僕はそう思って子供たちと時間を過ごした。


・・・


そうこうしている内に、村の子供たちは僕を慕うようになり、みんなと友達になった。言葉は通じなくても、子供たちには、僕が安全だということは伝わっているだろう。それどころか、ずっと一緒にいたという気持ちが溢れていた。


そんな訳で、急に僕は村の子供たちから大人気になった。いやはや、こういうのも良いよね。それに、この子供たちの将来も楽しみだ。もう少しすれば、この村に粘土文化が根付くに違いない。


もちろん、子供たちが粘土細工を覚えたら、僕の粘土細工の価値は相対的に下がっていくのだけど。それはそれ。そもそも「技術」というのはそういう物だ。その技術が一般化し普及するに従って、技術そのものに対する価値は相対的に下落していく。その代わり、大勢の人がその技術の恩恵を受ける事ができるようになるのだ。


僕はこの村の客人として食べさせてもらう代わりに、僕の持つ技術を惜しみなく共有していきたいと思っている。僕一人が技術を独占する必要はないのだ。


ただし、今のところ、僕の作品は良い値で売れる。いつの間にか、この村でちょっとした小金持ちくらいの存在になった気がする。そして、僕は毎回稼いだお金の半分をサラちゃんに渡すことにしていた。


・・・


ちなみに、その頃から、サラちゃんが作ってくれる食事が心なしか豪華になっている気がした。以前はよく分からない葉っぱがたくさん入った料理が多かったのだが、最近では、魚や肉や卵などの食材が多くなってきた。以前の簡素な料理も美味しかったけど、これはこれで嬉しい。


つまり、この村での僕の地位は、よく分からない外界の客人から『粘土アーティスト』へと向上したのだった。なんだか、楽しい!













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