屍と戦っていたのに!
やっと新連載書き上げました。今日の夜ですが。
今日の朝に思い付き、昨日まで書いていたモノをしばらく放置する(人、ソレを行き詰まりという)ことにして、こちらを先に書き進めようと思います。
無論こちらもそのうち可愛いキャラが出てくるはずです。
たぶん、出ます。
え~っと、構想上は存在していますので、任せてください! たぶん。
でもやはり、基本グロイシーンもダークな話もいつもながら現れますが。。ね。
逃げ出せないものですね。おかしいな。
ではでは、皆様お楽しみくださいませ。
来い!
天の鳥舟の欠片であるヒヒイロノカネで鍛造された重い御剣を両手に携え、オレは無数ともいえる屍人を迎え撃つ準備を整え雄たけびを上げた。
俺の叫びを合図にしたのか、屍人の大群の先頭が、千切れまくった貫頭衣と残り少ないまばら髪を振り乱し、一気に走り出した。
行く!
俺は戦闘集団の勢いを削ぐため背にしょっていた弓を抜き、矢をつがえ剣を左手に掴んだまま続けざまに三矢放った。
矢を受けた屍人は、ある者は頭を砕かれ下顎から垂れた腐った舌だけの姿となり、ある者は腹が裂け溶けかけた臓物と内容物を撒き散らせ、またある者は胴体が胸から引きちぎられ黒い体液を滴らせて肉体が二つに分かれ地に落ちた。
蛆が凄まじいな。
流石は黄泉の国の住人というべきか。全身に蛆がたかり蠅が群がり、禍々しい形相で走って来る様は、まさに祟り神もかくやと云った様相だ。
俺は剣を振りかざし、吶喊を開始する。
駆け抜けざまに三人まとめて切り倒し、掴みかかろうとした二人を背を低めかわしながら回転しつつ切り伏せ、さらに迫った四人を切り捨てにした。
目指すは黄泉の国の入り口のみ。腐った肉の臭いを垂れ流す大きく開け放たれた洞穴だけだ。
屍人の第一陣をなんなく切り抜けた俺は、第二陣に対し突撃を敢行する。
同じように矢をつがえ、駆けながら放ち、先頭の勢いの凄まじい三人を打倒し、残りを斬って突破口を切り開く。
俺の背後では、第一陣と大王より遣わされた軍勢との合戦を開始したようで、幾百の弓矢が風を切って飛ぶ音がこちらにも響いて来た。
あちらは任せ、俺は第三陣が繰り出される前に洞穴に取り付き行く手を阻み、奴らを黄泉の国に押し込むことが出来れば役目は終わりだ。
ならば突っ込む。
第二陣の最後尾集団に躍り込んだ俺は、眼前で弓を引き、ヒヒイロカネで作成された大型の鏃を装備した矢をつがえ力の限りを込めて放つ。
途端、先端のカネは青く光り、光線を残して屍人の一集団を粉砕した。
よし、行けるぞ!
本来のヒヒイロカネの使い方は、鏃にしたり剣の刀身に打ち直したりして使うものではないそうな。
元々はこの異様に硬い代物は、空を駆けたと伝わる天の鳥舟の船体や、あるいは神々の武器にも用いられたカネであるらしく、出来れば彼の天照大神の御光の如く、目も留まらぬ速さを依代として用いねば、カネ本来の力を発揮できぬ物だと聞き及ぶ一品だ。
だが左様な技、隠されてより既に久しく、今はたれも知らぬ。
よって神託に選ばれた者のみがその欠片を与えられ、使うことを許される幻とも言っもよい品であるのだ。
狭間が出来た。
屍人の最後尾の、幾重にも折り重なっていた集団の中央に空隙が現れた。
参る!
剣を腰だめに構え、最後の突進を開始する。
幾度を討ち振るい続けたお陰であろうか、ヒヒイロカネ造りの刀身は青白く光り、突き刺すだけで力も入れずとも屍人の躰は溶けるようにして散っていく。
あと一息だ。
二、三人の屍人共の背後に目的の洞穴が、生臭い風を吐き出しながら口を開いている。
行ける!
立ちふさがる屍人の最後の一人を撫で切りにした俺は、黄泉の国の入り口である洞穴の前にたった。
遂に来たぞぉ!
背後から鉾の一撃を喰らわそうとした屍人の、それも元は名のある豪族であったであろう、蒼く錆びた短甲に身を包んだ武人の首を胴から切り離しながら叫んだ。
穴からは、生臭く腐った肉の臭いが立ち昇り、まともに呼吸もさせてもらえず、止む無く俺は挂甲の隙間から手を入れて、懐から手拭代わりの麻布を引っ張り出し鼻と口を塞ぎ包んだ。
何か来る。
洞穴の奥底から、此の世の者とは思えぬ、呻きとも叫びともつかぬくぐもった声が、いや、声らしき腹に響く音が地を揺るがしながら此方に迫って来るのを感じ取った。
大矢は、あと二本しか残ってはいない。
俺は振り返り、第二陣を突き崩す大王の軍勢の攻勢を確かめ、ふうっと、深く息を吐き出して呼吸を整え大矢をつがえ待ち構えた。
くわっ!!
いきなり目前に音もなく黒い闇が髪を振り乱し白い眼を見開いて現出した。
なんだ、これは!
闇が凄まじき速さで差し出した髪が、無数の武器を手にして襲い掛かって来た。
堪らぬ!
すかさず大矢を眼に向け放ち、剣で防戦した。
大矢は運よく闇の右目を打ち抜いたが、新たに額に当たる部分に目が現れたのを見て俺は屍人とは違うことを確信した。
よもや、これは…この御方は……。
だが、のんびり思考する間も与えず、数多の剣が頭上から降り注ぎ、足や腰を払い撃ち抜こうと、両脇から蒼く錆びた鏃や鉾が数十本飛び伸びて来る。
とても避けきれぬ。
腕の一本、足の一本が無くなるのを覚悟して、飛び上がらんと地を蹴った時、天空から眩いばかりの光に身を包まれた。
なんとした⁈
意味が解らず虚空に放り出された俺は、身が粉になるのを実感しつつ、強い光線に混じり流された。
気付けば、何やら光輝き天空を突く塔と、立ち並ぶ石造の建造物からの光、それも陽射し取りであろうか、目もくらむばかりの高さを持つ物体には多くの四角い穴が穿たれ規則正しく並び、辺り一面を照らすばかりの明るさを放っていたのだ。
茫然と立ち尽くした俺を、見慣れぬいかにも質の高そうな異国の装束を纏った老若男女が、こちらを遠巻きに取り囲み、訝しながら見詰めひそひそ話している。
「ちょっと君きみ」
意味が解らず立ち尽くした俺に話しかけてきたのは、ひそひそしている集団を押し退けて現れ出でた二人組の者共。
そやつらは揃いの空色と群青色に似た衣装と被り物を身に纏い、腰と極端に短い武具らしきものを二つか三つ付けた男達であった。
「君、街中でなんて格好してんの、ちょっと職質いいかな?」
正直、彼らが何を話しているのか分からなかったが、俺はこう答えるしかなかった。
「いずこならしむ?」(ここどこ?)と。