おまわりさん、ちょっと待って!!
第二話です。
この主人公の名はそのうち出てくるかもしれません。
しばしの間、名無しでお楽しみくださいませ。
では、また第三話までェ~
「で、君、どこから来たの。どこに住んでるの」
厳しい目で異国の揃いの衣装を身に纏った五人の男たちに取り囲まれた俺は、剣を鞘に納めるよう身振り手振りで指図されてから、こう聞かれていたのだ。
「わ、よみのいさみによりて、あまぴかりこちいたりゅ。たれそ、そしるにゃき」
(俺は黄泉で戦に及んでいた折、天から光が差し込みここに来た。誰か理由を知る者はおらぬか)
「はあ?」
五人の男共はキョトンとして互いに顔を見つめ合い、首を傾げる。
「もしや、外国人か?」
「アジア系じゃないですか、どう見てもそんな顔でしょう班長」
相変わらず見知らぬ言葉を話す男共は、解らぬ口上を吐きながら徐々に近づいてきた。
「取り敢えず君ね、その刀たぶん本物でしょう。銃刀法違反の可能性があるからね、悪いけど来てもらうからね」
言うなりグッと二人に両腕を掴まれ、抱え込まれそうになる。
「なそする」
振りほどこうとして腕をうねらせ抜けるが、すぐさま固められてしまう。
なんぞ、この技は。
これまで体験したこともない力の使い方だ。身動きが取れない。
いや、恐らく殺すつもりでいけば振り切ることも可能であろうが、何故だかそうする気にはなれなかっただけなのだ。
「おい、コイツの力は尋常じゃないぞ」
「暴れる前に連行するぞ!」
「「はい!!」」
どうにも出来ぬまま、いや、せぬままに、見たことも無い鉄の地を走る白黒の箱に乗せられ、これまた見たことも無い建物の中に連れられたのだった。
「でね、君の国籍と年齢はって、言葉が通じないんだったね。悪い悪い。ああ、えーと、youのcountryはwhy?」
コイツ何喋ってるんだ、益々言葉が解らなくなってきたぞ。
まあいいさ、ここが異国の地だと改めて確認できる材料が手に入ったと、俺は思う事にする。
「やっぱ通じねーか。ねェ、通訳まだ来ないの?」
禿散らかしたおっさんが、開けられている扉の向こうに何か言っている。
しかし、ここはどういった場所なのだ。
部屋に入れられる前に観察させてもらったが、ここと似たような部屋が幾つもあり、人が入っているところは扉が開けられており、恐らく入っていない部屋の扉は閉められていた。
なにかの呪い(まじな)であろうか、捕らえた者を逃がさないつもりであるならば、扉は固く閉じ拘束した上で神明を問い、必要ならば明神探湯をも用いて衆人環視の中で罪の有る無しを問う。
これが俺の国での真意の確認方法の基本なのだが、この国では違うらしい。
「でね、君の所持品を見させていただいたんだけどね、あれはダメだよ」
身振り手振りでハゲが伝えてきたことを整理すると、この国では剣も弓も持ち歩くのはご法度らしい。
「君の国では大丈夫でもね、日本では不可能なの、解かるかな?てかアレ、どこで手に入れたの」
なるほど、この国の名は二ホンと言うらしいな。勿論、知らぬ名だが。
「おじさんに出所を教えてくれないかな。please。悪いように、あーbadはしないからね。no badね、分かるよね?」
懇願する様な眼で何かを問うハゲおやじに嫌気が差し、兎にも角にも得物を返してほしいと、逆に身振り手振りで伝えてみた。
確かに俺は伝えたはずなのだが、なぜか目の前には白い飯を盛った白い器と、何かさっぱり分からない食い物らしき物を乗せた仕切りのある器が、デンと縁がある白っぽい板に載せられて目の前に置かれた。
「You、腹がhungry、very hungryだろ?lunchには少しばかり遅いが、留置所のlunchを運んでgoしたから、あーeatしなさいな」
何故だろうか、異国の言葉が混じりあってるような不思議な音律を感じてしまい、頭が混乱するのだが。
まあよい。とりあえずは腹ごしらえをさせていただこう。
「ことくにのしき、たうけぱばよきか……」(異国の食事、どう食べればいいんだ……)
めしの喰い方に悩んでしまう。ここは異国、それも文化も高き異国に違いあるまい。されば不調法があっては我が大王の名に泥を塗ってしまうやもしれぬ。
しかし、なにやら器に添えられている細き棒が二本あるが、これは何であろうか。まるで見たことがない品だ、よもや食えるのか?
「うん、どうしたの?箸をいきなりガジガジしゃぶり始めて、それ使えないなら手づかみでもよいよ」
ハゲオヤジはまた身振り手振りで伝えて来る。そうか、これは喰えぬらしいな。木の味しかせぬ。
そっと、木の棒を四角い器に戻す。
「大丈夫、OK、OK。あまり日本に詳しくないらしいなァ」
ハゲピカが深いため息をついた。なんだというのだ。
だが、身振りを見るに手づかみでも構わんらしいな。ふむ、こっちの作法でもよいと云っておるのか、ならば躊躇なぞせぬ。
俺はおもむろに美石を削りだしたような器に手を入れ、熱い飯を指で掬い口に放り込む。
「おお、うまし!」
「ほほう!少しは日本語が話せるようだな」
なにに納得しておるのか、妙に感心したような表情を見せ、ハゲは繰り返し頷いている。
「たうふるにあしき」(めしが不味くなる)
「おや、どうした水か?」
俺が眉間に皺をよせ嘆息するや、ツルピカは水を差しだしこちらの機嫌を窺ってくる。
「みじゅ?」
「水が判るか、Watar!こりゃ有り難い!」
コイツ一体どうしたのだ、妙に浮かれて気持ちが悪いぞ。とりあえず咽喉が詰まりそうなので、水でも飲んで落ち着くと致すか。
「チョーさん、なに英語交じりに話してんですか、アジア系でしょそいつ。意味ないですよ」
ゴクリと透明な長細い摩訶不思議な器に注がれている水を飲もうとしたとき、いきなり額に汗を浮かべた若い男が飛び込んで来た。
「なんだお前、なんかあったのか?」
「何かあったのかって、こっちは今、てんてこ舞いの大騒ぎですよ!」
「だから何だってんだ!」
「暴動ですよ、暴動!得体のしれない連中がマンホールやら地下街から湧いて出て騒ぎを起こしてるんですよ!」
「暴動だって⁉過激派か?」
「よくは判りませんが、警邏如きじゃどうにもならないってんで、署の機動隊やうちら刑事課にも出ろって署長から指示が出たんで、迎えに来たんですよ」
なにやらツルと若いのが言い合いを始めた。俺は腹が空いたままなので気に留めず、めしにがっつくことに専念する。
「と言ってもな、これどうすんだ?」
「そんなの留置所に放り込んどきゃいいでしょうが、とにかく一刻も早く応援に出ろって課長からも言明されてるで、早くいきましょうよ」
ピカハゲは若いものに急かされるまま部屋を後にし、代わって掴まる際に見た揃いの衣装を着た男たちに連れ出され、俺は飯の残った器を抱えて部屋を出ざるを得ない破目にあわされた。
「たうふる、おはりたまねど……?」(食事、まだ終わってないんだが?)
この国の仕来りは意味が解らなくて困る。
俺は両脇を男共に抱えられ階段を降りながら、思わざるを得なかった。