飲み物は、シュワッと爽やかファン〇オレンジ!!
どうも、今リアルにタイトルの清涼飲料を飲んでいる私です。
これ美味いですよね。私も好きで思い付くまま買って飲むときがありますが、実はこの飲み物、発祥は第二次大戦中のドイツで表題の正式な宣伝文句である、スカッと爽やかな会社のドイツ法人が、コカコr的な原料が輸入できなくなったので、やむなく手に入りやすい品から作り出した名品です。
その後、粉末化されてドイツ軍のレーションになったり、色なしの透明なレモン味がス〇ライトとして販売されたりと、世界中で飲まれなじみの深い飲料となりました。
おいしいからね、仕方ないね。
とか、どうでもいい知識を披露しつつ、第八話の始まりです。
では皆様、お楽しみくださいませ。
「でさ、あんたたちこれからどうすんのさ。まあ、あたしはここから逃げ……。まあ、なんでもないんだけどね。ああ!うま♪」
透明な器に満たされた黄色い泡ぶく飲み物を一気飲みして、女の子は満ち足りた表情を見せる。
「わチはボチボチでんナ♪お侍さんはドスル?」
同じく飲み物をぷはぁ~っと飲み干した熊襲が、俺になんか言って来た。
「ねえアントニー。前から気になっていたんだけど、なんで古代人のコスプレオヤジが寄りにもよってお侍さんなのさ?」
「オオウ、アナタは見てなかたネ?ポリスメンに取り囲まれてたお侍さんヲ」
「だからさ、あたしは理由を聞きたいのさ。どうみても埴輪の鎧なし人形みたいな恰好じゃんか」
「NON!お侍さんカコよかタ♪刀持ってロングボウ持ってカブトかぶティ♪」
「はあ?お前どこでそんなの見たんだよ?」
「大通りデ見タ。ホンモノ刀抜いて鎧着テ、戦争始めル前ミタイだたよ?」
いつもながら思うんだが、いい加減こいつら現地語で話すのはやめてもらえないかな。
俺はほとんど、というか全くと言っていいくらいに話が分からないんだから。
「わチがCardboardカラおにゃのこのThigh(太もも)をSnipe(狙撃)してたラ、LookしタYO♪」
「おめェ~よ。やっぱり盗撮してて捕まったんじゃねェ~か!!」
「オオウ!ソウ!わチはバチリSnakeしてタのに盲点でシタ♪」
「お前は大人しく逮捕されてろ!そして永久に国外追放になってしまえ!!」
「OHザンネンネ♪ポリスメンにつかまタラ、刑務所行きデェ~す♪二ホン出ないYO♪」
「うがぁぁああぁああ!!この野郎!日本から出てけェ~変質者ぁ!!」
また言い争いを始めた女の子と熊襲ではあったが、女の子の話ぶりは兎も角、相変わらず熊襲のしゃべりは余りにも独特過ぎていて、聞いているだけで頭が痛くなる。
それにしてもなるほど、女の子が牢屋に入れられていた理由がわかった気がする。
この娘は気性が物凄く荒々しい。
恐らくだが誰かと同じように言い争うかなんかして、相手を散々に打ちのめした挙句に、あの官の役人に捕まり牢屋に放り込まれたのに違いあるまい。
左様な事を考えつつ、俺にも注がれていた黄色い液体が詰まった器を手に持ち、またも取っ組み合いを始めた二人を生温かく眺める。ほどほどにしろよ熊襲よ、とかも思いながら。
それにしても何なんだろうか、この飲み物は。
俺は黄色い液体が注がれた器物を手に包み、それを上にしたり斜めにしたりしながら覗き込む。
「おまつぅましつぅく、すまふたけなはかしこまる。こ、くゎうみじゅやなそなり。をしふへし」
(仲良く争っている中すまないが、この、黄色い水はなんなんだ。教えてくれ)
ついっと覗き込んでいた器を、掴み合いからこそばし合いに変化を遂げていた彼らに差し出して問う。
「はあ?誰がコイツと仲良しだ!なめんな!」
「OH!my vest friend♪♪ちゅッ、ちゅッ!」
戯れのつもりか、熊襲は女の子に近寄って口吸い(ス)を強要する様なそぶりを見せる。
「去ね、熊襲!!」(死ね、熊襲!!)
ボカン!!
言い終わるなり、女の子は思いっきり拳を握り熊襲の顎に振りかぶって叩き込んだ。
「アウチ!ChinはOut…YOおおお!!オフぅン♪」
言い終わるなり、熊襲は尻もちをつき目を白黒させている。
「ふん!参ったか」
「マイタ…よ」
たった一発の拳骨で屈強な熊襲を打倒しやがった。
確かに、アレを野放しにするのはハゲアリハゲナシケナシ……。いんや、ちょうだったな。でなくてもこりゃ、牢屋にぶち込みたくもなる気持ちになるな。
「なね、いまたわとひに、いらへしなしや」(あんたね、未だ俺の質問に答えがないんだが)
堪らず俺は女の子に催促をする。
「ああん?……あなかな、しばし待て」(ああん?……ああ、しばし待て)
そう言った女の子は、まだくらくらするのか、しきりと首を振り両手で頭を包みこんで、揺れる脳みそを抑えるような仕草をしている熊襲を、得も言われぬ、そう鬼神も如き形相をして見下していた。
「なぁアントニー」
「…ハイ」
「もうあんな、エロふざけた真似はしないと誓うか」
「デモ、アレcommunication…で」
「うん?」
「モウシません」
「本当か?」
「YES!My lord(御主人様)」
深々とだんぼーる床に頭を擦り付け謝る熊襲に「よし」っと、俺でもわかる言葉を発して許したらしい。でもいいのかそれで、あいつ絶対謝って気がするんだが?
「で、今度はお前だ。軍人よ、そはファン○オレンジとふ甘し飲物なり」(軍人よ、それはフ○ンタオレンジという甘い飲み物である)
向き直った女の子は俺を見上げこう言った。
すかさず土下座していた熊襲は、伏せた姿勢のまま女の子ににじり寄り、白く長い着物の裾をめくろうと手を伸ばす。
「うん?」
女の子が振り返ると、熊襲は綺麗に元の位置で土下座姿勢に戻ってるんだから、コイツの性根は死なんと治らないんじゃないだろうか。
まったく、羨ましい性格をしておるな。
「ふむ、ふぁぬたをれんぢ…。なるか」
甘しと言うなれば、飲んでおいて損は無かろう。
「つぁば、ぴとぶくす」(では、一服)
ガッ
床に座り直し、黄色い飲み物で満たされた器に口を付け、今まさに飲もうとしたところを狙って女の子が膵臓のある脇腹に蹴りを入れてきた。
「なそす」
軽く左手で払った俺は女の子に訳を問い質そうとしたが、肝心の女の子は床へと回転して頭から転倒してしまい気を失ってしまったらしい。
「ん?こみじゅ、うまし!!」(ん?この水、旨い!!)
俺は気にすることなく、この口中と喉をシュワシュワさせ刺激する、頗る甘い謎深き飲み物を堪能する。
これくらいであの娘がどうにかなってしまうなどとは、全然思えないからな。
「ダイジョブ、息しテル♪」
熊襲は女の子の裾に網目の付いた腰巻を捲り、中を覗きながら安否確認をしていた。
コイツの性格、ホント羨ましい。
「くまそ、こ、ふぁぬたおれんぢなるおんものの、しろなしや」
(熊襲、このファンタオレンジなる飲み物の、御代りないか)
楽し気な熊襲の御相伴に預かりたいが、今はこの飲み物の夢のような味と飲みごしを堪能したい。
そう願った俺は、言葉が通じないであろう熊襲に対して身振り手振りで伝えた。
「そこにアルヨ、てきとに飲んデ♪」
気を失っている女の子を抱き起した熊襲が指示した木机の横に、ふぁぬたおれんぢの入った容器が置かれていた。
いつもながらこの国の文化文明の高さには驚かされる。よもや透明なのに柔らかく彩も豊かな容器に入れられているなどとは、夢にも思わなかった。
それにしても、熊襲は何をしておるのだろうか。
俺はふぁぬたおれんぢの容器の柔らかさを、ペコペコ音をさせながら楽しみつつ中身を器に注ぎ、熊襲の方を眺め見た。
「OK!コレで風邪ひかない」
熊襲は女の子を自分の寝床に寝かせて、こちらに戻って来た。
コイツのことだからてっきり悪戯でもするんではないかと思っていたが、どうやら、そのつもりはなかったようで安心した。
「お侍さん、news見ヨ、news♪」
「なそ、にゆうす?」
「ソソ、にゆーすネ。ポチっとナ」
熊襲がおもむろに木机に向かい、その上に置かれていた幾つかの黒き箱の中から、薄っぺらい板状のものに手をかけ開き何かを押した。
ブーーッ!!
思わず口に含んだふぁぬたおれんぢの黄色い霧を噴き出してしまった。
「お侍さんキタナイ、あとデ拭くんダYO!!」
不平を言っているらしい熊襲を押しのけ、俺は板に釘付けになる。
『では、ニュースウルトラセブン。トップニュースはこちら……』
俺が霧を生み出したのも無理はないだろうが、アホ熊襲。
黒いだけの四角い板が光ったと思うや、年増だが見目麗しき女が現れ、いきなりしゃべり始めたんだから、びっくりしてしまったのも無理からぬことだろうが!!
そんな驚天動地の俺を見て、ニヤニヤする熊襲。
どうやら俺はくそ忌々しい熊襲の呪いにかけられてしまったらしい。