4
夜もすっかり更けたけれども、草原には未だ人が多く残っていた。
私はそれを横目で見ながら街の中へと帰っていく。街は先ほどよりも多くのプレイヤーで溢れていた。NPCはどうやら家の中で寝ているようで、外にいるのは基本プレイヤーだと思う。
先ずはギルドに入り、野良犬の討伐を報告して報酬を貰う。後ろで待っている人もいるので、掲示板とは逆にあるスペース――どうやら酒場らしい場所――に腰を下ろす。折角なので適当に果実水を頼みながらステータスを開く。
Lv4
Name:ミリアノ
Race:獣人
Class:冒険者
Skill:
剣術Lv3
蹴りLv2
身体強化Lv2
〈〉
〈〉
SP:11
Title:
Money:10680s
レベルは4まで上がってるのか、早いか遅いかは全然分からないけどね。でも森で何回か戦闘したし、ガチ勢には追い付けなくてもそこそこの成果なんじゃないかなと思う。
次に依頼掲示板へと向かう。討伐もあるのだから敵のドロップ品を採集するクエストもあるはず。Fランクの薬草以外の採集は、野良犬の牙か……ていうか基本Fランクは野良犬と薬草だけって、これは直ぐにEになれそうだね。
取り合えず持っている分を全て報告に渡すと、その分勿論報酬も上乗せされた。
「あと一つ依頼を達成されたらEランクになります、頑張ってください」
と言われたらやるしかないよね。
そのまま草原に出戻って犬狩りよ! って言っても人が多くて犬を見つけるほうが怠いんだけどね。何とか犬を見つけて倒すことに成功したのでギルドに戻って報告。
そして晴れてEランクになりましたー、いえい。
Eランクの依頼で持っているのはウルフの素材だろうか、だけどこのまま素材をギルドに納品し続けるのもいいけれども、生産職とかに売るのも大切なんだっけ?
正直VRMMOの知識なんてほとんどないと言ってもいいからね。納品依頼の値段を覚えておいて、ぼったくられそうなら取引を止めればいいんだよね。
んー、でも夜だと分からないなぁ、どうせ基本先生に呼び出されるまでずっとこのゲームにダイブしてるつもりだし、適当に宿借りて朝まで寝ちゃおう。
こういうのはギルドの人に聞くのがいいのだろうけれども、今は忙しそうだし門の衛兵さんにでも聞きに行こう。
「すみません」
「ん?」
「ここらへんでお勧めの宿はありますか?」
「……それを聞かれたのは初めてだ、見たところ新米だな、それなら鶏の卵停がいいだろう、ギルドがある場所から奥に一本入って真っ直ぐ行くと、鶏の絵が描いてある宿があるからそこだ」
「ありがとう御座います、行ってみます!」
言われた通りギルドから大通りを一本奥に入って真っ直ぐ歩いていると、家に大きく鶏の絵が描かれている宿を見つけた。
「分かりやすいのはいいけどね」
扉を開けると、眠そうなおじさんが此方を見る。
「泊まりかね?」
「空いてますか?」
「空いてるよ、一泊200sだ」
「じゃあ二泊で」
そういって私は400s払っておじさんに部屋の番号の書かれた鍵を貰う。
二階に上がると、一本の通路に扉が立ち並ぶ場所に出た。そこから番号を探して鍵を開けて中に入る。結構質素で、ベッドとテーブルくらいしかない。
私は装備を解除して布団にもぐる。普通なら此処でログアウトするんだろうけど、私はログアウトする意味が無いからね。ずっとVRで寝てるし、なのでそのまま目覚ましを掛けて寝てしまう。目覚ましはメニューの中にアラームがあったのであれを使った。タイマーがあると何かと便利だからね。
「ふぁーー」
大きな欠伸をして起きる。メニューを開いてアラームを止めて時間を確認すると、しっかりと朝の七時だった。因みに現実の日にちだと今日は日曜日なので、昨日よりも混雑が見込まれると思う。
一階に降りてから、ゲーム内の食事は必要ないけれども、宿泊費の中に食費も含まれると聞いてしまったら食べようと思う。出されたご飯はしっかりと味覚を感じることが出来て泣きそうになった。ちょっと固いパンと野菜スープだったけれども、私にとっては本当に久しぶりのちゃんとした食事だった。
今日は露天が多く出ている場所に行こうと思う。大通りを逆側に一本入ると露店が立ち並ぶというのを昨日ギルドで盗み聞ぎしたのだ。
朝日の温かさを肌に感じながら、私はその露店を目指して歩いて行く。
目的の場所には、ぽつんぽつんと露店が出ていた。ポーションを売っている所から、剣を売っているところまでさまざまだ。
「すみません」
「ん? らっしゃい」
いかにもドワーフという見た目の男性に話しかけると、眠そうにしながらも答えてくれた。
「この武器の性能を見てもいいですか?」
「いいぜ」
露天にアクセスして大剣の数値を見る。
「ありがとうございます、ちょっと他のお店も見て回りますね」
「良かったら来てくれ」
「では」
それから、NPCの武器も合わせて見てみたんだけれども、最初に見たドワーフさんのお店に置いてあった剣が一番良かったので戻ってきたら、ドワーフさんとエルフの女性が何やら話している所だったので、一応後ろに並んでおく。
「ん? 買いに来たのか?」
「あら? ごめんなさいね、アタシはお客さんじゃないからどうぞ」
どうやら知り合いらしい。それにしてもやっぱりだ、この店と後三つだけ鋼鉄武器が置いてあった。でもここのお店が一番安くて攻撃力が高い。データとしてはこんな感じ。
鋼鉄の大剣☆☆☆
攻撃力250(+50)
耐久値120
※ラックが制作した鋼鉄製の大剣
こんな感じだ。攻撃力の隣に出ているカッコ内の数値は三店舗ともバラバラで、一つは無かった。無かったところはNPCのお店だったので、たぶんプレイヤーメイドの補正値なんだと思う。レアリティを表す☆の数も、序盤では優良な☆三つ。折角の掘り出し物? なので買っておこう。たとえお金がゼロに近い金額になったとしてもね。
「まいど」
「こちらこそありがとうございます、補正値も高いですし見た中で一番安かったですよ」
「まぁこっちも早く攻略が進んで欲しいとこだからな、じゃねぇーと鍛冶師としての腕が鈍っちまう」
「この街には鉱山ないですしね」
「おう……なぁ嬢ちゃんもし牙か爪の素材が余ってたら買い取ってもいいぜ」
「ありますよ、何が欲しですか?」
「ウルフはあるか?」
「あります、牙と爪が丁度5個ずつですね、ラピウルフも同じだけありますがいりますか?」
ラピウルフは昨日の夜に会った黒い小さい狼のような奴だ。
「ほぉ、お嬢ちゃんが一人でやったのか?」
「えぇ」
「大剣でよくやるな、よしならこれでどうだ?」
「いいですよ」
私はトレード画面を開いてトレードを了承する。良い鍛冶師に使って貰えるならそれに越したことないからね、それに値段も妥当だったし。
「商談は終わったみたいね」
「すいませんお待たせしました」
「いいのいいの、それよりもえっと」
「あぁミリアノです」
「トーラよ」
「……あ? 俺も言う流れか? ラックだ」
先ほどまで黙ってやり取りを見ていたトーラさんが少しなにか思案しながら話しかけて来た。
「アタシもこいつもテスターだったんだけどね、アタシの場合持ち越したアイテムは調合道具だったから素材は本当に少なくてね、もし良かったなんだけど森の浅い所でいいから護衛してもらえないかしら? 勿論ちゃんと依頼としてギルドを通して報酬もだすわよ、 それから敬語なんか使わなくていいわよ、勿論それがプレイングなら止めないけどね」
そうだなぁ、どうしようか。これも何かの縁だし受けてみるか。もし罠でPKされそうになったら逆にこっちが相手を殺せばいいし。最悪やられたら今後執拗に狙えばいいだけだし、うんいいかな。
「分かった、その依頼受けるよ」
「ほんと! 助かるわ~、薬草が少なくなって来てて結構ピンチだったのよ、皆ランク上げの為にギルドに納品しちゃうし、アタシは純生産職だから戦闘はからっきし」
「そうなんだ、じゃあ私もギルドに売らないで素材持ってきて正解かな」
「おう、助かったぜ……そうだな、一応フレ登録どうだ? 耐久値無くなったら回復させるぜ?」
「それじゃあお願いしようかな」
そうして二人とフレンド登録をして、トーラとギルドへと歩いて行く。
「それにしても、プレイヤー間で指名依頼が出来るのは知らなかったな」
「基本何か頼まれごとになったらギルドを通した方がいいわよ、雲隠れされたりすると厄介なの」
「んーそうだね、いいことを教えて貰った」
それにしても、トーラさんの金髪は結構綺麗だな、それにお姉さんっぽい落ち着いた美人さんで何がとは言わないけど結構豊満。私は大きくなることは無いけど、今後はちょっと弄ってみるのもありかも。
ギルドに到着して二人で窓口に並ぶ。今日も人が多いので込み合っているけれども、次の街が解放されれば少しはましになると思うし、早く解放されないかな。まだ二日目だけど。
窓口で指名依頼をお願いすると、依頼内容と報酬をトーラさんが書いてそこに私とトーラさんのサインを書き込んで終了。メニューの依頼にも反映されているのは純粋にすごいと思う。
「じゃあ行きましょうか」
「浅い所でいいんだよね?」
「流石に深い所はちょっとね、そこまでリスクを冒したくないしね」
「それなら大丈夫」
私達はギルドを出て門へと歩いて行く。