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探索者見習い、霧の迷宮の奥へ

ハダテ城塞都市カザネ宅




 寝苦しい。

 あまりの寝苦しさに、目をこすりながら起き上がろうとすると身体が動かない。

 金縛りか?と思ったら、違う。

 誰かが、自分を抱き枕代わりにしてスヤスヤと寝ている人物がいる。

 柔らかい何かが、腕に当たっているのだが……。

 悪い気はしないが、カザネの家にいる人物では1人しかいなかったはずだ。


 「ヒイラギ、ヒイラギ?」


 肩を掴んで揺するのだが、まったく起きない。

 力も強く、なんとか拘束された腕を抜き取ると痺れた手を握ったり開いたりして確認する。

 ヒイラギは、抱き締めていた自分gs居なくなったからか布団を抱き締めて眠っていた。

 布団に戻る事は出来なさそうだ。


 「はぁ」


 起こさないよう、小さな溜息を着くと街の方にでも行ってみようかと考える。

 もし、可能ならばコトリさんのお店に顔を出してみよう。

 自分の装備は、寝る前に全てカード化しているから、ベルトにカードホルダーを忘れずに付ける。


 カザネの家を出ると、まだ空は暗い。

 空気はとても澄んでいてひんやりとして気持ち良い。

 カザネの家は郊外にある為、周囲には街頭も少ない。

 繁華街に差し掛かった時だった。

 誰かに見られているような、視線を感じて辺りを見渡す。

 気のせいだったか、ふと空を見上げると建物の上に誰か立っている。

 一瞬、赤い瞳と目が合ったように思ったのだが、今はこちらを向いていないようだ。

 性別は分からないが、視線の主はあの人影だったように思える。

 自分が見ていることに気付いたのか、スッと建物の陰に消えて行ってしまった。

 何か、用でもあったのか、自分の感違いで、ただ何処か遠くを見ていただけなのかもしれない。

 こんな時間でもやっていた、屋台の1つから串に鶏肉を刺して焼いた物である。

 普通に、焼き鳥として売っていて味も似ている。タレも無いし、塩味でも無いが何かの香草を使っている様で旨い。




ハダテ城塞都市探索者協会




 「コトリさーん?」

 「ハイハーイ!こんばんは、おはようございますかな、ナオヒトクン」


 初めて会った場所まで来て、コトリを呼んでみると本当にすぐ返事が返ってきた。

 振り返ると、初めて会った時の様に笑顔である。緑の髪を二つ結びにして垂らし眼鏡も緑色のフレームだ。

 別段、何か違うところはないように思えた。

 いや、髪を結んでいる紐の色が違う気がする。


 「コトリさん、今日はいつもと違いますね」

 「へっ?あ、分かりますか?」

 「あ、えっと、髪を結んでいる紐が違いますよね?前は緑色だったのに今日は赤色ですし」

 「マニアックなところが気付くんですね」


 あ、でも、否定されていないので当たっていたようだ。

 心なしか、今日出会った時よりもニコニコとしている気がする。


 「今日は、どのような御用件ですか?」

 「まだ、弾薬に余裕もあるんですが、昨日魔石が手に入りましたし、補充しても良いかなと思いまして。他にも何かあれば見させてもらえませんか?」


 「かしこまりました」、そう言うとパチンと指を鳴らす。

 気付いた時にはコトリのお店だった。コトリの女神の神域の一部を借りて開いているお店だそうだ。

 カード化された武器や防具、それに各種回復薬もあれば妖精フェアリーと言う存在と契約、指揮して戦うことが出来る。


 「あら?ナオヒトクン、探索者になれたようですね?おめでとうございます」

 「ありがとうございます。まだ、見習いですけれども」

 「いえいえ、年齢だけでみればもう大人ですのに。こちらでは、まだ10歳ですから仕方ないでしょう」


 回復薬関係は、未だに売り切れているようだ。


 「回復薬は、どうしたら手に入るんですか?」

 「実は、手に入れたくても仕入れルートがまだ確立していないのが現状です。すみませんが、もうしばらくは」

 「何か手伝えることはありますか?」

 「本当ですかっ!?」


 コトリは、その言葉を聞いてカウンターから、思い切り身を乗り出す。


 「実は、霧の迷宮が交易を邪魔してるんです」

 「えっと、どういう事ですか?」


 神域にも、霧の迷宮は介入しているらしい。

 現在、自分の知っている霧の迷宮は、ハダテ城塞都市南部の迷宮である。

 しかし、各地に点在する霧の迷宮によって神々の神域の繋がりを断っている状況だそうだ。

 霧の迷宮の攻略もしくは、迷宮内部の力を弱める事で神域の力が勝り迷宮の影響を脱することが出来るそうだ。


 「しかし、他の神様もいるとは……」

 「もちろんです。ノルス王国南部にも、今は力が弱まっていますがいらっしゃいます。南部の霧の迷宮を抑えることが出来れば、品ぞろえも増えますよ」


 今すぐに、どうこう出来る問題では無かった。

 ただ、コトリは頭の片隅に入れていてほしいそうだ。

 今日は、弾薬だけでも補充する事にした。端数を購入することは出来ないようなので、9mm拳銃用の9mm×19を購入する。

 ゴブリンから手に入った魔石1個で100発分を購入することが出来た。今回は、すぐカード化されていたので自分の持っていた分と重ねて纏める。


 「あと魔石は幾つ残っていますか?」

 「ゴブリンを倒してい手に入れた魔石が、3個残っています」

 「それだと、武器、防具は難しいですねぇ。道具は……」


 コトリが、何枚かカードを確認している。


 「うーん、各種手榴弾が魔石1個で1ダースは購入できますよ?」


 手榴弾かぁ、今回のゴブリンの群れには役に立つだろうか。

 あの数の群れにはあまり効果が望めない様な気もする。

 魔石を残しておいて、貯めて使った方が良いかもしれない。


 「今は足りないですが、何かありますか?」


 武器、特に9mm拳銃の上の射程と威力、戦闘に有利な物が欲しい。

 妖精フェアリーが、使っている様な自動小銃が良いと思っている事をコトリに説明する。

 今、お店で並んでいる武器を見させてもらう。


 【アサルトライフル】

 【AK-47】

 【M16A4】


 普通に、見たり聞いたりした事のある銃がある。

 カードを見ていたコトリがカウンターからカードを取り上げると、自分の前に差し出す。


 「まだナオヒトクンの身体能力や身長を考えたら、まだ難しいと思いますよ?」

 「でも、9mm拳銃は普通に使えていましたが?」

 「ナオヒトクンは魔力マナで身体能力が強化されている様ですし。ただ、小銃を使うにはそれでも足りない様です」


 知らなかった、まさか魔力マナで身体能力が上がっているとは。

 自分で使っている意識は無かったのだが、自動で発動されているらしい。

 格闘能力、体力、筋力も上がっているそうだ。

 一度、M16A4を実体化させて持つが重いし長い。使え無い事はないが、戦闘する事を継続するには厳しい様にも思えた。

 AK-47も、結果は同じだった。


 「あとは、そうですねぇ。魔石の量、もしくはゴブリンの魔石よりも上位の物があれば妖精フェアリーも増やせますよ?」


 保有する魔力が上がっているそうだ。

 その為、妖精フェアリーと契約できるという。

 そう言えば、魔石の価値はまだ習っていない。戻ったら、カザネに確認しておかなければならない。


 「うーん。今回は、弾薬の補充だけにしておきます。もう少し、魔石に余裕が出来た時に武器とかは考えます」

 「わかりました、ありがとうございます」


 コトリが、お辞儀をすると元居た協会の脇の道に戻ってきていた。

 陽は、もう昇り始めている。時間は、経過するようだ。


 「そうですよ。時の神様でもなければ、時間を操るなんて、とてもとても」


 コトリが、ニコニコと笑顔で手を振って答える。

 「それでは、またのお越しを」と言うと、増えてきた人ごみに紛れて見えなくなってしまった。


 「ナオヒト、いつの間に?今日はもう協会に来ていたのか?」


 後ろから声が掛けられ、振り返るとカザネがいた。

 いつものジャケットとショートパンツ、そして腰からは刀を下げていた。


 「あの、今日は2人は?」


 最初、何か違和感を感じた。キキョウやヒイラギが居らず、1人だったので違和感を感じたようだ。

 昨日は迷宮探索を行ったので今日は休養日としたそうだ。

 カザネが家を出る時にはまだ、キキョウとヒイラギは寝ていたそうである。

 メモで、今日は休養日にすると書いて残してきたとカザネは言う。


 「あの2人も初めての迷宮だったからな。疲れているだろう。そう言えば、ヒイラギは、ナオヒトの所で寝ていたぞ?」

 「寝惚けて、自分のところに来たようです。寝苦しくて起きてしまいました」

 「そうか、ヒイラギはわたしのところにもよく来るからな。ナオヒトも疲れていないのか?」

 「いえ、大丈夫です」


 フフフと、笑うカザネに釣られて自分も笑う。

 しかし、カザネは昨日と同じ格好だと聞くと、気になることがあって迷宮に行くそうだ。

 ゴブリンの巣の話と、逃げ延びているゴブリンの群れが居ることが気がかりだそうだ。


 「しかし、1人で行くのは……」

 「一応、臨時の旅団を組んで行こうかと。これから、協会に募集を掛けてみようと思ってな」


 渡りに船だ、魔石はあっても困らない。

 色々、習いながら迷宮に一緒に付いていけないだろうか。


 「あの、カザネ先生?自分もご一緒しても良いでしょうか?」

 「君がかい?そうだな……。あの、小さな仲間は戦えるのかな?」


 妖精フェアリーの事を言っているようだ。

 カードを確認したが、問題無さそうである。

 むしろ、妖精フェアリーの絵柄が、キラキラと輝いているように見えた


 「大丈夫です、彼女も戦えます」

 「それだったら、一緒に行こうか。ただ、調査だから、危険だと判断すれば戻るぞ」

 「分かりました」


 協会では馬の貸し出しもしているようで、朝早かった事で借りる事が出来た。

 しかし、自分が乗れなかった為に1頭だけ借りる。カザネの後ろに乗せてもらい、振り落とされない様に腰に抱き着く。

 細い腰回りだが、筋肉がありしなやかに感じた。そんな状況で、少しドキドキとしながら、迷宮に向かうのだった。




ノルス王国南部 霧の迷宮




 馬に揺られながら、カザネに魔石について聞いてみる。


 「何?魔石の品質……、あぁ、そうか。まだ、説明していなかった」


 魔石は、霧の迷宮内部で現れる魔物を倒すことで手に入る魔力マナを秘めた鉱石である。

 魔力マナは、任意で取り出せる為に、生活する為にはもう必要な物となっていた。

 そして、魔石には大きさやん品質によって保有する魔力マナの量が変わる。


 「どうも、大きければ良いと言う訳では無い様だ。例えば、魔導アーマーも魔石を必要だが」


 あの機体の魔石高炉に入る大きさでなければいけない。

 しかし、ゴブリンの魔石では小さすぎる。入りはするが、動かすには魔力が足りない。

 ゴブリンの魔石は、大きさと質で考えると、大きさは小さい。協会では、スモール。マークはSとなる。

 マークと言うのは、管理しやすい様に協会が付けているそうだ。

 魔力の量も大きさに対しての量なので、普通となり、協会ではノーマルのNとなる。

 だから、魔石はSNとなり鉄貨で1個当たりて1000枚になる。


 「鉄貨で1000枚ですか」

 「うん、そうだ。1個で1000枚だから、鉄貨500枚で大鉄貨1枚だとすると」

 「大鉄貨2枚になるんですね?」


 貨幣もこの世界では硬貨を使用している。

 鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白銀貨と4種類がある。

 各コインは、500枚ごとに一回り大きなコインになるそうだ。

 銅貨でも、500枚で大銅貨1枚に換算される。

 鉄貨1000枚もしくは、大鉄貨2枚で銅貨1枚になる。

 結構、簡単で良かった。ただし、簡単な判別方法であっても、偽造は重罪だ。


 「霧の迷宮では、今のところはゴブリンしか見たこと無いですが、他にも居ますか?」

 「第1階層だと、稀にだが縄張りを徘徊するグリズーと言う熊型の魔物がいる。ゴブリンなんかよりも遥かに強力だが、距離を取ってしまえば倒せる相手だな」

 「どの程度ですか?」

 「うーん、ゴブリンが束になってかかっても勝てない。探索者によっては、装備や練度では勝てない相手だ」


 かなりの強敵である。妖精フェアリーでも勝てるかどうか。距離を取れば、との事だからうまく立ち回れば倒せるだろう。

 そして、魔石だがグリズーは、サイズが中サイズがになる為レギュラーのR、魔力マナはノーマルのNになる。

 ただ、大きさに対しての魔力マナはノーマルになる。RNと言う記号で判断されるが、ゴブリンの魔石よりも高くなる。

 1個当たりが、銅貨で100枚で買取になる。保有する魔力が価格には反映されるそうだ。


 「だから、とは言わないが。手に入る魔石は、全部持って帰れない事も多い。特に、今回のように荷馬車がない場合は、素材や採取した物も持って帰れないから厳選する必要がある」


 そうだった、あの時倒したゴブリンの魔石が全て回収出来ていたら良かったのだが。

 過ぎてしまった事は仕方ない。例えば、倒した場所に戻れたとしても回収出来なかった魔石は迷宮に吸収されるのか消えてしまうそうだ。

 しかし、魔石は結構な値段になるんだなぁと考えるとおかしい事に気付いた。


 「あの、カザネ先生?他の2人はちゃんと魔石を買い取った金額を貰えたんですか?」

 「本来ならば、な。ただ今は見習い中だ。幾らかは依頼クエストの紹介料として、教育隊の資金として回収されている」


 探索者見習いから、直接授業料を取らない代わりにこうした措置を取っているのだそうだ。

 まぁ、仕方ないと考える。教育隊も慈善事業では無いのだから。


 話をしている内に、霧の迷宮の境界線が見えてきた。馬に乗ったまま、迷宮内部に入ると昨日入った所とは、また違った場所に出た。

 どうも迷宮の内部にはまだ慣れない。

 いま、霧の迷宮で出た場所は川幅の広い河川敷の様な場所だ。

 対岸は見えるものの、見渡す限りには対岸に渡れる橋は無い。


 周囲を警戒しながら、河川敷を進む。

 馬には2人が乗っているだけで満員なので、妖精フェアリーには緊急時に出てもらうつもりである。

 川の流れる音を聞きながら、カザネには色々知らない迷宮の事を聞いてみる。

 例えば、迷宮内部に拠点を作りそこから魔石の回収や資源の採取をしないのか、寝泊りは出来ないのかと。

 しかし、答えはノーだった。

 すでに、探索者、協会で何度も試しているのだそうだ。結果は全て失敗し計画は頓挫しているという。

 迷宮内部での野営は常に危険が付き纏った。

 魔物の襲撃の備えて、堀を掘ったり丸太を用意し防壁を作ったとしても野営地内で突然魔物が現れるのだそうだ。

 テントで休んでいても、テント内部に現れる事も多く、死傷者が多数出る事態にもなった。

 また、一度作ったせっかくの拠点に戻りたくても、一度出た者が再度迷宮内部に入ると違う場所に出てしまう為、戦力が分散されてしまうのだそうだ。


 「一度、堅牢な砦を迷宮内部に造ったそうだ。一度に必要な物資を運び込んだそうだ。この時は、ゴブリンよりも厄介な魔物でリザードマンと言う集団で戦う事を得意とする魔物でな」


 逆に、砦を奪われ多大な被害が出たこともあるという。

 取り返そうにも、リザードマンは人族よりも遥かに力は強い。

 結果として、魔法によるリザードマン毎砦を破壊するしかなかったそうだ。

 砦の場所も、まずかったそうで探索者が霧の迷宮攻略を考えると砦を取り返すか破壊し魔物にも使わせない様にするしかないと言う二択しか無かったと言う。


 「それから、今まではどうしても必要な場合、負傷者が居る場合、休憩が必要な場合を除いて野営はしなくなったんだ」

 「そうだったんですね」

 「しかし、君は勉強熱心だな。感心するよ」

 「いえ、分からないことばかりですから。少しでも、習っておいて損はないかと思いまして」

 「まぁ、いい。さて、今回は無駄骨だったかもしれん」


 カザネが、視線を向けている何かに気付いた。

 川の対岸、距離はかなり離れているが戦闘が行われている様だ。

 こんな時に、双眼鏡でもあれば良かったと思っているとカザネが説明してくれた。

 特クラスの集団が、ゴブリンの群れと戦闘しているそうだ。

 説明を受けていると、ゴゥっと強い風が吹く。

 戦闘しているゴブリンの群れが居る方角に竜巻が発生していた。


 「あれは、マキシムだな。確か、風の魔法が得意だと聞いている」


 時間にしては、10秒足らずだろう。

 群れが居たところは、更地になっている。

 赤い光る玉が、時折ゴブリン側に向かって飛んでいくので残党に対しての攻撃なのだろう。


 「いや、話には聞いていたがマキシムの魔法は恐ろしいな」

 「恐ろしい、ですか?」

 「あれが、こちらに向いたらと言う話で見たら。気にするな」


 カザネは、マキシムが見えているのだろうか。

 ジッと対岸を見つめている。

 向こうは、完全に戦闘は終了したようで魔石を拾い集めている様だ。

 カザネも興味が無くなったのか、また前を向いて馬を操る。


 「カザネ先生、霧の迷宮は階層毎に別れているんですよね?しかも、魔物もより協力になると」

 「そうだが?」

 「その、階層が変わるところまで行くとどうなるんでしょうか?教えて下さい」

 「今のままだとまずいかもしれんが、いいのか?」

 「自己責任、なのですよね?」


 カザネは無言で頷く。

 しかし、いつかは越えなければならないのなら、キキョウやヒイラギが居ないうちにと考えたのだ」


 「お願いします」


 もう一度、頼む。

 カザネは、一度溜息を着くが馬を進ませる。

 来た道を戻らないという事は、願いを聞いてくれたのだろう。


 「ここから先は、魔物の数が増えてくる。遭遇する可能性も高い」

 「はいっ!」

 「自己責任だが、わたしたちは2人しかいない。協力して必ず一緒に街へ戻ろう」

 「はいっ!」


 馬に揺られ迷宮内部を行くが、馬が優秀なのか魔物に遭遇する事は無かった。

 初め、進む方向から自分達の同じように馬で移動する探索者が見えてきた。

 どれだけ進んだかも分からないが、向こうからやってくる探索者とはまだ出会わない。

 そこで、初めて気付いた。あれは、自分達なのだ。まるで、そこに巨大な鏡があるかの様に映し出していた。


 「気付いたか?そう、あれが迷宮内部を階層毎にある境界線だ」


 目の前に近付いて、馬とカザネ、自分が鏡に映し出される様にしている。

 手を上げると、屈み合わせと同じようにして動くのだ。

 馬を降りて、さらに近付く。埃1つない鏡にしか見えない。

 磨き上げられた鏡の様だが、ここを通り抜けることで次の階層へと行けるそうだ。

 しかし、階層が変わる前に階層主と言う、その階層を支配している魔物がおり倒す必要がある。

 そうすることで、次の階層にすすむことができるそうだ。

 しかも、これは毎回する必要がある。

 ただし、第2階層から第1階層へと戻る場合は階層主は現れずに境界を越えられるそうだ。

 迷宮から出るには、霧の迷宮との境界線に行く必要があり深く進めば進む程、帰還にも危険が伴う。

 どこまで進むのか、どこで引き返すのか。その判断も重要であるとカザネは教えてくれた。

 

 「この先の階層は、より強力な魔物が出る。ゴブリンの上位種のホブゴブリン、グリズーの上位種であるレッドグリズー。そして、狼型の魔物であるベアウルフがいる」


 ホブゴブリンは、大人ほどの大きさで力も同程度持つ。死んだ探索者の武器や防具を使用している。ゴブリンと比べると痛い目を見る。

 レッドグリズーは、グリズーより体格も大きい。赤毛であり、魔力マナを使って火の玉を吐く。

 ベアウルフは俊敏な動き、他の魔物よりも統率された動きで、探索者に襲い掛かる。


 「特に、今いる霧の迷宮はまだ比較的新しい。まだ、見つかっていない魔物もいる事、第2階層がかなり広く第3階層への境界線まで辿り着けていない事からも難易度は高い」


 ナオヒト達が、成人するまであと3年。それまで探索は進んでいるかも分からんとカザネは言う。

 第1階層も、今回は階層毎の境界線近くに出られたがいつもこうとは限らない。


 「さぁ、そろそろ戻ろう」


 カザネの方を振り返ると、そこに魔物が迫っている事に気付かなかった。

 魔物は、この鏡の様な境界線に映らないのか。

 ホルスターから9mm拳銃を抜き取ると、狙いを付ける。

 体長2mを超えているだろう、熊型の魔物であるグリズーだった。

 立ち上がった姿は、かなり大きく見える。

 前腕が、大きく発達しているのか。受け止めると、かなりのダメージを受けると思われる。


 「カザネ先生っ!」

 「ちっ!!」


 ダンッダンッダンッ、っと間髪入れずに9mm×19の弾丸を撃ち込む。

 しかし、あの巨体は筋肉で覆われているのだろう。元居た世界の熊を倒すには、眉間を撃つと良いのだったか。

 身体に当てたが、効果が薄いようだ。しかし、カザネに襲い掛かろうとしていたグリズーの攻撃を中断させる事は出来たようだ。

 ただ、逸れた前腕がカザネの乗っていた馬に当たってしまい、馬が暴れてしまった。

 振り落とされまいと、カザネが馬を宥めるが馬の方が力が強く一緒に地面へと倒れてしまった。


 「ナオヒトの銃では、効かんかっ!?」


 カードホルダーから、妖精フェアリーのカードを取り出し「解放リベレイション」と唱える。

 カードから現れた妖精フェアリーは、銃を構えると射撃を始める。

 ただ、効果がやはり薄い気がする。


 「眉間っ、眉間を狙えっ!」


 四足になったグリズーは、思っていた以上に速く突進を繰り出してくる。

 妖精フェアリーに目標を変えたようで、まっすぐに飛び掛かっていった。

 難なく、それを妖精フェアリーは避けている。

 避けられたグリズーは、さらに怒っているようだ。

 妖精フェアリーが引き付けている間に、カザネを助け起こす。

 馬の傷に、カザネの持っていたキュアポーションを掛けるとしばらくする間に傷が治っていくようだ。


 「良く時間を稼いでくれた。遅かれ早かれ、グリズーには出会っていただろうから。強い魔物だろう?」


 カザネが、刀に手をかける。

 抜くのかと思ったが、違うようだ。

 殺気、とでも言うのか。カザネの周囲の空気の温度が下がったように思える。

 グリズーは、それに反応したのか妖精フェアリーからカザネに目標を変えていた。

 襲い掛かるグリズーを前にして、カザネは刀を一閃する。


 「陽炎カゲロウ


 カザネが言うのが早いか、グリズーが倒れて魔石に変わるのが早いか。

 たった一撃、それで終わりだった。


 「今のは一体?」

 「わたしの剣技だよ。まぁ、これ1つしか使えないがな」


 剣技、確かマキシムも凄いともてはやされていたが、カザネの剣技は見惚れてしまうほど綺麗だった。


 「ふむ、今回はグリズーの皮は手に入らなかったが仕方ないか。多分、こちらの攻撃で傷んだんだな」


 魔物は、倒し方によっては身体の一部を残す。

 確実では無いが、一撃で綺麗に倒すと残しやすいとも言われている。

 また、爪や牙、角などは倒す前に折るなどしておくと手に入りやすいそうだ。

 魔石はゴブリンの物と比べると、両手に収まる程の大きさだった。

 カザネは、最初は自分に魔石を譲ろうと言ってくれたのだが、倒したのはカザネである。そう伝えて辞退した。

 次は、自分が倒しますと言うと、嬉しそうに笑ってくれた。

 今回もまたかつやくしてくれた妖精フェアリーの様子を見る。服や装備は汚れているが、身体には怪我はしていない様でホッと安心とした。

 「ありがとう」そう言って頭を撫でる。また馬での移動になる、と妖精フェアリーに一言謝りカードに戻す。

 それから、迷宮を出てハダテ城塞都市に戻るまでは魔物に襲われることも特クラスの奴らや他の探索者に会うことも無く家に帰ることが出来た。

 ただ、陽が暮れてカザネと2人で帰ってきた事でなぜかキキョウとヒイラギの機嫌が悪くなっていた為、機嫌を直してもらうのに一苦労したのだが、なぜだろうか。

 

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