探索者協会、新たな出会い、見習いへ
ハダテ城塞都市中央広場
広場の面した建物の中でも一際大きく、石造りで頑丈そうな建物がハダテ城塞都市にある探索者協会だった。
孤児院のハウスと分かれて、1人その建物の前まで来たのだが、扉もまた大きく、頑丈に造られているように見える。
しかし、第一歩がまたどうにも緊張してしまう。
「やぁやぁ、そこの協会前にいる少年クン」
不意に声を掛けられて、ドキリとする。
周囲を見回すと、協会の建物と隣の建物に挟まれた狭い路地に1人の女性が立っていた。
身長は、自分より少し高いくらい。
スタイルは、スレンダーな感じだ。ストーンと言った方がいいかもしれない。
緑の髪を二つ結びで肩口から垂らして、髪の色に合わせたのか緑のフレームをした眼鏡を掛けている。
服装は、どこかの事務のお姉さんと言う印象を受ける。
目立たず、それでいて一度見たら忘れない様な不思議な印象を受けた。
女性は、ずっと自分に対して手招きしているようだ。
こういう時は、勘違いしているという恥ずかしいパターンもあり得る。
自分の周囲、後方を特に確認し誰も居ない事を確認した上で女性へと近付いていく。
近付いて分かったが、垂れ眼で口元にはほくろがあり魅力的な女性である。
「ドウモドウモ~。君って、結構警戒心強いのね?」
凄い馴れ馴れしいのだが。
肩を、トントンと叩かれ二の腕や腰回り、足も触って何か確かめている。
「君がナオヒトクンだよね?」
「そうです」
先程、パレードまがいの時か式典の時に自分の事を見た人なのだろうか。
自己紹介する前に、女性は自分の事を知っているようだ
「あの、お姉さんはどなたですか?」
「ハイハーイ!初めまして、私の名前はコトリです。よろしくね」
「コトリさん、ですか。よろしくお願いします。でも、なぜ自分を呼んだんですか?」
「実はですねー、お姉さんには君がとっても魅力的に見えているんですよ」
なんの事を言っているのだろう。
呆気に取られている自分を他所に、話を進めていくようだ。
「お姉さん、何でも手に入るお店を経営してるんです。駆け出しですけれどね」
「はぁ、何でもですか?」
「はいっ!」
ちらっとコトリの後ろを見るが、何か持っている様には見えない。
コトリにまた視線を戻すが、やはりニコニコとした表情のままだ。
「あの、自分はお金も無いですよ」
「それでしたら!ナオヒトクンの持っている魔石でも大丈夫ですよ」
魔石を持っている事は、誰にも言っていない。
それを知っているのは、アンナだけだ。
どうも、怪しいと睨むとコトリは慌てだした。
「アハハ、うーん。実際に見てもらえればわかりますよ、信用してもらえると嬉しいです」
コトリはそう言うとパチンと指を鳴らす。
すると、立っていた路地裏の景色が変わりだす。
気がつけば、小さな部屋の中にいた。
一瞬、女神のアリシアの部屋に来たのかと思い違いする気がしたくらいだ。
突然で、一瞬呆気に取られてしまった。
何でも揃うと言うが、ガラスケースのカウンターがありコトリがそのカウンターの向こう側にいるだけだ。
「さぁ、ナオヒトクン!色々見ていって下さい」
「いや、コトリさんは何者なんですか?」
コトリはエヘヘ、と照れ笑いする。
照れ笑いしてないで、いったい何者なのか教えて欲しい。
「実は、あなたと似たような境遇を持っています。ここは私の女神様の持つ神域の一角なんです。そこで、商売をさせていただこうと思いまして」
「じゃあ、コトリさんは人間なんですか?」
「うーん、人間と言うか亜神ですかね。人だったんですが、いつの間にか神になる一歩前です、はい。、あだ神様でもありません」
無茶苦茶な事を言っている。
人が神になるってどういう事だろう。
「私は、ナオヒトクンのお役に立つ。ナオヒトクンは、魔石を私に払う。そして、お互いに協力出来るという寸法です」
ドヤ顔で、無い胸を張っている。
「私のショップは、ナオヒトクンのお役に立てますよ」
「でも、何も……」
ガラスケースへと近付くと、トレーディングカードの様な物が並んでいた。
「これは一体、なんですか?」
「ふふふ、やっと見てもらえましたね。驚いたでしょう?」
トレーディングカードでも売っているのだろうか。
これで、カードゲームでして遊べとでも言うのだろうか。
「何があるんですか?」
「まだ品揃えは少ないですが、色々ありますよ。今回は、これからも御贔屓にしていただければと思いまして」
出血大サービスです、とまで言って両手を広げる。
だから、何があるのかと聞いたのだけれどなぁ、と思いながら目を凝らす。
よく見たら、色々とジャンルに分かれている様だ。
【回復薬】
【武器】
【防具】
【道具】
【弾薬】
【妖精】
「あの、弾薬って何ですか?」
「これは、銃を使う為に必要な物になります。ナオヒトクンは、その方が良いでしょう?」
「それじゃあ、この妖精とは?」
「これは、妖精と言う、使用者を支援する子達です。気になりますか?」
それもそうだろう。
妖精なのだから、気になるのは仕方ない。
コトリは、ガラスケースからカードを4枚取り出すとケースの上に並べた。
「これは、契約した使用者しか使えないカードです。そして、妖精も契約者の言う事しか聞きません。それと、契約者が許可した者だけですね」
コトリは4枚のカードから、さらに1枚を選ぶと自分へと手渡した。
「解放」と呟いて投げる様にコトリに説明を受け、言われた通りにする。
すると、投げられたカードが光を放ちその光の中から小さな影が飛び出してきた。
身長は、自分よりも低く、1m程しかないだろう。
大きな瞳、丸くぷにっとしたほっぺたである。背中に羽があったり、頭に触覚が生えているという訳ではない。
しかし、格好は可愛らしさとは正反対であった。
見たことある様な小銃を持ち、格好も自分の居た世界の兵士の様な格好をしている。
頭はヘルメットを被り、身体にはプレートキャリアを装着している。
自分と同じ黒髪で、BDUはカーキー色である。足元もブーツであった。
ベストには小銃の弾倉も入っている様だ。
「あら?こんな妖精が出たのは初めてですよ」
妖精は、使役する契約者によって背格好や戦い方が変わるそうだ。
自分が呼び出した事で妖精がこう言う姿になった事は間違いでは無い気もする。
キョロキョロと妖精は周囲を見渡し自分に気付くとヘルメットを取り、ぺコリとお辞儀をしてきた。
つい頭を撫でてしまった。しかし、気持ち良いのか喉をゴロゴロと鳴らす様にしている。
それで、ついまた頭を撫で続けてしまった。
「いかがですか、ナオヒトクン」
「うーん、いかがと言われましても」
この娘は、可愛いとは思うけれども……。
「戦えるんですか、この娘」
「もちろん、戦えます。可愛いだけではありません。分かりました、この妖精についてはサービスでお付けいたしますよ!」
値切ったつもりでは無かったのに、サービスで譲ってもらってしまった。
妖精について、コトリから説明を受ける。
妖精は、食事は必要とはしない。
主人の魔力を糧とする。特に何かしてあげる必要は無く、側にいる事で魔力を供給するそうだ。
ただ、食事を取ることも出来る為、何か与えることで妖精と仲良くなれるかもしれないとの事だ。
また、妖精はカードに戻すことが出来る。
負傷した場合や、戦闘を続けてこなしていると妖精のコンディションが下がる。
その場合には、カードに戻し休ませる事も必要だそうだ。
負傷した場合もカードに戻し、時間経過する事で治癒されるそうだ。
カードに戻す際は、「帰還」と唱える。
そうすれば、カード化される。
「1枚につき、妖精は1体です。もちろん、増やす事の出来ますが、今のナオヒトクンの魔力では1体が限度でしょう」
「なるほど。よく分かりました」
「はい、是非これからも御贔屓に。あとは、武器や防具はいかがでしょうか?」
「どんな物があるんですか?」
「そうですね……、まだ身体も小さいですし、あまり大きなものは取り回しづらいでしょう?」
そう言って、コトリは2枚のカードを取り出す。
「1枚は武器、もう1枚はその武器の弾丸です」
「解放」と唱えると、ガラスケースの上には9mm拳銃と使用する弾薬の9mm×19が弾薬ケースに入って現れた。
弾薬は、50発と記載されている。
「使用するのは、9mmです。弾倉は、7発装填出来る物ですので今回は弾薬は50発お付けします」
「この身体で銃は使えますかね?」
「はい。実際に試してみて下さい」
弾倉を入れる前に、実際に手に取ってみる。
良く手に馴染むようで、スライドを引き両手で保持して構える。
弾倉が7発と少ないが、手で握って保持するグリップの部分が太くない為、握りやすい。
実際に発砲するわけではないので、反動がきつくないか心配なのだが。
コトリは、この装備に合わせて予備弾倉を2本用意している。
さらに、アサルトプレートキャリアまで用意してくれた。予備弾倉が入れられるように、マグポーチが付いている。
9mm拳銃のホルスターも用意された。
腰のベルトにはカードを入れる為のホルダーも付いていた。
後は、手を保護出来るようにグローブ、足元は不整地でも走破出来るようにタクティカルブーツを準備された。
肘と膝を傷めないよう、エルボー、ニーパッドもある。
「服だけは、ナオヒトクンのサイズが無いのです。プレートキャリアもサイズを合わせているだけですので、少しブカブカかもしれませんね」
実際に、用意された物を全て着用する。
服は、袖と裾を折り曲げて着用することにした。
妖精も、キラキラとした眼で自分を見上げていた。
ちょっと背丈のせいでブカブカだが、様にはなっているようだ。
「似合ってますね、ナオヒトクン」
「でも、こんなに良くしてもらって良いんですか?」
「はい。次からは、ちゃんとした料金を頂きますから、ご安心下さい」
「魔石、ですか?」
いま、手元にあるのは4個の魔石だ。
それを全てガラスケースの上に広げる。
「今あるのは、魔石がこれだけです。全然足りないと思いますが」
「いえいえ、ナオヒトクン。この魔石は、魔力の濃度も高く、通常の探索者協会で売却すれば少々の小金持ちになれる程ですよ」
それは知らなかった。
そう言う物の価値はこれから勉強していく必要がある。
「それでも、です」
「ありがとうございます。しかし、取り過ぎだと怒られちゃいますから、せめて弾丸だけでも」
コトリはそう言って、さらに200発も都合を付けてくれたのだ。
カードを渡される。そのカードには、9mm×19とそのイラストが描かれており、残弾数も載っている。
コトリは、最初に出した弾薬のカードと新しく出したカードを重ねる。すると、不思議な事に2枚は1枚となって表に記載された弾薬数の表示も合算された数値に変わっていた。
「こうやって、同じ種類のカードは重ねることで1枚になりかさばる事はありません」
すごく素敵なドヤ顔である。
「弾倉に補充する時は、解放と唱えるんですが、弾倉に重ねて唱えると自分で詰めなくても必要数補充してくれますよ」
コトリに言われた通り、まだ弾丸を入れていない空弾倉に、9mmのカードを重ねて「解放」と唱える。
弾倉は、7発入りである。
ちゃんと、カードの残弾数も7発分減っていた。ひと目でどれだけ残っていると分かるのは、使いやすい。
残りの弾倉にも補充を終える。
「本当は、回復薬等も御渡し出来ればかったのですが、今は切らしてしまっていて」
「いえ、コトリさん、ありがとうございます」
礼を言い、頭を下げる。
本当、良くしてもらいすぎた。
コトリに、妖精はカードに戻しておくと疲れにくいと聞き、戻ってもらうことにする。
帰還唱えると、カードに戻った。絵柄に妖精の姿が描かれており、突撃と書かれている。右上には、数字の【1】となっていた。
カードホルダーがある為、その中に入れておく。
そこまでするのを見て、コトリはもう1度指をパチンと鳴らす。
すると、周りの景色は変わり、ハダテ城塞都市の探索者協会の路地裏へと戻っていた。
「また弾薬を補充したり、装備を買い替えたい時にはどうしたら良いですか?」
「呼んで下さい」
「えっと、コトリさんと会った協会の横でですか?」
「でこでも。必要な時にあなたの側に、と考えていますので」
「しかし、自分になぜそこまで」
「秘密です」
そう言って、ニコッと笑うコトリを見つめる。
綺麗な笑顔だと思う。
「さぁ、これから探索者になるんですよね。応援しています」
「ありがとうございます」
コトリに後押しされる様に、探索者協会の扉を開ける。
もう一度、コトリに礼を言おうと振り返ると、もうコトリの姿は見当たらない。
神出鬼没、なのだろうか。
協会内部へ視線を戻し、中へと入るのだった。
ハダテ城塞都市探索者協会
協会内部は、かなり広く作られていた。
入って、まず目に付いたのは正面にある4つのカウンターだ。
カウンターを正面にして右へ進むと、2階へと続く階段がある。
左へ進むと、大きな広間になっているようだ。テーブルがありs、そこに集まっている姿もチラホラと見える。
広間の中央には、柱がありそこには紙が張り出されているのが見える。
空いている右端のカウンターが空いており、そこへと進む。
妖精は、自分の後をしっかりと着いて歩いていた。
「ようこそ、ハダテ探索者協会へ。今日は、どの様な御用件ですか?」
水兵が着るような、青色で統一されたセーラー服を着た女性が受付をしていた。
「すみません。探索者になる為に来ました。孤児院のハウス先生の紹介状があります」
「見せてもらえますか?」
ハウスから先程受け取った書類をそのまま渡す。
内容を確認する受付の女性が、「ふむふむ」と言いながら読み進めていくのを黙って見守る。
「はい、確認できました。書類の不備も無いようですし。ただ、あなたの場合はまだ成人していません」
そうか、この姿では成人しているとは見えない。
確か、若返っていると聞いている。
「こちらの書類では、10歳と記載されています」
「そうなんですか、記憶がないので自分が幾つかも」
「あぁ、君が例の」
迷宮からの、と続くだろう。
しかし、それ以上の事は言ってはこなかった。
「成人する前でも、探索者協会では受け入れています。しかし、いきなり探索者にはなれません」
受付の女性は、探索者の事を説明してくれた。
探索者として活動する事は成人した者でなければならない。
探索者は、協会に登録する事で探索者証というカードが支給される。
これは、各国の霧の迷宮で活動する為には必要な物であり、その探索者の身分を証明するものだ。
他者に貸し出すことや、故意に紛失する事は禁止されている。
また、探索者は滞在する国の法に則って活動する事が義務付けられている。
犯罪を犯した場合は探索者証は剥奪される。
「しかし、成人するまでですが探索者になる為に協会では教育隊がありますので」
そこへ案内します、と言って受付女性が立ち上がる。
凄いな、そう思って彼女の後に続く。
広間を通って、外へと出る。
鍛錬する様な場所なのだろうか、運動場の様な広さがあり木で作られた人形がありそれを相手にして切りかかる者もいれば、迷宮で見た様な魔法を放つ者もいる。
何人かで固まって、外周を走る姿も見て取れた。
「ここが、その教育隊ですか?」
「ここは鍛錬所です。あなたの様な子達も使えますが現役の探索者も使用出来ます」
探索者協会は、高い塀で囲まれた作りになっている様だ。
鍛錬所も超えた先に、協会を小さくした作りの建物がある。
中に入ると、カウンターの様な場所があり眼鏡を掛けた子供が座っていた。
「マルボロさん、成人前の探索者志願です」
「なんだ、今年は多いな」
声は渋い。
つい、ジロジロと見てしまっていたようでそれに気付いたマルボロと呼ばれた少年は舌打ちをしている。
「ホビットが珍しいか?坊主?」
「あっ、いえ……。ホビット?」
「マルボロさん。彼って例の……」
「あぁ、オイレ旅団のアンナが連れ帰った坊主か」
ホビット。
茶色い巻き毛、丸みのある顔である背の低い種族だそうだ。
しかし、良かった。ここでは、正しい情報が伝わっている様だ。
「それで?探索者になるんだな。それじゃあ、これに触ってみろ」
渡されたのは、手の平に収まるカードの様な物だ。
言われるがまま、受け取るが特に何も起こる様子は無い。
「なんだ、魔力、無しだな」
そう言いながら、何かの書類に記載していくマルボロだ。
ここまで、案内してくれた協会受付の女性も「頑張ってね」とだけ残して戻っていった。
「あの、マルボロさん。今のは何だったんですか?」
「あぁ、あれは探索者志願であれば誰でも先ずすることだ。此処では、クラス分けに使ってる」
魔力測定紙と言うそうだ。
戦闘で使用出来る程度の魔力を持つかどうかで判断しているそうである。
また、別のカードを渡される。
「これは、坊主の魔力でも感知するんだ」
カードの表になる場所には、【ナオヒト】と表記されているのが分かる。
【階級】と書かれた場所は、何も表示されていない。
名前の表記されていない方が裏側だろうか。
しかし、書いてある文字は、どう書いているのだろうか。英語の筆記体にも見えなくはない。
書けはしないだろうが、文字が読めるようになっている様だ。よくよく考えてみれば、言葉も分かる。
そう言う仕様にしてもらえたのか?女神様のお蔭かもしれないが、魔力が無いと言われるとは思ってもいなかった。
「覚えていないだろうから、説明しよう。このカードは探索者証だ。個人の魔力を覚える事で、その人の身分証になる。それ以外の者が持つことは出来ないんだ」
力を抜いて、カードを持つ手に意識を集中しろと説明される。
すると、何かカードに吸い取られるような違和感があった。
「ふむ、探索者証を作るのには問題なかったようだな。探索者証を一度貸してほしいな」
マルボロは、自分から探索者証を受け取ると水晶へとかざしている。
これで、登録は完了したよと言って探索者証を渡される。
「呼んだかな、マルボロ先生」
「あぁ、カザネ先生。君のところの生徒だ、ナオヒトと言う」
後ろから声を掛けられて、振り返ると身長の高い人が立っている。
顔を見ようと上を見上げると、「うぇ!?」と声が出てそうになった。
驚いたのだから、仕方ない。
ダークブラウンのショートパンツと麻色の肌着だろうか、その上からもショートパンツと同じ色のジャケットを羽織っている。
別に普通の人だと思っていたせいで驚いたのは、顔だった。
猫の顔が、人間の身体に乗っかているのだから。
よく見たら、服から出ている腕や足も毛で覆われている。
茶色い毛の色で、三毛猫を思い出させた。
「ほー、君は例の」
「そうです。しかし、魔力は戦闘では使い物にならない様です」
「だから、わたしのクラスに?」
「えぇ、探索者として立派に独り立ち出来るように、よろしくお願いします」
それで、話は終わりだと言うようにマルボロは机に向かって作業を始めた。
「そうか、君の名前は?」
「直人と言います」
「わたしは、カザネと言う。よろしくな」
教室へ行くと言うので、カザネの後について歩く。
2階へと上がると思ったが。そのまま奥へと進み外に出る。
「ここが、我々の教室だ。覚えておくように」
青空教室だった。
一応、テントと言うか屋根はあるが壁は無い。
机も長机が地面に置かれている。
地面に座って、勉強する事になりそうだ。
しかし、ここには誰も居ない様だ。マルボロは、クラス分けと言っていた。他にも誰かいるのだと思っていた。
「さて、ナオヒト。君と同じクラスの子もいるがね。今日はもう解散している。明日から君には参加してもらおう」
「分かりました」
「それで、泊まるところはあるのかね?」
「孤児院には入っていません。どこか、記憶のない子供でも住める場所はありますか?」
「無いな。なんだ、孤児院を断ったのか?いや、探索者見習いでも、収入があるからなぁ」
どのみち、孤児院の施設では入れないと言われた。
無計画すぎたか、なんて思ったが今更だ、仕方ない。
「まったく……。まぁ、良い。家に泊めてやろう」
来い、と言われる。
なぜこう言ってくれるのだろうか。
「自分の様な身寄りのない子供を連れていっても良いんですか?」
「ん?もうわたしの生徒だ。それだけで十分だ」
「いや、しかしですねっ!?」
話している途中で、頭をもみくちゃに撫でられた。
頭に肉球の感触があって、気持ち良い。
子供が変なことを心配するなと言って、手を引っ張って自分を教室から連れ出すのだった。