ここは、逃げるが勝ちと心得たり!!
皆様、おこんばんわ♪
私です。
さて、第六話の発送となりまするぞよ。
いつも楽しんでいただけてますでしょうか、どうでしょうか?楽しんでいただけてたら幸いです。
そういえば、テレ東、某けものが友達なアニメを流しましたね。流石です。ありがとうございます。
この場を借りて、御礼申し上げます。
てな訳で、今回もお楽しみくださいませ♪
「ちよちゃん、なんのつもりだ」
ハゲアリハゲナシケナシこと、ちょうの周りで黒い物体を構える揃いの衣装男共を抑え、俺が背負う女の子に落ち着いた口調で話しかける。
だが、女の子は顔を真っ赤にして涙を流しえずくだけで、まともな言葉が出てこない。
「わチ、シラナイ」
代わりに熊襲がなにやら答えた。
「そうか、ではそこの銃刀法違反容疑者。なんのつもりだ」
上から目線で睨むハゲアリハゲナシケナシ。おっと、ちょうは、右手で掴む黒き物体の穴が黒丸に見える程に正確に俺の顔に照準を合わせた。
もしや噂に聞く弩とか言う弓か。
「くまそ!!」
「まぁ~かセティ!!」
俺の背中を蹴り上がり空中に躍り出た熊襲は、逆さで一回転しながら黒々とした弩を蹴り飛ばした。
バン!!
「うお!」
「ヒョオ~ウ♪♪」
「がぁ⁈」
びっくりしたびっくりした!!
突然の閃光に耳をつんざく破裂音。なんだ、あの武器は??
光の速さで飛び出したらしい小さき矢は、牢屋の鉄棒に当たり無垢の鉄の輝く地肌を覗かせている。
ふむ、なかなかの威力で恐れ入る。
「抵抗する……かはぁ⁉」
ハゲアリハゲナシケナシ、えっと、ちょうとやらを体当たりで階段から突き落とし、揃いの衣装の男共をも熊襲と共に払いのけた俺は、階段の出口から夕陽差し込む建物の一階に躍り出た。
周囲には、これまた見ようによっては俺の国の衣装である貫頭衣に似た、色とりどりで模様も様々な人々の狭間を力任せに潜りぬけると、ここの出口らしき、互い違いに配置された透明で摩訶不思議な扉を打ち破り、それによってやっと表に出ることができた。
「う、まばゆし…!」(う、まぶしい…!)
半日振りの天光は、夕日と言えども侮れぬな。
「お侍さん、わチについてクル!」
頭がくらっとした俺の背中をドンと叩き、手招きしながら猛然と腕を振り駆ける熊襲に、他に行く術すらない俺は素直に従う事にする。
「ハヤク、motto ハヤク!」
急かされるままにハゲアリハゲナシケナシ、いや、ちょうの住まう均等な石造りの官(やくしょ)の門を一気に通り抜ける。
それにしても熊襲の奴、なんて足の速さだ。
「「貴様ら待てェー!!」」
揃いの衣装の男共は、手に手に何か得物を持ち追いすがるが、それがみるみる引き離されていくのだから大した健脚で、遂に石作りや板を張り合わせた建物の間の細き道を行き交う民草の群れを掻き分け、そのうちに人気のない場所をあちらこちらと駆け抜ける間に、揃いの衣装を纏いし奴らの姿はおろか、その怒声や足音すら聞こえなくなってしまっていた。
「お侍さん、ココいくカラ」
「ん?ここはいりしか?」(ん?ここにはいるのか?)
熊襲が息も大して切らさずに指示した場所は、石が組まれた小川沿いの、まるで黄泉の国の入り口を小さくしたような、暗く湿った丸い穴であった。
「くまそ、だいじなきや」(くまそよ、だいじょうぶなのか)
「OK OKよ。Allright let(行)‘go♪ あと、クマシネ♪」
「お、おう」
よく分からぬが後に続けと申しておるみたいだな。
意味も解らぬままに背中を押され、泣きじゃくる女の子をしっかりと肩に抱き直して、狭く暗い穴を熊襲の足音を頼りに恐る恐る前へと突き進む。
それにしても足元を流れる水がなんとも臭く、蜘蛛の糸も蜘蛛ごと身に絡みつき、とてもではないが快適とは云えぬ環境だ。
「コレでダイジョブ」
後方に一旦戻り、ガチャンと穴の入り口を目の細かい網鉄で拵えられた蓋を閉じた熊襲が、軽快に口笛を吹きながら気軽に、だが素早く帰ってくる。
「さすが、くまそをなり」(さすがは、くまそのおとこだな)
思わず感心した俺は、熊襲に言われる通りに真っ暗な穴倉をくねくねと進み、やがて広やかな場所に出た。
といっても、熊襲が入口らしき鉄板を蹴り開けてからではあったが。
「ついタヨ。お侍さん」
「ほう」
辿り着いた場所は奥行きは三尋あるやなしやの広さの明るい部屋で、高さは俺が立てるかどうかの造りをしており、床が枯れた草を踏み固めて作った色合いをした板状の弾力ある敷物が、部屋一杯に敷かれたところであった。
「ふむ、いへゐにやむごとなし」(ふむ、住まいとしては申し分なし)
俺が部屋を見回し鷹揚に頷く。
「ユクリーしてネ」
熊襲も俺の感想に満足げだ。こやつの言葉は相変わらず分からんが、たぶんそうだ。
「うそおー!人殺しに攫われて下水通って段ボールハウス来ちゃった!!」
「これ、あがりつぁわくてなし」(これ、たちさわぐな)
肩の上で目を剥き暴れる女の子の頭をあやすように撫で、ゆっくりと床に降ろそうとするが、「わあわあ!コラ放せ!放しやがれ!!」とか、「これって今気づいたけど、拉致じゃん監禁じゃん!拉致監禁じゃん!それって重犯罪なんだぞぉ~!!」と、意味の解らぬ言葉を発して足を床に付けまいと尚もジタバタ暴れるので、無理やり両手で細き腰を掴み蹴られても怯まず、力任せに押し付けるようにして座らせた。
「うえっ、ばっちい」
さっきまでの泣きべそや暴力は何処に行ったのか、可愛らしい女の子は眉をひそめ口をとがらせ大人しくなった。
「力じゃ勝てない。隙を窺うしか…」
俺には女の子の現地語の意味が分からんが、何やら考えを改めたらしいな。ふむ、ならば少し熊襲への無礼を諭してやるか。
「めのこ、つぁやういとうなかれ。よきいへゐなるへし」(女の子よ、そんなに嫌がるな。良い住まいではないか)
「はあ?あんたいつもどこに住んでんのさ!」
真っ赤な顔のままで涙をぬぐいながら抗議して来る女の子は、白き肩口と合い見えて、なんとも可愛らしく感じてしまうのは可笑しき事であろうか。
「ぬしかけとば、わかぬ」(あなたの言葉、分からない)
困惑する俺を見かねたのか、女の子は一度口をつむり、再度また口を少し開きこういった。
「あ、常に住まう家居は、如何なるところか?」(あなたが、いつも住んでいる家は、どんなところ?)
「わ、すまふところ、つちうかちてたいらげ、ぱしらたて、くさぷきかこういへゐなり」
俺はちゃんと答えたのだが、言葉が少し長かったのか、女の子はまたも腕組みをして顎に手を当て小首を傾げ考えている。
「あっ!そうか、土を掘って平らにして柱を立てて、最後に囲うように草を葺いてって、それ竪穴式住居じゃん!あたしをバカにしてんのか!!」
またしてもプリプリ怒り始めた女の子は、ふん!ふん!と、鼻息荒くドッカと〖だんぼーる〗とか言う名の品で作られた床に寝転んだ。
どうやらこの子は怒りが募ると、今までの出来事をすっかり忘れてしまう質らしい。
「ネ、ネ.お侍さん。こっちこっち、イイの見えるヨ♪」
「なそ?」
熊襲が部屋の奥の石をのけ中に入り、なにやら俺を誘う。
「おおう!!」
「ネネ、イイでそ♪」
熊襲に連れられ入った場所は、人二人がやっとといった狭苦しき穴倉であった。
だが、熊襲が腕を上げ指し示す天井に広がっているのは、まさに極楽とも言ってもよい景色で、男もいるが、それよりも多くの女が、しきりと色とりどりの腰巻きをヒラヒラさせては、やたら道を行き交うという、なんとも素晴らしき場所であったのだ。
「な、ナニ見てるのよ?…えっと、なにまもりし?」
「めのこ、なんでふこぉのくにめ、したころもをつけり。まことはあいなし!」(おんなのこよ、このくにのおんなは、どうしてしたぎなんぞつけているのだ。ぜんぜんおもしろくないぞ!)
「穴倉の隙間から他人のスカートの中覗いてんじゃねェよ!!!」
「あてっ!」
女の子が履いていた履き物の固い出っ張ったつま先が額に当たり、思わず声を上げてしまった。
なんなんだ一体、相変わらず訳が解らん国で困ってしまうわ。