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001-プロローグ - 飛行機は自動車よりも安全な乗り物だったはず

どっかーーん!


うわーっ、なんかすごい音がして、この飛行機揺れ始めたけど、大丈夫かな?ぐっすり眠っていた僕は、眠い目をこすりながら起きた。


その直後、早口の英語でアナウンスが流れる。


「皆さん、当機で原因不明の爆発が起きました。落ち着いてください。救命胴衣を着用してください。」


いやぁ、なんか、すごく不安。機内が一気に大混乱に陥ったのが分かる。右隣に座っている初老のおじさんも、そわそわし始めた。機内がざわめいている。


「飛行機が落ちる確率って、0.000032%なんだぜ。」


僕は、思い出しように、つぶやいた。まさか、自分の乗っている飛行機にトラブルが起きるなんて。なんとも信じられないが、数値は0ではない。起きる可能性はあるのだ。


とはいえ、何が起きたのか、まだよく分からない。窓から外の様子を覗いたのだが、真っ暗でよく分からない。なんとなく見えるのは海のように見える。このまま、海の上に不時着するのかな?それとも・・・。


「椅子の下に救命胴衣があります。慌てず、取り出してください。とにかく、慌てないでください。」


再び、機内アナウンスが流れる。しかし、「慌てないで」と言っている本人が一番慌てているのが声から分かる。安全な乗り物である飛行機において、緊急事態を体験している客室乗務員なんて、そんなに居ないのだろう。そのくらい、今回は非常事態ということだ。


僕は、そんな空気を感じて、椅子の下から救命胴衣をさっと取り出して身につけた。しかし、飛行機が飛び立つ前、美人の客室乗務員が、救命胴衣について説明していたけど、まさか、実際につける羽目になるとは。


隣のおじさんは、一挙同遅く、慌てて、椅子の下に手を突っ込んでいるところだった。慌てすぎて、うまく救命胴衣が取り出せないようだった。


みんなよりも一歩先に動くことのできた僕は、この後のことを考えた。もしも、緊急脱出となった際には、「荷物は持たないように」と言われるだろう。そうなると、海外で身分証明するのは大変そうだな。僕は、椅子の下に置いていたカバンからパスポート、そして、財布とスマホを取り出して、上着の内ポケにねじ込んだ。


そのとき、飛行機が急降下しているのが分かった。ジェットコースターみたいだった。これが夢なら良いのに。


機内は、乗客の悲鳴で溢れた。


その中でも、後ろの席のおばさんが大声で「神様、助けてー。」と叫んでいるのが聞こえた。僕は、「やはり、人間、死に直面したときに頼るところは、神だよな」などと考えた。


その瞬間、飛行機は海に突っ込んだ。


ギガーーン、ガガァーーー、ガガーーーン。


それはものすごい衝撃だった。その後は、もう訳が分からない。真っ暗な闇が飛行機を包み込んだ。


このとき、僕は死んだと思ったけど、薄れゆく意識の中、ポッキリ折れた飛行機の残骸を見た気がした。

そして、どんどん意識が薄れていった。


・・・


波に揺られながら夢を見た。


それは、豪華なローストビーフを食べている場面だった。大手企業R社のWebサイトリニューアルのプロジェクトが完了した時の打ち上げの時だ。それは、半年かけて行ったプロジェクトだったため、その日は主要開発メンバー5人と大いに盛り上がった。


ひとしきりローストビーフを平らげた後、開発メンバーの一人がつぶやいた。


「鈴木さんが、居なかったから、このプロジェクト、本当、やばかったですよ。」


ちなみに、鈴木とは、この話の主人公、つまり、僕のことだ。


「俺、絶対、もうだめだと思いましたよ。」「僕も思いました。」「私も。」


メンバーみんなが認めた。このプロジェクトは、非常に難しいものだった。


「しかも、4ヶ月目、暗礁に乗り上げてからの起死回生、見事でしたよね。本当、鈴木さんのおかげで救われましたね。」


「鈴木さんのこと、あのときほど尊敬したことなかったッス。天才だと思いました。」


メンバーが口々に僕を褒め称えていた。


「いやいや、みんなの頑張りがあってこそ、プロジェクトが完遂できたんだよ。」


ちょっとだけ謙遜して答えた僕の名前は、鈴木タダシ。ある小さなIT企業でCTOをしている。CTOというのは、最高技術責任者のこと。つまり、IT部門のトップのことだ。尊敬できるリーダーが少ない、この現代社会の中で、僕は、そこそこ尊敬を集めるリーダーだ。しかも、自分自身でも、そこそこ実力があると自負している。


とはいえ、あのプロジェクトは、本当苦労したなぁ。開発の70%が終わった段階、詳しく言うと、サーバー側の開発が終わった後になって、R社が「応答速度を10倍にしてくれ」と、無茶を言ってきたんだよな。「これが実現できないうちは、一銭も払わない」とか非常に怒ってて。


いつもの僕の方針で、メンテナンス性重視で開発していたから、多少無駄があったとは言え、10倍の速度を出すには、アルゴリズムを見直した上で、開発言語を変えたりと、ゼロからの作り直しが必須になりそうだった。あのときは、メンバーの誰もが暗い顔して、数ヶ月の間、毎日残業しても、締め切りには間に合わないだろうと思っていたと思う。


そんな時、CTOの僕が割って入った。設計を見直して、抜本的なボトルネックを洗い出し、初期応答と取引データの処理を分割することで、反応速度を、なんと12倍の早さにすることができたんだ。フフン、まぁ、僕が本気を出せばこんなものだよ。しかし、打ち上げの夜は、みんなの尊敬の視線が痛いほど僕に向いていたよなぁ。できる男は辛いなぁ。


あとは、可愛いカノジョでも居たら、最高の人生だったと言えたんだけど。はぁ。僕はため息をついた。しかし、女性とは縁がなかったなぁ。CTOと言えど、ただの引きこもりの、コンピューター・オタクだからなぁ。はぁ。お金もそこそこあったんだけどなぁ。貯金を使う間もなく、貯めて終わっちゃったよ。可愛いカノジョが居たら、僕の人生はもっと幸せだったと言えたんだけど。はぁ。死ぬ前に、嫌なこと思い出しちゃったなぁ。はぁ。カノジョさえ居れば。。。カノジョさえ居れば。。。


・・・


それから、どれくらい時間がたったのだろうか。僕は意識を取り戻しつつあった。


最初に、真っ白な景色が目に映った。ここは、きっと別の世界か異世界だろう。そして、神様から特殊能力をもらって、その後、その能力で楽しく過ごすことができるんだろう。・・・おぼろげな意識の中で、僕は、最近Webで流行っている異世界冒険小説を思い出していた。


ここで目を覚ますと、新世界の管理人がいるはずだ。僕は、その新世界の管理人と狡猾に交渉して、たくさんチート能力をもらうんだ。どんな能力をもらったら有利だろうか。よく考えておかないと。薬草を作る能力は必須だな、そして、スマートフォンをそのまま使えるようにしてもらわないと。解析能力も必要だよな・・・ここが一番肝だから、よく考えておかないと。


ガンガンする頭を押さえながら、期待を込めて目を開けてみた。


すると、そこは砂浜であり、誰も居なかった。


しかも、真っ青な空と、白い雲、どこまでも続く青い海、白い砂浜が広がっている。


そして、周りに誰もいない。うーーん、どうやら、僕は死ななかったようだ。


状況を確かめるため、砂浜を行ったり来たりしてみたが、この砂浜に流されたのは僕一人だけだと分かった。目の前には真っ青な海、振り返ると、砂浜と岩場、その先に南国の木が見える。


僕の独り言以外、波の音しか聞こえない。


・・・


ところで、そもそも、僕はどうして飛行機に乗っていたのだろうか。記憶をたどってみた。


そうだ、僕は、シンガポールで開かれる国際セキュリティ会議に出席しようとしていたんだった。僕が話すセッションもあったんだけど。今何時かな?


ポケットにスマートフォンがあるのを思いだして取り出した。海で揉まれて壊れてないといいけど。


「さすがの防水対応、スマートフォン!」


僕だけでなく、スマホも生きていた。日本時間で13時。会議がもうすぐ始まる時間だった。


あー、今からでは、もう僕の出番には間に合わないな。面白いテーマだから、みんなに受けると思ったんだけど。そこまで、考えて、「まずは、助けを呼ばないとな」と、思いついた。


こういう時って、誰に連絡したら良いのだろう。親?友達?警察?海外の警察も110で通じるの?


とにかく、僕は誰かに連絡しようと、スマホの機内モードを解除した。祈りながら。


「頼むから電波、来ていてください!!」


しかし、やはり、撃沈。ここは電波圏外だった。


もしかすると、GPSは生きているかも???


はやる気持ちを落ち着かせ、地図アプリを開いてみた。しかし、現在位置は羽田空港のままだ。がっかり。スマホも電波圏外では、ただのゲーム機だ。


となれば、スマホの電池がもったいなから電源は切っておくか。


とはいえ、飛行機が墜落したんだ。きっと、世間では大騒ぎになっているはずだ。捜索隊が必死に僕を探してくれているに違いない。僕は、助けがすぐに来てくれることを期待しつつ、砂浜に大きくメッセージを残した。


『SOS。助けてください。飛行機事故の被害者の鈴木です。この島にいます。』


助けが来るまで生き延びなければ。生きるために必要なこと、それは、飲むこと、食べることだ。まずは、この島を探検して、飲み水を探すことにするか。


そこまで考えたとき、急に、喉の渇きを感じた。


「すぐに小川が見つかりますように。そして、食料となる果物が見つかりますように。」


そして、くるっと海に背を向けて、小走りに砂浜をかけだした。


果たして、水はあるのか、生き延びることはできるのか、助けは来るのか、不安要素だらけだ。


このとき、僕は、大変なことに巻き込まれてしまったという感情に支配されそうだった。それで、走りながら、なんだか楽しい事件に巻き込まれてしまったようだと、ポジティブに考えることにした。


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