表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

探索者見習い、霧の氾濫

ハダテ城塞都市南門




 南門につくと、そこは喧騒に包まれていた。

 負傷した兵士だろうか、重軽症者が横たえられている。

 領主軍の兵士がせわしなく走っていた。


 「おぉっ!!」


 怒声や罵声が響く中、一際大きな声が響く。

 南から迫る魔物に対峙する城壁の上からのようだ。

 上に登れる場所を探して、上がると人が多い。

 特クラスのメンバーを見つけた。ちょうど南門の上にいるようでその周囲から歓声が上がったようだ。

 此方へと向かってくる魔物の群れへと視線を向ける。

 数えるのも馬鹿らしい魔物の群れ、正面の中央付近に最初は小さく徐々に大きな竜巻が生まれると魔物を次々と吹き飛ばしていく。

 巨大な竜巻は、さらに4本に分かれて魔物の群れを蹂躙していく。

 一瞬、その凄まじい威力に見惚れてしまったが後続の魔物が空いた箇所に詰めてくる。

 続いて、マキシムの魔法が放たれるかと思ったが、そうでは無いらしい。

 連続して使えないのか、または理由があるのかもしれない。


 「あのっ、すみません!自分達も参戦できないでしょうか?」

 「なんで、こんなところに亜人どもがっ、いや、お前は人族か。まぁいい。取りあえず、邪魔にならない様にしてろっ」


 領主軍の兵士に声を掛けても、どれも似たような言葉ばかりである。

 一度、城壁の下に降りてみる。キキョウとヒイラギはすぐに猫の様な姿の探索者に連れられて負傷者の手当に駆り出されていく。

 最初は、離れる事を恐れているのか、2人は行きたがらなかったが、自分からもお願いすると素直に従ってくれた。

 1人、取り残されてしまった。

 城壁の上からは、弓や銃、魔法での攻撃で魔物に対しては攻撃を続けている。

 城壁には、大きな門があるがそれは堅く閉ざされており、傍にある小さな出入り口から外に出て防衛している探索者や兵士の負傷者を運搬している様だ。

 邪魔にならないところ、すでに装備はカードから出している。

 妖精フェアリーもすぐに出てもらった。

 状況を理解しているのか、命令をとでも言うように敬礼し、気を付けの姿勢を取った。


 「前に出過ぎた探索者の一団と、オイレ旅団が群れ内部で孤立っ!」

 「馬鹿がっ!?何の為に亜人どもの旅団を前衛に配置したと思っているかっ」


 これでは、撃てんとか巻き込まれるとか聞こえてくる。

 声のする方に振り返ると、大砲だろうか。10門はあるだろう、それが道に並んでいる。


 「オイレ旅団は、全滅したか?」

 「いえ、負傷者を回収して少しずつですが此方へと向かっております」

 「魔物の群れを引き連れてかっ、えぇい!マキシムっ、魔法はまだ使えんのかっ」


 大砲の側にいる、丸い体系を隠す事無く鎧もここにいる中では1番上等な物を着用している男が喚き散らしている。

 あれは、この街を収めるパワラ・ハザネと言う名前だったはずだ。

 いつまでも喚いているようなので、視線を外す。

 兵士や探索者に混じって、城壁の外へと出ると地獄のような光景が目に飛び込んできた。

 すでに、ゴブリンは殲滅したのだろう。

 しかし、見たことのない魔物が多くなっている様に見える。例えば、ゴブリンをさらに大きくし、武器や防具を身に纏った魔物、あれは前に聞いたホブゴブリンだろうか。

 他にも、熊の様な魔物のグリズー、さらに一回り大きく赤くて火を吐くレッドグリズーもいるようだ。

 運がいい事に城塞都市側は、丘の上になっており守りやすい環境ではあるようで、まだ城壁までは辿り着いていなのが幸いだった。

 突然、地響きと爆発音が響く。

 そちらの方に目をやると、領主軍に配備されている魔導アーマーの1機が赤く炎に包まれており、爆発したところだった。

 この1機は、他の機体よりも前に出ていたようだが、一体何と戦っていたのだろうか。


 「あっ、アイアンゴーレムだっ!マズイゾ、城壁には着かせるなっ!」


 城壁の上から視認したのだろうか、探索者の1人が叫んでいる。

 まだ、距離はあるが、ああいうタイプは足が遅いはずだ。

 改めて、オイレ旅団の姿を探す。


 「見つけたっ!」


 魔物の群れに分断されているが、確かにまだ無事の様だ。

 アンナの姿が確認出来る。梟の紋章の旅団の旗を掲げているようで、魔物の群れの中に孤立したが、探索者や兵士を回収しながらゆっくりと城壁を目指している。

 助けに行きたくても、手持ちの武器では射線が味方の方へと向かう形になる。

 ただ、今ならオイレ旅団と城壁を守る兵士や探索者の間には魔物しかいないと見える。

 待てよ、マキシムの魔法を使う時は、みなどうやっていたのだろうか。

 広範囲に広がる魔法だろうし、前に出た探索者も避難するのではないだろうか。

 側にいた兵士を捕まえて、マキシムが魔法を放つかもしれません、と伝えるとその兵士はまた別の兵士のところへと走る。

 その後、すぐに鐘が鳴る。

 すると、前衛で魔物と戦っていた集団が下がり出して城壁前に展開している兵士達から魔法が放たれる。

 基本なのか、魔法は揃って火の玉のファイアボールだった。

 しかし、これで障害は無くなったと思いたい。

 カードホルダーから、コトリから受け取ったカードを2枚取り出す。

 使う時は、重ねてだと聞いている。


 「解放リベレイション!」


 どうなるのか、正直に言うとワクワクが止まらなかった。

 カードが消え、代わりに現れたのは手元には無線機だ。

 そして、現れたのは迷彩柄の機体である。


 AH-1Sコブラ


 戦時中、汎用ヘリコプターをベースに開発された元居た世界最初の攻撃ヘリコプターである。

 その中でも、AH-1Sコブラは発展型の1つだ。

 機体は細長く、1mもない非常にスリムな胴体を持ち前面面積を減少させている。

 細長い胴体にタンデム式のコックピットが採用され、前席には射撃手、後席には操縦士が乗る。

 見ると、妖精フェアリーの姿が確認出来た。こちらへ向かって親指まで立てて見せている。

 また、武装は機首下にある20mmM197ガトリング砲を1門を固定武装として搭載し、左右のスタブウイングにはTOW対戦車ミサイル8基、ハイドラ70mmロケット弾ポッドを2基搭載している。

 ロケット弾は、19発入りが2基になる。

 本来ならば、最大武装での状態では飛べ無いはずなのだが、この機体ではどうにかなりそうな気がしていた。


 無線を使って指示を出す。少しでも、高いところへと思い、また城壁の中へと戻り階段を上がる。

 オイレ旅団の戦闘する場所を見つけると、その輪がだいぶ狭くなっているのが分かる。戦えるものが減っているのだろう。

 あまり、時間は無いようだ。


 「聞こえますか?まずは、城壁と孤立した旅団の間にいる魔物の群れに攻撃」


 お願いします、という前に機体は空へと舞い上がる。

 突然、空に現れた謎の物体に驚いて、弓や銃で攻撃する者も居たがどれも当たりはしなかったようだ。

 上空で旋回し、空中でホバリングを開始すると機首下の20mmM197ガトリング砲の砲身の回転が始まる。

 物凄い音と共に、土柱が上がり何かが放たれているのが辛うじて分かる様に見えていた。

 また、稀に色のついた曳光弾が混ざっている事から魔法を使う兵士や探索者が見ればファイアボールが物凄い勢いで放たれているのかと思うほどだろう。

 現に、側に立っている兵士がそう言っていた。

 時間にして数秒、掃射を終えたAH-1Sコブラに目標を伝える。

 次は、オイレ旅団を追う魔物の群れに対しての攻撃だ。

 後退に時間が掛かっていた為に、比較的足の遅いアイアンゴーレムも追い付いてしまいそうだ。


 「続いて、目標はオイレ旅団南側の魔物の群れを。硬い魔物もいる可能性がある為、兵器使用自由です」


 AH-1Sコブラは、オイレ旅団の頭上を超えて行くと地上を舐めるかの様に掃射していく。

 20mmM197ガトリング砲の威力は凄まじく、平地を進む魔物の群れを粉砕してしまった。

 アイアンゴーレムだけは、その強度である程度の形は残っている様である。ただ、五体満足の個体は見当たらない。

 魔物も学習したのか、アイアンゴーレムを盾にする個体もいるようだが、再掃射には耐えることが出来ず崩れ去っていく。


 「空を飛ぶ不思議なものが出たと思えば、それが魔物を一掃するであるか」


 気付かなかった、すぐ後ろに領主軍の鎧とは違う甲冑を着た男が立っていた。

 顔も覆い隠しているが、声を聴く限りは男性である。

 甲冑には、魔者の体液だろうかそれとも兵士の血か。泥や煤で汚れていて。

 腕には、自分の身長を超えると思われるハルバートと呼ばれる武器を持っていた。


 「しかも、君があれに指示を出しているのであるか?」

 「は、はい。まずかったでしょうか?」

 「何を言うか。君のおかげで見るのである」


 指差す先には、オイレ旅団が門の方へと撤退する姿だった。

 その姿を見て、ホッと胸を撫で下す。

 改めて、オーバーキルと言うか瞬間的な火力では圧倒的である。

 依然として魔物の群れは多く、AH-1Sコブラの弾薬が尽きる方が早そうだ。

 この魔物の群れは、撤退するとか逃げると言う行動を取っていない。


 「君、まだアレは戦えるのであるか?」


 無線で確認すると、妖精フェアリーからは肯定の意思が伝わってくる。

 それを、甲冑の男に伝えると力強く頷いた。


 「ここからは見えんが、この群れを率いている魔物がいるはずである。それを倒せれば、氾濫も収まってくれるのである」


 男が言うように、それらしい魔物がいるか確認するようAH-1Sコブラへと指示を出す。

 妖精からのイメージが無線を通して伝わってくる。

 南の霧の迷宮から出てすぐの場所に個体としても大きな魔物がいるようだ。


 「何でしょうか、結構大きい個体が確認出来たようです。数は、1体。四足で鎧の様な物で身体が覆われており鼻先に角を確認出来ました」


 赤く熱せられたような色した魔物の様だ。

 それを聞いた甲冑の兵士は「むぅ」と言葉を詰まらせる。

 彼はその魔物の事を知っているようだ。


 「あれは、ヒートライノと言う4足歩行型の魔物である、非常に厄介な魔物であるな」


 高熱を発し、身体を覆う事で物理的な攻撃を物ともせず魔法による攻撃も元々の強靭な身体によって倒すのは至難の業である。

 また、突進する力も強力であり高熱を纏ったままで迫るヒートライノを抑えることは難しい。


 「それでこの魔物、ヒートライノは魔物の群れを統率している可能性は?」

 「無いとは言えないのである。この規模であるから、まだ本命もいそうじゃが、ただ言えることはあるのである「


 ヒートライノが、城壁へ辿り着いた場合にはその突進によって門や壁の一部が破壊されることもあり得る。

 そこから、魔物の群れが内部に侵入してしまえば結果は想像もしたく無い。


 「目標、ヒートライノ。周囲の魔物も可能な限りの排除を」


 肯定するイメージが伝わってくる。

 轟音と地響きがここまで聞こえてくと、甲冑の男も驚いていた。

 AH-1Sコブラから放たれるのはハイドラ70mmロケット弾ポッドから放たれるロケット弾が炎の尾を引いて次々と魔物の群れに叩き込まれていく。


 「やったのであるかっ?!」

 「待って下さい」


 結果は成功だったようだ。

 ヒートライノの撃破に成功、周囲の魔物の群れの掃討も完了したようだ。

 弾薬の状況はまだ残っている様だ。


 「どうなったのであるか?やったのであるか?」

 「えぇ、ヒートライノは撃破。周囲の魔物も殲滅完了です」


 ガシッと甲冑姿の男に抱き締められた。

 ゴツゴツとした鎧の隙間からほのかに甘い香りがしてくる。

 ちょっと意外だったせいで、上手く抜け出せないでいると、見知った顔が城壁を登ってきていた。


 「ナオヒトか、もしかして、アレは君が何かやったのかな?」

 「アンナさん、御無事で?」


 オイレ旅団のアンナがそこにはいた。

 甲冑の男はやっと自分の事を解放してくれた。

 腕を怪我したのか、包帯を巻いた姿が痛々しい。


 「また君には助けられたな、ありがとう」

 「いえ、皆さんは無事ですか?」

 「ラーシャもモーリスも無事だよ。君は探索者になる道を選んだんだな」

 「はい」

 「あと、アレを出したのは君だと他に知っている者はいるか?」

 「いえ、こちらの方とアンナさんだけです」


 甲冑の男を見てアンナは驚いていた。

 誰か知っているのだろうか。


 「帝国の軍人が何かしているのかな?」

 「いえ、我もこの少年の力に驚いたのである。それで、側で見させてもらったのであるよ」

 「帝国にも、ああいった物はあるのでは?」

 「我々の技術では、あの大きさであれだけの力を持った物は無理である。余計、この少年が気に入るのである」


 籠手は指先も覆うようでゴツゴツとした指で肩に手を置かれる。

 静かに、アンナとこの男の間で火花の様な物が見える気がするのは気のせいだと思いたい。

 しかし、この男は帝国の軍人だったのか。


 「そう言えば、我の名を言ってないのである。我は、ユーリーと言うのである。帝国のハダテ城塞都市に駐在する武官である」

 「ナオヒトです。まだ、探索者の卵です」


 甲冑の顔の部分にも、仮面で覆われており顔の表情は見えない。

 ただ、こちらをジッと見つめてくる瞳が覗いている。

 こほんと咳払いをしたアンナに視線を移すと、キキョウやヒイラギも来ていた。

 2人も、怪我は無いようだが治療を手伝っていたせいだろう。血や泥で汚れていた。


 「キキョウ、ヒイラギもお疲れ様でした」

 「ナオヒト君も。あれってやっぱり、ナオヒト君がしたの?」

 「まぁ、そうです。でも、よく分かりましたね」

 「妖精フェアリーさんが、乗ってるのが見えたから」


 えへへ、と笑うキキョウとヒイラギだった。


 「なんだ、ナオヒトも隅に置けんな。可愛い女の子を連れて歩いているようだな」

 「可愛い、だなんてそんな」


 2人とも、確かに可愛い。照れてるところも可愛い。


 「しかし、ナオヒトよ。アレは強力だ。まだ、あの力を持っている事を言うべきでは無いかもしれない」

 「そうであるな。この度の氾濫は、何処か怪しいのであると我も思っているのである」


 理由はどうであれ、領主の息子であるマキシムの活躍もあったが魔力切れを起こした間に自分が魔物を倒して氾濫も沈静化させたと言われたら何をされるか分からない。

 アンナとユーリーの意見を聞いておくことにした。


 そうこうしているうちに、城壁の外に残された魔物の残党を、領主軍と探索者が出て駆逐していく。

 AH-1Sコブラには戻ってくるように指示を出す。

 頭上を爆音を響かせて通るAH-1Sコブラを皆が見上げて手を振ってくれている。


 「帰還リターン


 AH-1Sコブラは、カードへと戻った。

 その光景を見てアンナとユーリーは驚いていた。

 まだ、他にも持っているのかとユーリーは興奮して聞いてきたが、もう無いのだと説明する。

 今度は譲ってくれとに話になったが、断る。


 「それなら、君ごとまとめてうちに欲しいである。帝国に仕える気はないであるか?」

 「今のところは、特には考えていません。探索者になるつもりですから」

 「そうであるか。もし、気が変わったら、いつでも我を頼ってくるのである」


 そう言って、ユーリーは城壁を降りていく。

 階段下には、ユーリーと同じ様に甲冑を着こんだ者が数名待機していたようだ。

 彼らを率いて、ユーリーも城壁の外へと出る。


 霧の迷宮の氾濫を終えて、多数の犠牲者が出たものの領主の息子であるマキシムの活躍によって早期に氾濫は、終息したとこの日の夕刻には発表された。

 帝国の武官も戦闘に参加、魔物の掃討に協力。

 ナオヒトはと言うと、一部の探索者、帝国軍から一部魔石を受け取る事になる。

 かなりの数を手に入れた為、成人前にして一財産を築き上げることになったのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ