第三話 勇者専門広報担当員
結局こっちの方が短くなってしまいました。
結果の紙が広げられる。各々自分の結果が出るであろう紙の近くに集まっている。ゼレス・ミラージュやサイラス・トスメス、ミカン・ヒジュもそれぞれの場所で結果を見ていた。
―騎士―
任命者
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「よし、あった」
―財務局―
合格者
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「良かった、あったよぅ」
―広報局―
勇者専門広報科 合格者
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・
・
「ふぅ、よし」
良かった、ちゃんとあって。合格者3人しかいないもんな。まあ、毎年才能"勇者"がいるだけでもありがたいし。
王国だけでなく帝国や魔導国家、商国、宗教国でも"勇者"の才能を持つものはいるが、数は多くない。数十年に1人2人程度だ。
なのに何故ミレユウス王国の"勇者"が多いのか、それは単純に祝福の儀を受ける人数が多いためだ。
うちの国は、大陸の3分の1程の広さを持ち、昔は高い階級の人が受ける祝福の儀をほとんどの人が受けているからだ。
また、約100年前に起こった黄金時代。この時代は、たくさんの天才が生まれ、技術的に大きく発展したため、人口増加、死亡率低下に伴い、祝福の儀を受ける人が増えたのだ。
まあ、後は勇者が現れやすい土地だから、なんていう人もいるらしいが。
しかし、そうは言っても、"勇者"の人数はまちまち。今回は3人だったということだ。
それより、あいつら受かったかな?サイラスはともかく、ヒジュが心配だ。
「っと、もうこんな時間か。早く行かないと」
どうせ、あいつから何か命令される。僕の就職先を決めたやつだ。
全く、子供の時の僕は調子に乗ってた。あいつに借金するなんて。返済のため、命令を聞いているが、事実上の奴隷だ。――――もちろん、この国では、奴隷は禁止されているが――――ただ、今まで不利益になるような命令はされていない。
たとえば、初等学園や中等学園で常に1位を取れとか、国家公務員学院を受験し、合格せよとか、最近は、広報局の勇者専門広報担当員になれとかだ。
あれは1年前の就職先選択のときだ。
2年間の基礎学の後は本格的な仕事内容に必要なスキルを学ぶため、この頃から選択するが、あいつは
「私は今、広報局の勇者専門広報科の科長をしています。そこに入りなさい」
と言って、去っていった。
一体そこでどんな命令をさせるのか、気になるといえばなるが公に命令する立場になったのだ。ここからが本番ということだろう。気を引き締めていこう。
ついに、勇者専門広報科の説明会場だ。他の広報局の合格者たちとは別の場所で行う。
さっそく、扉を開ける。奥には、あいつが相変わらず、何考えてるか分からない、それでも、胡散臭い笑顔で立っていた。目は細く開けられ、仕事用の制服をビシッと着こなしている。大して鍛えられていない体に見えるのに、その威圧感は全く弱々しい感じはなく、妖しく漂っているようだ。そして、
「遅いです。早く座りなさい」
「あっ、はい、すみません」
やはり、借金があるせいか強く出れない。それでも、あいつは気にした様子もなく、
「私があなたたちの直属の上司、勇者専門広報科の科長である、リカード・ランドナインです。これからよろしくお願いしますね。」
他2人の内1人はリカードの雰囲気にひどく緊張しているようだ。
女の方は、赤い髪を短くしていて、気の強そうな見た目をしている。スレンダーながら、なかなか鍛えられた体をしている。流石に勇者専門広報担当員に選ばれるだけあっていい魔力をまとっている。淀みがなく、無駄が少ない。
もう1人の男の方は、それなりに背の高い僕より頭1つ分ほど高い。多分、サイラスより高い。しかし、とてもほっそりした体から、おそらくサポート能力が主体で戦闘能力はギリギリで選ばれたと思われる。魔力も特に見るべき点はない。それにしても、ビクビクしているな。
「一応、確認をします。ゼレス・ミラージュ」
「はい」
「総合成績1位おめでとう。試験、私も見ていましたが、素晴らしい。筆記は皆さん同じくらい優秀でしたが、戦闘力面での君の活躍はとても見事でした。また、珍しく初回合格のようですね」
「ありがとうございます」
褒められても、ちっとも嬉しくない。
「次に、アンナ・メディラ」
「はいっ!」
「総合成績2位おめでとう。昨年は色々ありましたが、今年は受かると思ってましたよ。改めておめでとう」
「ありがとうございます!」
「最後に、ナナト・チキエ」
「は、はい」
「3度目の今年は、最後のチャンスでしたからね。今までのようにアルバイトの時のように、私に頼ってばかりではいけませんよ。ちゃんと勇者を導いてくださいね」
「か、かしこまりました」
あー、そういうことか。リカードの雰囲気に緊張してるんじゃなくて、すでにリカードの性格を知っているからか。そして、それに怯えている。
流れで3位かと思ったけど、ナナト・チキエは総合成績を発表されていない。つまり、コネで入れて、こき使うためか。
いや、ほんとに3位だったかもしれないが、あえて言わないことでそう思わせているのか、どっちにしても本当に性格が悪い。
「全員いますね。それでは、注意事項を1つ」
注意事項?しかも、たった1つ、何を言うつもりだ?
「当然ですが、私には上司がいます。つまり、あなたたちの上司でもあります。しかし、直属の上司は、私です。広報局の上司が、何を言おうと私を通す必要があり、そうでない命令は全て、聞かなくていい」
っな!?
とんでもないこと言うもんだ。周りから隔離して自分だけの部下にするつもりか。って言うか、上司の言うこと聞かなくていいわけないだろ。
「ゼレス君、言いたいことがあれば、言ってくださいね」
バレてる。仕方ない、
「では、広報局の上司、特に、局長が圧力をかけてきたら、どのように対処すれば良いですか」
さあ、どうするつもりだ?
「引き続き、無視してください。あの正義馬鹿、っと失礼、広報局の上司たちは、私が適当に言いくるめておきます。と言うか、勇者専門広報科は他の科とは大きく違うため、そんなに細かく命令する権限はないんですけどね」
掌握は出来ていないが、弱みは握っている感じか。ただし、全員では無いと。だが、時間の問題だな。
それよりも正義馬鹿が気になるな。もしかしたら、リカードには、目障りな存在かもしれない。
ただ、僕も苦手なタイプっぽいからそいつを使って何かするのは難しいかもしれない。後で調べてみよう。
「では、これからの流れを説明しましょう。さっそく、明後日から働いてもらいます。明日は、これから出す書類に必要事項を記入してください。明後日提出です。詳しいことは、各自書類をよく読んでください。明後日は、書類では分からない所の説明と書類についての質問を受け付けます。それでは、」
ドン!
書類が置かれた…
多い……
明日書類を片付けろって、多すぎるから明日全部使えよってことか。
これは、ヒジュとサイラスに手伝ってもらうか。
「それでは、最後にあなたたちが担当する勇者を発表します。」
来た。勇者は15歳になった中等学院を卒業する者が対象となるが、その名前、姿は公開されていない。
担当となる勇者は、5年の準備期間があり、最初の半年は、担当員、つまり、僕たちと顔合わせ、また、軽い戦闘訓練やこれからの方針を立てる。
その後、4年半は仲間を探しながら、戦闘をして力をつける。途中、半年ごとに書面にて報告し、2年後、4年後、5年後に直接、城に行く。
そこで、勇者は、広報局の上司に顔を見せに行く。5年後だけは魔王領に入っても、生きていけるかの試験がある。
ダメだった場合、翌年、また、試験を行う。戦闘だけでなく、筆記もある。かなり、過酷な試験で仲間と共に合格できれば、晴れて正式な勇者となり、世間に公開される。
つまり、僕たちはまだ、勇者のことを何も知らないのだ。さて、どんな勇者が担当になるのか。
「まず、ナナト・チキエは勇者ゴドゾ・ザイガル。彼の情報は先程渡した書類に入れてあります。後で確認してください」
「次に、アンナ・メディラは勇者ニーナ・メディラ。妹の面倒を見れてよかったですね」
「便宜を測っていただきありがとうございます」
そうか、昨年色々あったって言うのはこういうことか。しかし、リカードに仮を作ると大変なことになるぞ。
「最後に、ゼレス・ミラージュは勇者アイリス・シュミール。この勇者はなかなか大変ですので、頑張ってくださいね。なにせ、今まで顔すらわからないので、初等学園に入る前の写真しかありません。中等学園にも途中から通っていないようですし。まあ、詳しいことは書類で確認してください」
は、、、、、、はあ!?