第二話 試験結果の発表
長くなったので、二つに分けました。少し短いかな?
ミレユウス王国の王都ミルフィーユにある国家公務員学院では、今まさに就職試験の結果が発表されようとしていた。
この学院は、王都にしかなく、就職先も王都にあるミレユウス城であるため、いつも学院で結果が発表されている。
そわそわしたり、祈ったり、自信満々だったり、様々な人が結果を待つ中、ここにもその結果を待つ者たちがいた。
あれから、試験は順調に進み、6人まで絞られた。最後の方は教育などのこちらからでは判断出来ないものであったため、その6人から選ばれるだろう。
それにしても今日は、就職先の発表のせいか、周りはいつもより騒がしく、おさまる気配がない。しかし、僕は子供の時、具体的には、5歳になる少し前から決まっていることだ。
いや、より正確に言うなら、その道から外れると恐ろしいペナルティがあるだけだ。一応、来年、再来年にも受けることはできるが、早いに越したことはない。それに、やはりペナルティは恐ろしい。
やっぱり緊張するとため息をついているところ、
「よう、ゼレス。お前は余裕そうだな、羨ましいぜ」
「当然じゃないかな。ミラージュ君は、この学院の数少ない、授業料免除の特待生なんだから」
と二人の友人に話しかけられた。サイラス・トスメスとミカン・ヒジュだ。
最初に話しかけたサイラス・トスメスは、金色の短髪に青い目、がっしりとした体、派手な服を着た、国家公務員学院の中でも少し特殊な騎士科に所属する脳筋なやつだ。
しかし、この学院に入れるだけあって頭はいい。騎士になるのは、子供の頃からの憧れだそうだ。ただいつも思うのは、いくら服装自由とはいえ、規律正しい騎士科にそんな派手な服装で大丈夫かと思うが、これでも教師たちの評判はいいみたいだ。
後に話しかけたミカン・ヒジュは、落ち着いた緑の髪でこれまた、緑色の目、ほっそりとしていて中性的な顔立ちをした男子だ。名前と相まってよく女の子と間違われる。僕と同じ普通科だ。計算が得意で、趣味は読書だ。
僕も少し反論して、
「まあ、確かに余裕で受かると思うけど、俺のところはちょっと特殊で、基準が分からないからな。何とも言えん。それより、サイラスの方が余裕だろう。以外に頭いいし」
「おい、どういう事だよ、それ」
サイラスがちょっと怒ると、
「ははは、仕方ないよ。いつも派手な髪と服装でいるからね。どうしても遊び人に見えちゃうよ」
「別にいいだろ。服装自由なんだから。派手なやつが好きなんだよ」
ヒジュが僕に同意し、サイラスが言い訳っぽく言って、拗ねる。筆記の試験がある時のいつものやり取りだ。
ちなみに、普通科も騎士科も最初2年はミレユウス法律基礎学を学ぶ。そこで、僕らは知り合って、つるむようになった。
すると、サイラスが、
「それより、ヒジュ。おまえはどうなんだよ。計算ばかりで他の教科危ないだろ」
「ちょっ」
「それもそうだ。ヒジュ、大丈夫か?」
と言い、僕もうなずく。
「2人程じゃないけど、僕もそれなりに勉強できるからね!」
「でも、小テストで赤点の時あったよな。あのときは、びっくりしたぜ」
「あー、そんなこともあった。でも、あれは成績に関係ないやつで良かったな」
「もう、分かってるよ。だから、僕の才能"全方向計算"が生かせそうな、財務局に就職先を選んだんだから」
と言っているが、少し心配そうだ。
「まあ、才能でいえば、ゼレスがやっぱ1番いいよな。俺なんて"視覚記憶"だぜ。戦闘では大して役に立たないっての」
「そうだね。ミラージュ君は才能"万能Ⅲ型"を持っているからね」
「確かに俺は恵まれた才能を持ってるが、その人の中で最も優れた才能を示しているだけで、その上限は人によって違うだろう。それに2番目にいい才能が最も優れた才能に匹敵することもある」
「それもそうだけどよお、ゼレスは万能型なんだからあんま関係ないだろ」
「そうだね。それに努力のしないと意味無いしね。あくまで、伸び率と上限が他のことより高いってだけだからね」
そもそも、これらの才能は、神から与えられたと言われている。
その才能は生まれた時からあり、5歳の時に受ける祝福の儀によって判断される。
その中で優れた才能は国に報告される。僕もその1人だ。特に・・・
「ま、才能と言ったら、やっぱ"勇者"だろ」
そう、その才能の中で最も栄誉ある才能が"勇者"である。才能"勇者"は他の才能と少し違うが、基本的には、戦闘に特化した才能だ。
また、"勇者"には魔王討伐のため、特別手当が渡される。
そしてそんな"勇者"を専門に担当する役職がある。
「勇者と言えば、ミラージュ君はなんで"勇者専門広報担当員"を選んだの?他にもやりがいのある仕事は、いっぱいあるのに」
「それは俺も気になってた。勇専って勇者に戦闘を教えたり、宿を取ったり、武器を仕入れたり、道具の仕入れのために交渉したり、仕事を斡旋したり、仲間を探すために奔走したりって、多すぎだろ!?」
勇者専門広報担当員とは、勇者のサポートをしながら、その姿を記録し、勇者の功績を残すことだ。
別に広報がやらなくてもと思うだろうが、過去の国王が「実際にその姿を見たものだけが一番正確に表すことができる」と広報局が行うことになった。
しかし、勇者に戦闘までついて行くのは大変であるため、その専門の勇者専門広報科ができたのだ。
「でも、ぴったりだろ、"万能Ⅲ型"を持つ俺には」
「う。まあ、才能で見ればぴったりだな。でも、ちょー似合わねー」
「そう、だね。ミラージュ君は、人付き合い苦手だし、腹黒いし、何より優しくないしね」
「おい。ちょっと、俺の評価酷くない。そんなふうに思われてたの?」
甚だ心外だ。"万能Ⅲ型"を持つ僕に欠点などないというのに。
「ゼレスは何でもできるけど、性格が悪いからな。ヒジュが言ったこと否定できるか?何人がおまえのこと嫌ってることやら」
「それは仕方がない。俺が気に入る者が少ないからだ。俺は悪くない」
「じゃあ、商会1つ潰したことはどう否定するの?」
「俺がお金稼ぐために、色々売ったら足元みてきたからだ。うっかり潰してもしょうがない。それに違法なやり方はしてないし」
「「じゃあ、能力や才能目的で友達になろうとしたのは?」」
「あーもう、分かったよ。確かに似合わないよ。認めます。だから、もう、それ言わないで。今はちゃんと友達だろ、だよね…」
「はいはい、ちゃんと友達だぜ。俺たち以外だと後1人しか友達のいないゼレス君。だから、ちゃんと理由教えてくれよ」
ひ、酷い。小さい頃からギャンブルしてたせいで人をなかなか信用出来ないだけだ。
でも、勇者専門広報担当員を志望した本当のことを言うわけにはいかないしな。どうしたものか。
「うーん、スリルが欲しかったんだよ、戦闘での。それに能力があったら、やっぱり使って見たくなるだろう。自分はどこまで通用するのか。それに調子乗った勇者を戦闘訓練の名の元に憂さ晴らしできるし」
「お、おう。なかなかえげつないな。でも、それなら騎士科でも良かったんじゃないか。戦闘といえば騎士科だろ。ま、他にも魔法科もあるけどな」
「多分だけど、ミラージュ君は賭け事のようなスリルが欲しいんじゃないかな。騙したり、嘘ついたりするの好きだし」
「あーなるほど。よくわかったわ。確かに騎士科には合わないな。でも、それじゃ、政治家はどうなんだ?スリルはありそうだし、騙し合いとかもありそうだぞ」
「でも、うちは王政でしょ。民主主義じゃないからね。政治について意見を言っても、最終決定権は王にあるんだから」
「おいおい、言いたい放題だな。でも、そういう理由で勇者専門広報担当員を志望したんだ」
やっと納得してもらえたみたいだ。
すると、前方が騒がしくなった。ようやく結果の発表のようだ。紙を持ったたくさんの人たちが横に並び、その中から音を増幅する魔道具持った人が前に立った。眼鏡をかけたちょっとキツそうな女の人だ。
「今から結果を発表する。自分の番号があった者は、速やかに各局に別れて今後の説明を受け、無いものは、今後続けて在学するか、卒業するか選んで1週間後までに報告してくれ。惜しくも就職を逃した者にはまだチャンスがある。アルバイトとして雑用を任せたいという局があるため、それに選ばれた者は別の場所に発表する。希望する者は、これも1週間後までに報告してくれ。以上で説明を終了する」
そう言うと、すぐに立ち去った。そして、また別の人が
「では、発表しまーす」
と言うと、持っていた紙を広げた・・・・・・
「えっ、タイミングどうなってんの!?」
サイラスがまず反応する。確かに気の抜ける発表だ。しかし、結果を見に行かないとな。周りも驚いているが、そろそろ動き始めた。
「じゃ、自分の番号見て説明受けたら、いつもの場所でな」
そう言って、結果を見に行くために、サッと立ち去る。
「おい、ちょっとゼレス、待てよ・・・・・・ったく、相変わらず余裕そうだな。あ、そうだ、ヒジュ。おまえもいい加減慣れた方がいいと思うぞ」
「どういうこと?」
「後でなーミカン君。」
「ちょっと!名前で呼ばないってば!って、そういうことか、もう。サイラス君も後でね」
そして3人はそれぞれの発表場所に散っていった。