異世界で生き抜いていく
???
良く寝た、今日は良い目覚めだと思って眼を開けるといつもの部屋があるはずだった。
しかし、何度見渡してもそこにあるのは、自分の見慣れた部屋では無かった。
「あれ?」
思わずつぶやいた声は、思いの外調子が外れてしまい、上擦った変な声が出てしまった。
昨日の事を思い出す様に、目を閉じて状況を思い描く。
確か、長期の休みに入りのんびりと毎日を過ごしていたのだ。昨日もダラダラと過ごして、自分の部屋で寝ていたはずである。
「夢、かねぇ」
そう思える程に、不思議な空間だった。
部屋の真ん中には、ちゃぶ台と座布団が二枚置かれている。
家具もほとんど無く、小さな茶箪笥と言うか、それが一つと畳まれた布団が一組あるだけである。
しかも、部屋をぐるりと見渡しても申し訳程度に小窓が一つあるだけで肝心の出入り口が無かった。
さて、どうしたものかと考えるが、さっぱり分からない。
「やっぱり、夢だな。何すればいいんだ」
「夢ではない」
突然、背後から声が掛けられ、ビクリとした。
つい先程までこの部屋には自分しかいなかったからだ。
自分の夢だとしても、唐突すぎるだろう。
「だから、夢ではないと言っておる」
観念し、後ろを振り返ると誰も居なかった。
こう見えて、自分の身長は高い方だと思う。
男子の平均身長よりもさらに高いから、いつもノッポとか巨人とか笑われる。
もちろん、いじめでは無くイジリであったのでさほど気にしてはいない。
「まったく、もう少し視線を下げてもらんかのぉ」
「はぁ、下ですか?」
下と言われて、視線を下げていく。
すると、身長は自分の半分くらいだろうか、年齢を上に見たとしても中学生くらいの少女がそこに居た。
金髪でおかっぱ頭、ストンとした体形になぜか着物を着ていた。
金髪でなく黒髪であれば座敷童と見間違えそうだ。
それでも、違和感なく似合っている。
確かに、体系の凹凸が無い方が着物は良いと聞いたことがあるが……。
「よっ、余計なお世話じゃ!」
あれ、声に出してしまったか?
少女に聞こえてしまったらしい。
「あ、いや、すみません。それで、君は誰ですか?」
小さな子供は上から見下ろされるのが好きではない。それで、目線の高さを合わせる為にしゃがんで話しかける。
しかし、この少女は怒っているようで、少女は腕を振り上げまるで威嚇するかのような仕草を取った。
反応に困ってしまい、少女を見つめていると彼女は「こほん」と、ワザとらしく一度咳払いする
それから、床に正座し流れるような動作で三つ指をついて頭を下げた。
「お初にお目にかかる。儂はアリシアと申す。こんなナリをしておるが、女神をやっておるよ」
「あっ、すみません。自分の名前は直人、って言います」
ん?苗字はなんだったか、はて思い出せない。
まぁ、今はいいかと思い置いておく。
「それで、此処なのじゃが夢ではないといったが、少し話を聞いてくれるかの?」
「もちろん、構わないですが?」
座布団が敷かれて女神と名乗った少女に促されて座ると、少女はちゃぶ台を挟んで向かいに座った。
いつの間にやら、ちゃぶ台の上には湯のみと急須が用意されており、煎餅が2枚置かれていた。
お茶の事は知らないが、一口飲んでみると美味しいと感じた。温かくて、ホッと一息付ける味だと思う。
「お茶、御馳走様です」
「それは、良かった。それでは、あまり驚かないでほしいんじゃが」
長い沈黙が続く。
アリシアもまた、俯いていて表情がよく分からない。
「直人よ、主は死んでしまったのだ」
「はぁ、死んだんですか」
「えっ?」
「えっ?」
えっと、少女の言っている事が聞いても、一瞬理解出来なかった。
思わず聞き返したのだが、彼女も同じタイミングで聞き返してきた為に声が被ってしまった。
微妙な気まずさになってしまったが、少女に先を譲る。
「なんじゃ、あまり驚いてないんじゃな。まっ、まさか主は自身で命を絶ったのか?!」
「いやっ、違いますっ!そうじゃなくって、死んだなんて言われると思ってなかったのでっ!」
「なるほど。それで、あの様に落ち着いておったのじゃな」
「落ち着いている、とかじゃなくて。単に、理解が追い付いていなかったんです」
こうして会話を続けるが、てっきり友人の仕掛けたドッキリかとも考えたんだが、どうもおかしい。
うーん、とりあえずは少女の話を聞く事にしよう。
「突拍子のない事を、と思うじゃろうが聞いてほしい」
どうも、自分は寝ている最中に突然死したようだ。
事故や事件性は無く、突然だったそうで苦しむこと無くスヤスヤと眠ったまま死んだそうだ。
それじゃあ、此処に居る俺はなんなのかと言うと霊魂、お化け、幽霊、ゴーストと言ったそれらの類なのだそうだ。
それらの存在になると、輪廻転生が行われるそうなのだが、ここで想像していた事と違う話が始まった。
そのまま、元居た場所にて生まれ変わる事は出来ないと言う。
「主の居た世界にはある物があったが、それを使わずに魂が蓄えておる。魔力と言うがの」
よく、物語の中で出てくる魔法を使う為の力の源。
元居た世界には絵空事の力だったが、実際に誰しも持っているのだという。
ただ、元々いた世界が使える場所では無かった。
それだけの事だと言う。
「それでな、その魔力を他の世界へと循環させているのじゃ」
「循環?」
「世界には、バランスがあってのぉ。どちらかに魔力が偏ってはいけんのよ」
「そうですか」
正直に言えば、俺がそれをする為に他の世界へ行かなきゃならないと言われても、だ。
「でも、生まれ変わって何をすればいいんだ?」
「ここからが、本題じゃ。何もしなくてよい」
「え?」
「ちょっと違うかのぉ、主の人生だから自分で見聞きしてどう生きていくか考えたら良い」
死ぬ前と、なんら変わらない。
ただ毎日を生きようが、何かに挑戦し富や名声を得るとか何でも出来る世界だと目の前の少女は言った。
「しかしの、今度ばかりに限ってだが主は輪廻転生では無い」
「え、どういうことですか?」
「儂の為に働いてもらいたいんじゃ」
輪廻転生と言っておきながら、そうでは無いとなると転移、トリップになるのではないか。
しかも、女神の為に働けと言う。
急すぎて、理解が追い付かない。
「ちょっ、ちょっと待って下さい。自分は死んでいて魂になってるんですよ?」
「どうも、主には秘められた魔力が普通よりは多くての。珍しく、そのまま行けるとなると、そのままじゃ」
「いやいや、それって大丈夫ですか?」
女神の力によって、自分の魂が保有する魔力を使い、肉体毎転移させるという。
魔力を消費する為に、今の年齢よりも多少は若くなるらしい。
「それで、これから行くことになる世界は、一体どんな世界ですか?」
「それも、自分の目で確かめると良い。ただ、元居た世界よりは、過酷かもしれんがのぉ」
「過酷な世界とは、いったいどういう事ですか?」
「ふむ、それを説明するにはいささか時間が足りぬようじゃ」
女神アリシアに指を差されて気付いたが自分の姿が、段々と透き通っていくのが分かる。
「これから、新たな主の人生じゃ。多少、儂の手助けをしてもらう日がくるじゃろうがな」
「なんですかっ!?」
耳が消えたのか、女神アリシア様が何を言っているのか聞き取りにくい。
口の動きを見ているが、それも霞んできて読み取ることが出来なくなっていた。
気が付いた時には、自分の周りが光に包まれ始めたのだ。
女神アリシア様の声も姿も見えず聞こえない。
世界が暗くなった時、耳元で「また会おう」と聞こえたのだった。
????
息苦しい、意識が戻ってから初めに感じたのはそれだった。
早く、この息苦しさから解放されたい。
そう願っていると、急に明るくなった。閉じていた瞼越しでも明るく感じる。
眩しいっ、と言おうと口を開けたら空気が一気に入ってきて苦しくなる。
思いっきりむせた。
地面に倒れていたらしく、口の中に土の味が広がりすぐに吐き出した。
身体に、異常は無いかと、触って確かめ、動いて確かめる。
問題は、ないようでとりあえずは一安心と言うところだろう。
何が起きたか、ハッキリとは分からない。
たぶん、女神の言っていた世界へと来たのだろう。
陽は沈んでいるのか、辺りは薄暗く木々が生い茂っていて空が遠く感じる。
「いったい、ここは何処なんだ?」
右も左も分からない状況に、思いっきり放り込まれてしまった。
いったい、何をどうすれば良いんだ。
参った、とりあえずこういう場合は……。
方角を調べようにも暗くて見えないし、道具は無い。
自分の姿を見ると、どうも寝ていた時のままの姿だったのだが、不自然に服が大きい。
女神アリシア様が、言っていた通り、幾らか若くなっているのかもしれない。
「パンツとTシャツで寝るんじゃなかった」
自分の部屋にいたのだから、リラックスする。
そうすると、こんな格好にもなるんだから、仕方ない。
せめて、ここが人里近くだったらいいのになぁ。
考えても、仕方あるまい。取りあえず、移動だ。どこか、高いところに行って周囲を確認しよう。
取りあえず、辺りを伺いながら歩き出す。
靴も無い為、裸足で歩く。
怪我もすること無く、しばらく歩いていた時だった。
ダンッ!ダンッ!と聞き慣れた音が響く。
聞き間違えでなければ、銃声のようだ。
さらに聞こえてくるが、時折悲鳴も聞こえてくる。
何かが起きている事は分かったのだが、どうするべきか。
銃声という事は、その銃を使う人間がいるという事だ。
しかし、銃を使わなければならない状況にもなっているとも思われる。
「考えても仕方ないか」
まずは、誰かと会うことを優先し、様子を確認しようと思う。
なるべく音を立てない様に木々の間を進む。
じかし、夜の森の中をこうして音のなる方へと進めている事に違和感を感じる。
多少は、訓練も積んでいるからある程度なら考えられるのだが……。
また、銃声がする。
しかし、今までよりも音が少ない様だ。
これは、もう少し早くいかなければならないかもしれない。
森の中
少し進むうちに、盆地に出た。
自分が見降ろす形となったのだが、やはり戦闘が起きていた。
盆地は拓けているようで、自分から見て左右に道が走っている。
道には轍の後が残っているようで、何かしら車両が通れる程度には幅もあるようだ。
そして、盆地の中央付近には倒れた馬車と散乱した荷物、そしてそれらを盾にして戦う人影が見える。
いま見えるのは3人で、倒れている姿も見える。
そして、その人影を囲むようにして動く影も見えた。
ここから見る限りは、馬車を守る者と襲う者にしか見えないが、もう少しだけ近寄ってみよう。
運よく、ここから降りる事も出来そうだ。
どちらの陣営も、目の前に集中していて、こちらには気付いていない。
不意に、馬車側に明かりが灯った。
最初、何かしら光源のある物が割れたか、点けられたのかと思ったのだが違った。
「これでも、喰らえ!ファイアボールっ!!」
初めて魔法を見たのだが、状況が状況だけに喜んでもいられない。
目の前で魔法が使われた様だ。
違う方向に気を囚われてしまっていた為、火の玉が出る瞬間を見逃したが向けられた影の方へと視線を向ける。
黄色い皮膚に、口からは不揃いな牙が生え頭部には瘤とも角とも捉えられるような突起物。
背格好は、100cm超えるかどうか程度で腰回りはボロボロの布を巻き付けている。
その手には、棍棒の様な物を持っていた。
その1体に拳程度の大きさをしたファイアボールが直撃し、吹っ飛んでいく。
奇妙な悲鳴を残して視界から消えていった。どうやら、何かしら怪物とか魔物の類の物に襲われていたようだ。
ドサリ、と倒れるような音がした為、視線を魔法を使った者へと戻す。
魔法を使ったせいかは分からないが、倒れてしまったようだ。
これで、戦えるのは2人。
自分は改めて、気が囚われてしまった物へ視線を戻す。
屈んで移動していたおかげで、転がっているのに気付いたのだ。
パッと見ただけだが、ライフルであるのは間違いない。
昔の映画でよく見かけるような銃である。
重いかと思ったが、実際に手に取ってみるとそこまで重すぎる事も無さそうだ。
手に取ってしまえば、あとは簡単だった。
弾倉を見付け、一度確認する。弾は残っているようだ。
手早く弾倉を戻し、ボルトハンドルを掴んで手前に引く。
弾倉から押し上げられた実包、弾薬をボルトハンドルを前に押し出して薬室へと送り込む。
音に反応したのか、1体の怪物が棍棒を振り上げて襲い掛かってきた。
慌てず銃床を肩と鎖骨のくぼみに合わせ、銃床に頬を添える。
スコープの様な大層なものが付いているわけでも無く、照門と照星があるだけだった。
しかし、距離は30mも離れていない。
狙いを付けて、引き金を引く。想定以上の反動に、身体が小さい事が悔やまれた。
ただ、それだけだった。
胸元に当たったのは見えたが、そのまま走り去っていき倒れて動かなくなった。
「こちらは味方ですっ!あなた方から見て、馬車の方から行きますので、撃たないで下さいっ!!」
黄色い怪物は、お構いなしに襲い掛かってくる為厄介である。
すでに、3体は倒したと思うのだが怪物が逃げ出す素振りが見えない。
馬車に辿り着くと、すぐに上に昇り、周囲を見渡す。
「おぃ!勝手に上るなっ!」
「すみませんっ!」
自分の行動に驚いた1人が声を上げるが、今は相手をしている余裕がなかった。
一言だけ謝罪して、注意深く見渡す。
「見つけましたっ!」
1匹だけ、色が緑に近く身体が一回り大きく見える個体。
あれが、多分群れを統率しているのではないだろうか。
一向に引かない怪物の為、それをしない理由があるのではないかと考えたのだ。
距離は、100mは離れている。
倒れた馬車が多少不安定だったがそれも訓練したお蔭で、狙撃するには問題なかった。
怪物の血しぶきがあがり、緑の個体が崩れ落ちる。
気持ちの悪い声を発しながら、1体、また1体とこの場から逃げていく。
やはり、あれが群れを統率し、ていたのだ。
これで、やっと一息付けそうだった。
「おいっ!貴様は何者だ?」
馬車の下から、大声で叫んでいる男がいるが、まだ怪物がいるのだ。
最後の1体がこの場から離れて行ったのを確認して、肩の力を抜く事が出来た。
ただ、油断する事は出来ない。
「聞いているのかっ?!」
「すみません」
倒れた馬車から降りて、頭を下げる。
持っていたライフルも返すと、男はひったくる様にして奪い取っていた。
「チッ、弾は全部使い切ってやがる」
「すみません。余裕がなかったものですから」
ただし、外してはいないので無駄に弾を消費しているつもりは無かった。
「モーリス、いい加減にしろっ!」
先程、魔法で火の玉を放って使って倒れた人に肩を貸して近付いてきたのは女性だった。
肩に捕まっている方も女性のようである。ただ、まだ辛いのか顔を伏せて肩で息をしているようだ。
辛そうな女性を地面に座らせて、改めて自分へと向き直った。
「君のおかげで、なんとか窮地を脱することが出来た。改めて礼を言う。ありがとう」
「いえっ、たまたま近くにおりましたら銃声が聞こえてきたので。銃も落ちていた物を拾ったのです」
「私は、ノルス王国軍オイレ旅団のアンナと言う」
「アンナさん、ですか?」
アンナが、銃を取り上げた男性はモーリスと言ったか、彼に視線を向けると肯定するように頷いた。
2人で何かアイコンタクトをしているようだが、何かまずかったのだろうか。
「あぁ、ただ確認しただけだよ。確かに、うちの装備だった」
「自分が使ったことで、何かまずかったでしょうか?」
「いや、そんな事は無いよ。ただ、君くらいの年齢で使いこなせるとは思ってもいなかったのでね。君はどこかで練習した事でもあるのかな?」
似たような物を使ったことがあるだけで、同じ物を触った事は無かった。
ただ、全て説明する程、彼女を信用しているわけでも無いのも事実で結局は、無難に答えるしかないだろう。
「触ったのも初めてですし、無我夢中でしたので」
「ふむ、なかなか様になっていたぞ。君の名は何と言う?どこから来たのかな?」
どうも、彼女は探りを入れているようだ。
しかし、答えようにもここが何処かは分からない。
右も左も分からない状況であった為、首を横に振って答える。
「それは、名前も分からないと言う事かな?」
「いえ、直人と言います。それ以外はすみません、分かりません」
「身分を証明するものは何か持っていないかな?」
首を振って答える。
彼女は、困った様な表情と仕草をすると、首に下げていたネックレスの様な物を取り出す。
先の方には、免許証程度のサイズのカードの形上の物が付いていた。
「ナオヒトくん。ちょっとした事なんだがこのカード部分を持ってくれるかな?」
差し出されたカードを手に取るが、特に何も起きない。
これは?と言うように、彼女に視線を戻す。
「どうも、魔物の変化した姿でも無いようだな。モーリスっ!いい加減にしろっ、周囲の警戒に戻れ!」
「はっ!」
どうも、今渡されたカードで正体を見破ることが出来るのだろうか。
あの、モーリスと言う男は自分が敵かもしれないと考えていたようだ。
それも、仕方ないのか、襲撃されていた状況で突然現れた子供がいれば警戒もするような世界なのだろう。
すると、先程まで苦しそうにしていた女性も平然と立ち上がっている。
片手には、短い棒の様な物も持っている。
「ラーシャが、誰かが見ていると言うから付き合えと言うが一応、彼は人間のようだぞ」
「霧の迷宮に、彼の様な少年がいるのもおかしい」
「まぁな。私も驚いた。しかも、銃まで使いこなすのだからな」
話に置いてけぼりにされたが、要は普通の子供が入れる場所では無いはずなのに突然現れた子供。
戦闘中、様子を見るようにしていた為、何かしらのアクションを取るのか伺っていたとの事だった。
あの首から下げているカードで疑いは晴れたようである。
「これ以上は、私達も依頼を継続する事は出来ない。撤退しよう」
「彼も、連れていくのですか?」
「そうだ。部隊は壊滅したものの、記憶喪失の少年を霧の迷宮で保護。帰還を果たす」
「ブンヤが喜びそうですね」
「死んだ指揮官殿には悪いが、英雄にでもなってもらうさ」
おっ、話し合いは終わったようだ。
倒れている彼女達の仲間は一か所に集められ火がかけられた。
燃える炎を見つめていると、側に人が立つ気配がした。
モーリスと呼ばれていた男だった。手には、何枚かのカードが握られていた。どれも、ネックレスの様にも鎖が通されているようだ。
「さっきは、悪かったな坊主」
「いえ、お仕事でしょうし」
「そうか。怖がらせたかと思ってな」
「いえ」
カードを自分へと一度掲げて見せる。
今度探索で死んでいった仲間たちのカードだそうだ。
「荷物も乗せたし、そろそろ行こうか」
馬車を引く馬を調達してきたのか、荷馬車へと繋ぎアンナとラーシャが待っていた。
自分は、モーリスに抱え上げられ、荷馬車へと乗せられる。
「坊主の足じゃ、帰還が遅くなっちまうからな。乗っておけや」
舗装されていない地面を荷馬車に揺られながら、この世界に来て初めて出会った人達と遭遇した場所を離れるのだった。