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タッチパッド式こっくりさん

作者: やまおか

 “小説家になろう”というネットで自作小説を投稿できるサイトがある。

 その名を聞いたのは友人からであった。

 ためしに登録してから、かれこれ2年目。

 既に投稿作品数は30に上る。我ながらよくこんなにと感心してしまう。


 あるとき、こんなメッセージが送られてきた。


『あなたはなにを目標に小説を書いているのですか?』


 ボクはいつでも一人の読者のために書いていた。

 小説をアップロードすると、その少年から反応が返ってくる。笑ったり、悲しい顔をしたり、ときにはつまらなそうにしていたりと、彼の反応を見たかったのだ。

 

 そういえば、子供の頃、たしかあれは小学校の半ばあたりだったろうか。不思議な体験をした覚えがあった。

 当時のボクは自分をとりまく色々なものに嫌気がさし、不貞腐れたように生きていた。

 それでも一応授業は真面目に受けていて、算数のノートが鉛筆で書かれた文字で一杯になってしまったため、買っておいた予備のノートを取り出した。

 新しいノートの紙のにおいが好きで、ぱらぱらとめくりながらにおいを吸い込む。


 そこで、ふとおかしなことに気づく。

 ノートの一番最初のページに既に文字が書き込まれていたんだ。

 3つ上の兄がやったことかと思ったが、ワープロで書いたような人間味を感じさせない整った文字だった。

 では、他の誰がやったのかといぶかしむが、思い当たる人物がボクの家族にはいなかった。


 誰の仕業かと首をひねっていると、次の日、また新しく書き込まれていたんだ。

 勇者や魔王なんて文字が見え、その文章はどうやら物語の体となっていることに気づく。


 その落書きは毎日追加されていくこともあれば、一週間空くときもあった。いつしか、犯人のことなどどうでもよくなり、早く続きが読みたいと心待ちにするようになっていた。

 

 物語が進むにつれて、ノートの余白が残りすくなくなっていった。

 ページも裏表紙へと近づいていき、ボクは不安になる。

 物語も佳境に入ったところでとうとう最後のページにたどりつく。勇者が魔王に挑みかかったところですべての余白がなくなってしまった。

 

 結局、それっきり続きをよむことができなくなった。

 くやしくて、布団に入ると続きを自分で妄想するようになった。結末が読みたいという思いがずっと頭の隅にこびりついていた。

 

 そして、出会ったのがこのサイトだった。

 ボクは頭の中にためこんだ物語を書き続けた。

 それが最初の作品で、完結させたところであらためてあの不思議なノートの内容を見直そうとしたがどこにも見当たらなかった。

 部屋中くまなく探し、家族にも聞いてまわったが見つかることはなかった。

 

 あのノートがなんだったのかはわからない。でも、あのとき、あそこで物語の続きが読めなくてくやしがっていた自分を裏切らないようにというのがボクの目標であった。

 

「さて、投稿っと」

 

 文章の誤字脱字やおかしなところがないか見直して、投稿ボタンを押す。

 アップロードが完了しましたという文字が表示されると、パソコンの前から立ち上がりおおきくのびをする。

 空気をいっぱいにすいこんで、長時間キーボードをたたき続けたこりをほぐすように大きく伸びをする。

 

「メッセージの返信がわりに作品にしてみたよ」

 

 六畳間のアパートに置かれた木製のイスに目をむける。そこには一人の少年が座っていた。

 そのイスは少々頭のおかしな形をしていて、オシャレな家具屋にいけばいい値段がしそうだったが、5000円と安かった。


 まるで、そのイスが買ってほしいと語りかけてきたような気がした。


 購入後、運送業者に運び込んでもらったらこの少年がついてきた。

 青白い肌をして半透明で実に涼しげな少年である。

 

 おとなしい性格でコミュニケーションをとろうと話しかけるが、どうやら言葉を発することができない模様。

 そこでiPadを渡してみた。最初は不思議そうな顔をしていたが、さすがは子供、すぐに使い方を覚えてしまった。

 

 サイトの個人ページに『感想が届きました』という血のように真っ赤な文字がにじみでてきた。


『ふーん (∵)』


 ユーザー名は空白で、これが彼からの感想だった。最近では顔文字まで使いこなすようになっている。

 

 

 次の小説の構想がまとまらず、息抜きに書いた短編だった。気を取り直して、プロットとにらめっこしながら考えをまとめようとするが、なかなか上手くいかない。


 こうなると現実逃避するように別のことをやりたくなるのが、ボクという人間だった。

 B5の紙を用意する。一番上に鳥居の形を書いて、すぐ下に『はい』『いいえ』を書く。

 そして、あいうえおのひらがな50音を書こうとしたところで、少し手を止める。


 視線の先はキーボード。キーボードの文字を書き写していく。


「これでよしと。少年、ちょっとそのiPad貸してくれ」


 青白い顔をした半透明の少年からiPadを受け取り、先ほど完成させた紙を貼り付ける。

 iPadをキーボード入力モードにしておき、紙の上に十円玉を鳥居の上においた。


「こっくりさん、こっくりさん、いたら返事をしてください」


 少年といっしょに十円玉に人差し指を置いてみること数秒後、急に息苦しさを感じ始めた。脈拍がはやくなり、車が通る音などの周囲の音が一切の音が聞こえなくなる。視界が狭まったように赤茶色に錆びた硬貨に吸い寄せられ、氷の上をすべるように動き出した。


 十円玉が『はい』の文字の上にたどり着くのを見て、少年と顔を見合わせた。


「こっくりさん、こっくりさん、なにか小説のネタをください」


 今度は10円玉の動きは早くなり、どんどんと文章をつづっていく。

 それは10分以上続き、疲れたのでボクも少年も指を離して適当にくつろぎだした。


 パソコンに向かって、小説家になろうのサイトに新しく投稿された小説を読んでいた

 腕を引っ張られ少年がちょいちょいとiPadを指差している。


 十円玉の動きが止まって鳥居の上に戻っていた。

 できあがった文章を読んでいくと、主人公は猟師のおじいさん、森で出会った子狐との触れ合いを描いた物語となっていた。

 コックリさんらしく狐をモチーフにしたのかと感心しながら読み進めていく。


 そして、最後のセリフ


『ゴン、おまえだったのか』


「………」


 無言で十円玉の上に指を置く。


「こっくりさん、こっくりさん、ぱくりはいけないと思います」


 途端に動揺したように十円玉が震えだした。

 落ち込んだようにのろのろとした動きで文章が打ち込まれていく。


『それ、わたしの体験談なの……』


 まさかの発言に驚く。


「ゴン、おまえだったのか」

 

みんなも試してみてね(*`・∀・´*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴン、お前だったのか!? [気になる点] こっくりさんに辿り着くまでがちょっと長かった。 [一言] ども。 思った以上に最後受けました。
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