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チュートリアルが終わり、冒険者ギルドの中に戻って来るとかなりの人数が列を作っていた。此処からは特に急ぐこともないので、依頼をじっくりと見る。
依頼内容としては野良犬の討伐や薬草の採集などがあったので、野良犬の方だけ受けてみた。薬草は今の私だと絶対に見分けられないしさ。
外に出ると、程よい温かさの風が通り過ぎた。太陽の温かさも肌で感じられる。
こうやって五感が刺激されるのは五年ぶりだ。そう、こんな感じだった。失ってから与えられると、その有難味がよくわかる。
「……ふぅ」
一度深呼吸をして大通りを更に進む。街並みを見て回ると、お店や住宅等本当に異世界に来たような気にさえなるクオリティーだ、本当にすごいね。
門が見えてきたので、アイテムボックスの大切な物が収納されている場所からギルドカードを取り出しておく。
「身分証を」
「はい」
「よし」
衛兵にカードを見せると、直ぐに通れた。
「わぁ……」
門を抜けると草原だった。風が吹けば草草が揺れ動く。
私はまるでピクニックにでも行くかのように陽気な気分で進んで行く。
プレイヤーの数もそこそこと言ったところだ。勿論これからかなり増えるんだろうけどね。
「ん?」
私は剣を手に持つ。
「そこかな」
剣を構えて敵がいる場所に近づきながら斬る。丁度射程ぎりぎりだけれども犬の頭に直撃してエフェクトに変わった。
「割と視線もちゃんと感じるわね」
これは他のゲームで慣れた。なんというか、自分がロックオンされている感覚とでも言えばいいのだろうか。あり大抵に言えば、気配察知かな。でも精度はスキルを取った方がいいとは思う。なにせこのゲーム用に作られたスキルだからね、私のはカンみたいなものだし。
「それにしても手応えないなぁ、でも最初だしこんなもんかな」
折角五感があるんだからもっと楽しみたいなぁ。
他のVRMMOが嫌いな理由もそれに起因している。
例えば、重い一撃を受けたのに直ぐに立ち上がり攻撃出来たり、急所を突かれたのにHPという数値のせいで死ななかったり。
ゲームというのは分かっているけれども、それが何故だか納得がいかなくて疎遠になったんだよね。でもこのゲームは違う、だからこそ期待してしまう。身の毛がよだつほどの高揚感を。
それから草原を回って野良犬を倒す。ドロップが野良犬の牙とか爪だったので、それが野良犬かどうかわかる。やっぱり鑑定系は持っていたほうがいいかもね、もしくはパーティーを組むか。
……パーティーか、正直無理して組みたい訳じゃないんだよね。なにせオンラインゲーム自体久しぶりだし、やったとしてもほとんど人に関わらないような奴だったし。
まぁいっか、なる様になる、それよりも今はもっと戦闘がしたい。肌で戦闘を感じたい。敵はどこかなー。
と探してはみた物の、どうやら草原に人が多く居過ぎたようで、私に回ってこない。仕方ないからこの先にある森に入るかな。
森の入り口に入ると、空気が変わるのを感じた。此処からは注意して進まないといけないね。
ゆっくりと、木の上からの奇襲も視野に居れながら、木を背にするように歩く。
「ガルルルル」
「……野良犬、じゃないね」
野良犬は泥が付いているようなくすんだ茶色だけれども、今目の前にいるのは野良犬よりも少し大きい灰色の四足歩行の動物。定番だとウルフってとこかな。
油断なく剣を構えて相手を見る。先ほどから継続している戦闘態勢がピリピリと程よい緊張をもたらしてくれる。
「ガウ」
先に動いたのは彼方だった。流石の速度で此方に襲い掛かって来るけれども動きが直線だ。……よっと。
しかも、私が避けたすぐ後ろには木がある。ウルフ(仮)はそのまま木にぶつかり一瞬動きが止まる。でもその一瞬があれば十分。
「ハッ」
振り上げた剣を振り下ろす、それだけで相手はエフェクトを撒き散らしながらアイテムに変わった。どうやら、此処の敵ならばこの武器でも通用するようだ。もしくは首を斬ったのが良かったのかもしれない。
それから少し行くと、今度は二匹のウルフと出会った。先ほどのドロップがウルフの牙だったので、ウルフで確定した。
今度は二匹なので此方から攻める。一匹は私の目の前、もう一匹は私の側面に向っている。それなら……。
正面の敵を狙うように見せかけて、途中で足をかがめるようにジャンプ。そして隣にある木を『蹴り』スキルで思いっきり蹴って勢いをつけて方向転換。まさに今襲い掛かろうとしていた側面の敵を斬りつける。
「チッ」
どうやら一撃では決められなかったようだ。直ぐに着地して横に薙ぐ。丁度此方に噛みつこうとしていた敵の口から裂く。一匹しかいなくなれば此方のものだ。直線で襲い掛かって来る敵のどてっぱらに蹴りをお見舞いして蹴り上げて、そのまま剣で掬い上げるようにして喉笛を斬る。
「……足りないなぁ」
まだ私は一撃も貰ってない。慢心は身を亡ぼすけれども、もうちょっと歯ごたえが欲しい。でも折角だからスキルを外して剣を振ってみよう。スキルの効果ってどんなもんか知りたいしね。
私はスキルを外して剣を素振りしてみる。しかし……。
「こりゃ、スキル様様ってところかな」
滅茶苦茶重かった。スキルを覚えていない武器だと、自分の筋力値に依存するのかもしれない。レベルが上がっていけば、他の武器もスキルなしで使えるかも。とりあえずはスキルの有無は体感出来た。後は掲示板でも覗けばヒントが落ちているかもしれない。
空を見ると、少しだけ日が落ちていた。このゲームの中は約二倍のスピードで進んでいるらしいので、次期に夜になるかもしれない。夜になると敵も入れ替わる可能性があるし、取り合えずは撤退……というとでも思ったか、もっと戦いたい、まだまだ足りないよ!
さて、そうこうしている内に夜になったわけだけど。今は草原にいる。
草原の野良犬は相変わらずだけれども、どうやら出会う個体数が増えている。昼間は基本一体でのエンカウントだったけれども、今は二体だ。でも野良犬には変わりない、さっきウルフとやっていたせいで流石に野良犬に後れを取ることは無かった。
さてー、森に入ってみますか、とりあえずは浅い所かな。
一度目を閉じて神経を集中させる。ただ敵と自分の事を考え、それ以外は排除する。耳をそばだてて森の音を拾う。昼間は森の中も心地よい風が吹き抜けていたのにもかかわらず、夜にはぴたりと風が止み不気味さが増している。
「そこぉぉぉ!」
カッと目を開けて出来るだけ早く剣を振り下ろしてから薙ぐ。
「グゥ」
「ギャゥ」
一撃で仕留められなかったようで、ゆるりと立ち上がる二匹の生物。黒い色をした四足の獣で、ウルフよりも背格好は小さいため機動力がある。
二匹は油断なく此方を見ており、私も油断なく二匹を観察する。二匹は互いに左右に分かれて挟撃を試みるようだ。ならばと私は片方に狙いを定めて地面を蹴ってすれ違いざまに左足に力を入れてステップ、丁度相手を横に見るように体を切り替えて斬る。そのまま方向転換してすぐそこまで迫っている敵に一太刀。
流石火力メインの大剣、いい攻撃力だね。
息を吐いてゆっくり吸って辺りを観察。……いる、しかもまた二匹。もしかしたらパーティー人数の倍の数が出てくるのかも。
「『身体強化』」
私がスキルを発動させると、薄いけれども赤いオーラが私の体に纏わりついているのが分かった。
接敵すると、先ほどよりもスピードと剣のふりの速さが上がっているので、名の通り全体的な身体強化なのかもしれない。噛みつこうとしてくるのを剣を差し込んで剣を噛ませて蹴り上げつつ力いっぱい薙ぐ。それで一体を倒して二体目に行こうとして一撃足に引っ掻きを貰ってしまう。
「ッ」
一対一ならば問題なく処理できるので、その後敵を倒してHPゲージを見る。一撃とは言え約五分の一程減っていた。このまま強行軍はちょっと止めておこうかな。
んー、五感があることによっていつもとちょっと感覚が違う感じがするけど、そのうち慣れるでしょ。街に戻ろう。
帰りにもう一度黒い奴と戦闘になったけれども、身体強化を掛けて叩き斬った。