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第四話 喫茶店メロン

 





 はあ、顔が分からないって、どんな勇者だよ。


 中等学園に少しは通っていたみたいだから、その時の写真ぐらいあるだろう。なのにないってことは、余程の写真嫌いか、何かあったか。

 そもそも、勇者をやるのかさえ分からない。



 才能(ギフト)"勇者"を持つ者は、勇者として魔王領に行き、魔王討伐、もしくは魔族討伐、そのサポートをする義務がある。


 ただ、補助金もたくさん出るし、勇者として活動中、魔物を倒して手に入れたお金はチームのものとなるため、怪我などをして引退した後も、安心だ。


 さらに、勇者は世間のあこがれであり、祝福の儀を受ける子供の頃は、勇者になれるとやる気に満ち溢れている子がほとんどだ。



 しかし、彼女は、ほとんど以外の子のようだ。

 別に、怪我をしたとか、何かしらの事情があれば、ならなくてもいいと言う裏技があるが、ただの引きこもりにそれは無理だろう。


 それに、彼女は、両親共に勇者として活動していた。勇者同士の子供とあって、とても期待されていたそうだ。



 父親である勇者イガルザ・シュミールは、勇者として活動中、鉱物型の魔王の攻撃を受けながらも討伐したが、回復が間に合わず殉職。


 イリーナ・ミルルは、呪いの魔王の呪いを受けるも、見事討伐。その後、イガルザ・シュミールと結婚し、子供ができたため引退。



 娘のアイリス・シュミールも能力は高く、同年代の"勇者"と比べても遜色ない、らしい。

 期待されるのも無理はない。

 だが、リカードからは、更生させて勇者として相応しくなるように命令されている。


 それ故に、引きこもりが、かなり響いてくる。


「はぁー、どうしようか」


 さんざん悩んだせいか、いつの間にか行きつけの店に到着した。今どき王都では珍しい木造建築の店だ。基本的に石づくり、もしくはレンガ、また、最近はコンクリートなるものがあるそうだ。

 店の名前は喫茶店メロンと言う。店主のサリエルさんが果物好きで、特に、メロンが好きだからと言うだけで名付けられている。

 しかし、この喫茶店は、変わった特徴がある。もちろん、メニューは普通だ。


 ここには、個室が存在する。


 サリエルさんがスパイものの物語が好きで、いつかその個室がスパイが集まる行きつけの場所になっており、店主はそれを知りながら、黙認する。そうなってくれたら最高と言う、なんとも欲にまみれた部屋だ。


 もちろん、僕らはスパイではないが、ただ、個室は都合がいい。サイラスやヒジュと話すとき人目を気にしなくてもいいからだ。


 また、この個室の存在を知る者は少ない。

 サリエルさんは僕にいろいろ恩があり、優先的に使わせてもらっている。


 いや、ヒジュの名前が関係しているかもしれない。ミカン・ヒジュ、果物の名前が入っている。

 いや何かヒジュには、やたらサービスするし、ヒジュには1人のときでも、歓迎するよ、とか言ってるし。いつか、ヒジュが食べられるんじゃないかとヒヤヒヤする。


「おい、ゼレス、何ぼっとしてるんだよ。さっさと入れよ」


 サイラスか。機嫌も表情もいいし、受かったな。それより、ヒジュはどうだったんだろう。


「ヒジュのことが心配か。あいつも受かったぞ」

「そうか、じゃあ、楽しいお疲れ様会になりそうだな」


 そう言って、店の中に入ると


「もう、そんな細い腕してちゃんと食べてるの?何か作ってあげようか?」

「だ、大丈夫です。ちゃんと食べてますから。ていうか近い、近いです」


 ヒジュがサリエルさんに捕まっていた。

 サリエルさんは、女の人にしては背が高く、ピンクと言うより桃色でゆるふわとした感じの髪だ。かなりの美人で胸が大きく、スタイルもとてもいい。

 さっきから抱きつかれてるヒジュが赤くなっておろおろしている。そろそろヒジュの羞恥心の限界がきそうなので止めてあげよう。


「サリエルさん、そろそろヒジュを放してあげてください」

「そうだぜ、ミカンが嫌がってるだろ」

「え、ミカン君、嫌でしたか?」

「えっと、もう2人がきたのでそろそろ」


 ん?


「ま、ミカンも美人な女性に抱きつかれて内心嬉しかったりしてな」

「ちょ、ちょっと!そんなことないってば!」

「そうなの?もっとくっ付いてあげよっか?」


 んんんんんんんんんんん!?


「ちょ、ちょっと待って。ヒジュ、どう言うこと?」

「なあに、妬いてるの?大丈夫よ、ゼレス君もこともちゃんと好きだから。恩もあるしね」


「いや、そういう事じゃなくて」

「分かってるわよ、珍しく動揺してるわね。そんなに驚いたの?まあ、私も気になっていたから聞くけど、いつから、ミカン君をミカンって呼ぶようになったの、サイラス君。あっ、もしかして付き合ってるの!?」


 えっ!?いやいや、それは無い、無いはずだ、無いよね?


「ぶっ、そんなわけないでしょ!ミカンは男ですよ。いや、ミカンも就職するんだから、いい加減名前で呼ばれるの慣れろって言って」


「そうなんだよね。ここに来る途中でサイラス君と会ってこれからはそう呼んで欲しいって決めたんだ」


「ぼ、僕は?よ、呼んでもいいの?仲間はずれとかじゃないよね?」

「もう、友達関連だと心配性だなあ。えっと、これからはミカンって呼んでよ。」

「分かったよ、ミカン。()のことも、ゼレスって呼んでくれよ。で、でも、友達関連で心配性になったりは、し、してないぞ。アルのやつには、そんな心配したことないし」


 そう、決してそんなことはない、ないのだ。

 それより動揺し過ぎて、一人称が変わってしまった。


 ちなみに、アルは小さい頃の友達で貴族の息子だ。僕がリカードに借金をした後に出会った。正義感の強く、自分がどんなピンチでも他人を思いやれるやつだ。


「うん、分かった、ゼレス」


 これで、みんな名前呼びだな。



「じゃあ、そろそろ始めようか。後、サリエルさん、今日は無理言って時間外に開けてもらってありがとうございます」

「いいのいいの。お金は払ってもらってるし」


「お、そうなのか?ありがとうございます。もしかしてゼレスの奢りか!」

「そんなわけないだろう。後で払えよ」

「分かってるって」

「分かったよ。ありがとうございます、サリエルさん」


 その後は、楽しく過ごした。そして、そろそろあの話を切り出す。


「サイラスもミカンも、実際に仕事が始まるのは、まだ先なんだよな?」

「ん、そうだぜ。4月からだな。あーでも、体作りはしないといけないから、ちょくちょく城の訓練所に顔出せって言われてるな」

「僕も4月からだね。それまでは、今までの復習かな。何かあるの?」


「実は、俺は明後日からもう仕事があるんだ。最初の方は説明が主な内容だけど、過去勇者の情報の確認をしないとな。外には、持ち出せないし」

「えー、もう?さすが勇專だね。それでなにかして欲しいことでもあるの?」

「友達なんだから遠慮なく言えよ!」


「ありがとう。じゃあ、この書類手伝ってもらえるか」


 ドンッ!


 大量の書類を置いた。僕でも驚いたんだ。みんな驚くだろう。


「何、これ?」

「明後日までに提出する書類」

「多すぎだろ。どんだけ大変なんだよ勇專」

「すごいわねー」


 っと、そうだ、機密情報もあるんだった。


「サリエルさん、すみませんが席を外してもらってもいいですか。機密情報がたくさんあるので」

「別に私は周りに喋ったりしないわよ?」

「それは分かってます。ただ、何かあって迷惑かけたくないので」

「それなら仕方ないわね。あっ、それなら夕食もうちの店で食べてく?」


「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて。2人は大丈夫?」

「問題ないぜ」

「僕も」

「じゃあ、私食材買ってくるわね。夕食できたら、呼ぶね」

「はい、お願いします」


 サリエルさんが個室から出ていくと


「それでは始めようか。サイラスは"視覚記憶"で書類に違和感がないか見てくれ。ミカンは、"全方向計算"で書類から今後の予測を頼む。俺は必要事項にサインするから」


「相変わらず、才能(ギフト)を上手に使うなあ。まあ、やってやるぜ!」

「そうだね。僕の才能(ギフト)"全方向計算"を未来予測に使うなんて思いもつかなかったよ」



 サイラスの"視覚記憶"は、見たものを瞬時に記憶するというだけの物だが、今まで見たものと比較することでその違いを素早く見つけることが出来る。

 サイラスは、先頭の役にたたないと言っているが、相手の動きに違和感を持てば、弱点を素早く見つけ、戦闘を有利に運ぶことができる。

 また、指揮する立場でも、相手と自分の軍の動きを見て、相手の策略を暴くこともできる。



 ミカンの"全方向計算"は、数字だけでなく、文字や言葉、見たものなどを数字に置き換え、計算するという物だ。

 ミカンは、何に使えばいいか分からなかったみたいだが、これはある種の未来予測だ。

 全方向から計算することで誤差を少なくし、より正確な未来を予測する。



 この2人の才能(ギフト)があれば、書類にあるリカードが仕掛けた罠に気づくことができる。

 まあ、無いかもしれないけど、やらないよりはやっておいて損は無い。


「いま、パラパラと見たけど、勇者の情報、めっちゃ載ってんじゃん!まじで機密情報なんだな」

「だからそういったろ。それより少し読んだなら、かなりやばいことが分かるだろう。この勇者」

「ああ、やばいって言うか、めんどくさい。でも、こんだけ期待されてるとなると、国は余程期待してんだな」

「最近は魔王領も活発でちょくちょく手を出してくるって話だからね」


 そう、特に、終焉の魔王と言われる、大昔に異世界から来た勇者ナカムラに封印された魔王が、復活するかもしれないと言われているからだ。


 そんなわけで、今まで以上に警戒している。

 だが、今はそんなことよりも書類だ。


「よし、ここからは私語無しでいくぞ」

「おう!」

「うん」


 それから、書類との長い戦いが続いた。










 全員疲れきった頃、扉の隙間からいい匂いがしてきた。


「夕食出来たわよー」


「よし、一旦休憩。もう、無理。死ぬ」

「そうだなあ。ミカン、どんな感じ?」

「こうこうこうこつこうこう」


「あー、これは目がイッてるな。どうするよ、ゼレス?」

「途中で切れると後が大変そうだし。サイラス、先行ってて。後でミカン連れてくるよ」

「りょー解。じゃ、俺は先行ってサリエルさんに伝えとくわ」

「ああ、頼んだ」


 さて、ミカンをどうするか、おっ?


「こうこうこうこうこうこう、こう!   はあ、終わった。あれ、ゼレス君だけ?サイラス君は?」

「夕食できだってサリエルさんが。サイラスは先に行ってもらったよ。立てるか、行くぞ、ミカン」

「もうそんな時間かー、大丈夫だよ。今いくよ」


 そうして、個室を出て腹を満たしにいく。

 その後は、内容をまとめて解散となった。


 ちなみに、リカードの罠はちゃんとあった。おそらくしっかり隅々まで読み込んでいるかを試したのだと思う。

 しかし、時間をかければできるため、それほど大した罠ではなかった。

 多分、忙しくても、気を引き締めろってことだ。


 ただ、まだ書類は残っているので、それは明日やろう。そう決めて、寝ることにした。






 次の日の朝、書類を片付け余った時間を休息に当てる。

 そして、いよいよ初出勤の今日、城に向かって石畳の上を歩いていく。


 そう、これからが、大変なんだ。勇者アイリス、待ってろよ。

 絶対更生させてやる。




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