死人に大蠅が付いたら、叩き潰せ!!
今日は日曜日!!
サザエさんが流れだしたら、めっちゃ憂鬱になる日~。
やってらんね~。何故に宝くじ当たらないのか~。
そしたら~、日曜日の無敵のサザエさんも怖くないよ~!!
やあ!皆さま、第五話の発送です。
上古の勇者様が、自分の役割通りの行動をとり始める話になります。
では、お楽しみくださいませ。
ゴン!!
「おい、どうした⁉」
不意に階段を滑る様に倒れ、したたかに頭部を打ち付けた若いのに、ハゲアリハゲナシケナシが駆け下り耳元に大声で話しかける。
「こら、やめろ!」
ハゲアリハゲナシケナシと同じく、若者の傍に駆け寄り抱き起そうとした揃いの衣装の男を怒鳴る。
「頭を打ってるんだ、不用意に動かすもんじゃない!そんな暇があるなら、早く救急車を呼べ!!」
「は、はい!」
衣装男はハゲアリハゲナシケナシに何かを窘められたのであろう、階段を素早く駆けあがっていく。
「その人、大丈夫なの?」
「まだ、分からん!」
女の子が聞き、ハゲアリハゲナシケナシが応える。
「さのただむきかきじゅ、わにみせるへし!!」(そいつの腕の傷、俺に見せろ!)
俺は思わず叫ぶ。
感通りならば、えらいことだ。
「ネェ、お侍さんナンか、いてるヨ」
熊襲は状況に驚くでもなく、気の抜けた話し方で女の子とハゲアリハゲナシケナシに対して、俺が何かを訴えていると問うているようだ。
「ちょっと二人とも黙っててくれないか、緊急事態なんだからね」
ハゲアリハゲナシケナシは大きく息を吐き出し若者の口に頬を近付けたかと思うと、手首と首筋に指をあて脈を図りだした。
「息も脈もない。くそ、まだ救急車は来やがらないか!」
地上につながる階段の、その先を見詰め大声で吠える。
「ちょっとチョーさん、あたしを表に出して!AED取って来るから!」
「鍵なんざココにはない!わしがやるからお前は大人しく座ってろ!」
そっと若者を横向きに寝かせたハゲアリハゲナシケナシが、いや、ちょうさんとやらが立ち上げり、何かを探し始めた。
これならば腕が見えるかもしれぬ。
俺は鉄棒にめり込むほど顔を押し付け観察した。
「なふぉ…」(やはり…)
戦場で幾度も眼にしてきた、薄く歯型の付いた青白い傷が右腕にあった。
「ひつぢゃうなるへし」(間違いない)
これは屍人に噛まれた跡だ。
「くそったれ、ここにはないのか、なら上か!」
叫ぶなり、猛然と階段を駆け上がるハゲアリハゲナシケナシを見送り、俺は「うむ」と覚悟を決めた。
「どうしたコスプレおっさん」
女の子が俺に何か質問があるらしく尋ねて来るが、これからすべきことを考えると心が苦しくなる。
「な、なそ?」(な、なんだ)
「今さっきそいつの腕を見せろって言ってたか…ら……。えっと、あたしの古語が通じるかどうかは知らないけど……」
「ん?」
女の子が現地語で何かを呟きかけてきたが、すぐやめた。なんなんだろうか。
「こほん。そこな軍人、先程ただむきがきずを見せと申すが、如何なるよし」(そこの軍人、先程腕に傷を見せろと言ったが、どんな理由があってのことか)
女の子の言葉はたどたどしく、訛りもひどいが何とか聞き取れた。たぶんだが、腕の傷を俺が気にした訳を問うておるに違いあるまい。ならば俺からの答えはこれしかあるまい。
「ありなし、なふぉにこたえむ。そこなわかうと、おそらくしかばねぴとにぱまれしとみゆ。しかるあひだ、おぞけししかばねぴとならむ」(うむ、偽りなく答えよう。そこの若者、恐らく屍人に噛まれたみえる。やがては、悍ましき屍人になるだろう)
女の子は俺からの返答にやや窮した様子で、しきりになふぉだの、おぞけししかばねびとだのと反芻しておったが、やがて理解したらしく、今度はこう俺に尋ねてきた。
「彼の者、既に身罷りしか」(この人、既に亡くなったのか)
「ありなし、うしとおもひしか」(うむ、辛いであろうが)
「うし?」
「わかぬ?」(分からないか?)
「かしこまり」(ごめんなさい)
「さらば、うらかなしでは?」(それならば、心悲しいでは?)
「さらば、知らえぬ」(それならば、知ってます)
「さか、よかりき」(そうか、良かった)
俺は言葉が通じたことに安堵し、微笑みを浮かべる。
この国に来てさほどの時を経てはいないが、ここに多少ながらも話が出来得る者を見つけたのは、まことに嬉しき限りだ。
これも天照大神のお導きか。
いやぁ違うな。導きなれば斯様な言葉も碌に通ぜぬ国に飛ばされる筈もないか。
とすれば、黄泉の国の入り口にて出会いし彼の祟神の仕業か。そう考えれば合点がいくか。
「ねえアントニー。あたしコスプレオヤジの言葉がわかるかも」
「マジっすカ!」
心底から驚いた表情の熊襲をよそに女の子は、腕を組み顎に手を当て俺の言葉の意味を口にしつつ、何かをしきりに考えている様子だ。
「さることより、こやつ、なにとかすへし」(そんなことよりも、コイツを何とかしないといけないな)
そう言って俺は部屋と廊下を遮る鉄棒の柵に手をかけ、弱いところがないかを探る。
「如何に如何に?」(どうしたの?)
俺の態度を見て、不審に思った女の子が問う。
「こふぉす」(壊す)
俺はこう応える。
「はい?」
「ここ、よわげなり」(ここが、弱いな)
グッと、鉄棒を握りしめ左右に激しく揺さぶり力を込めた。
ガキン!!
鋼が悲鳴を上げ、鉄棒と鉄枠で作られた頑丈な扉が歪みたわんだ。
「もそっと」(あと少し)
クワァン!
扉と鉄枠を繫ぐ蝶番が僅かに裂け、中に仕込まれていた細い鉄棒が曲がりはずれた。
「えたり!」(上手くいった!)
「「ちょっ!!」」
熊襲と女の子が驚き慌てている。なにをそれほど驚くことがあろうか、鉄づくりとは云え弱き箇所を突いただけのこと、さほど騒ぐことでもあるまいに。
「オヤジ!バカ力過ぎる!」
「オオウ…フウ。ハルク!!スーパーマッ!!」
だから騒ぎ過ぎだ。熊襲に至っては訳が分からぬ騒ぎぶりだ。
「つぁて」(さて)
表に出た俺は、外側から同じ方法で女の子を手早く牢屋から出し、また地に這ってまで懇願されたので、止む無く熊襲をも表に出してやった。
「うわああ!やべえ!リアル重犯罪者になっちまったよ!どうしよう!!!」
「ありあとう!ありあとう!ヒャッハー!!Kumaso freedom!!!」
「さればよ、くまそなりぃ!!」(やっぱり、熊襲じゃねーか!!)
「NON!NON!look look mouse……KU・MA・SI♪♪」(ちがう!ちがう!口見て見て。く・ま・し♪♪)
「なにかはらだつなり!!」(なんか腹立つんじゃ!!)
「なりなりアホか!あたしはそれどころじゃないんだよ!!」
今にも取っ組み合いに発展しそうな俺たちの頭を、飛び飛びしながら順に叩いた女の子は、俺の首根っこに両腕を絡ませ顔を間近まで近づけこう言った。
「あ、あぜ企てり」(あんた、何を企んでるんだ)
「わ、なそくはたてなし」(俺は、何も企んでおらん)
実際、屍人を早急に何とかしないとしか考えておらん。
それにしてもこの女の子、とっても甘い匂いがする。
「ふん」
女の子は、白々しいと言った表情を浮かべ鼻息を鳴らした。
どうしたのだろうか、これまでも斯様な乙女を愛でてはきたが、こんな体験は初めてかもしれぬ。
だが、今はその時ではない。
おもむろに立ち上がった俺は、倒れピクリとも動かない若者のもとに片膝で座り辺りを窺う。
よし、禍し集う大蠅は取り付いてはおらぬよう…だ……。
ブ、ブブブブ……。
「鼻の穴の中に…おっきな蠅が、なんで?」
女の子が言うが早いか、俺の拳が死んだ若者の頭を粉砕するのが早いか。
飛び散る脳漿混じりの血しぶきの中、驚愕の眼と大きく開かれた口で俺を見詰める女の子を担ぎ上げ、無言であとの続く熊襲を連れ階段に足を掛ける。
「今度は誘拐に殺人か?」
眼前に赤い箱を左腕に抱えたハゲアリハゲナシケナシが、あの揃いの衣装の男たちを引き連れ怒りに満ちた形相で立っていた。
見たことも無い黒い得物を右手に掴み、先の穴をこちらに向けて。