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自分育成

作者: 鷲塚

登場人物


小野明おの あきら:本作品の主人公。ゲーム好きな14歳。

東亜響とうあ ひびき:アキラがゲームで育成している娘。その能力と容姿はアキラの理想を十二分に反映している。


自分育成


 雨が天井を打つ音とパソコンのファンが回る音だけが電気すら付けていない薄明るい部屋に響いていた。モニターの薄明かりが机に向かってゲームをしている少年を照らす。

「妄想の海は俺の海、今日も煩悩の限り育成するぜ」

 小野アキラは、小さな鍵を取り出して勉強机の引き出しからノートを取り出した。

(このノートが家族にばれたら切腹もんだからな)

 そのノートには、「我が愛娘育成メモ20090505」と書かれている。アキラはスッとモニタに目を向けると、真剣な表情でプログラム一覧から「あかしっく・れこーだー」というゲームを立ち上げた。ノートは、このゲームの育成方法などの攻略を書き込んでいるのだ。

 このゲームは、現代日本において10歳の娘を18歳まで育てるという育成ゲームで、アキラが日本橋界隈をうろついていた時に、帽子にサングラス、ご丁寧にマスクまでした小汚いおっさんが格安で路上販売していたものだ。あからさまに胡散臭い商品だったが「娘の人生をあなたのものに」というキャッチコピーにそそられたのと。500円という安さもあって衝動買いしてしまったのだ。

「こんなゲームはデスクトップには置けませんよっと」

 (ボブカットの美少女がにっこりと微笑んでいる萌々アイコンが家族に見られたらやっぱり切腹ものだからな)とか考えていると、すぐにHDDがカリカリと動いてタイトルがモニタに映し出される。家族に見られるのが不安なら、ちょいとアカウントにパスワードを設定しておけばよいのだが、そこまで気が回らないのがアキラなのである。

 アキラは、データをロードしゲームを再開させる。大きなプラズマテレビに音響システム、革張りのソファに勉強机も洗練されたデザインのものだ。これは、お金に不自由しない財閥モードならではのグラフィックだった。そして、アキラの「ロリで巨乳は漢のロマンだ!」という信念の元に育成された娘は、12歳の時点でたゆんたんの胸にキュっと引き締まったウエスト加えてヒップもかなり大きい。14歳の少年の妄想がたっぷり反映された結果だ。

「いや~、これはちょっと犯罪的だね。我が娘響よ、今の調子はどうかいなっと」

「胸が大きすぎて、ちょっと恥ずかしいな」

 モニタの中の響が頬を赤らめながら上目遣いでこっちを見てそんなこと言うもんだから、もうアキラのテンションは上がりっぱなしである。マウスを握る手のひらにも自然と汗がにじむというものだ。

「響のやつ、我が娘ながら可愛いことを言ってくれる!」

 小さな声でつぶやくとノートに目を移す。2009年4月のスタートから5月の時点で丸薬を与えていること、それからずっと響の頬に赤みが差していること等が書かれている。

「豊乳の丸薬を与えて3㎝バストアップ。それから一月に約0.3㎝ずつバストアップか。これは18歳の時点でかなりたわわな果実が拝めそうですよん。でもあれだ、きょぬーなだけじゃ芸がないからな。なにか一芸身につけたほうがいいわな」

 ステータスの部分を詳しく見てみると、基本となる身体的なパラメータの他に武力や魔力といった現代日本には似つかわしくないステータスも含まれていた。そこでアキラの妄想力はさらにスパークする。

「もうアレだ、巨乳の魔法少女に決定!それしかないなコレ!一言の呪文であれやこれやしてしまうのだ。なんという光源氏計画!響は俺の嫁!」

 かなりアホな発想である。その計画を聞いて響は何と言うかなと、会話のアイコンをクリックする。

「お父さんの言うとおりに頑張るよ」

 響は、もじもじとしながらアキラに答える。ゲームの中の娘とはいえなんといういじらしさだろう。アキラはその姿をみて、しまりの無いにやけた顔で育成計画を実行する。巨乳の魔法少女を目指すための育成。すなわち、勉強に適度な運動それに日課の魔法講座である。育成の資金は初期設定を財閥のお嬢様に設定してあるので使い放題、何の苦労もなく育成できるというという何ともインチキ臭いゲームの進行であった。

 そんなこんなで、夏の海水浴イベントや10月の運動会イベントをこなしつつ、12歳の2月まで進めた頃にはすっかり深夜となってしまっていた。まだまだ育成を続けたかったアキラだが、明日も明後日も高校に通わなければならない身分である。アキラはちょっと乾いた目をしばたたかせてデータを保存するとパソコンの電源を落とした。

「明日の夜又合おう、我が娘よ」

 他人が聞いたら呆れるであろう変態チックな言葉を吐いてアキラはベットに潜り込むと、すぐに寝息を立て始める。明かりの消えた暗い部屋には、雨の音だけがシトシトと響いていた。


 次の日もあいにくの雨だった。アキラは夜更かしでまともに働かない頭を如何に娘を育成するかという妄想で振るい起こし、何とか授業を終えて帰宅した。彼は部活を進んで行うタイプの人間ではない。自分の自由に使える時間が何より重要だと考えている。そのおかげで好きなゲームも遊び放題というわけだ。

「ただいま」

「おかえり。アキラ」

 いつもと変わらない母親との遣り取りの後、足早に部屋に戻って鞄をベットの上に放り投げる。ついでにデスクトップの電源を入れておく。OSが機動する時間ですらもったいないと感じるほど、アキラの頭の中はゲームのことで一杯になっていた。

 アキラは、大きく伸びをするとそそくさと台所に向かった。いつも使っている信楽焼のコーヒーカップにちょっと濃いめのインスタントコーヒーをいれる。アキラのゲームのお供といえば濃いめのインスタントコーヒーなのだ。

 コーヒーを入れて部屋に戻ってみると、パソコンの準備も完了していた。アキラは、自分の部屋に鍵が付いているという幸運をかみしめながら、ドアの鍵をロックする。

「いざ、我が娘のもとに。待ってろ響、父ちゃんが今行くぞ!」

 相変わらずアホなアホな事を口走りながらゲームを起動させ、保存していたデータをロードする。豪華な屋敷の一室に響が恥ずかしげに立っていた。一応、財閥の一人娘という謎設定で始めたゲームだが、彼女の服装はTシャツとショートパンツにロングニーソと至って普通である。Tシャツのプリントが真・女神転生の魔法陣柄になっているのはゲーム好きであるアキラの趣味だ。

「節目の3月計画開始だな」

 アキラはノートを取り出して育成計画を書いておく。ついでにステータス画面で娘のスリーサイズを確認しメモしておく作業も怠らない。

「バスト:79、ウエスト:56、ヒップ:78!順調すぎる発育ご苦労様です!」

 もはや誰に向かって言っているのか判らないが、響の発育状況を見てアキラのテンションは最初から上がりっぱなしである。

 スケジュールは一月を3分割して割り当てるから、学校の終わりにはとりあえず魔法教室を2コマ割り当てる。

「3月の最終週はバカンスにでも行きますかっと」

 ぽちっとマウスをクリックしてスケジュールの入力が完了すると、すぐに計画の実行画面がモニタに映し出される。この画面、ちびキャラの娘がせわしなく動くのだが、ちびキャラもステータスを反映して容姿が変化するので、胸を気にしながら行動してる娘の姿を見るのがアキラにはたまらなかった。

 何事もなくスケジュールが進行し、20日になったときに卒業式イベントが発生した。画面の中の響は、講堂の壇上で卒業証書を受け取りちょっと涙目になっている。そして、次の画面でアキラに向かってにっこりと微笑んだのだ。アキラは、画面を見ながら少しばかり感動してしまった。ゲームを購入して数日しか遊んでいないはずなのに、娘に思いっきり感情移入してしまっていた。

「いや~、なんというか、一つの節目を迎えるというのも感慨深いな。おれも小学校の卒業式には目頭を熱くしたもんだぜ」

 コーヒーを飲みながら卒業式イベントを見ていたそのときだった。画面の色調がネガ反転して全てのキャラクタの動きが止まり、奇妙なダイアログが表示された。


アナタのアカシック・レコードにコレまでの事を反映しますか?

yes/no


「なんだこれ?」

 このゲームにおける何かのイベントかもしれないが、ゲームを説明書も見ずに直感で遊んでしまうアキラには知るよしもない。ゲームのBGMもダイアログの表示と共に消えていた。

「とりあえず、yesか?」

 アキラは、深く考えることもなくマウスを操作し、yesをクリックする。すると、またダイアログが表示される。


プレイヤーの記録をアカシック・レコードから検索しています


 BGMが消えて静かになった部屋で、アキラは自分の心臓の音が聞こえるような気がした。徐々に鼓動が早くなって、緊張してきているのが自分でも判る。検索が進んでいくパーセンテージがどんどん伸びて100%に近づいていく。何かまずいことが起きている予感がするが、どのように対処して良いのか判らずに静観するしかなかった。


プレイヤーのアカシック・レコードを書き換えています


 検索が完了した瞬間に次のダイアログが表示される。同時にアキラは、静電気にふれたときのような衝撃が全身に走ったように感じた。とっさに自分の手のひらを見てみるが特に変わった様子もない。

「な、なんなんだよ、これ。驚かしやがって」

 書き換えの進歩状況は検索の時と違いなかなか進まないようだった。5%・6%とゆっくりと進んでいく。だが、その遅さが逆にアキラを不安にさせていた。

「新手のコンピュータウイルスか何かか!」

 とっさにアキラは立ち上がるとパソコンのランケーブルを引っこ抜いた。外部と通信している事が原因ならこれでデータの更新はされなくなるはずと考えたからだ。しかし、モニタを見ると、10%・11%とデータの更新は続いている。体中から嫌な汗が噴き出てくる。

「オンラインで無いとするとこれか!」

 今度はOAタップからパソコンの電源ソケットを引き抜いた。これで大丈夫だろうとモニタに目を移したとき、アキラは自分の目を疑った。パソコンは電源無しで稼働し続けていたのだ。進歩状況は13%・14%と徐々に増加していく。

「もう、わけわかんねぇし」

 その時、スッと制服のズボンが腰からずれて、ベルトのところでお尻に引っかかるようになってしまった。ズボンのズレを直そうとした腕も幾分細くなって、カッターシャツから指がちょこんと出ているだけになっている。アキラは呆然と自分の両手をみて立ちつくしていたが、その間にもデータの更新は25%・26%と続いていく。

 何も考えられなくなってぼんやりとしていたうちに、アキラらかに自分の視点が下がってきている事に気がついた、ズボンがトランクスと一緒にズレ落ちて、カッターシャツがあたかもワンピースを着ているような状態になってしまっている。

「これはいったい何なんだ……」

 そうつぶやいたアキラの声は声変わり前の少年のようだった。自分が幼いときにはこんな声だったかもしれない。アキラはこの状態に恐怖を覚える。自分が自分で無くなる恐怖だ。これまで短いながらも積み上げてきた14年が無駄になるかもしれないのだ。血の気が引くとは正にこのことだった。心臓の鼓動は激しくなる一方で冷や汗が頬を伝い、髪の毛が頬に張り付いた。

 アキラは、頬に張り付く髪の毛を鬱陶しくかき上げると、ふと視線を胸元におとす。少し膨らんだ胸にシャツが押し上げられていた。だぶついた襟の隙間から覗いてみると、まだ膨らみかけで尖っているように見え、丸く膨らんだ大人のものではない。

 アキラは焦ってベルトを外すとそのままズボンを足下に刷り下げる。股間を確認すると、まだわずかに彼のイチモツは存在していた。小さい頃彼が見ていたように縮んでかなり小さくなっていたがそこにあった。

「こ、これだけは何とか死守したい、これだけは」

 画面を見ると、データの更新状況は既に70%に達している。その間にも睾丸が体の中に入って徐々に袋の皺が無くなっていくのが見て取れる。

「まて、まってくれよ」

 アキラの願いもむなしく、やさしく膨らんだ中央からスッとスリットが入ると、イチモツが折りたたまれるように曲がって小さくなっていく。どんどん小さくなるイチモツはスリットの中に入って完全に見えなくなってしまった。

「これって、完全に女の子じゃないか。アカシック・レコードってなんなの!」

 肩に掛かり始めた髪の毛を振り乱し、アキラは再び机に向かう。突然訪れた肉体の変化という恐怖に気が気ではなかった。

「本当に何とかこの状況を何とか出来ないのか!」

 アキラがパソコンの電源を押しても、強制終了させようとしてもウンともスンと反応しない。更新はその間にも90%・91%・92%とどんどん続いていく。それにつれて、アキラの胸は大きくシャツを押し上げていったし、トランクスはお尻の肉付きがよすぎて窮屈に感じるくらいピッチリだ。

 更新が95%に達したとき、アキラの視界にアナログテレビの砂嵐に似た視覚ノイズが一瞬入る。アキラがあわてて周囲を見ると、そこは完全に別の部屋だった。6畳の自分の部屋がワンルームマンションを思わせるような小綺麗な部屋に変わっていたのだ。それは、アキラがゲーム内で設定した娘の部屋だ。目測で20畳はあるように見えたし、大きなプラズマテレビに音響システム、革張りのソファは気持ちが良さそうだった。彼が座っていた勉強机もいつの間にか洗練されたデザインのものに変わっていて、赤いランドセルが脇に置いてあった。ネームプレートには、「東亜響」と書かれている。

 更新状況が100%を示すとダイアログが表示された。


この状況で宜しいですか?

yes/no


(まだ最終確認があったんだ!)

 アキラは、勢いよくマウスに飛びつき、素早くカーソルをnoに合わせてクリックしようとした瞬間だ。突然パソコンの電源が落ちた。

 アキラは、真っ黒になったモニタをジッと見つめた。モニタに反射した自分の顔はゲームで育てていた娘そのものなのだ。全く訳がわからなかった。暫しの沈黙が場を支配し、モニタとにらめっこすること5分。

「しまったぁぁぁ、電源抜かなきゃ良かった」

 頭を抱えたアキラの可愛い声が部屋中に響いたのであった。


プリンセスメーカー2が大好物である作者の趣味が詰まった作品です。あのゲーム、本当に面白いですよね。赤井孝美さんの絵も良いし。

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