地下階段はあぶないから!
ども、私です。
第四話投稿になります。
いや、毎日暑いですね。季節なんかなくなればいいのにと毎日思ってますが、無くなりませんね。
当り前ですが。
先日サーカスを見に行きましたが、アレ凄いですね。
人間の身体能力は実際のトコロ、どこまでの動きが可能なのかと考えてしまいました。
あと、勇気ですかね。
私はもし生まれ変わっても、あんなクソ高いところで芸をひたすら披露するなんてできやしません。
ああそうそう、第四話の話を忘れてました。
まあ、アレです。
勇者、話が通じればいいですね。
ではまた、第五話で。
「「うお!!」」
こちらを睨みつけ胡坐座りで威嚇する、肌色白き可愛らしい女子を見つけたのは、まさに此の時であった。
「ああもう!いい年したデカい大人が、少しはジッと出来ないのか!!」
言葉の意味は解らんが、とにかくすごい剣幕だ。
「なう、そこなめのこ。なそ、ひとやにいらむ?」(ねえ、そこの女の子。どうして牢屋に入っているのだ?)
「ああん?なに今時ナウとか言ってんだお前。バカか?」
俺はこう尋ねてみただけなのだが、なぜかな。ひどくコケにされた様に感じてしまい、自然と目尻が涙で濡れるんだけど。
「それとお前、黒人の男!!」
ナウナウ言いながら、ゲラゲラ笑いをしている熊襲を一瞥するや熊襲は固まり黙りこくった。
「お前、同じ外国人だろ仲良くやれアホが。それと、言葉尻を捉えて相手を笑うな!」
「アンタもさき、ナウ言うてタ…」
「ああん⁈」
「あう!ギャルヤンキー、コワシ……!」
女の子は強しか。そうなら初めて言葉がわかった筈だが、いや、たぶん違うな。
その証拠に当の熊襲は言った後、怖がる様子もなくヘラヘラ笑っているんだから、流石は熊襲というべきか、ちょっとやそっとではさほど臆したりはしないらしい。
「で、あんた。大昔の人みたいな恰好なんだけど、コスプレかなんかなの?」
女の子が不意にこちらに向き直り、何かを尋ねてきた。無論、意味は分からない。
「あ、わに、なにやたすぬ?」
ん?と、女の子は小首を傾げ俺が言った言葉を反芻している。
「あははは♪何を尋ねたのかって言ったのか!一瞬わからなかったよ」
女の子は各牢屋を隔てている鉄の棒に寄りかかり、ひとしきり笑ったあと、パッとした笑顔で俺に何かを喋りかけてきた。
「んん?」
相変わらず話が分からない俺は腕を組み、眉間に皺を寄せた。
「ああそうか、気に障ったらゴメンネ。まさか古語みたいなのをリアルに話す、気合の入ったコスプレイヤーにあった事がなかったからね。ホントごめんね♪」
女の子は可愛らしく舌を出して微笑み、顔前で両手を合わせた。さっきまでの態度との落差が激しすぎて、戸惑ってしまう。なんなんだこの娘は。
「めのこや、なにかましまさむ」(女の子よ、気にしないでくれ)
「えっと、なにかまし……。気にするなの丁寧語かな。うん、気にしないでおくよ。それにしても徹底してるね、感心する。あっと、この場合だと、みめうに感じ入りぬる。かな、どうかな?」
「うお!!たづたづしきめのこなれけとぱ、わに、ぱじめてしれる!」(たどたどしいが、女の子の言葉、俺にも初めて理解できる!)
「ドした?ドしたさ?」
俺の感動を台無しにするような惚けた面で熊襲が、女の子と俺の顔を見比べる。
「くまそ、わな、みめうこころかんじいりぬるや、さらば、こちよりいぬるへし」(熊襲、俺の心からの感動に同意できなければ、ここから去ってくれ)
「ナンだろう、ナでなんだろう。お侍さんはアンクラーをスキじゃないのよ」
「あっ、それね黒人さん。えっとアンクラーさんだったかな、このコスプレイヤーさんがあんたのことを熊襲だと思っているから、ていうか、そういうキャラ付けにしているからだと思うよ」
「キャラてアンタ、ホンキで言テル?何言テル、バカなのアホなの?」
「可愛く話してりゃ調子こきやがって、おめェ。絶対表に出たら死なすからな」
ひっ!と、熊襲がたじろいだ。
なんて眼力だ。この娘、ただの女子では無いやもしれぬ。
「スマナんだぁー!許してケレー♪♪」
だが、熊襲がたじろいだのはホンの少しの間だけ、すぐにまたヘラヘラし出し娘に何やら誤っている様子だ。
この熊襲の性根、度し難いな。
「ふん。おめェーはそういうキャラなんだな。勝手にやってろよもう。で、おじさん。あんたもいつまでその古代の勇者キャラ続ける気なの。いい年してみっともない」
半ばあきれた様子で俺を見やる娘に対し、この子ならば、もしや俺と話が出来得るやもしれぬと思い、さらに話しかけてみる事とした。
「わ、おそれさうらへ、おふぉけにはべたるいくつぁぴと、なを…」(俺は、畏れ多くも大王に仕えし武人で、名を…)
「もういいよ。一生続けてな」
あれ?
人を蔑んだ眼で下に見て、プイと顔を背けて娘はドスンと座って背を向けた。
「わ、まことおふぉけみにはべりし、いくつぁぴとなる。よみにていくつぁせししとき、あまぴかりてたちまちこちいたる。そらごとになし、めのこや、ことうけなきにしか」
(俺は本当に大王に仕えし武人である。黄泉にて戦しておる時、空が光り突然ここに来た。嘘ではない。女子よ、返答してくれぬか)
俺は堪らず鉄棒に寄り、再度女の子に問い掛けた。
だが、返答はない。
俺は力なく、牢屋に据え置かれた鉄で拵えられた寝床に座るしかなかった。
「ギャル、お侍さんコマテルよ」
「ふん、知るか。いいから放っとけよ。大王だの、黄泉の国だの、古代ファンタジーに染まり過ぎるのにも程があるってんだ。てか、誰がギャルだ!」
「ギャル、おおきみってなんナニ、ビックな黄身?」
「不敬罪で誰かに撃たれろアントニー。今で言うなら天皇さんだよ、天皇陛下」
「おおお、エンペラー!でもアントニーはフケツじゃないYO!」
「バカ」
いくら問うても返答せぬ娘は、何やら熊襲にだけは懇切丁寧に受け答えし、俺を大きく失望させた。
「なんだ、騒がしいな」
地上へと続く、段差の長さも奥行きも計算され尽くした見事な石作りの階段を下り、あのハゲハゲおっさんが、牢屋に俺を連れてきた揃いの衣装の男の一人と共に現れ出でた。
「あ、チョーこの野郎。早く出せ!おかしな連中に囲まれて、頭が痛いんだ!!」
すっくと娘が立ち上がり、ツルのハゲハゲに抗議し始めた。らしく感じる。
差し詰め、俺と同じくここから出して欲しいんだろうな。
「まったく、もう少し女の子らしい言葉を使いなさいな。まだ十五の娘さんでしょうが、せっかく可愛らしい容姿をしているんだから」
女の子は益々(ますます)ムッとした表情をして、ズルズル頭をこれでもかと睨みつける。
「相変わらず怖いなぁ、ちよちゃん。でもね、姉さんも心配しているんだよ……」
うぐっ!と、女の子が口籠る。
「なんナニ⁉ポリスメンがギャルとシリアイ…。おお、スパイ!!」
「「スパイってなんだ、アホか!!」」
口を揃えツルと可愛いのが熊襲に食って掛かる。なんだこれ。
「おお、オコラナイデ!コワいコワい!」
熊襲は身震いするそぶりを見せる。どうせ全然怖がらないくせに、意味のないことを。
「そういや、アジア系の方もいたんだったな」
「アジア系?ああコスプ…の」
二人は俺に振り返る。
「すまないね君、詰まらないモノを見せてしまって、あっと、英語だと何だったかな、そうそう。Sorry、sorry、very much!」
「ブばッ!」
「おじさん、正気?」
再び熊襲は床に突っ伏し笑いの園へと誘われ、女の子は憐れみに似た表情でハゲアリハゲナシケナシを茫然と眺めていた。
しかし、ハゲアリハゲナシケナシか、我ながら面白い名を思い付いたものだ。これからは奴を心の中でそう呼ぶことにしようか。
「そういえば若いのにも言われたな、アジア系にも英語が通じる奴と通じない奴がいるって」
無い髪を掻き分け、ハゲが言う。
「さても、ことなりけやつらそ」(それにしても、変わった奴らだ)
「うん、なんか言ったかな」
ハゲアリハゲナシケナシが俺を見て何か尋ねたらしく感じる。
「さらぬ」(なんでもない)
「ホント、変わった人」
女の子も何か言ったようだ。
「ああそうだ、ちよちゃん。そろそろ少しは反省したかい?」
「する訳がないじゃないか!」
「あらそう。それは困ったね、こっちとしても留置所にこれ以上留めることが出来なくてね。ちょっとくらい反省しても困らないと思うんだけどね」
「する訳ない!たかが変な奴らを殴っただけじゃない!」
ブスッと、女の子は頬を膨らませ鉄棒に寄って抗議する。
「そうは言うけどね、ちよちゃん。向こうは全治一週間らしいからね。とはいっても、あの糞野郎の自称だけどな」
「そなのね。悪いことしたかな」
「なあに構わないよ。悪さは悪さだ。訴えはしないそうだから安心してくれていい。ただし反省はしてもらうよ。一人暮らしだし大丈夫だろう?」
「いやだ!直ぐ出して!」
「アイツとの交換条件だから、そら無理だよ♪」
はあ~っと、女の子は首を振りつつため息をつき座り込んだ。
「チョーさん、こんなとこに居たんですか探しましたよ!」
「おう、すまんな。ちょっと野暮用でな、それより怪我はどうだい?」
「こんなもの、痛くもかゆくもないですよ」
「そうかい、そりゃよかった。しかし、ありゃなんだったのかな。こっちが着く前に騒ぎが何事もなく収まっているなんてな」
腕組みして、ハゲアリハゲナシケナシは考えている素振りをしている。
「ですよね、オレも逃げ損ないに甘噛みされるなんて思いませんでしたからね」
「だよなぁ~」
「たぶんアレですよ。ゲリラコスプレイベント!」
「なんだい、そりゃ」
ゆっくりハゲアリハゲナシケナシが、体を若いのに向け直す。
「あれ、知らないんですか?」
「あれだろ、最近ゲリラ的にゾンビみたいな恰好をしたイカレたのが、突然街中で騒いでるやつだろ」
座したままで女の子が話に加わる。
「そうそうお嬢さんよく知ってるね。それについてミーテイングがあるんですよ。すっかり忘れてた!」
「ほう世の中おかしいのが増えて困るな、仕方ない。じゃあ上にあが…」
「おいコラ!ちょっと待って、あたしを出し…」
若いのに返事し、女の子は無視して立ち去ろうとするハゲアリハゲナシケナシに、女の子が訴えかけた時、チラリと、若い者の腕が見えた。
「そこなわかうと、ただむきにうくぅるきじゅ、いずこにていか!」(そこの若いの、腕に受けた傷、どこで受けた!)
「あっ?チョーさん。アジア系がなんか言ってますよ」
「おおう?」
そして、階段を登り掛けた彼らが俺を振り返ろうとした最中、体勢を崩した若いのがいきなり、踏みしめていた石を踏み外し硬い石の上に倒れた。