探索者見習い、そして霧の迷宮へ
ハダテ城塞都市南門
カザネに連れられて、今日は南門へと来ていた。
この場にいるのは、自分とキキョウ、そしてヒイラギである。
事の始まりは、カザネの言葉だった。
言い出したカザネは、今はこの場にいない。
「霧の迷宮へ行く」
一体全体、どういうつもりなのだろう、そう聞くと探索者見習いとして探索者に付いて行くことは出来るのだそうだ。
ここにいるメンバー以外の生徒は生活もある為、迷宮探索も行いながら教育隊で過ごしているそうだ。
協会を通しての依頼ではある物の、マルボロが協会から探索者見習いでも出来るだろう依頼を受注し、それを教育隊で割り振っているのだそうだ。
場死によっては、元探索者であるカザネやハンス指導の下であれば、迷宮に挑んでも良いとされる。
昨日、特クラスのマキシムや取り巻きが担任であるハンスと協会の方へ向かったのは、迷宮へ行く為だったそうだ。
もちろん、迷宮内部での出来事は自己責任である。今回は、見習いであるから、リーダーをカザネとして臨時の旅団を組んだそうだ。
旅団とは、探索者同士が集まり手を組むことで結成される。
利害の一致や、仲の良い者同士など組まれ方は様々だ。
旅団として協会に登録すれば、旅団で受ける、個人では達成の難しい大掛かりな依頼を受ける事が出来ると言う。
荷馬車を借りてきたカザネが到着した。
今日、カザネが受けた依頼は、各種回復薬の素材の採取である。
荷馬車の荷台にキキョウとヒイラギが座り、自分はカザネの隣で馬の扱いを習いながら探索者の事を聞く。
探索者には、階級がある。これは、探索者の依頼達成率や探索者本人の正確、そして信頼に足る人物かどうかで決まるそうである。
探索者見習いには、階級は無いが探索者になるとまず初めにはアイアンと言う階級になる。
経験を積み、協会の信頼を得ること、依頼主の評価によって階級は上がりアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと上がる。
どこかで聞いたなと考えていると、カザネが「お金の価値と一緒だ」と教えてくれた。
しかし、さらに上があるそうだ。ミスリルと続き、オリハルコンが最上位である。
「ミスリルとオリハルコンの階級はお金には代えられない価値があるとされている。今は、オリハルコンが空席になっているがね」
オリハルコンと呼ばれるようになるには、さっぱり分からないそうである。
現在、ミスリルになった者達は幾度の霧の氾濫を食い止めてきた人族だそうだ。
ちなみに、カザネはと言うとゴールドまではいっていたそうだ。
怪我を機に引退を考えていたところ、講師の話があがりそれを受けたのだそうだ。
「ゴールドまでは、真面目にコツコツとすればなれるんだが。ミスリルになるには、さらに壁があるんだよ」
先程聞いた、人族がミスリルと言うところが引っ掛かる。
カザネは、獣人だ。それが原因なのかと思うと嫌な気持ちになる。
「今は気にしていない。君達に出会えたんだからな」
人が良すぎるだろう。
自分と同じで、身寄りの居ないキキョウを引き取ったのも頷ける。
「さぁ、そろそろ見えてきたな」
迷宮との境界線である霧が見えてきた。
外から中を見通す事は難しい。
カザネの声で、荷台からキキョウとヒイラギが顔を出してきた。
その顔は、恐怖からなのか少しひきつっている様にも見える。
安心させる様に、2人の手を握ってやる。
一瞬、ビクリとしたキキョウとヒイラギだったが、少し落ち着いた様に見えた。
手を離そうと思ったが、2人が握って離さない。
「霧の迷宮に入るぞ」
そう言われるまで、ずっと握ったままだった。
ノルス王国南部霧の迷宮
アンナ達と一緒に出た時も感じた何とも言えない感覚を超えると、霧の迷宮内部へ到着した。
前回、アンナ達と出会って進んだ場所では無いようだ。あの時は、森の中を進む細い道を荷馬車揺られて進んだ。
今は、ハダテ城塞都市の南部に広がる平原の様な場所である。
改めて自分の装備を見る。
コトリの店で買った装備で固めている。
自分の主装備である9mm拳銃と、その弾倉の予備をプレートキャリアにマグポーチで付けている。
弾が切れても、すぐに変えられるように位置は調整した。
グローブはまだ手に馴染ませているが、ブーツは毎日履いている為、だいぶ良くなっている。
出発前に、この装備を見た時にカザネは「何か四角い物が多いな」と言っていた。
ナイフかと聞かれたが、銃と説明した。
カザネ曰く、「銃はもっと大きくて長いぞ」と言っていた。
アンナ達が使っているのが、この世界の銃の主流なのかもしれない。
まぁ、自分の武器と防具があるなら良いと言ってキキョウやヒイラギの装備を確認していたのを思い出す。
キキョウとヒイラギは、皮のジャケットをショートパンツを身に着けている。
この迷宮で現れるグリズリーと言う熊の魔物から採れる皮だそうだ。
迷宮には階層があり、最初の階層で現れるゴブリンと言う魔物の攻撃には十分耐えるそうだ。
ただし、攻撃を何度も受けるとジャケットの皮が痛むし、ダメになればゴブリンの攻撃は普通に通り抜けて使用者の身体を傷つける。
「ゴブリンは、最低でも2体以上で現れる。確実に倒せなければ、仲間を呼ぶから注意しろ」
「戦っている音で、集まりませんか?」
「探索者は我々だけでも無いからな。それだけで魔物が集まるとは聞いたことがないから、安心して戦え」
魔物は、魔物同士では呼び合うが戦いに集まることは無い。
ならば、銃で戦うのも問題なさそうだ。
他の3人の武器は、カザネが持つのは刀に見える。
キキョウが、弓矢で短い弓だからショートボウと言うものだろうか。
ヒイラギは、何も持っていない?
「ヒイラギ?何も持っていないのかい?」
首を振るヒイラギだった。しかし、大きく太めのベルトを指差す。
細い腰には不格好な太さのベルトだったが、何本かの試験管の様な物が見えた。
赤い色した何かが入っている。
それを、取って投げる仕草をする。
「バンッ!」
声にびっくりした。
キキョウの声も可愛いが、ヒイラギは少し大人びた声に聞こえた。
様は、あれを投げて魔物にブツける事で爆発させる武器だという事だろう。
4人のうち3人が後衛の様だ。
この身体で、白兵戦が出来るなら、問題ないか?
「周囲警戒を忘れるな。何か異常があれば、すぐに言うんだぞ」
迷宮に入って見える林があり、そこに回復薬の素材があるそうだ。
回復薬には種類がある。
傷を治す、キュアポーション。
毒や、麻痺などの身体の異常を治療するポイズンポーション。
魔力を回復するマジックポーション。
体力を一時的に回復させるスタミナポーション
これらの各種回復薬は、探索者だけでは無く一般の民間人の間でも普及している。
ただし、素材を回復薬にする方法は教会がしか知らないそうで、依頼主も協会だそうだ。
そして、その素材だが子供の拳よりも小さな実である。
ベリーと称されている。ベリーには色が付いており、どの回復薬の素材かひと目でわかる。
緑色がキュアポーション。
青色がポイズンポーション。
赤色がマジックポーション。
黄色がスタミナポーション。
分かりやすい、実に助かる。ポーションは液体で色がベリーと同じ色なのが助かる。
、林に近付いてきたところで、キキョウが何かに気付く。
「あの、林の、木の向こうに何かいる」
自分には分からなかった。
目を凝らしてみるが、何も見えない。
「迷宮内部は、魔物か探索者しかいない。しかし、荷馬車も無いから探索者では無さそうだな」
探索者の殆どは、荷馬車を用意している。
もしくは、移動の為の馬だったり、足を確保しているのだが見当たらないとカザネは言う。
「あの、見えました。ゴブリンです」
キキョウは、ゴブリンを見たことがあるそうだ。
カザネにもまだ見えない距離だったが、キキョウが打てると言うので、カザネは任せる事にしたようだ。
ショートボウを構えて、撃つ姿は様になっている。
少し、上向きに構えた弓から放たれた矢は曲線を描きながら何かに当たる。
すると、もう1匹隠れていたようで慌てて飛び出してきた。
その1匹もキキョウの矢で仕留められて消える。
「キキョウ、すごいですよ」
「え、エヘヘ、眼は良いから」
「いや、ショートボウってこの距離は普通に届くものですか?」
弓矢の飛距離なんて、どの程度か分からなかった。
ショートボウと言うくらいだから、飛距離もそんなにかな、と思っていたくらいである。
ましてや、身体も華奢だから驚いた。
当の、キキョウ本人は首をかしげる。あれ、これは俺がおかしいのかもしれない。
そうこうしているうちに、目的地のベリーが自生している林に到着した。その時には拳よりも小さな魔石が転がっているだけだった。
この魔石は倒したキキョウの物となる。迷宮内部で手に入った物、儲けの分配は探索者毎に違う。
この臨時の旅団では、倒した者の魔石なると決めて、採取で手に入った物で手に入る達成金は旅団全員で分ける事にしたのだ。
「魔物の一部では、このベリーを食べる者が居るそうだ。採取する際も注意しろ」
そう言うと、カザネも革袋を手にベリーの採取を始める。
万が一、逸れてしまった場合は荷馬車のところに戻る様に、と言われている。
子供の背丈でも、採れるのだから助かる。
ゴブリンも林にいたのだから、もしかするとベリーを取りに来ていたのだろうか。
1つ目の革袋が一杯になってきた。自分が採取した所は緑色のベリーだったから、キュアポーションの素材になる。
しかし、今のところは、他にもいるか気配は感じず、最初の2体のゴブリンしかこの辺りには居ないのかもしれない。
戻ろうと踵を返すと荷馬車の方角から爆発する様な音が聞こえてきた。
何かあったのだと走り出すと途中でカザネも合流する。此処に、カザネが居るという事は、荷馬車には爆発する武器を投げたヒイラギとキキョウが居るのかもしれない。
林を出て驚く。
10体程のゴブリンが、荷馬車を囲んでいた。見えない場所にも居るようだが、こちらの人数より数が多い。
石を投げている個体もいる為か、荷台の幌を盾にしてキキョウが前側、ヒイラギが後ろ側を守る様にしている。
馬は、訓練されているらしく戦いに巻き込まれないよう離れているようだ。
呼べば来るというのだからその事を初めてカザネから聞いた時は驚いた。
しかし、事態はさらに悪くなりそうだ。遠くの林の方からも、数は不明だがゴブリンが迫っているように見える。
「カザネ先生!」
「まずは、荷馬車の周りを片付ける。ナオヒトも戦えるな!」
「はいっ!」
9mm拳銃を構えて、狙いを付ける。
照門と照星、この凹凸と射撃目標がまっすぐになる様に構える。
射撃を命中させるには、距離によっては風の影響や重力なども気にする必要が出てくるが、この距離ならまっすぐ狙うだけで当てられる。
両手でしっかりと、銃を保持する。
この時に気を付けるのは、利き腕に力を込めすぎない事だ。
自分の場合は右手が利き腕である。支えの使う左手で保持する。そうする事で、引き金を引く時に余分な力を使わずに引くことが出来るからだ。
アイソセレス・スタイルと言う、立ったままの射撃で対応する。
身体の正面と銃を構える両腕は、上から見ると二等辺三角形になる構え方だ。腕は肘を少し曲げて、射撃する際の反動を吸収できるようにする。
両足は、肩幅よりやや広くして立ち、銃の反動と柔軟に射撃目標を変更出来るように膝を少し曲げて立つ。
目標を変える時は、腕を振るのでは無く上半身の向きを変える方法を取る。
頭部を狙うとか言ってられない。カザネには自分の前には被らないでほしい、射線上で危険だと伝えると荷馬車の後ろへと向かってくれた。
お蔭で正面のゴブリンに対処出来る。
1番狙いやすい胴体を狙い、撃つ。銃に反動はあるが、この9mm拳銃は、自動拳銃である為にある程度は反動を受け止める必要があった。
稀に、作動不良を起こして射撃出来なくなる場合があるからだ。
どの程度の威力を発揮するか不安もあった為、ゴブリン1体につき3発は叩き込む。3体倒したら弾倉を交換する。倒したら、また次に狙いを付けていく
稀に、まだ生きているゴブリンがおり、その個体に対してはキキョウが矢で止めを刺していった。
後ろも片付いたのか、カザネが指笛を吹く。
すると、巻き込まれないよう離れていた馬が戻ってきた。
「荷馬車に繋ぐまでの間、守れるか?」
「任せて下さい」
ちょうど空になった弾倉を交換し、腰のカードホルダーから1枚取り出す。
「解放!」と唱えてカードを投げると、妖精が現れた。
小銃を装備した自分と似た格好の妖精を見て皆が驚いている。
妖精は、自分へと敬礼すると迫るゴブリンへと向き直った。確実に、今倒したゴブリンよりも多い。
もう、こちらとの距離も100mは無いだろう。自分も、慌てるが弾倉に9mm×19の弾薬を補充しておく。
その間も妖精は慌てる事無く、伏射の姿勢を取っていた。狙いを付けているのだろうか、小銃での狙撃を行おうとしている。
幾分もしないうちに、ダンッ、ダンッと射撃する音が響き向こうでゴブリンが倒れていく。平野の多い地帯だったのが早期発見と迎撃に味方している。
「この距離を当てるのか?!」
カザネは驚いていた。先程、キキョウがやった曲射よりもさらに遠い距離だからか、この世界の銃よりも性能が良いからか。
動かしていた手が一瞬止まるが、それでもなお迫るゴブリンの多さにまた作業を開始している。
その間、キキョウとヒイラギは倒したゴブリンの魔石を回収し、採取したベリーを荷台に詰め込んでいつでも、出れる様にしている。
「よしっ、行くぞナオヒト」
荷馬車に、キキョウとヒイラギを先に乗せると、カザネがゆっくりと荷馬車を進ませる。
進みだした荷馬車を追いながら、走るゴブリンに目をやる。
多分、あのゴブリンを指揮している個体がいるだろうが見つからない。
荷台から、こちらを心配そうに見ているキキョウと目が合った。
もしかしたら、分かるかもしれない。
一生懸命に付いてくる妖精を抱え上げ、先に荷台に乗せる。
「き、キキョウ!あの群れに中で、大きい個体はいませんか?!」
走るのも、きつくなってきた。まだ、体力が追い付いていないのだろう。
見付けたのか、コクコクと頷くキキョウに妖精にどれか教えて欲しいとお願いする。
妖精も、意図が分かったようだ。揺れる荷馬車から伏射の姿勢を取る。
少しでも、銃身を固定したいのかベリーの入った革袋を荷台に敷いて、台代わりにしている。
キキョウの指示を聞いて、妖精が引き金を引く。
ダンッ、ダンッと断続的に射撃が行われる。
すると、少しずつだがゴブリンの群れが引き離されていく。
倒したかと、妖精に聞いてみるが、首を横に振っていた。
「窮地は脱出、出来たようだな。今日は、もう帰ろう」
カザネも第1階層の、ましてや初めての迷宮で潜ってきた場所で、ゴブリンの集団に襲われる事はあまりないそうだ。
もっと、階層の置くまで行けば出くわすこともあると言う。
カザネの横に座り、前を向く。
荷台では、妖精が、キキョウとヒイラギに撫でられたり、抱き締められたりと可愛がられていた。
妖精も嬉しそうだったので、そのままにしている。
「君の銃と言い、あの小さなお友達、カードの様な物から出てきたが」
「そう言う、力の様です」
「そうか、初めて見て驚いたが助かった。ありがとう」
カザネが言うには、稀に不思議な力を持つ者が現れるのだそうだ。
だから、ナオヒトは変じゃないし安心しろと言ってくれた。
霧の迷宮との境界線に着く頃には、妖精をカードに戻す事にした。
突然の戦闘だったが、妖精はすごく頑張ってくれたと思う。戻す前に、「ありがとう」と頭を撫でてやるのも忘れずにしておく。
出入りする際の不思議な感覚が終わり霧の迷宮を出ると、見たことのある集団がいた。
彼らが、此方に気付いたようで、何かヒソヒソと話している。
「おい、あれ見ろよ」
「なんだ、落ちこぼれじゃねぇか」
「やっと迷宮にきたのかよ」
散々な言われようである。担任のハンスと特クラスのメンバーだ。
向こうも出てきたばかりのようで、荷馬車に色々と積んでいる。
領主の息子であるマキシムは、自分の馬を持っているようで、それに乗っていた。
ふと、特クラスのメンバーの中でも、少し離れた位置に1人が肩で息をしている女性がいた。
なぜか気になったので、見つめていると此方に気付いたようだ。
黒縁の丸眼鏡、茶色の髪を三つ編みにして纏めている。少しソバカスがあるが、可愛い顔だった。
手に持っているのは、本だろうか。彼女の雰囲気は、特クラスだが周りの人間が色々と言っているのを不快に感じている様に見えた。
「カザネ先生、あなた方は何を?」
「教会からの依頼で、回復薬の素材の採取です。ハンス先生」
「なんだ、それかよ。俺達は、ゴブリン退治だ。巣があるとかで、そこの退治だったんだ」
「マキシムの魔法はすげぇぞ。剣技もすげぇ」
第1階層の奥、第2階層の手前でゴブリンの巣が発見されたそうだ。
その巣の調査と破壊が目的だったという。
マキシムと言う、魔法と剣技に優れた生徒がいれば問題ないと言われていたそうだ。
探索者の旅団も付いていたそうで、ゴブリンの巣を包囲殲滅したという。
巣は、崩壊し中のゴブリンも全滅しただろうとの事だった。
「あの、ナオヒト?」
「なんでしょうか、キキョウ?」
「あの、ゴブリン達酷く傷ついていた」
自分には遠くて、そこまでは見えなかった。
でも、キキョウが言いたい事が分かる気がする。
あの特クラスが処理したと言うゴブリンの巣の生き残りでは無いのだろうか。
崩壊した巣穴は、何処かに繋がっているとは思いもせずにいた。
生き残ったゴブリンはその巣穴から通り抜け、出た先に自分達がいたのかもしれないと考えている。
「カザネ先生?」
「確証が無いのだ。迷宮では、故意に魔物を暴れさせたりけしかけること以外は探索者自身解決しなければならない」
「しかし、一歩間違えば、この場にいる誰かが怪我をしていたかもしれないんです」
探索者は、自己責任。自分の言いたい事は推測であるかもしれない。
今回は皆が無事だったから良かったものの、誰か怪我をしていたらと思うと怖い。
あれ?この世界に来たばかりで出会ったばかりの人達なのに、なんでこんなに思うんだろうか。
荷馬車を降りて、マキシムをもてはやす取り巻きに近付く。
「大層な才能を持っている様ですが、万が一、もしかすると取り逃がしたゴブリンの群れが居たかもしれません」
「はぁ?!なに言ってんの?」
「なんだ、比較的安全なベリー拾いしてきたくらいでいい気になってんなよ?」
口々に罵ってる取り巻きを制する様にマキシムは手を上げる。
すると、誰も口を開かなくなる。
「そうか、君達はその被害を受けたと言うことかね?」
「自分は、そう思っています」
馬上の男を見上げる。
同い年とは思えないカリスマを持っているそうだ。
自分には、どうも他人を見下している様に見えた。
「我々は、我々のすべき事をやったまで。しかし、不備がなかったとは言えない」
「マキシム様っ!?」
すまなかった、と言ってマキシムは頭を下げる。
それを見た取り巻きが慌てているが、マキシムはそれを手で制す。
「我々の不始末を彼らが被ったと言うならば、謝罪するのが筋と言うものだろう」
「すみません。自分も、もしあの群れに追い付かれていたら、と思うと頭に血が昇ってしまいました」
「そうか、アレを仲間と呼ぶか」
何かを思案するかの様な、そんな顔だったがマキシムは「行くぞ」と言って、取り巻きを連れてハダテ城塞都市へと進む。
自分はと言うと、違和感を感じながらもカザネの元へと戻る。
視線を感じて振り返ると、三つ編みの娘がこちらを見ていた。
視線が合うが、赤い瞳なのが印象に残る。
「なんだ、言いたい事を言ってきたわりにはあまり良い顔では無いな」
「何でしょう、うーん、何か引っかかるんですよね」
カザネに声を掛けられ、視線を彼女に戻した時には他の特クラスの生徒と一緒に帰路のついているところだった。
自分達もそれに続く。
陽が沈み始めた頃に、ハダテ城塞都市に辿り着いた。
他の荷馬車も集まってきている事から、今日は他の探索者の多くが、同じタイミングで迷宮から戻ってきているらしい。
ふと気づいたが、門をくぐる順番があるようだ。
人族が先で、獣人やドワーフなどの亜人と言うらしいが、そういう人達が後回しになっているように見える。
「こういうものですか?」
「こうなってしまんだろうね」
こんな所まで差別があるのか。
簡単には変わらないのか、それともこのハダテ城塞都市だからなのか。
それは、まだ自分が判断出来ないでいる。
探索者協会では、回収したベリーはカザネの名義で買い取ってもらったそうだ。
また、回収した魔石を買い取ってもらうと言われたのだが、自分はコトリのお店で使用する事を考えた上で買取には出さなかった。
魔石は、自分は全部で4個あった。カザネが一番多くゴブリンを倒していたようで、7個。キキョウが5個で、ヒイラギが3個。
逃げる時に、倒したが回収出来なかった分は仕方ないが、全部で19体のゴブリンと戦闘した事になる。
カザネは、無傷で帰って来れたのは運が良かったと言っていた。
ベリーの買取で、1人に鉄貨で300枚になったそうで繁華街の屋台では色々と買える値段だそうだ。
魔石については、幾らで買取になったかなったか聞くことはしなかった。
売っておけば、良かったと思いそうだからだ。次に、売る時でも良いだろう。
「さぁ、今日は帰ろうか」
荷馬車を返し、カザネの家へと帰る。
今日も、ヒイラギはカザネ宅に泊まるのだそうだ。
自分は、鉄貨の半分の150枚をカザネに渡す。
泊まらせてもらっていたから、せめてものお返しがしたかったのだ。
今日も、芋のスープとパンを食べて、使用した弾薬が補充されているかもう一度確認する。弾倉全てに補充を終えていて安心した。
それから、布団に寝っ転がる。
特クラスの、あの三つ編みの少女は多分だが、あの取り巻き達よりもまともなのかもしれない。
今度会ったら、声を掛けてみようか。
そんな事を考えながら眠るのだった。