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つかの間の休息

ハダテ城塞都市カザネ宅




 ハダテ城塞都市は、犠牲を出しながらも霧の氾濫を乗り切った。

 今回の霧の氾濫で無理がたたったらしい。

 妖精フェアリーが3体、そしてAH-1Sコブラを使用した為に元々持っていた魔力を一気に消耗。

 身体能力の向上に使っていた分の魔力も含めて、戦いの最後はスッカラカンになっていたようだ。

 結局、魔物の掃討戦には参加する事も出来ずにその場で倒れてしまい、キキョウとヒイラギが運んでくれたそうである。

 それから、意識が戻らず、3日。意識が戻ってから3日目にしてやっと立てるまでに回復した。

 動けない間の身の回りの世話を、キキョウとヒイラギが交代でしてくれて何不自由無く過ごせた。

 えぇ、下の世話までされるとは思ってもいなかったです、はい。

 魔力が枯渇し、死ぬ一歩手前までいっていたと言われたが、あまりピンと来ない。

 マジックポーションも効かなかったそうであり、あとは本人の生命力に任せるしか無いと言われていたらしい。

 その為、2人は余計に心配していたそうだ。


 「あっ、ナオヒト君、またベッドから抜け出して、めっだよ」

 

 キキョウに見つかってしまった。外を眺めていただけで、こう言われる始末である。

 しかし、窓の外が気になったのには理由があったのだ。


 「キキョウ、外で何かあったんですか?」

 「え、えっと、その。私もよく分からないんだ」

 「ヒイラギもですか?」

 「うん。えっと、霧の氾濫の後始末で教育隊の方も、まだバタバタとしていて」


 2人は何が起こっているのかは、知らない様だ。

 また、視線を窓の外に戻す。

 ハダテ城塞都市の上空には、見たことのない異様な光景が広がっていた。

 見たところ、船が空に浮いていた。例えるならば、そう、一度、前の世界で護衛艦を見たことがある。

 内部の見学にも参加したのは懐かしい。

 ここから、見える限りでは、船体の上部に艦橋らしきものや、煙突。砲身の様な物も見える。

 軍艦が、そのまま空に浮かんでいるのだから自分の目を疑うよなぁ、と思って見上げている。

 確か、帝国が航空戦艦とか言うものを持っていると聞いた覚えがあるが、そのものなのだろうか。

 ぼーっと眺めていると、城塞都市の中央の方から馬が数騎駆けてくるのが見えた。

 壁よりの郊外にある家はまばらであり、それがこちらに近付いて来ているようである。

 キキョウが、その集団の中にカザネがいるのを見つけた。

 周囲にいるのも、霧の氾濫の時に出会った帝国の兵士の様だそうだ。

 家に到着したようで、カザネがまず部屋へとやって来た。


 「ナオヒト、いるかね?」

 「カザネ先生、どうされたんですか?今日は、遅くなると伺っていましたが」

 「そのはずだったんだがな、もう立てるか?」

 「はい、大丈夫です」

 「どうも、ナオヒトに会いたいと言って聞かん者が居てな。すまんが、会って話を聞いてほしい」


 そう言うと、カザネは外へ出た。

 自分は、着替えてキキョウとヒイラギに支えられながら居間へと出る。

 すると、同じタイミングでカザネが2人連れて居間へと来るところだった。

 カザネに続いて、入ってきた人物には心当たりがない。

 2人の身長は、まるっきり正反対の印象を受けた。

 2人の服装は色違いで詰襟、五つボタンの白と黒の軍装のような印象で、まるで元居た世界の旧軍の服装に見えてくる。

 身長の高い女性は、瞳が爬虫類のような瞳をしており目の下辺りに鱗の様な物が見てとれる。

 赤い鬣の様な髪も印象的である。

 もう1人は、白い軍装でありもう1人とは違い、飾緒かざりおを付けている。パッと見た印象では、白い軍装の方が階級があれば上だなと感じていた。

 身長は低いが、不思議な印象を受けた。尻尾が見えていて狐の様なフサフサな尻尾が2本見える。目元も糸目であり、メイクか赤いアイラインが引かれているようで頭には狐の様な耳が見て取れた。

 どちらも、女性であり、自分には心当たりのないのだが。


 「おぉ、ナオヒトよ。あの後、倒れたそうだが、元気そうで何よりである」


 である?喋り方が独特な、聞いた覚えがある。身長の高い方の女性が語りかけてきた。

 確か、霧の氾濫の時に側にいた甲冑の人物。でも、声で聞いた時は男だったはずだ。


 「あの、あの時の鎧の方ですか?」

 「うむ、そうだ。そうか、あの時は面当てもしていたであるから。気付かないであるな、はっはっは」

 「堪忍な、ナオヒトはん。うちのとこのユーリーはよく男に間違えられるんよ」


 狐な女性が一歩前に出ると、お辞儀をする。しかし、お辞儀1つも優雅である。


 「ウチの名前は、カチューシャ言います。クロワイド帝国軍では、タタールスタン級航空駆逐艦を預かっております」

 「宜しくお願いします。しかし、そう言う方が自分に会いに来ていただけるとは、一体どうされたのですか?」

 「怒らないで聞いてほしいんよ、これも仕事どす。ユーリーに、一部始終を聞いております」


 ユーリーの方を見ると、両手を手の前で合わせて「ごめん」と謝罪している様に見えた。

 仕事、と言うのだから仕方ないとは言え、他にも聞いている人はいるのだろうか。

 カチューシャが言うには、帝国でもまだ誰も知らないそうだ。

 事実、航空駆逐艦がここハダテ城塞都市に来たのは演習中に霧の氾濫の情報を受けて支援する為に来たそうだ。

 王国には、緊急措置と言う事で支援の申し出をし王国が受理したそうである。

 確かに、今回の氾濫は色々と思惑があったようで、一歩間違えば避難する民間人にも犠牲が出るところであった。

 運が良かったと思える。


 「そこでな、うちらはここに向かう途中で空から竜巻が見えたんよ。あれは、すぐに魔法による攻撃とは分かったんやけれど」


 その後に現れた空を飛ぶ不思議な物体は、最初は誰か召喚術で出した召喚獣と呼ばれるものだと思ったそうだ。

 しかし、その機動力や圧倒的火力を見る限りには召喚獣とは呼べない。

 ヒートライノとその周囲の群れをあの小さな何かで吹き飛ばした時は、艦内では歓声が上がったそうだ。


 「それでな、城塞都市に到着してから、駐在武官のユーリーから聞き出した次第なんよ」


 他にも、あの氾濫の日に自分の姿を見た人物を探して裏付けを取っていたそうだ。


 「ナオヒト、本当か?」

 「はい、カザネ先生。事実です」

 「確か領主の発表では、長男である息子のマキシムの活躍があったと聞いているが」

 「目立つのも、どうかとあの場にいた方に言われてましたし、自分もあの力は無理があったようで倒れましたし」

 「そうか、それで帝国の方々が会いたいと言ってきたのだな」

 「そうなんです、それで、ここから本題なんやけれど」


 帝国では航空艦を完成させたが、自衛する装備はあるが護衛をする様な物が無いらしい。

 100mはあろうかと思う巨大な船体である。あれを襲おうとする何かはいないのではないだろうか。


 「そもそも、あれの目的は何なんですか?」

 「霧の迷宮では、野営や拠点の作成が難しい事は知っておるかえ?」

 「はい、聞いています」

 「それなら、話は早い。あれは、その拠点になるもんや」


 あれであれば、兵士や探索者を輸送出来る。

 拠点としても、機能出来るのだから夜間や休憩する際には十分に安全に出来るのだそうだ。

 すでに、帝国領内では試運転を済ませてもいると言う。


 「ただね、結果は良好なんやけれど、同型艦である艦が迷宮内部へ突入後、最下層と言われとる階層で撃沈したんよ」


 魔物が強力になった事で、地上を進む兵士や探索者にも被害が出始めていた所に、空を飛ぶ魔物の群れが登場。

 現在、浅い階層では確認出来なかったタイプだったそうであり、特に大型の魔物による攻撃で艦は墜落、航行不能になったそうだ。

 決死隊が、道を切り開き一部の兵士がこの情報を持ち返ったそうである。


 「ほんでな、その迷宮って言うんが帝国領内でもそこそこの歴史を持つ迷宮なんよ」


 他の地域や、他国の迷宮でも今度の様な魔物がいた場合の対処が出来ない場合は、さらに艦を失いかねる事態となる。

 それだけは避けねばならないが、現在は魔導アーマーを浮かせるかと案も出ているが、上手くいかない。

 そんな時に、空中に浮かび魔物を屠る姿を見たユーリーや、カチューシャはこれを使うナオヒトに強く興味を持ったと言う事だそうだ。


 「ユーリーからも、あったかもしれへんが、うちに来る気はないやろか?」

 「うむ、まだ若いがあれだけの力があれば、帝国内でもそれなりの地位になれるのである」


 帝国は、有能な人物であれば年齢や種族は関係なくそれに見合った待遇が受けられるそうだ。

 探索者も、それに漏れず帝国内で活動する力のある探索者は優遇されるそうだ。

 話は、すごく良い話だと思う。


 「すみません、やはりこのお話はお断りします」

 「なんでか、聞いてもええか?」

 「自分は、まだまだ未熟です。今回倒れたのも、自分に見合っていない力を無理に使ったからでした。もう一度、あの力が使えるとは今はまだ考えていません」

 「また、霧の氾濫が起きたらどうするのであるか?」

 「分かりません。でも、自分も力を付けて頑張るしかないかなと考えています」

 「それは、別にここで無くてもかまへんのやない?」

 「それは、そうかもしれません。でも、まだ、自分はここで頑張るつもりです」


 ユーリーとカチューシャは、顔を見合わせて何かを考えているようだ。


 「わかったわ。うちらは、今回の霧の氾濫で、魔物が減少してるうちに迷宮の攻略に着手する予定なんや。これが、上手くいけば、王国の領土も広がる」

 「どの程度まで霧が晴れるかは分からぬのだが、王国もこれに応じておる。本来は、あり得ぬ話ではあるが協力を要請するやもしれんのである」

 「協力、ですか?」

 「そうや、万が一飛行する魔物と遭遇した場合は一度街へと戻るさかい」


 その時は頼むわ、と言うとユーリーとカチューシャは席を立つ。

 キキョウが、お茶をと持ってきたがそれを断って出ていってしまった。

 本当に、言いたいことを言って出ていってしまった。


 「それで、どうする?ナオヒト?」

 「カザネ先生。正直に言えば、あまり分かりません。ゆくゆくは、色々と世界を周ってみたいとは思います」

 「そ、そうなの?」


 キキョウとヒイラギが、ズイッと身を乗り出してくる。

 成人して探索者になれば、各国の行き来も身分がある為やりやすくなるだろう。

 この世界に来るきっかけになった女神の言っていた事、これがなぜか気がかりであるせいかもしれない。

 帝国のユーリーやカチューシャの言うように、帝国に行くと言う選択肢もあるが、その言葉にはピンとくることは無かったのだ。

 キキョウや、ヒイラギもいるこの場が居心地がいいと感じているせいもあるだろう。


 「よし、ナオヒトも元気になった様だし、今日はお祝いだ」


 カザネがこの場を締め、キキョウとヒイラギの3人で料理を作る為に台所へと向かう。

 手伝おうとしたのだが、ナオヒトの為の快気祝いと言って、座らされた。

 窓から見える航空駆逐艦をぼんやりと眺めながら、料理が出来るのを待つのだった。



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