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探索者見習い、迷宮の脅威

ハダテ城塞都市




 「ナオヒト君、つ、次は、あそこを見たい」

 「っ!」


 教育隊で今日の講習を終え、まっすぐにお世話になっているカザネの家に帰ろうとするとキキョウとヒイラギから「待った」の声がかかった。

 金髪おかっぱ頭に、前髪で大きな1つ目を恥ずかしそうに隠しているリトルサイクロプスのキキョウ、小さな身体に似つかわしくない大きな胸、ボサボサ銀髪のドワーフのヒイラギの2人は、探索者協会の教育隊で知り合った美少女だ。

 2人とも美少女と呼べる存在なのに、なぜ自分にこうして構ってくれるのか、それだけは不明である。

 人族では無い人、亜人と呼ばれいる種族だそうだが自分はこの世界で初めて出会うにも関わらず、すんなりと受け入れている。


 さて、そんな美少女が突然何かと思い聞いてみると、どうも昨日のカザネと2人で迷宮に行き、遅い帰りだった為に貰えた休みを使い、依頼クエストで貰えた報酬で街の方へ3人で行こうと考えていたのがダメになってしまったそうだ。

 実は、夕食の時にキキョウとヒイラギが街に行こうと話しているのをぼーっとして聞き流していた。なぜかと言うと、女の子同士での買い物だと思い聞いていなかったからだ。

 うーん、ちゃんと自分の事も誘っているつもりだとキキョウは言っているのだが、覚えていない。

 その為、今日こそはと一生懸命説明するキキョウとその後ろで肯定する様に首を縦に振り続けるヒイラギが可笑しくてつい笑ってしまった。

 その時、2人の顔が一瞬固まったように見えたのだが自分が了承するとホッとした表情をしていた。

 一瞬、違和感を感じたが2人がまた笑顔に戻ったので気のせいだと思う。

 それからが大変だった。

 繁華街で、屋台の食べ歩きする。今日は晩御飯も済ませるつもりでいるとカザネには伝えたらしい。すると、お小遣いだと言って、銅貨を1人1枚ずつの3枚貰ったと言う。

 お蔭で色々なものを食べ歩きしていた。例えば、ジャガイモのような味の芋があり、それを干し肉と一緒に蒸かしているだけの物があった。

 干し肉を作る際に使用した塩だろうか、イモに溶け出して味が移ったのだろう。フーフーと冷ましながら食べて旨い。

 キキョウが若干猫舌の様で様で、1番食べ終わるのが遅かった。ちなみに、ドワーフであるヒイラギは熱いままペロリと平らげてしまった。平気だというジェスチャーに、驚かされた。

 他にも、串に刺さった鳥のから揚げを歩きながら食べ、リンゴの味に似た果実を絞った飲み物を3人で飲む。

 買い食いが、こんなに楽しいものだったとは思わなかった。いや、きっと前の人生でも、買い食いは楽しかったはず。それを忘れているだけなのだろう。

 お腹もいっぱいになった所で、普段着を購入したい少女2人に連れられて、繁華街の中でも屋台が並ぶ中心からそれた所にある服屋に入る。

 キキョウが大きな瞳を輝かせ、ヒイラギを引っ張りながらあれもこれもと店内を見て回る。コトリのお店よりも広く、色々と服を扱っているらしい。

 服屋の店員は最初自分が入ってきた時はギョッとして驚いた顔をしていたが、少女2人を見て楽しそうにしているからか優しい表情に戻っていた。

 どうやら、店員も亜人の様だ。狐の顔をした種族の様で、目元には赤いアイラインが入っている。

 しまいには、狐の店員がキキョウやヒイラギに付き添っていて、とても楽しそうだった。

 自分には、服を選んでコーディネイトするセンスは無い為

 キキョウが買う物を決めたのだが、ヒイラギは買うのを渋っている。すると、キキョウはヒイラギに近付き何やら耳打ちすると、ヒイラギは自分の方をチラチラと見る。それから、2人仲良く買っていた。

 狐の店員も、笑顔で送り出してくれたのだった。ただ、何を買ったのかまでは教えてくれなかった。


 外に出ると、もう陽がだいぶ沈み城壁の向こう側に姿を消している。

 夜を告げる鐘が、街に鳴り響き繁華街を通って歩くが先程とはうって変わり酒やつまみを提供する屋台に変わっている。


 「もう、陽も暮れてきましたね。そろそろ帰りましょうか?」

 「そ、それがね。今日は、ヒイラギがお願いがあるそうで」


 ヒイラギが一生懸命、身振り手振りで伝えようとしている。

 家に帰るのだそうだが、部屋の片づけを手伝って欲しいとの事だった。

 カザネにも、それは話しているそうだ。

 それから、ヒイラギの家に向かう。

 ヒイラギの家も、カザネの様に、城壁都市の壁側にあった。

 石造りの家の小さな家の様だ。

 しかし、異変に気付いた。


 「あの、屋根の一部に穴が」


 ヒイラギに聞くと、年齢にそぐわない大きな胸を逸らして胸を張っている。


 「いやいや、褒めてはいないですよ?」


 なぜか、驚いてしょんぼりするヒイラギを連れて家の中へ。

 入っても、散々だった。

 衣服は、脱ぎっぱなし、食器は積んだまま。

 もちろん、掃除がされているわけでも無い。

 ヒイラギはと言うと、なぜか照れ笑いしていたが笑い事ではない。

 キキョウと、2人はヒイラギにいるかいらないかと聞きながら先ずは分けていった。

 衣類も食器も洗えば大丈夫だろうが、よく分からない物もたくさんある。

 結局、空いている部屋に衣類は押し込んでおいた。

 陽も暮れているのだから、明日にでも洗濯しよう。

 次には、食器を洗う。

 この街は、上下水道が完備されていた。

 衛生的な面からと、領主の息子であるマキシムが提案したらしい。

 動力の問題だったり、そう言った物は魔石のお蔭で解決したそうだ。

 魔力も高く、剣技も一流。

 どうも、この城壁都市の内政も色々と手を付け始めているのだそうだ。

 ここだけで聞くと、転生者の成功例だと思われるのだが、たまたまだろうか。


 「ね、ナオヒト君。ここは、私がするから。ヒイラギちゃんのお手伝い、お願いします」


 考えていて、手が止まっていた。

 キキョウに言われて、食器洗いを任せる。

 教えてもらったヒイラギの部屋に行くと、案の定と言うか屋根が吹き飛んでおり空が見えている。


 「ヒイラギ、ここが君の部屋だったんだね。この天井はどうしたの?」

 「……、っ!」


 ヒイラギは、自分の腰に手を向ける。

 あの、手榴弾の様に爆発させる何かを作っていた時の事だそうだ。

 分量を間違ったのか、ビン毎天井に向かって飛び上がり爆発したそうだ。

 本人は、怪我も無かった事が幸いだったと思う。

 結局、屋根は今すぐどうこう出来るものではなかったので、ヒイラギに確認しながら必要なものを隣の部屋へと運んでいく。

 片付けが終わったのは、暗くなってからの事だった。

 亜人の住んでいる地域は、比較的に外は暗い。

 ヒイラギの家から、カザネの家に帰るには大分暗いしガラの悪い連中もいるそうだ。

 子供である自分達には、暗くなって外には出ない様にとカザネにはキツく言われている。

 自分は、武器も妖精フェアリーもいるのだが2人を守りながらだとどうなるか分からない。

 前回、魔物の接近に気付かずに奇襲を受けた自分としては無理はしてはいけないと考えていたのが。


 「それは、確かに分かるんですよ。でも、これはマズイノデハ?」

 「えっ、な、なんで?」

 「……っ!」


 夜空を眺めながら、子供3人でヒイラギの部屋で寝ることになったのだ。

 理由は、荷物を空いている部屋に移してしまった為に寝れるスペースがなくなってしまった。

 唯一、そのスペースが天井に穴の開いたヒイラギの部屋だったのだ。皮肉な物である。

 ベッドも大きいから、川の字になって横になる事が出来るのだが自分の右にキキョウ、左にはヒイラギが挟むようにしている。


 「あの、先程も言いましたが男女一緒に寝るというのはどうかと」

 「そ、そうは、言っても……。ベッドはここ、しか無い、よ?」


 キキョウがそう答えヒイラギは無言で首を縦に振る。

 それでも、何とか理由を付けて抜け出そうとする。しかし、両腕はキキョウとヒイラギにガッチリと掴まれてしまった。

 右腕には、小さくても弾力のある何かが押し付けられ、左腕に至っては柔らかい何かに挟み込まれている。


 「そうか、ここは天国なのか?」

 「えっ?!」

 「?」


 マズイ、声に出ていたようだ。

 キキョウは、恥ずかしいのかプルプルと震え何かの弾力を堪能する事になってしまう。

 ヒイラギはよく分からないのか、眠そうに大きな欠伸をすると静かな寝息を立て始めた。自分の腕を掴んだまま。


 「あぅ、そ、それじゃあ、おやすみなさい」


 キキョウも、恥ずかしいのなら腕を離せばいいのにそのまま寝入ってしまった。

 結局、2人に挟まれたまま一晩を過ごす羽目になるのだった。




ハダテ城塞都市ヒイラギ宅




 ヒイラギの寝相には驚かされる。

 結局、1日の疲れからか眠ってしまってキキョウとヒイラギの2人の間から出ることは叶わなかった。

 まずヒイラギの力が強かった事に驚いた。その腕を振り解く事は出来ず、そのままでいると寝相の悪さからか、とうとう自分の上へときている。

 それがまた、気持ち良さそうに寝ているから無理して起こす事が悪い気がしてくる。

 キキョウは寝た時の姿のままで寝ているようだ。

 さて、どうするものかと考えていると鐘の音が聞こえてきた。

 しかし、いつもとは違う。

 継続して鳴る鐘の音は、緊急時になると聞いていた。


 「キキョウ、ヒイラギっ!すぐに起きて下さい!」

 「うーん……、あともう少し」


 すぐに反応したのは思いの外にヒイラギだった。

 自分の上で、上体を起こして外の音を聞いている。

 それから、すぐに立ち上がるとキキョウを起こしてくれた。

 自分も、カードホルダーを確認する。キキョウとヒイラギは今は武器も防具も持っていない。

 ヒイラギだけは、自分で調合した爆薬は持っている様で、ベルトのポーチに入れていた。


 「キキョウ、キキョウ。霧の氾濫」

 「えっ?!霧の??」


 驚いた、ヒイラギは喋れるのか?

 振り返ると、2人で話している。でも、2人の話すアクセントがどこか違う気がした。

 元居た世界でも地域の方言や訛りとでも言うか、そう言う違和感である。

 しかし、今はそれを気にしている場合では無い。


 「ヒイラギ、霧の氾濫と言いましたが、本当ですか?!」


 自分の言葉に今度は、キキョウとヒイラギの2人が驚く番だった。


 「あの、ナオヒト君?亜人の言葉、分かるの?」


 キキョウが聞き返してくる。


 「いや、亜人の言葉とか分かりませんが」

 「でも、でも、ヒイラギは亜人の言葉で話していたんだよ?」


 知らなかった。普通に伝わってきたのだ。

 ヒイラギなんて、目を丸くして驚いている。


 「亜人の言葉は、習う人いないから。亜人が共通語話せないといけない。だから、ビックリ。ね、ヒイラギ」

 「ナオヒト、かっこいい」

 「えっ?!」


 ヒイラギが、言ってしまって慌てて両手で顔を隠す。隠れていない耳まで真っ赤だがそれは言わないでおこう。


 「あり、ありがとう」


 自分も、女の子からそんな風に言われたことが無くて声が裏返った。

 キキョウまで、チラチラとこちらを見つめてくるからなんか耐えられ無くなってきた。


 「はいっ、とりあえず話を続けましょう!ねっ!」


 3人アワアワとしながら、話を続ける。

 ヒイラギは、耳が良い。集中すれば、遠くの音も拾えるらしい。

 城塞都市の兵士が霧の氾濫だと叫んでいるのが聞こえたそうだ。

 しかも、かなりの規模の可能性があるらしい。


 「キキョウ、ヒイラギ!ナオヒトもいるかっ?!」


 カザネが、ドアを開けて入ってきた。息が切れているところを見ると走ってきてくれたのだろう。

 みな、無事ですぐにでも動けることを伝えると、カザネはホッとしたようだ。


 「すでに、都市を守る為に領主軍や探索者の旅団も協力してくれている。しかし、君達はまだ正式に探索者になったわけでは無い。教育隊は、一部の探索者と共に北にある要塞まで民間人を守りながら避難する」


 霧の迷宮の氾濫に備えた規定なのだそうだ。

 現在、確認されているのはゴブリンの群れだそうだ。

 霧の迷宮の傍にある監視所から早馬で知らされ半刻もしないうちに、空には監視所が落ちた際に上がる赤い信号弾が確認されたとの事である。

 数は不明だが、まだゴブリンの群れもしくは、他の魔物が出現した可能性も考えられる。

 城塞都市の対応も早く、ここから北にある村々には早馬が出ており避難する様に触れ回っているそうだ。


 「このまま、我々も避難する為に民間人と合流する。荷物は、多くは持てんぞ」

 「分かりました」


 ヒイラギはと言うと、持てないと分かってすぐに調合用の道具等、大事な物を床下を開けてそこに入れていく。

 万が一に、備えての事だろう。


 「武器や防具は、最低限の物しか持ってはいけない。キキョウは弓矢だが、防衛で貸し出されてしまって無いんだ。すまん」

 「しかし、今度の霧の氾濫ですが、兆候は無かったのですか?」

 「あったらしい、が報告があって調査した際には判明しなかったそうだ」


 小規模な氾濫の場合は、特に分かりづらい事があるそうだ。

 しかし、今回の場合は不可解なことが起きていたにも関わらず氾濫の兆候は無いとされたそうである。

 通常、ゴブリンの巣が第1階層に現れるなどまず無い話だった。

 しかし、その巣も群れも領主の息子であるマキシムの活躍によって破壊に成功、群れは消滅したと言われている。

 話しているうちに、ヒイラギの片づけが終わり避難の為に中央広場で集まる民間人達に合流する。

 しかし、その中にはマキシム達の姿は見当たらなかった。

 近くにいる民間人に聞くと、フェゼント旅団と一緒に都市の防衛へと向かったそうだ。

 カザネにも確認するが、事実らしい。

 実際に、フェゼント旅団はゴウラムと言う旅団長以下猛者が揃っている。

 出会いはあまり良い印象は無かったが、実力はあるそうだ。

 避難民の集団が動き出した。

 北門へと向かうらしい。


 「カザネ先生、ちょっと離れても良いですか?」

 「うん?そうだな。すぐ戻れるか?移動は、我々と探索者が最後だから構わんが急げよ」


 頷いて、その場を離れる。探索者協会の横の路地に入ると見知った顔を探す。


 「やぁ、ナオヒトクン」

 「おはようございます、コトリさん」

 「今日は、どうされましたか?」

 「コトリさんも、一緒に避難をと思いまして」

 「わぁ、ありがとうございます、ナオヒトクン」


 しかし、離れられないと言う。

 霧の迷宮の干渉で、コトリの店はここからしか入れないそうで動けないのだそうだ。


 「まぁ、あれですよ。今回の氾濫の撃退に成功すれば、良いのですから」

 「そうかもしれませんが、規模も不明だそうですよ?」

 「ナオヒトクンは、どう思います?」


 問い掛けられ、考える。

 何かが、引っ掛かるのだ。

 何とは言えないが、氾濫の兆候が見過ごされているし、マキシム達の特クラスの人員は防衛に回っている。

 小規模な氾濫が起こるように、仕組まれたのかと一瞬頭を過るが憶測だとその考えを振り払おうと頭を振ると、ニヤリと笑うコトリが目に入った。


 「そうかもしれませんよ。領主の息子が、初陣を華々しく飾るなんて素敵でしょうねぇ」

 「民衆は、領主を指示する様になると言う事ですか?悪い事では無いと」


 そこまで、言いかけて言葉が止まった。

 通りの方から、迷子になったのだろうか泣いて母を呼ぶ声が聞こえてくる。


 「本来、氾濫とは予想しえないものです。しかし、意図して起こした結果ならば?」


 コトリの顔は笑っているが、目の奥は笑っていない。

 口角は、釣り上がり三日月の様に赤く染まっている。


 「どうでしょう、今回は後払いで構いません。むしろ、今度の霧の氾濫は、人間の浅はかな考えを凌駕している規模です」


 その言葉に、カザネから聞いたことを思い出す。

 国が亡ぶ。

 自分にとっては、国が亡ぶなら逃げればいいとも思える。

 しかし、そうは考えられない。ここで、知り合ったキキョウやヒイラギ。カザネや自分を助けてくれたオイレ旅団のみんなは無事でいられるかと言うと、絶対ではない。

 気が付けば、コトリの店へと来ていた。


 「あなたには、わたしが付いてます。今回は、虎の子のコレを貴方に」


 2枚のカードを差し出される。


 「今は、まだ魔石も足りませんよ」

 「今回の氾濫で、霧の迷宮の力を削ぐことが出来れば良いのです。南への足掛かりも出来ますしね」


 1枚のカードは妖精フェアリーのカードだった。今持っているのは、突撃アサルトと言う種別の物だがこれは違った。

 航空エアーと書いてある。しかも、すでに人数を示す数字が、2と表示されていることから、2体の妖精フェアリーが使役出来る状態と言う事だ。

 続いて、もう1枚に目を移す。


 「ぶっ!?」


 思わず吹き出してしまった。

 これは、いけないのではないだろうか。


 「現在、わたしの用意出来る最大火力です。中途半端、かもしれませんが」

 「これ、使ってもいいんですか?」

 「はい。わたしには戦う術はありません。ですので、ナオヒトクンに頼るしかないのです」

 「ちなみに、これは、自分も乗れるんですか?」


 コトリは、首を振った。

 今あるのは、妖精フェアリーの為の物しか用意出来ないそうだ。

 正直、使ってみたいのだが、仕方ない。


 「でも、今から避難する指示もきています。とりあえず、抜け出してきます」

 「あっ、待って下さい。避難は出来ません。そうなります」

 「どういう事ですか?」

 「足の速い魔物が、すでに回り込んでいるのです」


 数は不明だが、倒している間に南から来る氾濫の群れが都市に到達するそうだ。


 「ご武運を」

 「コトリさんも。終わるまでは、何処か安全な場所で隠れていて下さい」


 「ありがとうございます」と言って、コトリの店を出る。

 北門から、馬に乗った探索者が血相を変えて戻ってくる。

 第2階層で出現が確認されている狼型のベアウルフの群れと、未確認の上位個体が数体北門側に回り込んできているそうだ。

 すでに、第一陣の避難する集団が襲われ、探索者、民間人ともに多数の死傷者が出ていると言う。

 コトリの言う通りだった。現在、北門は封鎖しており都市内部への侵入は防いだが、門付近では、探索者と魔物の群れとの戦闘が始まっているそうだ。


 「ちぃ、領主軍はどうしたの!」

 「南門から出て、魔物の群れとの戦闘に入ったと言う話だぞ」


 どうする、南か北か。

 東西には外に通じる門はない為、防衛については南北にある門になるだろう。

 空を見上げる。天候は晴れており、アレを使う事には問題ないはずだ。


 「カザネ先生っ、魔物が多いのは?」

 「南門だが、なぜだ!?」

 「南門に行かせて下さい」

 「ダメだっ!」


 側にいるキキョウやヒイラギはオロオロと自分とカザネと視線を彷徨わせている。


 「そもそも、言っても何も出来る事は無い。君の力は、少しは知っているが、君1人でどうにかなるわけでは無いんだっ!」

 「自分の自己責任ですっ!?」


 頬に痛みが走る。一瞬、何をされたか気付くのが遅れてしまった。

 ぶたれたのだ。しかし、それよりも、叩いたはずのカザネの表情が悲痛に歪んでいる事が気がかりで、痛みや怒りが一瞬で無くなってしまった。


 「カザネ先生、大丈夫です。万が一の時には、すぐに逃げ帰ってきます。命大事に、ですから」

 「つっ、好きにしなさい。キキョウ、ヒイラギもナオヒトと行けっ。私は、北門の加勢に行く」


 避難する民間人は、丈夫な建物の多い広場に分散して隠れることになった。

 北門の魔物が一掃されて避難が再開されるか、氾濫を乗り越えるしか無くなったのだ。


 「ごめんなさいっ、キキョウとヒイラギの2人は今からでも、カザネ先生の所か建物へ隠れて下さい」

 「ダメ、だよ?」

 「一緒、一緒」


 キキョウが、ダメと言いヒイラギは一緒だと言って手を掴む。

 2人は、着いてくると言うのだ。それならば、と手を握り返す。


 「行きましょう。霧の氾濫、乗り越えましょうね、みんなで」


 2人が力強く頷くのを見て、南門へと走り出しのだった。

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