最終話 最終決戦は負けられない
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「なんで……、わたしが勝てないの?」
ジョージと戦うため、わたしたちは草が生い茂っている裏庭にいた。戦いのほうはあっさりと負けてしまった。ものの数秒の戦いだった。
「弱いからです」
単刀直入に言われてしまった。
「そんなこと言わなくていい!」
わたしは拳を地面にたたきつけた。地面がへこんだ。
あのときは確かにパンチを当てたのだが、今回の勝負はすべて避けられてしまった。
「まさかあのとき、本気を出していなかったの?」
ジョージに問う。
「あのとき? 意味がわかりませんが……、わたしは姫様に対して本気を出したことがありません」
「じゃあ、あのときは何だったの! ――確かにあの感触は……」
まだジョージを殴った感触が残っている。あの気持ちよく心地よい感触は忘れるはずがない。
「あのときとは?」
ジョージは顎に手を当て、考え込むしぐさをする。ジョージの頭の中にはきっと疑問符ばかり浮かんでいるのだろう。そんな表情をしている。
「……それはいつごろの話でしょうか?」
そう訊かれた。わたしは立ち上がりながら、「……おとといよ」と素直に返答した。
「おととい……。そう、あのときは確か、侵入者が城に入った日でしたね」
ジョージの口からは意味不明な文章が発せられた。
「侵入者? 何それ?」
「そこから説明しなければいけないのですか? 面倒くさいですね」
ジョージは呆れたように言う。それにわたしはムカついた。
「そういう意味じゃない! 侵入者が入ったって本当なの!」
冷静に考えてみる。普通、侵入者など入らないように警備を……、そうだ。この城は警備が甘いんだった。
「えぇ、聞いたところによると姫様を暗殺するために侵入した、と」
そのあとジョージの口からは、おそらくわたしに聞こえないように言ったのだろうけど、「暗殺されればよかったのに」と耳に入った。
「ふざけるな!」
ジョージに怒鳴った。
「おや、聞こえていましたか? これは失礼」
ジョージは軽くお辞儀をした。こんなことばかり言っていると話が進まないので、侵入者について訊くことにした。
「はぁ……で、なんでわたしを?」
わたしを恨むような人がこの国にいたのか?
「なんでも依頼されたのだそうで」
ジョージの口から恐ろしい文章が発せられた。
「誰に!」
それは聞き捨てならない話だ。
「マルコフ、という男です。昨日捕えました」
誰だか知らないが、元凶を捕らえたのか。よかった。
わたしは胸を撫で下ろした。すると、ジョージはわたしを凝視した。なんだろう、気持ち悪い。
「姫様。マルコフという男をご存知ないのですか?」
ジョージはわたしに訊いた。マルコフと言われてもピンとこない。
「さぁ、知らないわ」
正直に答えた。
「そうですか……」
マルコフって誰だ? そのことは訊いたほうが早いか。
なぜか気になってしまった。
「で、マルコフって誰よ」
そうジョージに訊いた。
「この城の大臣です。ほら、よく王様の近くにいた」
「へぇ、あの大臣、マルコフって名前なん――って、ええ!」
さすがにこれには驚いた。まさか元凶が近くにいたとは……。というか、あの大臣に恨まれていたことに驚きだ。恨まれるようなことはしていないはずなのに。
「マルコフはかなり姫様のことを王女にしたくなかったようです。理由は確か、暴君になりそうだったから、だそうです」
ああ、だからあんなにもわたしのことを睨みつけていたのか。あと、暴君ってなに。わたしが暴君になるわけがないだろう。
「そ、そうなんだ」
でも、わたしのことを暗殺者に依頼するほど恨む人間がいたとは思いもしなかった。あの大臣は相当わたしのことが嫌いだったのだ。
「ちなみにわたしもマルコフに同意できます」
「なっ」
唐突にそんなことを言われたので、一瞬体が硬直した。そしてすぐ、現実に戻された。
「このわたしがそんなものになるわけあるか!」
もちろん否定した。このわたしがそんなものになるわけがない。
「はあ、そうですか」
ジョージは信用していない様子だ。でも、まあいい。暴君にならなければいいだけの話なのだから。
「では、伝えたいことは伝えましたので」そうジョージが言ったあとすぐ、「そうそう、思い出しました」
……ん? いったい何なのだろうか。
「侵入者は三名だったのですが、皆口を揃えて言っていましたよ。『この国の姫様はどこにいるのか』と」
……意味がわからない。わたしがこの国の姫様だということくらい暗殺するのだから調べはするはずだ。
「どういうこと?」
「それはご想像にお任せします」
ジョージは微笑みを見せた。
ん? そういえば、なぜ執事のジョージがこのことを知っているんだ? 執事がそんなこと聞けるわけがないのに……。
「あと、なんでそのことを知ってるの?」
「ご想像にお任せします」
いやいや、そんなこと想像できないから!
「教えてよ!」
「お断り申し上げます」
丁重に断りを入れられた。そう言ったあと、ジョージは後ろを向き、城内に入って行った。
「……わからないよ」
難しい推理小説を読んでいるような感覚になった。
✚✚✚✚✚
王の間にて、玉座に座った王から五メートルほど離れたところに、黒ずくめの男は立っていた。
「今回の事件だが……」
「無事解決しております」
王は安堵した様子だ。あの事件のとき、王は他国にいた。その途中、姫様が命にかかわることに巻き込まれたのだ。しかもその事件の元凶がマルコフ大臣だったのだ。王はそのことを聞いたとき、かなり驚いていた。今は落ち着きを取り戻している。
「それならいいのだが。……警備が甘かったのかな」
王は、あの事件までは警備が甘いという実感はあまりなかったようだ。だが、今回の事件で、警備が甘かったことをやっと痛感してしまった。
「そうですね。警備が他国の城よりは多少甘いかと」
男は正直に言った。
「そうか。……はぁ、兵を雇うしかないのか」
王はため息をついた。仕事が増えるのは面倒くさいからだろう。そこにすかさず、
「それならお任せを」
と男は言った。
「……そうか、これはわたしの仕事なのに。任せるぞ」
実はこの王と男は、昔からの知り合いであった。さまざまな場面で協力しあった仲である。王は、この男のことを信用できた。
「畏まりました」
「それで、娘のほうはどうだ?」
王は男に問う。
「半年前より戦闘力が格段に上がっています」
「そうか。……そういうのはあまりわからんのだが、例えるならどのくらいだ?」
王は首をかしげる。なにせ最近「戦闘力」という単語を知ったぐらいだ。
「そうですね。……暗殺者を余裕で戦闘不能にするとか。無意識に暴走状態に陥るとか。他には、壁を円状に消滅させることですかね」
「……それはあの事件だな」
「はい」
この男の話はすべて本当である。あの事柄はすべて姫様がやったのだ。もちろんあの姫様の戦いは、王はちゃんと耳にしている。
王は姫様と暗殺者の乱闘を想像し、顔が青ざめてしまった。
「……わたしの娘がどんどん人間から遠ざかっていくな」
王は察してしまった。『次に姫様に殴られたときは、間違いなく死ぬだろう』と。
「まだ許容範囲ですよ」
男は微笑みながら、恐ろしいことを言った。
「……まだ強くなれるのか?」
王は目を見開いた。
あの姫様がさらに強くなってしまうと、マルカ王国の騎士団長には及ばないが、警備班を超える戦闘力を身についてしまうだろう。
「わたしの見込みだと……、二年以内には今の三倍にはなるかと」
三倍というと、確実にこの国の兵は超える。間違いなく世界最強の姫様だ。実はこれこそ王が求めていたものだ。
「……そうか、やっと暗殺されないですむのか」
そう、なぜ王がこの男に依頼をしたのか。それはあの姫様を暗殺されないようにするためだ。あの性格では暗殺されてしまう可能性があったため、あらゆる武術を得たこの男に頼んだのだ。
「その通りです」
「……お主に頼んでよかった」
そう言った王だが、姫様に強大な力を握らせてしまったことに少し罪悪感を覚えていた。
「ありがとうございます」
男は軽くお辞儀をする。
「それでだが、あと二年は頼めるか?」
王はさらに姫様を強くさせるため、男に頼む。絶対に暗殺されないように。
「月給さえ上げてくれるのなら」
男は、王に見せつけるかのように笑みを浮かべる。
「……わかった」
王はいったいどこまでこの男に金を払うのだろうか。今では、警備班の約二倍は払っているのである。
「ありがとうございます。……おっと、そろそろ時間ですので。それでは」
男は、いつの間にか持っていた懐中時計を見る。
「あぁ、わたしの娘を任せたぞ。騎士団長、ジョージよ」
そう王が言うと男は即座に、「今は執事でお願いします」と言った。
「すまんすまん。……任せた。ジョージよ」
「畏まりました」
男は軽くお辞儀をした。
✚✚✚✚✚
――数ヵ月後
成長したこと
特になし
「待て! コラ!」
わたしはいつものようにジョージに宣戦布告をした。いつものように追いかけまわし、いつものように殴りかかるのだ。
「ダメですよ、そんなパンチでは。本当に当てようとしているのですか?」
ジョージは挑発をする。これはわたしの能力値を極限にまで高めてくれる魔法の言葉だ。
「ふざけるな! 死ね!」
本気で殺すため、入魂の一撃をジョージに浴びせようとする。だが、
「遅いですよ」
全力を注いだ一撃を、ジョージはひらりとかわす。かわされている間に言われたその言葉に、さらに苛立つ。砂時計のように刻々と時間が進むのと伴い、どんどんストレスが溜まる。
ジョージはわたしに向かって投げナイフを投げながら、さらに速く走る。
向かってくる投げナイフを回避しながら、ジョージにパンチを浴びせるために走っているとき、
「うわっ!」
足に何かが当たる。おそらくジョージが仕掛けたブービートラップか何かだろう。
足を一瞥すると、そこにはワイヤーがまっすぐ引かれていた。やはりブービートラップだったようだ。これは足を引っ掛け横転させ、時間を稼ぎ、そのうちに逃げるためなのだろう。だが、その対策は体に叩き込んでいる。
床に両手を付けた瞬間、勢いよく足を振り上げ両手を床から突き放す。そして、体を反り床に着地した。いわゆるハンドスプリングだ。
「あ、危なかったぁ」
危うく転ぶところだった。ジョージはどんどん走っていく。
わたしはジョージに追いつくため、全速力を出して走る。だが、どんどん距離が離れていく。
やはりさっきのブービートラップが原因か。少し足にダメージを負ってしまった。そのせいで走行速度が落ちていく。
「足も遅いんですか」
「うるさい! 自分から当たりに来い!」
走りながら、目先にいるジョージに言い放つ。
「ふっ、そんな無茶な事はしません」
鼻で笑われた。
「死ねぇぇええええ!」
――パンチを浴びせるため、わたしは毎日特訓をする。新しい技をあみ出し、いつかジョージを殺すために……。
fin.
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